主人公が曇らされてばっかりの世界に、一般通過過負荷(マイナス)が、ダイナミックエントリー!   作:霓霞霖

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30 MEMORY OF DISCIPLINE

 一護は、更木剣八に勝った。ただ、それは相打ち同然で、両者倒れ伏し、それぞれ仲間に回収される事となった。

 

 その後に少しだけ体を休めた一護は、目覚めるなり白哉の霊圧を感じ、怪我を押してその場に駆け付けた。

 そうして、ルキアが一時拘留されている懺罪宮(せんざいきゅう)に辿り着く。そこで、瀞霊廷への侵入からずっと協力してくれている志波岩鷲(ガンジュ)が倒れ伏し、侵入してから道中手助けしてくれた山田花太郎と、牢屋から2人に連れ出されたルキアが身をすくませている現状を拝む。

 

『花太郎、岩鷲。悪いな、遅くなった』

 

 先に行かせた仲間たちへ、一護は謝罪を述べた。

 それから、ルキアを見やる。

 

『ルキア、助けに来たぜ』

 

莫迦者(バカモノ)!万全とは言わぬが、せめて傷を塞いでから来ぬか!血が包帯に滲んでおるではないか!』

 

『ああ!?せっかく助けに来たってのに、第一声がそれかよ!?』

 

『そんなボロボロで助けに来られたこちらの身にもなれ!『身の程を知れ』と言ったはずだ!』

 

『何だよ、その言い草は!助けに来なくて良かったのか!?』

 

『無論、貴様の助けを待ってはおった!が、もう少し助けられる側がその姿を見て安心できる状態で来いと言っておるのだ!』

 

 久々の再会なのに、相変わらずな一護とルキアである。

 ただ、まさしく『喧嘩するほど仲が良い』し、喧嘩できる余裕と信頼が見える。

 そうだ。ルキアは信頼して、一護たちを待っていたのだ。なのに、そうして現れた者が満身創痍では、ああも言いたくはなる。

 

 そして、ルキアの言う通り、一護はボロボロであるため、後から駆け付けた夜一(人間形態)に回収され、この場でルキア救出を達成する事は出来なかった。

 

(分かってたさ、まだ敵わねぇって事は……)

 

 一護は振り返る。浦原がかつて作った秘密基地でそこの回復施設、温泉のようなそれを利用しながら、己が未熟を振り返る。

 

(霊圧っつうのだって、まだ白哉のヤロウに届いてねぇ。遠くから感じたそれだけでも、俺は動揺しちまった。動揺しちまったから、勝手に体が動いちまった。ルキアを、助けに行かないとって)

 

 動揺で正気を失ったから、一護は身の程知らずに白哉へ挑もうとしてしまったのだ。

 その気はなかったが、死にに行く理由に、ルキアを使ってしまった。

 だから、振り返る。

 まずは、自分にまた克つところからだ、と。

 

 そこに、猫(夜一)が一緒に湯に浸かって言うのだ。

 

「頭が冷えたようじゃな。では、これからお前を鍛える」

 

―おぬしには、3日で卍解を習得してもらう

 

 夜一は、一護へデス・マーチを言い渡した。

 

 メゾン・ド・チャンイチにて、卍解デザイン・コンペが始まる。

 

 

 

 卍解習得には、『具象化』と『屈服』が必要である。

 死神能力の擬人化である存在を、精神世界ではなく、現実世界に具象化させる。

 そして、具象化させたその存在を、屈服させるのだ。

 ただ、『屈服』とは言うが、必要な行いを正確に言い表すなら、より深い相互理解をするという事だ。

 卍解を習得する段階では、それが大体殴り合いになるから、必要なモノが『屈服』であると、勘違いされているのである。

 

 さて、本来『具象化』の時点で、そこに至るには始解を習得してから通常10年ほど掛かるのだが。そこは浦原印の便利道具、『転神体(てんしんたい)』がある。『具象化』を行える個々の基準値に霊圧が届いており、霊圧操作の技量が高い補助者が居れば、『具象化』を無理矢理行える、という代物だ。

 ただし、『転神体』が使えるのは1人につき3日間だけ。3日間の間に卍解を習得できなければ、使用者は二度と『転神体』を使う事が出来ない。

 まぁ、それでも『転神体』という大幅ショートカットが使えなくなるだけで、通常ルートでの卍解習得は普通に出来るのだが。

 その話は置いておこう。

 

