主人公が曇らされてばっかりの世界に、一般通過過負荷(マイナス)が、ダイナミックエントリー!   作:霓霞霖

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32 MEMORY OF STRENGTH

 突き進んだ。

 

「お()めくださいっ、阿散井副隊長!」

 

 部下たちを屠って、突き進んだ。

 

「四十六室が決めた事です!覆すなんて出来ませんよ!?」

 

 ルキアの下へ、突き進んだ。

 

(絶対に、助け出してやる……!テメーを死刑になんてさせねェ!もう、無力な俺じゃねェ!)

 

 力を手にして、突き進んだ。

 でも、立ち止まるのだ。

 

「……っ!……朽木、隊長!」

 

 朽木白哉が立ちはだかる。

 恋次にとっていつも、白哉は壁だった。ルキアと自身を隔てる障害として。強者と弱者の線引きとして。

 

「何処へ行く。恋次」

 

「ルキアを、助けに行きます」

 

「ならぬ」

 

「どうして、なんだ……。アンタはどうして!」

 

 尊敬している隊長が、今、恋次には理解できない。いや、ずっと出来ていなかった。

 あれ程誇り高いのに。あれ程力を持っているのに。何故。

 

「どうしてアンタはっ、ルキアを迎え入れといて!切り捨てるみてぇな事するんだ!」

 

 ずっと、理解できなかった。

 ルキアの名誉を守るため、自身の庇護下に置いた上に、カイの関係者である事を恋次に対しても口止めするような人が、その心根を一切語らない。

 何故ルキアにそこまでするのか。カイの口から語られるまで、ルキアが白哉の失くした妻の妹である事すら、恋次は知らなかった。

 ルキア自身も、あの時に知ったはずだ。

 何故ここまで、何も教えてくれないのか。

 

「それが、私の誇りだからだ」

 

 一切の修飾がない白哉の答え。

 やはり、恋次には理解できない。

 

 言葉では、理解できないと悟った。

 なら、次にする事は、矛を交える事である。

 

「―――押し通ります」

 

 恋次は、敬意と敵意を持って、白哉に刃向かう。

 その意志を聞き届けた瞬間、白哉は消える。

 いや、消えるように早く移動した。そうして、恋次の背後に立つ。

 ここから鎖結と魄睡を刺し貫くのが『閃花』という技。白哉の得意技だ。

 ただ、今回は決まらない。恋次は振り向きざまに刃を合わせ、白哉の刃を弾く。

 

「その技、何度も見てきた……。理屈も分かってた……。後は、体が付いてこれるかどうかだった……。―――ようやく、アンタの剣に付いて行ける……!」

 

 恋次は白哉を捉えた、つもりになった。

 まだ、白哉は自身の剣など見せていないのに。

 『千本桜』も解放していないのに。

 

「……何を舞い上がっている?

 

―――『浅打』の一合で、私の剣を知ったつもりか?」

 

 白哉は、始解の解放に移る。

 

「『散れ』、『千本―――」

 

 解放しようとした白哉の斬魄刀に、蛇尾丸が巻き付く。

 白哉は驚愕させられた。

 恋次が斬魄刀の名を呼んだ声なんて、聞いていない。

 

「……名前を呼ばずに斬魄刀の解放を。……まさか、貴様」

 

 解号省略くらいは、始解を熟達していれば出来る。

 名前すら省略して解放するというのは、そこまで斬魄刀と通じ合ったという事。

 『屈服』を済ませた、という事だ。

 

「……朽木隊長、アンタはずっと壁だった。……アンタをずっと越えたいと思っていた」

 

 恋次は白哉と相対する。自身の上司としてでも、敵としてでもなく、越えるべき壁として。

 今、恋次は壁に挑む。

 

―――卍

――――――解

 

 恋次の膨れ上がる霊圧に、空間は衝撃を受ける。

 巻きあがる土埃。飛び散る建物の破片。

 それらが落ち着いた時に、恋次は己の卍解を曝す。

 

「『狒狒王蛇尾丸』」

 

 恋次が握る斬魄刀の姿は、巨大な脊椎を胴とした大蛇となっていた。

 

「……貴様、いつの間に卍解など」

 

 白哉にも、驚きはあった。でも、驚愕と言う程ではない。

 この男なら卍解にまで至れるだろうと目を掛けていたから、驚愕はしない。この短期間で習得した事に、驚いているだけだ。

 

