主人公が曇らされてばっかりの世界に、一般通過過負荷(マイナス)が、ダイナミックエントリー!   作:霓霞霖

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33 MEMORY OF DUEL

 ルキアは、双極の丘に立つ。

 理由など言うまでもないだろうが、あえて言うと。

 殛刑を受けるためだ。

 

 本来なら隊長格が総出で警護する儀式なのだが、隊長・副隊長が揃っているのは一・二・四・八の4つで、六番隊は隊長・朽木白哉だけの出席だ。

 他の隊が集まらないのは暗躍、身勝手、その仲裁と、多種多様な思いが渦巻いての現状である。

 

 ルキアは、白哉と相対する。

 白哉は目を伏している。

 

(恋次は、兄様と戦っている霊圧を感じたが……。瀕死ではない、はずだ……。恋次の霊圧、その収まり様は、穏やかなモノだった……。ただ戦意を収めただけのように)

 

 ルキアは努めて平静であるが、やはり心の中に心配があった。

 それだけ、友情があるという事だ。恋情ではないところが、恋次としては虚しさがあるかもしれないが。

 

(……兄様の考えは分からない。……だが、恋次を生かしたという事は、恋次が戦意を収めたという事は、何か、この処刑を撤回する策があるという事だ)

 

 そうでなければ、恋次が矛を収める訳はなく、そうでなければ義兄が恋次を始末していない訳はない。

 良い意味でも悪い意味でも、ルキアは恋次と白哉に対して、信頼があった。

 だから、気丈に在れる。

 

(一番不安なのは、むしろ一護の方か……。あやつの事だ、考えなしに突っ込んでくるぞ……。その時に充分鍛え上げられていれば良いが……)

 

 ルキアの中で一番の心配の種は、恋次でも白哉でもなく、一護だった。

 鍛えているのが四楓院夜一、四大貴族の元・当主である事は知っている。だから、時間さえあれば、自身を抱えて逃げ回るくらいは出来るようになる。そう、ルキアも踏んでいる。

 問題は、やはり時間だ。

 この短時間で、此処に居る隊長格から逃げ果せるレベルになれるかは、ルキアも正直不安でならない。

 一番不安なところは、そのレベルに達していなくても、一護なら突っ走るだろうという、こちらも悪い意味での信頼だ。

 

(……私ができる事は、信じて待つのみか)

 

 無力感を味わうも、それは胸の奥にしまう。

 それしかできないなら、それを全力でやるだけだ。

 

 ルキアの背筋は、綺麗に伸びていた。

 

 一番隊隊長にして護廷十三隊・総隊長、山本元柳斎重國が、磔架(たっか)の前で待ち構えている。

 ルキアはそこまで、引き連れられる。

 

「最期に。言い残す事はあるかのう」

 

 元柳斎は、総隊長としての務めを果たす。

 かつて護廷隊の一員だった者の言葉、遺言を聞き届けようとする。

 

「ありません。最期ではありませんので、総隊長殿」

 

 貫禄という威圧感が滲み出る元柳斎へ、ルキアは堂々と言い切ったのだ。

 自身の最期はここではない、と。

 その目は揺れず、潤んでもいない。

 

「……惜しいもんじゃのう。……罪など犯さねば、一端の死神と成ったじゃろうに」

 

 惜しむ思いが、元柳斎の口から零れていた。

 彼はルキアの反応を見やる事なく、横に控えて、処刑台への道を開ける。

 

 ルキアは臆さず、しかし、一歩一歩を踏みしめる。

 信頼で、死の恐怖を呑む。

 

 殛刑が執り行われる。

 

 霊力による拘束、そして逃場のない空中への磔。

 巨大な薙刀、『双極』の正面に、ルキアのその身が置かれる。

 

 斬魄刀百万本に値すると言われる破壊能力。

 かつては誰かの卍解だった、などとも噂されるも、当事者ではない者たちは隊長格ですらその詳細を知らない。

 ただ、如何なる霊圧が相手であろうと、地獄を経由させる事なく、その魂魄を灰にして世界に帰すとされる処刑道具。

 

 それが、真の姿を表す。

 

 『双極』に施されていた封印が解かれ、巨大な薙刀は、巨鳥を模した炎へと変貌する。

 

 その巨鳥の名は、『燬鷇王(きこうおう)』。

 『双極』の真の姿にして、殛刑の執行者。

 ()が罪人を貫く事で、殛刑は終わる。

 

 『燬鷇王(きこうおう)』は、ルキアを見ていた。

 彼には、目があるのだ。

 彼は、罪人を、ルキアを見定めていた。

 ルキアをして綺麗と思わせる、曇りなき、人情を感じさせる瞳。

 

 彼は、ルキアを捉え続ける。

 まるで、自らが処する者の最期を、見届けるように。

 

 炎の巨鳥は飛ぶ、罪人目掛けて。

 

(―――一護……!)