「これに、俺の斬魄刀を刺せば良いんだな?」

 

 一護の確認に、夜一(ヒト)が頷く。

 それから、一護は斬月を『転神体』へ突き刺した。

 

 人影が3つ現れる。

 

「……は?」

 

「グラウ!ベルツにホワイトも!……なんでお前らが?」

 

 出てきたのは、笑顔で小さく手を振る少年、仏頂面で佇む男、不機嫌そうに顔をしかめる男、その3人だった。

 夜一は死神能力が3人に分かれて擬人化するなんて一例も知らないし、一護はこの3人が死神能力の擬人化ではないと知っていたので、各々懐疑心を顔に出している。

 

「端的に言おう、一護。君にそのまま全開放の卍解を渡すと、君の体が耐えられない。だから、僕たちが今君にお出しできるギリギリの調整を行おうとしているのさ」

 

「……っ!いつもの蛇口を締められてるような感覚……、お前らがやってたのか……!」

 

「オレはやってねぇよ、王様。自分の力を十全に出せねぇ奴なんか、さっさと乗っ取っちまいたいんでね、コッチはよ」

 

「そうそう。ホワイトはノータッチ。固く締めようとしてるのがベルツで、限界を攻めようとしているのは僕ね」

 

「……」

 

 一護に何でも答えようと口を開くのがグラウ、未熟な主をなじっているのがホワイト、グラウを睨んで唸っているのがベルツである。

 1人の人間が内包するそれぞれの力であるはずが、ちょっと歩幅が揃っていない。

 

「……『ギリギリの調整を行おうとしている』という事は、一護は別に卍解を習得できない訳ではないんじゃな?」

 

「あっ!そうだぜっ、結局俺は卍解できるのか!?」

 

「出来るよ?ぶっちゃけ僕たちがこうして具象化しなくても。だけどそれじゃあ一護が内側から爆ぜかねないから、今どれくらい解放して良いのか、こうして試験しようとしてるんだよ」

 

「俺、内側から爆ぜるの!?」

 

「ものの例えだよ」

 

「そ、そうか、例えか……。良かった……」

 

「本当は爆ぜるどころじゃないからね」

 

「爆ぜるどころじゃないの!?俺はいったいどんな力を秘めてんだよ!!」

 

 真面目な質問から入ったはずなのに、何故かギャグ調になる集団である。グラウが意図してギャグ調にしているだけで、実は割と深い真実に迫るシリアスな話だが。

 

「さてと。本当は色々説明してあげたいんだけど、時間がないんだよね。……これ、いつも言ってる気がするな」

 

 グラウは苦笑と共に説明を切り上げながら、一護に『浅打』のような刀を、柄の方から差し出す。

 

「一護の限界を測ると共に、君を鍛える。君はあらゆる点で未熟だ。戦闘経験という意味でも、霊力操作の意味でも」

 

 グラウが語る最中、ホワイトが一護と同じく刀を携え、一護の正面に歩み出る。

 

「一護。君にしてもらうのは3つだ。1、限界まで戦え。2、僕たちとそれぞれ戦え。3、霊力操作を意識して戦え」

 

「い、1と2は分かるけど、3はどうやってやりゃ良いんだよ」

 

「今回求める水準は、アレだよ。大虚(メノス・グランデ)を撃退した時とか、浦原さんの帽子を墜とす時とかに使ったアレ」

 

 一護はハっと思い出す。

 自身から溢れる霊力を、斬魄刀を介して放ったアレ。一護としては、神聖弓(ハイリッヒ・ボーゲン)神聖滅矢(ハイリッヒ・プファイル)も形成できない自分が、苦し紛れに行ったあの攻撃。

 アレは、グラウが例に出したその2回しか、一護は行えていない。

 それをモノにしろ。それがグラウの求める水準であると、一護は理解する。

 

「その『浅打』もどきは、アレの訓練用でもある。無秩序に霊圧を放出するだけでは、ただ散水してるだけで意味がない。加減せずにその刀に霊圧を込めれば、その刀は砕け散る。適切に、注ぎ込まなければならない。練りこまなければならない。そうしなければ、アレは、『月牙天衝(げつがてんしょう)』は使えない」

 

「月牙、天衝……」

 

