主人公が曇らされてばっかりの世界に、一般通過過負荷(マイナス)が、ダイナミックエントリー! 作:霓霞霖
「何故っ……。何故、何故っ!」
1人の男が叫ぶ。
いや、男性形態であるので男と表するのはともかく、1人と形容するのは少しおかしいだろう。
何せ、その者は、
「何故っ、
ちなみにもう
さて、彼が誰をそんなに本気で殺そうとしているかと言えば―――
「僕は永遠の17歳だからね!」
―――カイである。
彼はバラガンの老い、対象を一瞬で朽ちさせる力を浴びているのだが、白骨化するどころか肌ツヤを失ってすらもいない。
「そんな、訳の分からん道理が通じるか!儂の力は、儂の司る死の形はっ、最も強大で最も絶対的な、あらゆる存在の前に立ち塞がる力だぞ!」
バラガンは、理解できないモノへの恐怖と、相手のふざけた態度に向けて、怒声を放っていた。
心が折れてしまわないように、必死に抗っていた。
自身の絶対の力が、世界の絶対法則が、通じないなどと信じられなかった。
「いや、僕から解説しなくても分かるでしょ。僕は人間だ。100年生きればヨボヨボに劣化してる生物だ。そのはずなのに、僕は永遠の17歳。後、言っておくと217年は最低でも生きてる。え~~~?そうは見えないって~~~?も~~~、お世辞が上手だな~~~」
真面目な顔してたと思った矢先にフザケ始めるカイである。
でも、言っている事はまさにその通りだ。ただの人間が、200年以上も17歳の姿で居られる訳はない。
老いという概念にはとっくに対処済みであると考えられる。
まぁ、普通だったらその可能性より、何かで能力を無効にされているという可能性を追うだろうが。
「
「在るから困ってるんだよ、僕も」
未だに目の前の現実を受け入れられず叫ぶバラガンに、カイは苦笑していた。
ああ、ホント。この命が永遠じゃなければ良かったのに。
「とにかく。君じゃ僕を殺せない事が分かった。分かり切ってた事だけど。まぁ、
「まだだァ!!」
「付き合いきれないって言ってるの、分からないかな」
「ぐ、が……?」
期待薄の検証が失敗に終わったカイは、無謀にも自らを奮い立たせるバラガンに、底の見えない冷たい闇が如き視線と、釘を、突き立てた。
「馬鹿、な……。こんな、モノが、在るはずがない……。こんな、理不尽な終わりが……っ、『老い』以外に在るはずがない……!」
50寸はあるとはいえ、高々釘1本で死に瀕するバラガン。
彼には、これがただの釘ではない事が分かる。
これは『死』だ。例え微塵でも朽ちるまでの時間をくれる『老い』という『死』より、理不尽にも一瞬で魂を終わらせる『死』だ。
でも、分かりたくなかった。如何なる物も避けられない『老い』という死より、理不尽な死があるとは信じたくない。
「骸骨はお墓に眠ってないとね。『ダメじゃないか!死んだ奴が出てきちゃあ!』……これはさすがに酷い言い草か。いや、元ネタも酷い言い草なんだけど」
そんなバラガンの思いなど知らず、カイは無情で理不尽に釘をもう1本プレゼントし、バラガンを黙らせるのだった。
そこには、一切の感慨も情もない。関心すらない。
「やぁ、カイ。用事は済んだかな」
「ああ、惣右介君。徒労に終わったよ。付き合わせて悪かったね」
「いや、構わないとも」
戦いにもなってなかったが、とりあえず戦闘は終わった頃を見計らって現れた藍染。感謝と謝罪を伝えるカイに、彼は一切の裏なく微笑んでいた。
「……、彼は、死んでいないんだよね?」
「そりゃもちろん。僕が
藍染は釘を2本刺されて倒れ伏すバラガンを見収めていたのだが、カイが
そこに残るのは、ただ気絶しているバラガンだけだ。それが現実だ。
「……なるほど。……相変わらずという事か」