「アンタが目を瞑ってる内にだ、ルキアが処刑される現実からな」

 

 恋次は、まだ冷静さが見て取れる白哉へ、憎たらし気に皮肉を放った。

 これでも鼻を明かせられないのかと、不安を心の奥に押し込めながら。

 

「もう一度言うぜ。―――俺はルキアを助けに行く」

 

「自惚れるな、恋次。他を殴るだけの力を得ただけの貴様に、出来る事はない」

 

「出来るぜ、アンタを倒すくらいはな」

 

「特別だ、二度目を言ってやろう。―――『自惚れるな、恋次』」

 

「っ!」

 

 気付けば、白哉の斬魄刀から刀身がなくなっていた。

 散ったのだ、千本の桜が舞わせる花弁のように。

 

 千本桜が狒狒王蛇尾丸に襲い掛かる。

 狒狒王蛇尾丸は骨一個一個にバラされるように、壊された。そう見せかけた。

 骨一個一個を刀身とする狒狒王蛇尾丸は、その刀身一個一個を繋げる関節、刃節(じんせつ)を恋次の霊圧によって形作っている。

 つまりは伸縮も、消すも作り直すも自在なのだ。

 

「言わなくても分かるよな、朽木隊長。今のはわざと、バラバラにしたんだ。アンタの『千本桜』を避けるためにな」

 

 さすがの白哉も瞠目している。この短期間で、ある程度卍解を扱えている恋次に。

 でも、すぐに冷静さを取り戻すのだ。所詮は付け焼刃だ。

 卍解は強大な力であるがために、その操作が難しい。卍解の習熟には最低でも十数年掛かるというのが通説だ。

 だから、白哉は少しだけ、恋次に呆れている。

 

「もう一度だけ言おう。『自惚れるな、恋次』」

 

 卍解を習得したばかりの恋次が相対しているのは、卍解を数十年習熟した白哉なのだ。

 

―――卍解

 

 白哉の斬魄刀が地面に吸い込まれ、巨大な刃が、桜並木のように生え並ぶ。

 

「『千本桜景厳』」

 

 花びらのように舞う千の刃は今、億の刃となった。

 

 恋次は呆然とするしかなかった。習熟した卍解が、これ程のモノとは。朽木白哉の剣が、自身の剣とこれ程までに隔絶しているとは。

 現実に予想を飛び越えられ、恋次は最早身じろぎ一つする事も叶わない。

 狒狒王蛇尾丸はその刀身一つ一つ余す事なく粉々に砕かれ、恋次の身にいくつもの刀傷が刻まれ、倒れ伏す。斬魄刀も、()()()()姿()()()()()()()

 

 恋次の刃は、届かないのか。

 

「……弱いな、恋次。(けい)が手に入れたその力は、まだ道理を押し退ける強さすらない」

 

 白哉はわざと恋次の傍により、見下ろした。

 お前はまだ弱いと、事実を突き付ける。

 

「……朽木隊長。……アンタは、弱さを許せないんだろうな」

 

「……許す価値などあるまい」

 

「あるさ。少なくとも俺は、嬉しかった」

 

 恋次は、弱さを許せない誇り高き白哉を、這いつくばって見上げていた。

 自身の持つ、弱さを説くために。

 

「……カイさんの(もと)に居た頃、俺はルキアに負ける事が多かった。……座学はもちろん、鬼道でも負けたし、剣の稽古でも負ける事があった。……俺は、弱かったんだ」

 

 恋次は想起する。

 恋次は、ルキアを追う側だった。

 色々な点でルキアに劣っており、だから座学を切り捨た。鬼道も、どうしても素質がないと、切り捨てた。まずは体作りに勤しんだのだ。そのため、畑仕事の手伝いや運動をする時間を、座学や鬼道稽古をサボって捻出した。サボリのせいで、よく怒られていたが。

 

「……それで、ルキアに八つ当たりしそうになって、カイさんに諭されたんだ」

 

―弱い事って、悪い事かい?

 

 恋次は覚えている。あの、母のようであり、父のようでもある、暖かな微笑を。

 

―……悪い事だろ

 

―……そうだね。そうかもしれない。でもそれじゃあ、弱い人たちは、みんな悪い人かい?