 

 ルキアも、目を閉ざさなかった。

 ルキアは信じる。こんな自身を助けようとする全ての者を。それが、そんな者たちへ、今の自身が返せる精一杯だと。

 

 だから、信じる者は、救われる。

 

「よう」

 

 一護が、ルキアへ迫る炎の巨鳥を受け止めていた。

 

「……一護―――来るのが遅いぞ、莫迦者……!」

 

「そうだな。悪い。ギリギリになった」

 

 ルキアと一護は、微笑み合って再会を果たした。

 ただ、さすがのルキアも、思わず涙を零していたが。それを指摘する程、一護も野暮ではない。

 

 一護の斬月に押し留められていた『燬鷇王(きこうおう)』が、距離を取る。

 二撃目の助走。

 処刑反対が無法を働く部外者だけでは、『燬鷇王(きこうおう)』は止まれない。

 彼は、務めを果たすために、罪人の罪を雪いで輪廻に返すために、此処に在るのだ。

 

「一護!それは『双極』!斬魄刀百万本に匹敵する―――」

 

「言わなくて良いぜ。相手がどれ程強かろうと、お前を助けるために立ち向かうのには変わりねぇからな」

 

 ルキアの忠告など、一護は聞くまでもなかった。

 目的は変わらず、それを達成するためには相手を退けるしかない。

 なら、退く理由がいくつあろうと、一護が退く理由は1つもない。

 

「―――来いよ」

 

 一護に誘われるように、『燬鷇王(きこうおう)』は、再度罪人目掛けて飛ぶ。

 だが、この処刑を止めたいのは、一護だけではない。

 

 『燬鷇王(きこうおう)』の首に、紐が巻き付く。

 紐を射出した者は、浮竹十四郎。ルキアが所属する十三番隊の隊長。

 そして、ルキアの処刑に反対する者であり、『燬鷇王(きこうおう)』を止める手段がある者だ。

 

「浮竹隊長!?」

 

「ルキア、知り合いか?」

 

「私の上司だ!」

 

「そうか。なら、安心だな」

 

 『私の上司』、ルキアがその名に親しみを込めていた存在に、一護は全幅の信頼を置いた。

 部下の命を惜しむような存在でもなければ、ルキアが慕うはずがないからだ。

 一護は浮竹を信頼し、『燬鷇王(きこうおう)』の対処を任せる。

 

 『燬鷇王(きこうおう)』に巻き付く紐の両端。片方は浮竹が手に持ったままの、盾のようなそれ。

 もう片方が、錫杖のようであり、杭のようでもあるそれ。

 そちらは、京楽が掴み取る。

 

「待ちくたびれたよ、この色男。僕たちの出番じゃないかと思ったじゃないの」

 

「これでも頑張った方だ。夜一から預けられていたこれは、そもそも四楓院家の人間しか解除できないんだからな」

 

 京楽と浮竹が揃って見やる、盾のようなそれ。

 そこには、四楓院家の家紋が刻まれている。

 どうして浮竹が四楓院家の物を持っているかは、彼の言葉から、夜一の意図まで推して知るべし、だろう。

 

「んじゃ、一丁やるとしますか」

 

「ああ!」

 

 盾のようなそれに、京楽と浮竹は己の斬魄刀を差し込む。

 隊長格の魂が込められた斬魄刀、その二振りの力を借りて、その道具は起動する。

 

 『燬鷇王(きこうおう)』を鎮める。

 

 『燬鷇王(きこうおう)』は感じ取るのだ。幾人もの善人が助けようとする処刑対象は、罪人などではないのだと。

 此処は、処刑人たる自分が出る幕ではなかった、と。

 

 巨鳥を成していた炎は、霧散する。

 

 ルキアを助けようとするヒトたち、それも隊長格である2人を見納め、一護も動く。

 磔架の上に立つ。

 

「一護……?まさかっ、壊すつもりか!出来るのか!?」

 

「出来る。だよな、グラウ」

 

―ベルツのおっさんが蛇口緩めてくれてる今ならね

 

 ルキアの心配をよそに、一護はグラウの太鼓判を貰って、斬月を振るう。

 

「『月牙っ、天衝』ォ!」

 

