主人公が曇らされてばっかりの世界に、一般通過過負荷(マイナス)が、ダイナミックエントリー!   作:霓霞霖

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28 MEMORY OF CONFIDENCE

 驕りがあったんじゃないかと、少し思う。

 斑目(まだらめ)一角(いっかく)を倒した。阿散井恋次を倒した。

 着実に成長して、敵の副隊長まで倒せるんだ。なら、1つ上の隊長ともやり合えるはずだ。

 そう、己惚れていたんだと、今更思う。

 

「だから言ったろ、霊圧緩めんなってよ」

 

 敵の隊長、更木剣八のその一刺しを盾にした斬月の上から受け、ようやく思い至った。

 初撃が通らなかった相手に、しかし続く攻撃は手傷を負わせる事ができ、戦いの中で成長できていた。ただ、相手との実力差が在りすぎて、その成長は追いつかなかった。

 

「……つまんねぇな」

 

 だから今、倒れ伏す己は、敵である剣八に見下ろされ、あまつさえそんな言葉を吐き捨てられたのだ。

 

(くそッ!こんなところでっ、死んでられっか……!囚われてるルキアも、やられたチャドも、助けるんだっ……!)

 

 意気を込めても、一刺しされた胸の傷は治らず、体は動かない。

 

(頼むっ、動けよ体!死ぬ訳にゃいかねぇんだ……。助けなきゃなんねぇんだ……!戦わなきゃ行けねぇんだ!)

 

 戦意をそがれた剣八の背中を睨めど、希望の光がその目に映る事はない。

 

 代わりに、その視界には男性と、少年が映る。

 死神の力を取り戻そうとした時、斬魄刀の一段階解放に至ろうとした時、自身の目の前に現れた彼らだ。

 

「こんにちは、一護。元気かい?……瀕死の相手にする挨拶じゃないか」

 

「……」

 

 少年と男性は、剣八の横を通り過ぎる。剣八が気にする様子はない。

 彼らは自身にしか見えない。いや、自身の意志の中にしか居ないのだ。

 

「さて。パワー・アップ・チャンスだ、一護。僕たちの質問に、素直に答えてね?」

 

「―――死にたくないか?助けたいか?戦いたいか?……それとも」

 

 自身の中に居る少年と男性が、自身に問いかける。力を得るための試練だと。

 なら、自身の答えは決まっている。

 

「―――()ちたい、だ……!」

 

 自身の答えに、男性は瞠目し、少年は微笑する。

 

「生きてても、弱いままじゃ意味がねぇ。弱いままだと、誰も助けられねぇ。戦っても負けて、意味がねぇ」

 

 何故戦いたいのか。何故死にたくないのか。

 助けたいからだ。

 そしてそれは、ただ戦うだけでは、死なないだけでは達成できない。また、ただ戦いに勝利するだけでも得られない。

 あらゆる意味で成長、超克しなければならない。

 『パワー・アップ・チャンス』だと言うなら、そう強請(ねだ)る好機だ。

 

「―――飛び級と行こう。充分だろう?()()()()

 

「……良いだろう。ならば、連れて行ってやる!」

 

 少年に『おっさん』と呼ばれた男性は、自身を闇で包み、自身の心象風景へ連れて行った。

 

 

 

 ビルやら建物やらが真横に伸び、上方向に建ち並んでいる、不思議な風景。

 これは、黒崎一護の心象風景だ。

 彼自身も、薄々そう自覚している。

 ただ、まだ理解しきれていないので、また重力が普通に戻り、自身が通常の地面へ落下する事を恐れている。

 だから、彼はビルの壁、窓の縁に足を掛けて横たわっているのである。

 

「安心して良いよ、一護。この前は君が不安定な状態だったから、この場所も不安定になっていた、と言うだけだ。君が安定している限り、重力方向が変わる事も、天気が変わる事もない。君が悲しんでいる時とかは、ここは土砂降りの雨が降って、僕やおっさんはずぶ濡れになるんだけどね」

 

 横たわる一護を、屈みながら面白そうに見つめる少年。

 結構色々と説明してくれているが、一護には半分も分からない。

 

「アンタは……」

 

「そうだね。自己紹介から行こう。と言っても、僕はまだ君に、僕のニックネームしか教えられないんだけど。おっさんに口止めされていると言うのもあるけど、僕自身にまだ確固たる名前がないのが主な理由なんだよね」

 

「おっさんが口止め……?名前がない……?何言ってるんだ……?」

 

「僕の名前は、とりあえず『グラウ』としておこう」

 

「堂々と無視しやがったよ、こいつ」

 