 

―……そりゃあ、みんな悪いって訳じゃねぇだろ。……子供だって弱いし

 

―そうだ。弱い人は、悪い人じゃない。そして、子供だけじゃなく、大人だって弱い人は居る。『狭間空間(ここ)』に居る、霊力を持ってない大人たちもそうだ。彼らは(ホロウ)に襲われれば一溜りもない程に弱い。でも、恋次くんが日々食べるお米や野菜、鶏を育ててくれているだろう?

 

―確かに、そうだけど……。じゃあ、弱いままでも良いのかよ

 

―良いんだよ。心ある者は皆、弱いんだから。それに、こう思わないかい?弱さのないヒトなんて、そんな完璧超人なんて、面白くないって

 

 並べかけられる言葉。それは、どれも甘やかす言葉だった。弱い赤子、我が子を抱きかかえるような、親の優しさだった。

 鵜呑みにすれば、容易く心を堕落させてしまう優しい毒だ。

 

―だけど、弱いままはヤだよ

 

―じゃあこうしよう。()()()()()

 

 カイのその言葉を聞いて、恋次はようやく自身の弱さを受け入れられた。

 弱さを、武器にしてしまえば良いのだ。

 

 恋次は、不敵に笑う。

 

「……何故笑う」

 

「……朽木隊長、俺は弱いんだ。……卍解も、実は半分しか引き出せねぇ」

 

「卍解が……半分だと……?」

 

「もう半分あるって事だよ」

 

 恋次は、半分しか力を引き出せないという弱さを、武器に変えたのだ。

 白哉は、虚を突かれる。

 

 

 

卍解

大蛇王蛇尾丸

 

 

 

 蛇尾丸が、その姿を猿の左手、巨腕に変える*1

 

 白哉はその巨きな手に捕まれる。

 

「これは……卍解が二種類……!?」

 

「違ェよ。本当だったら、大蛇(おろち)狒狒(ひひ)も一緒なんだ。ただ、今は蛇尾丸が半分しか認めてくれてねェから、片方ずつしか出せネェんだよ。しかも、大蛇を出す時は『狒狒王』で、狒狒を出す時は『大蛇王』って捻くれ具合だ」

 

 恋次は『捻くれ具合』というのに思い当たる節があり、少し自嘲していた。

 

―ルキアちゃんの事、好きなのかい?

 

―バっ、そっ、そんなんじゃねぇよ!!

 

―じゃ、どんな気持ち?

 

―ど、どんな気持ちって……。いつか絶対追い越してやるって気持ちのような……。ずっと隣に居てほしいって気持ちのような……

 

 素直に『好き』と言えない自分の捻くれ具合を、斬魄刀が写し取っているようで。

 しかも、気持ちに二面性があるのが、蛇尾丸が内包するオロチ王と狒狒王という二つの人格で表されているようで。

 恋次はつくづく、蛇尾丸は自分らしい斬魄刀だと感じていた。

 

 まだ戦いの最中という事で、恋次は気を引き締め、(とど)めに掛かる。

 

「これで、幕引きだ。―――『狒骨大(ひこつたい)―――」

 

「―――ああ、幕引きだ」

 

―――縛道の六十一・六杖光牢(りくじょうこうろう)

 

 猿の巨腕が赤熱する最中、白哉の口が、縛道の名を唱えた。

 さすれば、光の帯が、恋次の腹に突き刺さる。ダメージはない。問題は、それを食らえば、指一本動かせなくなるという事だ。

 

(くっ……!六十番台を、詠唱破棄だと……!?くそっ、まずい……!)

 

 指一本も動かせず、大技も発生途中でキャンセルの上に、もう放てる余力はない。

 白哉を巨腕で掴んだままではあるため、白哉も身動きできないが。千本桜景厳は本体の身動きを必要としない飛び道具。

 事実、千本桜景厳の花弁が白哉と恋次を取り囲んでいる。まるで、()()()()()()()()()()()()

 

「認めよう、恋次。(けい)の『弱さ』、無鉄砲さは、武器であると」

 

 白哉は恋次を認めた。()()()()()()()

 

「掟に従う私とは、また別の武器だ。そして、それは私に足りなかった武器でもある」

 

「朽木、隊長……?」

 

