主人公が曇らされてばっかりの世界に、一般通過過負荷(マイナス)が、ダイナミックエントリー!   作:霓霞霖

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7 MEMORY OF STIGMA 2

「さぁ、次だ」

 

 カイは千手丸を見据え、口の端を吊り上げている。

 それもそのはず。

 天示郎と王悦が倒れた今、千手丸は封じられていた全力が解禁されているのだ。

 零番隊は個々の力が強力すぎ、全員が同時に全力を出そうものなら世界が壊れかねない、という程である。そのため、一兵衛を除いた零番隊の者たちは、互いの命でもって、互いの全力を封じる、曰く、『血盟の封印』を結ばされている。

 故に、互いに力を封じていた天示郎と王悦が倒れた事により、千手丸のその封印は解かれている。

 全力の戦いを望んでいた、カイの期待に応えるように。

 

「出せよ、君の卍解。僕は、君たちの全力と戦いに来たんだ」

 

「……」

 

 カイに誘われる千手丸は考える。この誘いは罠か、否か。

 分かり切っている事だ。

 

 

 

「――――卍解、『娑闥迦羅骸刺絡辻(しゃたつからからしがらみのつじ)』」

 

 

 

 罠だったとしても、食い破れば良い。

 

 千手丸の背後に、大きな織機が表れる。そこから織られる反物が、世界を上書き、千手丸とカイを閉じ込める。

 そう。千手丸の卍解は、世界すら反物として作り上げるのだ。ならばこそ、万物万象が作り出せない訳もない。

 

 カイは反物世界の中で、さらに反物に巻き取られ、織り込まれ、その中で織られた現象をその身で味わう。

 八つ裂きにされた。

 串刺しにされた。

 蜂の巣にされた。

 ペチャンコにされた。

 

「で?」

 

 反物に織られたはずのカイが、千手丸の目の前で笑っている。

 その直後に、また反物に織り込まれる。

 焼死させられた。

 凍死させられた。

 感電死させられた。

 溺死させられた。

 

「で?」

 

 カイは、変わらぬ笑顔で笑っている。

 続く反物。

 その反物世界の中だけ、時間を止めてみた。

 

「ん?あ、ごめん。反射的に()()しちゃった。前に似たような事されてね。おかげでその手の攻撃には条件反射で対処するようになっちゃったみたい。『聖闘士(セイント)なら一度見た拳は二度とは通用しないのだ』、なんてね」

 

 残念ながら、時間停止した反物世界から脱出される。ただ、これはカイとしても意図した脱出ではなかった。

 その手の攻撃はカイに対して有効な手であるが、ただカイを封印するというような、打倒には至れない手なのだ。

 かつてその手の攻撃を受けた事があるカイは、それが自分を封印するしかできない手である事を体感している。

 だからこそ、そんなしょうもないけど有効な手を、カイは条件反射で()()してしまったのである。

 

 さて。これで有効打足りえる手も回避されてしまう事が分かった千手丸。千の手を持つとも称される、豊富な攻撃手段の持ち主は、次にどのような手に出るのか。

 

「……無理じゃな。(わらわ)では、そちを打倒し得ぬ。(わらわ)とて、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 残念ながら、次の手などない。手詰まりだ。

 千手丸はカイの能力、その輪郭を捉えながらも、自分が成し得る攻撃全てがカイを打倒し得るに足りない事を悟った。時間停止まで使ってこれなのだから、それもそうである。

 最早降参しているも同義で、千手丸は戦意を失っている。

 

「……暖簾に腕押しだった、という訳だね。腕押ししてたのは暖簾じゃなくて反物だけど。じゃあ、君にもう用はないよ」

 

 心底つまらなそうな声で、カイは千手丸に釘を生やす。

 頭と胸を貫かれた千手丸はただ真顔で、静かに倒れ伏したのだった。

 

「頼むから、君はもうちょい楽しませてよ?」

 

 カイは零番隊最後の1人と相対する。

 ある種大取であり、他3人が赤子と思える程強力な力を持つ男・兵主部一兵衛。

 またの名を、『真名呼(まなこ)和尚』。

 

「やれやれ……。全くと言って落ち着きもなければ礼儀もない奴じゃ」

 

「常識と運もないよ?」

 

「それを自分で言うかのぉ」

 

