主人公が曇らされてばっかりの世界に、一般通過過負荷(マイナス)が、ダイナミックエントリー! 作:霓霞霖
「拳西よ。お主の部下が未帰還であるとは、真か」
「真実だよ、ジイさん。ウチの十二席が調査に出たっきり、帰って来てねぇ」
一番隊隊舎。護廷十三隊全隊長・副隊長が居並ぶ隊首会は、
一応の補足だが、十一番隊は隊長・副隊長が揃って
「長年十二席に留まっていた奴だが、腕は確かだ。どんな任務もそつなく熟す器用な奴だった」
「おいおい。そんな奴が任務を失敗したどころか、やられちまったって事か?」
「さっきからそう言ってんだろ、
送り出した部下はほぼ死亡したものと扱い、その死を悼む拳西。そんな彼に信じられないと追及したのが
部下に死なれて気が立っていると、理解する程度には親交が深い羅武は、肩をすくめて拳西の怒りを往なす。
往なされた拳西は、自分の短気を自覚し、反省して、不機嫌に鼻を鳴らすに留める。
「ちゅう事は、
拳西と羅武のやり取りで雰囲気が悪くなりそうなところを、現・五番隊隊長である
話は、今度は誰を調査に出すかへと移っていく。
「生半可な子は送れないって言っても、じゃあ誰を送るんだい?拳西ちゃんか
現・十二番隊隊長である
でも、候補を上げた本人としても、納得は仕切れない候補である。
そのため、必要戦力という点だけで言えば隊長格を送らねばならないのだが、隊長格を失うかもしれないとなると、大手を振って送り出す事はできないのだ。
「え~~~~!人が帰って来ないなんてホラーに突っ込むの、あたし
「テメェはこのっ……、隊長を何だと思いやがってっ……!」
そして、候補に上げられた
候補選びは混迷を極める。
そう、誰もが思った時だ。
「僕に行かせてください」
「惣右介。お前、何を企んどる」
「如何なる事態になろうと、僕なら対処できると、自負しての事です」
平子は名乗り出た惣右介に嫌疑を掛けるが、藍染はただ自身が適任故だと、真っすぐ語った。
実際、適任だと思う者は多い。
「確かに。藍染くんなら実力は申し分ないだろうね」
「斬拳走鬼、どれをとっても優秀なのは、みんな知っているからな」
藍染こそが能力的に適任であると、八番隊隊長である
「ふむ。藍染惣右介に調査を任せる事、これに異論がある者は居るかのうぉ。…………。よろしい。では、件の空間に関する調査、藍染惣右介五番隊副隊長が引き継ぐものとする」
他に有力候補が居ないのもあって、元柳斎が決を取れば、たっぷり10秒の静寂。平子だけは唸って何か言いたげであったが、結局異論は口にしないと見て、元柳斎は正式に藍染へ指令を降すのだった。
これにて隊首会はお開き。藍染は、急ぐようにすぐさま準備へ取り掛かった。
(
偏に、自身の計画を阻むイレギュラーの排除するために。そして―――
(何より、興味が尽きない。あれはいったい何だ?どのようにして生まれた?どのような効能がある?)
―――己が知的好奇心を満たすために。
「ここが……。境界から見えたまま、いや、拡張している……?」
藍染は
木造校舎と校庭だけだった空間に、田畑や鶏舎が増えているのだ。元からそれがあったモノなのかは、この空間に初めて入った藍染には判別できない。
ただ、違和感を覚えており、そして、その違和感は正解なのだ。
田畑や鶏舎は、後から増設された物である。とある事情のために。
その事情を知る者が、藍染を視認する。
「ま、まさか……。五番隊の藍染副隊長……?」
「君は、確か九番隊十二席の……」
藍染を視認し、声を掛けてきた人物とは、護廷十三隊では未帰還者扱いとなっていた男だった。
その男はまさかの来訪に、藍染は男の生存に、それぞれ困惑している。
「君は、生きているなら何故護廷隊に戻らない」
「じ、自分はもう死神を辞めたんです!でも、護廷隊に脱退の制度はなくて……。特別
「……よく勉強しているね」
死神を辞めたと宣う男。護廷隊の自主脱退が特別
その事は死神の学校・
そして、藍染は男の斬魄刀、
「君を、そう諭したヒトが居るんだね。君は、向上心があったはずだ」
男が偉い死神になりたいという野心を持っていた事は、藍染にとって既知だった。あまりにショボイ野心のため、知って以降の関心を失くしたが。
とかく、その野心を持った心を折った者が居るはずだ。
この空間に。
藍染は、この男にその者の下へ案内させようと考えていた。
ただ、その必要はなくなる。
「『私
「っ!?」
急に背後から響く声。藍染をして、それには驚愕せざるを得なかった。
何せ、藍染はずっと周囲を警戒していたのだ。もちろん、五感でのそれだけではなく、霊圧感知も抜かりなく行っていた。
なのに、その声の発生源はそれらの知覚に一切掛からず、突然その姿を露にしたのである。
藍染は飛び退き、斬魄刀の柄に手を掛けて臨戦態勢を取る。
「やぁ。何か僕の事呼んでなかった?」
そして藍染が相対したのは、色が抜け落ちたような白髪と、現実を見ているのか怪しい糸目の少年だった。
その少年は、藍染が臨戦態勢なのにも関わらず、自然体で藍染の目の前に立つ。
「カイさん!この人は―――」
「言わなくて良いよ、分かってるから。藍染惣右介くんだろ?隊長羽織をしてないって事は、今は副隊長なのかな?」
元死神の男が少年・カイに忠告しようとするが、カイはその忠告を聞かなかった。藍染の素性を知っているし、敵だというのも分かっていて、カイは微塵も警戒していない。