 欲しい説明が少年改め『グラウ』からされない事に、色々通り越してむしろ感心する一護である。

 

「……アンタも、あのおっさんも、一体何なんだ?」

 

「だってさ、おっさん。何処まで説明して良いの?」

 

「どぅわっ!?」

 

 気付けば、一護を挿んで男性がグラウと相対している。

 『おっさん』という蔑称を聞かれたかと、一護は慌てていた。

 

「ニックネームくらい名乗っておいた方が良いよ?じゃないとずっと『おっさん』呼びだ」

 

「……私の名は、ユーハバッハだ」

 

「……初手で本名言おうとしてるよ、このヒト。―――おじいちゃん、本名はこの前食べられちゃったでしょ。そっちはまだしばらく名乗れないから、とりあえず『ベルツ』とでも名乗りなよ」

 

「……しばらくは『ベルツ』と呼べ、一護」

 

 『おっさん』呼びは嫌なので、渋々グラウの案を採用する『おっさん』もとい男性改め『ベルツ』である。

 

「……『ベルツ』って何語?」

 

「バスク語で『黒』って意味だよ。あ、バスク語は、フランスとスペインをまたぐ地方、バスク地方で使われてる言語ね」

 

「……ちなみに『グラウ』の方は?」

 

「ドイツ語で『灰色』」

 

 全部答えるんじゃないかって程、すんなり答えてくれるグラウ。その様子に一護は欲をかき、改めて問う。

 

「―――アンタらって、俺の何だ?」

 

 自身の心象風景に在るから、一護は、彼らが自身の一部である事は察している。

 では結局、彼らは自身のどの一部か、という話である。

 

「何処まで話して良いの?」

 

「……貴様がした『飛び級』の裁可に対し、私は『良いだろう』と答えた。しかし、今ではない。時間がない」

 

「ぐうの音も出ない正論は止めておくれよ」

 

 一護にもう色々真実を語りたいグラウであるが、『時間がない』というベルツの尤もな指摘に、苦笑するしかなかった。

 何せ、現実は戦闘の真っ只中というか、剣八にやられて倒れているところである。

 剣八が帰ってしまう前に、彼と一護に仲良く斬り合ってもらわないと、後々のシナリオが瓦解する。その事を、グラウは知っている。

 

「ごめん、一護。一旦、君の中にある力の擬人化、という説明に留めさせてくれ。時間が合ったら、結構深いところまで教えてあげるからさ」

 

「……分かったよ」

 

 軽いが確かな謝罪の意を示しているグラウに、一護は腑に落ちきらないが納得を示した。

 一護も、今は長々と説明してもらっている場合でないと、思っているのである。

 

「で、俺が克つには、どうしたら良いんだ?」

 

「彼と戦って?」

 

 一護は、グラウが指差した方を見る。

 そうして、瞠目する。

 

「あれは、オレ……!?」

 

 そこには、自分と瓜二つでありながら、髪も肌も死覇装も真っ白な存在が在った。

 

「彼はホワイト君。斬魄刀の扱いに関する指導は、彼が担当する事になってるよ?」

 

「余計な事言うんじゃねェ」

 

 グラウの物言いが気に入らなかった一護のドッペルゲンガー、『ホワイト』は、その手に有った刃物をグラウに向かって投げつけた。

 ただ、その刃物はグラウをすり抜け、地面に突き立つ。

 その刃物は、一護の斬魄刀、『斬月』とよく似ている。

 

「ホワイト。僕はまだ確固たる名前がない、形が定まってないって、いつも言ってるだろう?暴力は効かないよ。雲を殴りつけるようなものだ」

 

「誰が『ホワイト』だ。勝手に名前付けやがって」

 

「命名者は僕じゃないんだけどな~……」

 

 ホワイトはグラウを邪険に扱っている。

 と言うより、ベルツ、グラウ、ホワイトの中で、グラウだけが思想的にも存在感的にも浮いている。

 その事を、一護も感じ取っている。

 それに、一護はグラウが誰かに似ている気がしてならなかった。

 それは、誰だったか。

 

「ほら、一護。構えないとホワイトが待ちくたびれるよ」

 

 一護の思考は、グラウによって中断される。

 グラウは、一護に斬月を差し出していた。切っ先の峰を持って、柄を差し出すように。

 一護は、斬月を受け取る。

 

「―――お前も、オレの一部、力の擬人化なのか」

 

「ああ。そうだぜ、王様。ただ、俺はな。グラウみたいに優しくなけりゃ、ベルツみたいに過保護でもねェ」

 

 いつの間にか、ホワイトの手元にも斬月があった。

 

「腑抜けてたら殺すぜ」

 

 彼は、一切の温かみなく、殺意を持って一護に襲い掛かる。

 刃が、ぶつかり合う。

 形状は同じ、斬月だ。ただ、一護は押し負け、弾き飛ばされる。

 

(なん、で……!同じ刀使って、俺が押し負ける……!?)