 開き直ると言うか、馬鹿丸出しと言うか。なんとも形容できないカイに呆れつつ、一兵衛は背負っていた得物、大きな筆のような斬魄刀を構えた。

 

「……おぬし、名は何と言ったか」

 

 一兵衛が、名前を聞く。

 彼の能力、権能とも言ってよいその力を知る者からすれば、それは異常に映るだろう。

 彼は『真名呼和尚』。万物の名を知る者。

 ならばこそ、対峙する相手の名前も、知らないはずはないのだ。

 しかし現実、一兵衛はカイの名前を知らない。

 

「『アイサツは実際大事。古事記にもそう書かれている』、なんてね。ドーモ、イチベエ=サン。八倉海です」

 

「そうか、そんな名じゃったか。残念じゃのう――

 

 

 

――大切なその名を、今から失うのじゃから」

 

 

 

 

 

「――――『黒めよ』、『一文字(いちもんじ)』」

 

 

 

 

   幻実  当避   

 

 

 

 筆先が刃に変わり、振るわれたその刀身から墨が迸る。

 一兵衛に相対していたカイは呆気なく塗りつぶされ、その名を失った。

 

「名は体を表す。しかして、名のないおぬしは、何を表す事もできず、何の力も持たぬ」

 

 墨で塗りつぶしたモノの名を塗りつぶす。それが、『一文字』が持つ能力の1つ。

 そして、『BLEACH(この)』世界において、名とはそのモノを確固たる存在にする記号であり、そのモノの力を確定づける重要な要素だ。

 故に、名を失ったモノは、名のないカイは、何の力も持たない。

 

「吹けば飛ぶような幻よ。名がなければ、文字通り夢と消えるじゃろう。そんな哀れなおぬしに、名をくれてやろう――」

 

「――〝真打〟『しら筆一文字』」

 

 『真打』。それは、『卍解』と同じ、斬魄刀の二段階目開放。

 しかし、『一文字』がこの世で最初に進化した斬魄刀、『始解』に相当する成長を、『卍解』に相当する進化を果たした物であるために、その能力は他の斬魄刀と隔絶した力を持つ。

 で、あるからこそ。『一文字』は『卍解』ではなく、『真打』と称されるのだ。

 その、隔絶した力とは。

 

「この刀は、名を失ったモノに、新たな名を刻み込む。先ほども言ったが、名は体を表す。新たに刻まれた名こそ、おぬしの体を表す事になる」

 

 存在を書き換える。それが、『しら筆一文字』の能力だ。

 

「では、おぬしは今より――」

 

 

 

   幻実水蚤当避   

 

 

 

「――水蚤(ミジンコ)じゃ」

 

 一兵衛に相対していた、かつて八倉海だった者は、水蚤となった。

 その耐久も、力も、ミジンコ並となっている。

 

 そのはずだった。

 

「……残念だ」

 

「そうか、残念か。おぬしが望む終わりとやらをくれてやると言うに」

 

「……あまり知ったような口を利くな。滑稽に見えるぞ。なんてね。……さすがにこれは改変しすぎか」

 

「……何を言うておる?」

 

 一兵衛は、眉をひそめた。永い時を生き、万物の名を知る、時として未知数の叡智とも讃えられる彼は、水蚤が吐く言葉の意味を理解できない。

 

「君でも、過負荷(運命)は塗りつぶせなかったって事だよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   幻実水蚤当避   

 

 

 

 

 

 

「なん……じゃと……」

 

 一兵衛は、瞠目する他なかった。

 自身の能力がかき消される、などというレベルではない。名前を確かに塗りつぶせたはずなのに、相手を無力化できていない。しかも、そうなった理由が、過程が、理論が、分からない。

 吹けば飛ぶような、存在が曖昧な存在だと、直感していた。

 だからこそ名を与え、確固たる存在とした。『水蚤』であると定めた。

 それが、上回られた。

 理解が追い付かない。頭が混乱する。

 その混乱の元、その一端になっているのが、カイの吐く言葉、『マイナス』の意味と、墨に浮かび上がった文字である。

 

(げん)(じつ)……当避(とうひ)……?」

 

 『幻実当避』。それが何を意味しているのか、一兵衛には分からない。今まで分からなかった言葉などなかったのに、分からない。

 今まであった事がない未知に、一兵衛は混乱し、恐怖すら覚えている。

 

