主人公が曇らされてばっかりの世界に、一般通過過負荷(マイナス)が、ダイナミックエントリー! 作:霓霞霖
「おォおォおォ!本当に良いのかァ?」
1人の男が、他に集う3人へ向かって、不満が孕んだ疑問を言葉にした。
ただ、その疑問は切って捨てられる事になる。
「良いも悪いも、ちゃんボクたちが決める事じゃない
「
「霊王が会うと決めた。わしらはそれに従うだけじゃ」
そう。3人がそう応答したように、彼ら4人は霊王の意思に従う事が務め。
何故なら、彼らこそが王属特務・零番隊なのだから。
「そう。じゃあ、会わせてもらおうか」
そこに割り込む人影1つ。
当然と言えば、当然、その人影とはカイである。
最初に疑問を言葉にした男・
「止めんか、天示郎。霊王の御意思に反するつもりか?」
「
和尚、
「霊王は僕に会いたがってるんだっけ?」
そんな天示郎を無視して、カイは他3人に言葉を向ける。
「……そうじゃ。……どうしてそちがそれを知っている?……よもや、何でも知っている、とは言わぬであろうな」
「『何でもは知らないわ。知っている事だけ』、なんてね」
会話になっているかはさておき。
「『外からの来客は珍しい。是非とも会って話がしたい』。それが霊王の御意思じゃ」
「……なるほど。……霊王は僕が
一兵衛から又聞きした霊王の意思に、カイは興味を煽られた。彼の口が、不気味にも三日月を描く。
「それで。君は僕を通したくないと」
「たりめェよ。て
「僕は言ったよね、『断然、僕も会ってみたくなったよ』って。つまり、君の意思とか矜持とか、僕にとって今はどうでも良いって事だ」
明確な敵意を向け、カイの道を阻む天示郎。カイはそんな彼の敵意に応じるが如く、不気味さを溢れさせる。
「という事で。『お前はもう死んでいる』、なんてね」
「吠えるじゃねぇか。この雷迅の天示郎様に向かっt―――」
カイは、天示郎に見栄を言い切る時間も与えなかった。
天示郎の頭と胸には、いつの間にか大きな釘が生えている。脳も心臓も穿たれた天示郎は、ただ己の死を悟る間もなく、その意識を深き眠りに落とした。
天示郎は倒れ伏す。そんな状況を、他の3人は顔を強張らせながら見収めるしかなかった。
「それじゃ、先行ってるね?」
異常な情景を作り出した男であるカイ。彼はその異常に何の言及もせず、日常を謳歌するような態度を取ってから、
その異常を分析しようとするも、理解ができずに固まる一兵衛以外の2人。
「さて、わしらも行くか。ゆっくりとな」
そんな2人に、一兵衛は霊王の御前へ向かうように行動を促した。彼自身もあの異常を理解できず、しかして理解できないモノであると理解しながら。
零番隊がカイを出迎えるために控えていた霊王宮表参道、それを含めたこの空中宮殿・霊王宮。
そして、その中心にあるのが、霊王が鎮座している、いや、鎮座
そこに、四肢が捥がれ、あまつさえ内臓もいくつ残っているのかという状況で、巨大な水晶に閉じ込められている存在、霊王が居る。
「『にゃんぱすー』、霊王。会いたいとか言ってたみたいだから会いに来たよ」
現世・
カイはそんな存在の前に、敬意も何もない、軽薄な態度で突如として表れた。
「
水晶の中に閉じ込められ、口を動かす事ができない霊王。カイはそんな相手に一方的に話しかける。
霊王はこの状態でも、意思はある、とされている。そう言っているのは一兵衛だけだが。
ただ、やろうとすれば、カイならその意思を読み取る事ができるだろう。
「あ、ちなみに君の意思を読み取る気はないよ」
できてもカイにはやる気がないが。
「何故かって言うとね。僕、君みたいなの嫌いなんだ」
カイは、霊王が嫌いだから、意思を読み取る事は可能でも、それを行う意思が全くない。
霊王は、どんな人柄なのか、どんな
カイは、細められていた目を開き、絶やさない笑みを崩し、その真っ黒な瞳で睨みつける。
「舞台装置甚だしいだろ、君。そういうヤツ、僕は大嫌いなんだ」
カイからすれば、霊王とは『BLEACH』の世界観を成り立たせるためだけの、言ってしまえば、ただのそういう設定なのである。
この世界はどのように成り立っているのか。どうしてこの世界は現世・
そういう、色々を説明づけるための、ただの設定。
もちろん、世界観がそこまで深く作りこまれており、世界にちゃんと筋を通っているので、漫画の設定とするなら素晴らしいと評してしかるべきものである。
しかし、これが目の前の現実となれば話は違ってくる。
「端的に言って。君という存在には物語がない」
霊王の出生は突如として生まれたという、穿った見方をすれば実にご都合主義なのだ。まぁ、世界の防衛本能が生み出した防衛機構という、正当な見方ももちろんできる。