カイが現実を覆す状況を、藍染は何度も観測してきた。
なのに、今目前で目視しても、その理屈が一寸たりとも解析できない。
分かるのは、現実が覆されたという事実だけだ。推測できるのは、それがこの世の理の外にあるモノだという事だ。
藍染は、それに畏敬の念を抱いている。この世の理を捻じ伏せるには、その理が要るだろうと。
「……。他は試さないのかい?」
「うん。可能性が微塵でもあるのは、彼と、スタークだけだったからね。後は物理攻撃だろう?霊力での攻撃を物理と言って良いかは知らないけど。ポケモンなら普通に特殊に分類されそうだけどね」
藍染に他への試験を推されるが、カイは期待が持てないので却下した。
そう。この現状は、カイが藍染に頼んで
そうして、カイが試したのはスタークとバラガンだけだった。
藍染は、興味をそそられる。
「バラガンはともかく、何故スタークを?彼には君に届き得る力があるとは思えない。殲滅力と言う意味では、私は確かに彼に
「彼の傍に居る弱者は魂が削られるという能力。あれが魂魄とか霊圧とかどうのこうのではなく、本当に魂を削る能力であったとしたら……」
「……そういう事か」
藍染は疑問を抱いていたが、カイのヒントで回答を得た。
カイにも、『魂』という概念があるのだ。
自身たちの理の外に在るからと、根底にある概念すらも丸々違うという事はなかった。
カイにも魂がある。
もしスタークの能力が魂に干渉するモノで、なおかつ、カイが持つ『魂』の概念と同次元のモノだったなら、カイの消滅は適っただろう。
今も五体満足で立っているカイの姿が、その結果を示している。
カイ・ヤグラは、次元が違う。
似通った言葉、概念はあれど、やはり、この世界のレベルでは、カイに届かない。
藍染は次元の違いを思い知らされ、何度目かの驚嘆をさせられる。
上位者は、こうでなくては。
「忙しい時にごめんね、惣右介君。今、ルキアとかチャン一関連で忙しいでしょ」
侵入者で慌ただしくなっている。それが
原作では、その騒ぎに乗じて、藍染は暗躍している。
ならば、今カイの目の前にいる彼も、暗躍のため、慌ただしくしているはずなのだ。
そうでない理由は、簡単だ。
「いや、問題ないよ。確かに瀞霊廷は黒崎一護一派の侵入で慌ただしいが、既に準備は終えているよ。今頃、黒崎一護は阿散井恋次と戦っている頃だろう」
もう、既に準備を終えている。
藍染は運命を推測しているのだ。
カイという存在により、黒崎一護が勇者となる事が予言、いや、確約されている。
ならば、彼は用意した全ての試練を突破し、朽木ルキア奪還を果たす。
カイのお墨付きをもらえなければ、藍染は予期せぬ事態を想定して、一護の様子をつぶさに観察していた事だろう。
彼が勇者になれなかった場合を想定して、そのリカバリーをすべく待機していた事だろう。
その心配がなくなったので、藍染は一護が全ての試練を突破する前提で動けたのだ。
具体例の1つが、ルキアからの崩玉採取方法を、
その技術を見つけ出し、再現するのは藍染としても手間だったが。時間は有り余っていたので、問題なかった。
「君の方は良いのかい?君も、黒崎一護の事は心配していないだろうが、彼の活躍を見たかったんじゃないのかい?」
「それはあるんだけど。この機を逃すと、僕にはバラガンたちと戦える機会がないからね。護廷の目を逃れるという意味でも」
「君を捉えきれる死神が居るとは思えないけど」
藍染はそう、揶揄いの言葉を吐いた。
愚かな死神たちに向けて、自由奔放なカイに向けて。
実際、カイは死神たちによる檻、『無間』から抜け出している。隊長の何人かはそれに気付いているし、報告も上げているが、彼らの上司というか、瀞霊廷の上位層、『四十六室』がそれを握りつぶした。『無間』から罪人を逃したなんて事実が、あってはならないと。