 グラウに見つめられながら、一護は刀とそれを握る手へ意識を向けた。

 アレが、『月牙天衝』が、自身の技であり武器。

 一護は瞑目し、はにかむ。

 なんとなく分かったのだ。

 この刀が自分の神聖弓(ハイリッヒ・ボーゲン)で、あの攻撃が自分の神聖滅矢(ハイリッヒ・プファイル)なのだと。

 自身は補助してもらって、神聖弓(ハイリッヒ・ボーゲン)神聖滅矢(ハイリッヒ・プファイル)をようやく形作っているのだと。

 

 己の未熟を理解した。

 どれ程この3人に助けてもらってるかを理解した。

 

 だから、一護は向き合う。己の未熟と。この3人と。

 

「―――始めてくれ、ホワイト」

 

「―――言っとくけどオレは、お前を殺す気で行くから、なっ!」

 

 一護にホワイトが切り掛かり、鍔迫り合う。

 一護の卍解修行が始まった。

 

 

 

 卍解修行は、すでに1日が経過した。

 

(……分からねぇ)

 

 一護は、グラウと刀を交えながら考える。

 自身の力の擬人化である3人と交代で相手し、3周目の2番手として、今グラウを相手している。

 だから、分からない事がある事を、一護は分かってきた。

 

「ほらほら、考え事してる場合かい?」

 

 鍔迫り合いしていたはずのグラウが、気付けば背後に居て、刀に霊圧を込めている。

 

「ちゃんと避けるんだよ?ほい、月牙」

 

 軽い様子で、一護に求める水準を、まるで手本でも見せるようにグラウは披露する。

 刀の振りも、手練れのそれには見えないが、却って素人である一護に合わせた技量で振るっているように見える。

 だから、一護には分からない。

 

「……、戦場で考え事しているようなら容赦なく叩っ切られるんだけど。ここはあくまで修行の場だ。集中できてないんじゃ意味がない。気になる事があるなら聞きなよ、一護。僕は素直に答えるよ?」

 

「グラウ、そんな暇はない」

 

「甘っちょろいんだよ、グラウ。叩っ切ってやりゃあ良いんだ、そんな半端者」

 

 一護を慮って談笑タイムをグラウが挿めば、過保護すぎるが故に秘密主義のベルツと、優しいが故に現場主義的で粗暴なホワイトが、それぞれ諫言を放った。

 

「今は僕の番だ。君たちの教育方針は、君たちの番でやってくれ」

 

 諫言を放ってくる2人に動じず、自分の意見を通すグラウであるが。

 

 ただ、グラウの言う通り、今はグラウの番だ。今はグラウの教育方針が優先される。そういう取り決めなので、ベルツとホワイトは嫌な顔しても、それ以上口を挿まない。

 一護は、その雰囲気に乗っかる。

 

「その、なんつぅかよ……。何となく、戦ってて相手の気持ちが分かる、ような気がすんだ。ベルツのはよく分かる。俺に傷付いてほしくないって、死神はもってのほかだけど、滅却師(クインシー)にもなってほしくないって」

 

 一護はこの修行で交える矛を通して、相手の感情を読み取っていた。

 それどころか、ベルツの事だけで言えば、もうベルツが自身の滅却師(クインシー)の力が擬人化した者、とまで読み取れている。

 まぁ、何せベルツは普通に弓と矢、神聖弓(ハイリッヒ・ボーゲン)神聖滅矢(ハイリッヒ・プファイル)を使ってくるせいなのだが。

 自身の射程外から撃ちまくってくる事には、一護はベルツに少し怒りを覚えている。

 『いつでもお前の土俵で戦ってくれると思うな』というベルツからの説教がクリーン・ヒットしてるため、何も言い返せていないが。

 

「ホワイトについても、ベルツ程じゃねぇけど感じるんだ。体罰上等だけど、こっちの素質を見込んだ上みたいな運動部顧問だって」

 

「感情を読めよ。何でオレだけ現実的な具体例出されんだよ」

 

 ホワイトに微妙に呆れられながらも、一護の言葉は続く。

 

「グラウ。お前だけ、まったく読めない。いや、俺をしっかり育てようとしてんのは分かるんだ。でも、俺を見てないような……。俺の後ろにあるモノを見てるって言うか……」

 

 一護は、自分でも整理しきれない感覚をどうにか言葉にしようと、とにかく自分の中で近いと思える言葉を並べた。

 その言葉を受けて、グラウは悲しげな笑みを浮かべながら、息を漏らす。

 

「……。一護。端的に言えば、3人の中で僕だけが、君の生来持ち得る力じゃない」

 

「生来の力じゃ、ない……?」

 

「僕は……―――」

 