 白哉の語り口に、最早敵意はない。恋次もその事に勘付いた。

 それで思い出す。ルキアの言葉だ。

 

―兄様はこの処刑が撤回できる瞬間を持っている

 

 ルキアの言葉どおり、このヒトは、処刑を撤回できる瞬間を待っているのではないだろうか。

 

「恋次。私が掟を武器とするのは、それが周囲に有無を言わせない取り決めであるからだ。此度の殛刑のように、どれ程の違和感があれど、正式な手段でなくてはそれを撤回できない」

 

 白哉の語る、殛刑撤回の難題。

 恋次には、それが敗北宣言には聞こえない。

 期待感が、胸に宿る。

 

「それは逆に、正式な手段であれば撤回できる事を意味する。同時に、正式な手段での撤回であれば、周囲の有無を問題としない」

 

 あるのだ、今回の殛刑を正式に撤回させる手段が。

 

「現世超過滞在で殛刑となる事はない。焦点は、死神能力の譲渡にある。これは、『死神能力のない者に死神能力を譲渡してはならない』という掟だ。譲渡される前から死神能力を持っていれば、違反に当たらない」

 

「……隊長、それって」

 

 黒崎一護が元々死神能力を持っていれば、ルキアは死神能力譲渡禁止を違反した事にならない。

 

「『黒崎一護』。あの者は、十数年前に出奔した元十番隊隊長、『志波一心』の息子である可能性がある」

 

 白哉は気付いていた。むしろ、『志波海燕』を知る者として、気付かない訳がない。

 『黒崎一護』と『志波海燕』は似すぎている。容姿だけでなく、その心情まで。

 ならばすぐに血縁関係を疑い、そうして、白哉は志波家の人間がかつて現世へ出奔した事実を突き止めた。

 

 死神の、それも護廷隊隊長で、しかも過去には『五大貴族』として『朽木家』とも並び称された1つである『志波家』の人間。

 その子供が、死神能力を受け継いでいないはずがない。

 

「じゃあ、ルキアは―――」

 

「問題は、その証拠がない事だ。『黒崎一護』が『志波一心』の子供である証拠。最低でも、『志波一心』が『黒崎一護』と家族として暮らしている映像が必要になる」

 

 繋がっている希望は、まるで途切れかけた綱の如く。

 ルキアの証言ではダメだ。ルキアなら確実に一護の父親を把握しているだろうが、罪人が自身にとって都合の良い嘘を吐いている事が考えられ、効力がないモノとされるだろう。

 

「映像なんて、どうやって……」

 

 尸魂界(ソウル・ソサエティ)の人間が、現世である一護の家庭環境を映像に収めている訳はない。偶然にも一護の一家団欒を収めていたとして、そこに映る一護の父親を『志波一心』だとする事は難しい。

 一筋の光を見たからこそ、恋次は濃い影に呑まれそうだった。

 

 これが、無鉄砲を武器にする者の限界だ。

 

「映像庁に、証拠映像を洗わせている」

 

 そしてこれが、掟を武器にする者の力だ。

 

「映像庁!確かにあそこなら現世の映像を細かく記録してる……!でも、あそこに部外者が仕事を頼むなんて……。……っ!……『朽木家』は、四大貴族!」

 

 貴族の、それも四大貴族となれば、その強権で以って映像庁を動かせる。

 しかも、動かす理由が不正裁判の是正という大義名分ならば、その強権は正当な権利の行使と言える。

 さらに言えば、掟に厳しい、つまり不正を許さない家の人間、朽木白哉がその権利を行使したのだ。例え義妹を救うという動機が見え透いていても、不正を正すというその大義を突っぱねられるお役所従事者は居ない。

 今まで掟を守ってきた成果、力が、そこにはある。

 

 四大貴族『朽木家』現当主、朽木白哉なら正当な理由で、映像庁に証拠映像を洗わせる事ができる。

 そう。洗わせる事ができる。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「恋次。(けい)の力に信を置き、頼みたい」

 

 十数年の映像から証拠を見つけるのに、いったいどれ程の時間が掛かる?

 

「証拠が見つかるまで無鉄砲に暴れ、時間を稼げ」

 

 恋次ならその程度の時間は稼げる。

 白哉は、そう信じたのだった。

*1
『双王蛇尾丸』の左部分だけ、みたいなイメージ。

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