カイとしては、そういう見方をしても面白くない。
「君はただ、世界のために在るという、どうしようもない存在だ」
そう。世界の防衛本能が生み出した防衛機構というのは、結局言えば舞台装置、世界を成り立たせる設定でしかないのだ。その存在に、物語性はない。
そして、カイとしてはさらに気に食わない部分がある。
「さらにどうしようもないのが。君が世界のために在る世界の防衛機構だとして、その命題を一貫させてない事だ。世界を
防衛機構のくせに、防衛機構である事を放棄している。
これが、カイにとっては何よりも気に食わなかった。
「なぁ、霊王。君、疲れたんだろ。
カイは嘲笑うように、牙を覗かせるように、口角を上げている。
「じゃなきゃ、未来を見通せる君が、不意打ちを受ける訳がない!そう、君はわざと不意打ちを受けた!ヒトを守る事に疲れた君は、わざとその不意打ちを受け、己の仕事から逃げ出したんだ!ルパンもビックリな脱走劇だねぇ!?」
カイは霊王を煽る。
「それで水晶に閉じ込められるのは、皮肉が効いていると思うよ。使命という
煽り続けると思いきや、次の瞬間には苦笑交じりで憐れんでいた。
「とかく。君はそういう設定が語られるだけの存在。『文字』という意味では『
憐れんでいたかと思えば、隙を見て自分語りを始める。
「ねぇ、霊王。僕は、劇的な人生を生きたいんだ。生きられるはずなんだ。何せ、僕は『
カイは、己の見つめるように、瞼を閉じる。ただ、目を細めた訳ではない。現実から目を背けた訳ではない。
「『
カイは、かつて味わった虚しさを反芻する。
「何処にも居なかった。僕が生まれ落ちた世界には、僕の敵は居なかった……。ただありふれた悲劇だけが僕に与えられた!」
虚しさを噛み砕くように、カイは歯噛みする。
カイの人生は、ただただ不幸だった。
「母は僕を産むと同時に死んだ。母を愛していた父は実質僕が殺したモノとして暴力を振るってきた。おかげでアザだらけだった僕は周りから避けられたし、いじめられもした。でも、僕は必死に生きた。僕は、自分が『
きっと、自分は輝かしい物語を彩る敵として存在しているのだと、カイは信じていたのだ。
だからこそ、カイは
しかし、その前提は崩れる。
「居なかった……。居なかったんだ!正義の味方なんてっ、僕の敵なんてっ、『
自分に敵が居ないと知った、自分の不幸には何の意味もないと悟った、あの時の怒りがぶり返す。
かっぴらいた瞳は、潤んでいた。
「人を『
自分が戦うに相応しい敵が欲しかった。読み手の心を動かせるような物語が欲しかった。
自分が不幸である、意味が欲しかった。
世界は、マイナス以外何も、与えてはくれなかった。
「だから、世界が欲しいモノをくれないから、僕は自分の手で掴み取る事にした」
怒りの表情が一変。悟ったように、まるで仏像のような無表情を、カイは浮かべた。
「そうして、僕は手に入れてやるんだ。悪役が迎えるエンディングを、完膚なきまでの敗北を!勝利なんて望まない。『
望む事はただ1つ。悪役が適役な自分が迎え入れられる、最上の終わりが欲しい。
「さぁ、霊王。応えてくれ、僕の敵になるか否かを。こんなふざけた輩に世界が無茶苦茶にされる事を、受け入れるのか否かを。……言っておくけど、僕はやろうとすれば、この世界をなかった事にできる。贄にまでなって維持してる世界が無為に消える」
不敵な笑みを1つ送ったカイは、自らの発言に真実味を与えるべく、霊王大内裏の天井を消す。さらには、その先に広がった青空を、真っ白に染める。まるで、インクの染みが消え去った白紙のように。
「……。……ふぅ。止め止め、虚しくて仕方ないよ。糠に釘打ってる方がまだ反応がある」
開け放っていた瞼を、カイは閉める。いつもの、現実が見えているか不確かな糸目に戻る。
同時に、消え去った天井も、真っ白に染まった空も、元通りになっていた。
「さてと。王様は遊んでくれないみたいだし。代わりに兵隊さんの方に遊んでもらおうかな」
カイは後ろを見る。
そこには、霊王の兵隊、零番隊の3人が立っていた。
「おう、話は終わったようじゃな」
「僕が一方的に喋ってただけだけど」
「では―――」
霊王の用事が済んだ事を確認した一兵衛。
故に、容赦はなくなる。
「―――とっとと表に出よ。不届き者」
大きな手の形に固められた霊力が、カイを霊王大内裏の外へと叩き出したのだった。
今回の更新より、本作の更新頻度が変わります。以降は、月の第一・第三日曜日に更新する予定です。
という事で、次回の更新は3月17日の予定です。