 グラウが自身の正体を素直に明かそうとした時だ。

 

 この秘密基地、その入り口が爆ぜた。

 

 一護も夜一も目を剥いた様子で入り口を見やる。

 そこには、1人の男が立っていた。

 

「……カイさんが言ってた通りだな。―――卍解習得に向けてコソコソ修行か?面白そうな事してんじゃねぇか」

 

「―――恋次……!!」

 

「よう、黒崎一護。俺も交ぜろよ」

 

 阿散井恋次。ルキアを介した因縁で2度も一護と戦った彼が、彼の斬魄刀、蛇尾丸を携えてここに居る。

 

「……何しにきやがった」

 

「おいおい、酷い歓迎だな。こっちはカイさんに言われて、修行場見繕うついでに教えに来てやったっつぅのに」

 

 一護は刀を恋次に向けたが、恋次はどこ吹く風。

 ただ、恋次が吹かせた風が、一護の、そして夜一とグラウの動揺を誘う。

 

「『カイさんに言われて』……、『教えに来た』……?おい、どういう事だ……!」

 

「ああ、聞いてるぜ。お前、カイさんと面識あるんだってな。あの人は、本当に神出鬼没っつうか、訳が分からなくて困るぜ……。まさか、捕縛されてる事になってる罪人だって聞かされた時には、本気であの人の事が分からなくなった……」

 

「『罪人』……!?何だ、どういう事だ!あの人は、カイさんは一体っ―――」

 

 動揺が極まっていく一護に、恋次は蛇尾丸の切っ先を向ける。

 だがそれは敵意ではない。むしろ善意だ。

 今は時間がないから、できる事に集中しろというソレだ。

 

「良いかよく聞け、一護。お前が今聞くべきは1つだ。―――ルキアの処刑が、明日の正午に早まった」

 

 恋次から聞かされた情報に、皆息を呑むしかなかった。

 グラウだけ、息を呑んだ直後に、顔をしかめている。

 

「んじゃ、俺もここで修行させてもらうぜ。時間がねぇんだ」

 

 恋次は果たすべき義理を果たし、自身のやるべき事に取り掛かる。

 彼は具象化した蛇尾丸と共に、この場の隅を陣取った。一護の邪魔にならないその範囲で、自身も卍解を習得するために。

 

 息を呑んだ皆が沈黙する中、口を開くのはグラウである。

 

「……カイの奴、処刑時刻を変更させないくらいの()()()()改変はできただろうに。……意図してそこは守るつもりか?……いや、クソ、考えなしなのが目に浮かぶ」

 

 グラウは怒りを滲ませながらカイの意図を読もうとしたが、暢気にピースサインしているカイの図が浮かんだので、色々と諦めた。

 ちなみに、仮にカイに意図を訊ねた場合は、『考えてなかった』と、暢気にピースサインしている舌ペロ・テヘ顔を返される事だろう。

 

「……。一護。すまないが、質疑応答はまた今度だ」

 

 グラウが持つ刀から、霊力が迸る。

 その刀は、一護が持つ刀と同じで、一護が霊力の込め方を誤って何本も壊したはずの物。

 それが、一護とは比べ物にならない技量で霊力を込められ、壊れないままに流麗な霊力を溢れさせている。

 

「ここからはスパルタ教育だ。君の生存本能をクスグるとしよう。『覚悟の準備をしておいてください』。……雰囲気に合わないか、このセリフは」

 

 一護は身構える。

 グラウの目が見つめるものではなく、見(くだ)すものに見えたから。

 グラウの笑みが苦笑ではなく、嘲笑に見えたから。

 

「そう怯えないでくれ、一護。こんなの、これから降り注ぐ試練に比べれば、ほんの些細なものだ」

 

 温かみが消えたどころか、冷たさすら感じられるそのグラウの雰囲気。

 そんな彼からまるで談笑のような言葉と無造作な動作と共に放たれる、殺意の結晶とすら見紛う『月牙天衝』。

 

 殺意が迫る。死が迫る。

 走馬灯のように、一護の脳内を思い出が駆け巡る。

 だから、彼は覚悟するのだ。

 

「―――俺が、護るんだ!!!」

 

 護らなくちゃいけない者たちを、己の手で護るのだと。

 その思いを、言葉に込める。

 

「『月牙っ――――

 

 思いが込められた名前には、力が宿る。

 

―――天衝』ォ!!!!」

 

 それが、『BLEACH』、この世界の真理なのだ。

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