そうしてカイは、自由奔放に『無間』から抜け出している。
本当に自由奔放だ。藍染もその行く先を追えていない。いつの間にか現世に居たかと思えば、一瞬の内に帰ってきている。
藍染として面白いのが、抜け出すタイミングは隊長たちの監視がない時間である事を、律儀に守っている事だ。カイ自体が、微妙ながら、『無間』を抜け出していないという体裁を保っているのである。
「なるほど、これが上位者の余裕か」と、ちょっと見習おうと思った藍染である。具体的には、もし誰かに負けて投獄された時は、自身も律儀に投獄されていようと。そもそも、負けるつもりは微塵もないのだが。
「でも、もうこっちでの用事は終わったし、チャン一生ライブに戻ろうかな。見逃せないシーンがあるんだよね。そうそう、参考までに惣右介君に訊いておこうと思ってたんだ」
「何かな」
「君がもし崩玉の改良版を作ったとして、君は何を目的にチャン一に植えこむ?」
「黒崎一護に、崩玉を……?」
それは実に突拍子なく投げかけられた、難問だった。
「……魂魄間の境界を破壊する力は、黒崎一護には必要ない。……彼の中にある全ての因子は、既に彼の中で融け合っている。……もしや、浦原喜助は崩玉が持つ真の能力に気付いていた?……いや、気付いていないはずはないか。……では、浦原喜助は、その能力によって何を成そうとしている?」
思考が回る。天才に挑む。
自身と違い、本当に物を作るという事の天才に、藍染は挑む。
だが、難問だ。浦原喜助は本当の意味で万が一にも備える男。
そんな男が、自身の手元からわざわざ放り出して、何に備えようとしているのか。
「……そうか!そうだっ、あの天才・浦原喜助が、備えないはずがない……!ヤグラ・カイという脅威に!」
何に備えようとしているか、藍染は辿り着いた。
しかし、その具体策は読めない。カイをどう対策しようとしているかは、藍染でも推し量る事ができない。そこだけは悔しく、藍染は顔をしかめる。
「そうか。ま、そうだよね。とすると、アレはやっぱりその成果か。いや、成果が見えるの早すぎなんだけど」
藍染の回答に、カイも同調した。
そして、その成果物らしいモノを、まだあくまで兆候だろうモノを、カイは観測している。
「何か、在ったのか」
「うん。チャン一の中に、僕の知らない力が在る」
カイは観測していた。メゾン・ド・チャンイチに現れた新たな住人。原作には登場していなかった、白い学ランを着た少年を、カイは観測していたのだ。
しかも、その少年のおかげで原作ではあった勘違いが正されている。
原作では『斬月のおっさん』と呼び、自身の死神因子が具象化した姿と思い込んでいた一護の勘違いが、正されている。
そのおかげでちょっと話の流れが変わるんじゃないかと、恐れているのがカイである。
「
「……ああ、ドン・観音寺は開祖扱いなんだ。―――いやまぁ、結局何由来の能力かは、僕も知らないんだけどね。僕は
「そうか。あえて未知に飛び込むと」
カイが常軌を逸した情報把握能力を持つのは藍染も知るところ。それでも知らない、『知らない事にした』というのはつまり、その一足飛びに答えを得るような能力を使わない、という事。
「これが上位者の余裕か」と、本日2度目の感心をする藍染である。
「ただ、予想はできてしまうけどね……」
一瞬前まで楽しそうだった笑みが、少し苦みの混じった笑みになるカイ。
楽しみは楽しみであるし、期待していた事ではあるが、こう簡単に読めてしまうと、それはそれで残念。と言うのがカイの感想だ。
「気を付けろ?惣右介君。僕の予想では、君の望みはより難しいモノになった」
「どういう事かな」
「黒崎一護は、