「僕の事を、知っているのか……」
「君を知らないなんて奴はモグリだよ、
藍染の質問に答えているようでありながら、実際のところは全く質疑応答していない、言葉がいつも一方通行なカイ。そんな彼が雰囲気を一変させる。
「まだバレたくない事があるんだよね。だから悪いけど、大騒動を起こして有耶無耶にさせてもらうよ?」
カイはとある事を、茜雫の存在を隠すため、大暴れする事を決意した。そうして、カイはその不気味さを噴き出す。藍染すら背筋が凍る程の、不気味さを。
「まずは君からだ、惣右介くん。安心して?元死神くんとは違って、心を折ったりはしないから」
カイはいつの間にかに、15寸はありそうな釘をその手に持っている。それがカイの武器である事は、火を見るよりも明らかだ。
しかし、どのような攻め方をしてくるのか、全く予想できない。
故に、藍染は先手を打つ。
「『砕けろ』、『鏡花水月』」
藍染は惜しまず、初手から必勝の手に出た。
斬魄刀『鏡花水月』の解放。それは、解放時に放った霧と水流で光を乱反射させる事で虚像を作り、かく乱する。という嘘を流布した、相手の五感及び霊感を支配する、催眠能力の発露である。
その催眠が、『鏡花水月』の解放を見た瞬間に掛かるというのだから、初見殺しと言うか、初見したらもう終わりのチート能力である。
「水と光のコントラストってかい?綺麗なもんだね。『テーマパークに来たみたいだぜ。テンション上がるなぁ~』、なんてね」
カイが述べているのは、今藍染が見せている幻についての感想。その感想を聞いた藍染は、問題なく催眠を掛けられた事で、勝ちを確信する。
後は、適当な幻覚で情報を引き出しつつ、同時にカイが隠そうとしたモノを見つけ出すだけだ。
「……なるほど、もう1つ霊圧があるな」
霊圧を感じないカイや、もう既に感じ取っていた元死神のモノとは違う、第三者の霊圧を、藍染は感知した。
そちらへと、藍染は足を進めようとする。
「惣右介くん。君、『どんな女が
藍染は名指しされて不意に、カイの方へと振り返る。もちろん、催眠には掛かっているはずで、幻の中にカイは居るはずだ。
なのに、カイの視線は、バッチリ現実の藍染へ向けられていた。
違和感を、藍染は覚える。
「……そうか、
外れぬ視線、続く言葉に、藍染は息を呑む。
何せ、見せている幻の中で、女の好みなど答えていない。カイは今、見せている幻と違う話をしているのだ。
「まさか……!」
「ところで惣右介くん?」
信じられない事態に固まる藍染へ、カイは口で三日月を描くような微笑みを送る。
「いったいいつから――――
藍染には、目の前で起こった事態が理解できない。
『鏡花水月』に相手が掛かっていない。
『鏡花水月』の催眠を解く方法がバレている?いや、そうだったとしても、相手がその解く手順を行った様子はない。
相手が『鏡花水月』の対象から外れる程、彼我の霊圧には差がある?いや、相手の霊圧が全く感じられないのだから、こちらが圧倒的に
彼我の霊圧に差があり過ぎて、霊感が麻痺する現象は存在する。
しかし、ならばこそ大きすぎる霊圧により何らかの霊力的現象が確認できるはず。
相手からは、それが一切見られない。これは、相手の霊圧がない事を表す証拠だ。
相手に、霊圧は全くない。
(霊圧が、全くない……?)
そこで、藍染の頭には、天啓を得るようにとある仮説が過る。
この世界において、霊感の有無に関わらず、霊圧が、霊力が全くない存在などあり得ない。
何故なら、魂はこの世界のありとあらゆる物にあり、魂は霊力によって成されているからだ。それが、この世界の理なのである。
では、目の前に居る、霊圧が全くない存在は?世界の理から外れている存在は?
藍染の頭に、突拍子もない、ともすれば狂っている仮説が過る。
その仮説とは、目の前の存在が、この世界の外から来た存在であるという、狂った仮説である。
「君は―――何処から来た……?」
そんな言葉を口から零した藍染。その胸にあるのは、期待感だった。
科学者としての面もある故の、未知との邂逅に対するそれ。
そして、
ともすれば、善なる者を踏みにじらねば存続できない、こんな改革すべき世界ではなく、もっと希望に満ちた世界があるのではないかと。
「凄いね、さすがは『藍染惣右介』だ。その発想には、そう簡単に至れるモノじゃないよ。別世界が存在するなんて。平行世界でもなく、世界の理すら違う世界が在るなんて。だから、正直に答えよう」
その頭脳に、カイは敬意を表する。
カイは、空を指差す。
「僕は、この天を越えた先から来た」
比喩的に、抽象的にカイは表現した。
でも、藍染は解釈を間違わない。
カイという少年は、この世界の外から来たのだ。
藍染がその時にしていた表情は、輝かしい夢をその目にした少年のそれと、きっと変わりないだろう。
「さて、君が望む答えを与えたところで。僕は仕事に戻るとしよう」
カイは、そんな藍染に容赦なく釘を刺す。15寸の釘を物理的に、頭と胸に。
藍染の意識は、理解が追い付かないままに、闇に落ちる。
そうして倒れ行く藍染を、カイは笑顔で見送った。
「じゃあ、行こうか」
藍染が微動だにしなくなったのを確認してから、カイは、
それから、
「――――『世界
なんてね。……9時間持つかなぁ、主に僕が」