 蛇口締め係が一護の耐久ギリギリを攻めて放たれる、一護の渾身。

 それは、弱者を磔にするしか能がない物など、容易く砕くのだ。

 

「改めて。―――助けに来たぜ、ルキア」

 

「……、まだ、礼は言わぬぞ。逃げ切ってからだ」

 

「おう」

 

 抱える一護と抱えられるルキアは、力強く、未来を見据えていた。

 自分たちが生き抜ける未来を、一切の疑いなく。

 

 何せ、ルキアを助けようとする者はまだまだ居るのだから。

 

「ルキアぁ!!」

 

「っ!恋次!」

 

 この処刑場に割り込んできたのがその1人、阿散井恋次だ。

 ルキアは彼の五体満足を見て、やはりどうしても涙腺が緩んでしまった。

 

「よう、恋次。お前も来たのか。じゃあ、ほい」

 

「俺が来るのは当たり前―――……『ほい』?て、おま!?」

 

「んぎゃああああああああああ!!!」

 

 恋次がルキアの味方とだと疑わず、一護は恋次に投げ渡す。

 絶賛投げ渡され最中のルキアは、乙女が出しちゃいけない悲鳴を上げていた。さすがに彼女は憚らず涙を流している。

 

「一護、この馬鹿野郎!落ちたらどうする!」

「一護、この莫迦者!落ちたらどうする!」

 

 荷物を無事に受け取った受取人と、無事受け止められた荷物は、差出人を揃って罵倒していた。当然の話だが。

 

「ウダウダ言ってる場合かよ。周りがボケっとしてる内にさっさと連れてけよ」

 

「っ!―――……。行くぞ、ルキア!」

 

 激動の状況でほとんどの者が状況を判断できずに固まっている、一護が言うとおりの好機。恋次は、白哉を一瞥してから、駆けだした。

 白哉は確かに、一瞬だけ恋次と目を合わせ、抱えて逃げろと訴えかけていたのだ。

 目を覚まさせてくれた奴と、目を掛けてくれたヒトから託された。恋次は命を懸けて、逃げに徹する。

 

「何を呆けている!相手が副隊長なら、追うのも副隊長だ!」

 

 二番隊隊長・砕蜂の一喝。

 目の前には隊長レベルの下手人。それと謀反の疑いがある浮竹と京楽。隊長たちは彼らの対処に当たるなら、副隊長たちは謀反の疑いがある副隊長の恋次に当たる。妥当な指揮である。

 総隊長・元柳斎も、四番隊隊長・卯ノ花(うのはな)(れつ)も、その妥当性を認め、自身の副隊長たちを動かす。

 

 もちろん、追わせる一護ではないが。

 

 一瞬前まで磔架の上だった一護が、彼らの行く手に立ち塞がる。

 

「『()っ潰せ』!『五形頭(げげつぶり)』!」

 

「『穿て』、『厳霊丸(ごんりょうまる)』!」

 

「『奔れ』!『凍雲(いてぐも)』!」

 

 二・一・四の副隊長が、斬魄刀の解放、始解を行った。

 しかし、今の一護には副隊長の始解程度、物の数ではない。

 

―一護!あの『厳霊丸(ごんりょうまる)』とか言った奴だけは加減するな!

 

 さりげなくベルツが一番隊副隊長、雀部(ささきべ)長次郎(ちょうじろう)だけには全力で臨ませる。

 雀部が、滅却師(クインシー)と構えた千年前の決戦から生き残る猛者である故に。

 けっして、ベルツが自身の大本から引き継いだ積年の恨みとかではない。自身の大本には彼から不意打ちを食らった過去がある訳だが、けっしてベルツは根に持ってない。

 

―コラコラ、ベルツ。私怨で蛇口を全開放しない

 

―……私怨ではない。奴の力を正当に評価しての判断だ

 

 一護が雀部を殴る直前に、グラウはどうにかベルツの暴走と霊圧蛇口、それらを制御して、どうにか雀部をワンパン・ノックアウトに済ませるのだった。済ませていなければ、今頃雀部は『つれー』事になって、元柳斎の導火線に火が付いていたところである。

 

 とにかく。二番隊副隊長も一護は返す刀というか拳で五形頭越しに殴り飛ばした。四番隊副隊長は、自身より強い者たちが素手でやられた事に驚き、恐れ、足が竦む。

 それはある意味で英断だ。戦意をなくした者に、チョコラテな一護は刃も拳も向けはしない。

 戦意をなくした者を相手にしている余裕がない、とも言えるだろうが。

 

 何せ、白哉が切り掛かってきているのだから。

 