「おいおい。尸魂界(しこんかい)って書いて『ソウル・ソサエティ』って読む君たちが、何そのまま読んじゃってんの。違う、違うんだよ。『(まぼろし)』、『(まこと)』、『()てる』、『()ける』と書いて――」

 

 

 

――――『オール・イズ・ファンタジー』だ

 

 

 

 『幻実当避(オール・イズ・ファンタジー)』。それが、カイの『過負荷(マイナス)』。

 

「文章的になってるから『過負荷(マイナス)』っぽくなくない?って感想は分かる。そもそも論を出すと、僕の能力が本当に『過負荷(マイナス)』なのかは議論の余地があるし。『過負荷(マイナス)』っぽいけど実は『過負荷(マイナス)』じゃないから、『過負荷(マイナス)』のネーミングルールからは外れている。なんて可能性は無きにしも非ずだ。でも、そこって議論する意味なくない?僕が本当は『過負荷(マイナス)』じゃなかったのだとしても、僕が『過負荷(マイナス)』っぽいのは論ずるまでもないし、僕はもう僕自身を『過負荷(マイナス)』だと定義してる。異論は認めるけど議論はしないって事さ」

 

 ツッコまれる先を読んで、カイは饒舌に注釈を吐き連ねた。もちろん、一兵衛の理解は追いついていない。

 

「さて、『読者(あっち)』への弁解はこれくらいにして。小説的にも僕のスキルとか、戦闘能力とかについては大まかに表現できたし。君ももうお手上げみたいだし。幕引きと行こう」

 

 日常会話の如く放たれる死刑宣告。

 一兵衛は咄嗟に斬魄刀を構え、切りかかったが、もう遅い。

 いや、一兵衛にカイを打倒する手段がなかった時点で、遅いも早いもない。

 

全部幻想(オール・イズ・ファンタジー)なんだよ。君が生きている事もね?」

 

 一兵衛の頭と胸に、大きな釘が生える。

 一兵衛が生きていた事は幻想となり、一兵衛は、訳も分からず床に転がった。

 そんな一兵衛を、カイは心底落胆したように見下ろす。

 

「期待してたんだ」

 

 次の瞬間、カイは霊王宮ではなく、隊首会の場、護廷十三隊隊長全員が屍を晒すその場に転移した。

 元柳斎の屍もそこにある。京楽の屍だけ別の場所だったなと気付いたカイは、一瞬その場から消えた後に、京楽の屍を持って戻ってくる。

 

「期待してたんだよ?これでも。君たちなら1人くらい僕に対抗できる奴は居るだろうと」

 

 転がした12の死体に、カイは独白を語って聞かせる。

 

「確かに君たちは強い。だけど、戦士として強いだけだ。誰も、己が運命を扱える程の、人としての強さを持っていない。まぁ、あくまでそのレベルに達していないというだけで、人としてちゃんと強いんだろうけど」

 

 死神の中に、少なくとも護廷十三隊隊長と零番隊の中に、『過負荷』か『異常性』(運命)を扱える者は居なかった。誰もカイに適わなかった。カイと同じ舞台に上がっていなかった。

 その事が、カイを酷く落胆させる。

 やはり、この世界にも僕の敵は居なかった、と。

 

「僕の期待は裏切られる。僕の望みは叶わない。ああ、これこそが、世界に負けるってヤツかな。じゃあ、お決まりのヤツ、行こうか」

 

 カイは、負けを悟った。

 だからこそ、幻と現がひっくり返る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

隊長12人が屍を晒して倒れている

隊長12人が刃を突き立てんとする

現実

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『また勝てなかった。』なんてね」

 

 カイは、隊長12人の斬魄刀でもって、串刺しとなった。

 

「『(君たち)の勝ち。何で負け(勝っ)たか、明日まで考えといてください』、……なんてね」

 

 串刺しになったカイはそう言い残し、疲れ果てたように項垂れ、眠りに就くのだった。




 次回の更新は、4月21日の予定です。
 諸事情により、次回の更新を5月5日に延期します。急な延期をする事、謝罪申し上げます。
 まこと勝手ながら、本作の更新をしばらく停止する事にしました。本当に申し訳ございません。
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