 

「そういうとこだぜ、王様」

 

「っ!?」

 

 自身の動揺を完全に読み解いたような、ホワイトの語り。一護は、そこから彼の呆れを感じ取る。

 

「お前が使ってるのは斬魄刀だ、ただの刀じゃねェ」

 

「……そんな事、言われねぇでも分かってる」

 

「分かってねぇから、こうなってんだよ!」

 

 ホワイトは、分かった気になっている一護へ、霊圧の斬撃を飛ばした。

 一護は驚きながらも、それを飛び退いて回避する。

 

「名前知っただけでそいつの全てが分かんのか?『斬月』って呼び捨てにしてりゃ、仲良くなれんのか?」

 

「……っ!」

 

 ホワイトの嘲りに、一護はハっとさせられた。

 自分は、『斬月』という斬魄刀の事を、何も知らない。知ろうとしていない。

 

「この刀は!お前と共に成長する便利道具じゃねェ!弓と一緒だ!矢の番え方知っただけじゃっ、真っすぐ飛ばす事もできねェ!狙った場所を射る事さえもできやしねェ!」

 

「……」

 

 ホワイトの叱責を、一護は正面から受け止め、苦悶していた。

 自分は、何をやっていたんだ。

 『克ちたい』などと言って、自分が今手にしている武器の事さえ、分かっていない。今の自分すら採寸できていない人間が、どう上回ろうというのか。

 

「一護。死神の力は、己が内包する力の具象化だ」

 

「……グラウ?」

 

 突然出されたグラウの助け船に、一護は呆けた。

 引っかかる。ずっと引っかかっている。

 グラウは、誰かに似ている。

 

 一護は、グラウの目を見やる。

 その目は優しく、そして、期待する目だ。ともすれば父親のそれに似ている。

 でも、違う点がある。親とは、どう足掻いても、どれ程子供を信じていても、心配してしまうものだ。怪我なく、無事に帰ってきてほしいと。

 グラウの目は違う。

 信じている。そこに、一点の曇りもない。

 その目は、『君なら、きっとできる』と言ってくれた、カイそっくりだ。

 

(……ああ、そうだよな。まずは、自分を信じてやらねぇとな。自分の力を信じれば、『己が内包する力の具象化』、斬魄刀は、きっと応えてくれる)

 

 恋次と最初に戦った時もそうだった。斬魄刀を、『己が内包する力の具象化』を信じたから、強くなれた。

 それをもう一度、あの時より一層、信じるだけだ。

 

「……力を貸してくれ。―――斬月!」

 

 力が漲る。内から溢れる。

 これだけで良かったのだ。己の中に在る力を、力の解放を手伝ってくれる存在を、信じる。

 それだけで、自分は何処までも強くなれる。

 

「……、ありがとう。グラウ、ホワイト。それにベルツ。―――ちょっと、剣八倒してくるわ」

 

 一護は一足先に、心象風景を後にした。

 

「……グラウ」

 

「なんだい?ベルツ。助言しすぎだって?君たちが説明下手すぎるんだよ。後、意外と知らなさすぎ。僕が斬魄刀について教えなきゃ、始解前の斬魄刀、『浅打』の事、席官にもなれない下級死神の持つ鈍らとか、テキトー教えるつもりだったでしょ」

 

「……」

 

 ベルツはグラウに図星を突かれて黙った。

 グラウは苦笑を深める。

 

「お前も教えすぎだろ、グラウ」

 

「過保護が過ぎるんだよ。ホワイト、君もね。王様が大事なら、なおさら教えるべき事は教えないと。間違った事教えるのは論外だ。君はそれに加えて口と態度が悪すぎる。直さないと、一護に勘違いされても仕方ないよ?自分の中の、悪い何かだって」

 

「……」

 

 ホワイトも、グラウに諫言連打されて黙った。

 グラウはそんな2人に対し、溜息を吐く。

 

「……困るんだよ、一護には正しく成長してもらわないと。()()()()以上に強くなってもらわないと。じゃないと―――」

 

 グラウは、空を見つめる。

 

「―――彼は()()()()ごと、カイに()()()()()()()()()

 

 彼のその目には、空は白黒に映っていた。

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