「見えてるぜ、朽木白哉!」

 

 一護の斬月は、白哉の浅打と刃を交えた。

 今の一護は、白哉の速さに付いて行けている。

 

―イキるのはまだ早いよ、一護。白哉はまだ始解も使ってない

 

(……分かってるよ)

 

 グラウに正論を浴びせられ、ちょっとイラつく一護である。おかげで、興奮も適度に冷ませた訳だが。

 

「……黒崎一護」

 

 刃を押し合う中、白哉は一護に言葉を投げかける。

 一護は目の前の男に初めて名前を呼ばれてハっとすると同時に、その刃から読み取る。

 目の前の男は、自身を測ろうとしている。

 

「……、なんだぁ?仲間になりたいって言うなら、喜んで仲間にするぜ?」

 

「問いたい事が2つ。1つは、何故ルキアを助けようとするのか。もう1つは、お前の父の名だ」

 

 一護には伝わっている。質問の意図は読めないが、それは真面目な質問だ。

 

「―――ルキアを助けたいのは、護りたいからだよ。俺にとって大切な人たちを。友達の方が優先とか、順位を付けたりはしたくねぇ。順位を付けたら、端から切り落として、最後には全部諦めちまいそうだからだ。だから、魂に誓った。大切な人は全て護るって」

 

 護りたいから護る。それが一護の全てだ。

 そこに至るまでの経緯を語るのは、野暮と言うものである。

 

「2つ目は親父の名前だっけ?黒崎一心だよ。あ、婿入りって言ってたっけ。おふくろと結婚する前はなんて苗字だったんだろうな」

 

 『黒崎一心』、『婿入り』。願わくば、元の苗字も知りたかったが、希望は繋がる。

 『黒崎一心』は、『黒崎』に婿入りした『志波一心』かもしれない、と。

 

「……そうか。ならば―――父から引き継いだ力を示せ」

 

「っ!?」

 

 白哉は加減を止める。

 結果拮抗して、互いが互いを弾き飛ばす事になったが。白哉には好ましい事だ。

 この短期間で朽木白哉に迫る実力を磨き上げたという事は、志波家らしい才覚を持つという事だからだ。

 それは、一護が初めから死神能力を持っていたという、ルキアの死神能力譲渡禁止違反を冤罪とする証拠となり得るからだ。

 

「―――護ってみせろ、黒崎一護。(けい)の矜持を」

 

「―――ああ。そのために来た」

 

 白哉と一護はここに来て正しく、(あい)(たい)する。

 

 戦火は彼ら以外にもポツポツと。

 

「決闘でもするつもりか、朽木!何を熱くなっている!纏めて掛かれば―――!」

 

「男同士の決闘じゃ。女が割り込むのは無粋じゃろう。―――おぬしには、そういう機微は教え忘れておったな。なぁ、砕蜂」

 

「……!……夜、一!?」

 

 砕蜂と夜一。かつて主従の如き間柄だった者たちが、敵として巡り会う。

 

「京楽、俺たちは阿散井君の援護を―――!?」

 

「動くな。―――全く。儂も耄碌したもんじゃ。おぬしらなら、儂の志を継いでくれると、手塩にかけた。まさか、道理の知らぬ悪餓鬼を育てて、敵に塩を送ってしまうとは……」

 

「元柳斎先生!これは―――」

 

「よォし、浮竹!逃げるとしようか!」

 

「まっ、京楽……!」

 

 かつての先生と教え子たち。今では隊長として並び立つも、まだ師と子の思いを抱える三人。

 子は逃げを選択する。

 周りを巻き込まぬために。

 

「……儂からは逃げられぬ事など、学院の時より知っておろうに。……否、あえて、儂を誘うたのか。……春水。……やはりおぬしは、優しい子じゃ。十四郎も。故に、惑う」

 

 誘いと分かって、元柳斎は乗る。弟子に今一度、教えを説くために。

 

 そうして、群衆としての正しさを説く師と、個としての正しさを全うする弟子は、激突する。

 

 そして、戦火はもう一つ。

 

勇音(いさね)、行きますよ」

 

「……卯ノ花隊長。……行くって、何処に」

 

「血の匂いがするのです。此処とは、また別の場所で」

 

 四番隊隊長・卯ノ花は、自身の副隊長・虎徹(こてつ)勇音を引き連れる。

 きな臭さを越えた、鉄臭さに誘われて。

 それは、裏で糸引く黒幕の油断か。それともこれも、計画の内か。




※諸所の事情により、本作の更新をしばらく停止します。ご理解の程をよろしくお願いします。
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