主人公が曇らされてばっかりの世界に、一般通過過負荷(マイナス)が、ダイナミックエントリー!   作:霓霞霖

9 / 34
8 MEMORY OF SANITY

 たった1人によって、護廷十三隊が崩壊されかけた事件。

 その事件、下手人が瀞霊廷に殴りこんできた事は公表されど、護廷隊の現存する隊長12人、及び零番隊が一度殺された事は、公開されなかった。

 何故なら、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()からだ。

 常に霊圧を観測している護廷隊の観測班。かの者たちは隊長たちの霊圧が消失する瞬間をその目にし、記憶していた。ただ、その霊圧消失を示したはずの機器に、霊圧消失の履歴がない。記録が残っていないのだ。

 そして、隊長たちは今生きている。自身の記憶、機器の記録、現在の状況。それらの齟齬に、観測班は夢でも見ていたのかと疑った。が、観測班、少なくともその時機器を見ていた者たちが揃って同じ夢を見た事になるので、夢とするには腑に落ちない状況である。

 とかく。その事については、総隊長から観測班へ緘口令が敷かれ、他の護廷隊員たちには広まっていない。

 

 さて。この不可解な事が多い事件。推測だけでは答えらしいモノも見付けられないこの現状。

 となれば、答えを知っている者に訊くのが手っ取り早いのだが。

 

「もう一度聞く。おぬしはどうやって、儂らを殺し、蘇らせた?」

 

「君たちを殺した?冗談言うなよ。僕みたいなひ弱な人間に、君たちを殺せる訳ないだろう?幻想(ユメ)でも見てたんじゃない?」

 

 この通りである。二番隊隊長にして隠密機動総司令官である夜一から隠密機動式拷問を受けながらも、カイは彼女らが欲しい答えを返さない。

 

「……もう剥がす爪が残っておらんな」

 

 拘束具付きの椅子に囚われ、両手両足全ての爪を剥がされて血みどろになっているカイ。そんな彼を見下ろして、夜一は唸ってた。

 口が堅いだけならまだ分かる。悲鳴の1つも上げず、今も笑みを絶やさぬその様子には、さすがの夜一も不気味さを感じている。拷問の実行役たる彼女の部下は冷や汗を垂らす程だ。

 

「どうしたものかのぉ」

 

「僕は痛い系の拷問より快楽系の拷問に弱いぞ!胸と身長(タッパ)の大きな美人が拷問役だったら、喜んで真実を話してしまうだろう!」

 

 夜一が頭を悩めているのを他所に、カイは己の欲望を全開にしていた。ついでに糸目も全開にしていた。

 

「……そうか、胸と身長が大きい美人か。なら、注文通りじゃな」

 

「えっ、マジで美人に快楽攻めしてもらえるの!?言ってみるもんだなぁ!」

 

 死んだ魚のような目になった夜一が、あらかじめ決めていた合図のように数度手を叩く。カイは思わぬ幸福に、ワクワクしていた。

 その、拷問役が姿を現すまでは。

 

「はぁい、隊長。今日はどんな子の心と尻穴を開けてあげれば良いのぉ?(野太い声)」

 

 195㎝はあるだろう身長に、隠密機動の制服たる忍装束黒ずくめでも分かる盛り上がった胸部、というか胸筋。声の野太さも合わせれば、疑いようはない。

 どう見ても漢なのである。

 しかもオカマだし、尻穴を開くと来た。

 どう見てもホモなのである。

 さすがのカイも、これには脂汗を滝のように流していた。

 

「……隊長。……もしかして、その子?」

 

 ホモ拷問官は、拘束されている人物が今回のお相手と察した。

 しかし、その表情は芳しくない。

 

「そうじゃ。罪人じゃから、遠慮なくヤれ」

 

「……ごめんなさい、隊長。……その命令には従えないわ?」

 

「……何故?」

 

 まさかの拒絶に、夜一は素っ頓狂な声音で尋ねた。

 

「……だって、女じゃない」

 

「…………」

 

 夜一は理解が追いつかず、目を見開いた。

 何を言ってるんだ、こいつは。この罪人は確かに童顔だが、女に見間違えるはずはないだろう。

 そんな感想を抱きつつ、夜一はカイを見やる。

 そうすると、そこには少女が居た。

 

「何……じゃと……」

 

 思考がフリーズした夜一は、ただそのセリフだけは言っておかないといけない気がした。

 

「性転換できる設定、まさかこんなところで活きるとは思わなかったよ……」

 

 カイの代わりに拘束されている少女。女モノのブレザー制服に身を包んだ、色が抜け落ちたような白髪のツインテールに、現実が見えているのか分からない糸目という様相の彼女。

 見た目からして男だったカイをそのまま女にしたような彼女は、苦笑しながらも安堵の息を漏らしていた。

 そう。彼女は性転換したカイ本人なのである。本人としても、まさかゲイから逃れるために性転換するとは、夢にも思っていなかったが。

 

「……おぬしは、……八倉海本人なのか」

 

「そうだよ?白髪ツインテールの美少女だぜ?ラノベのヒロインに普通に居そうだろ?僕なら僕みたいなヒロインは絶対御免だけどね。でも、僕みたいだけど僕じゃないヒロインだとすればイケるか……?いや、仮にそんなのが居ても、僕だとNTR以前にBSSされそうだな……」

 

 夜一の質問へ答えるついでに、謎の思考実験をするカイ。ヒロインが攻略できないのは、彼(今は少女状態だから彼女?)にとって確定事項である。自身がマイナス故に。

 

「性転換の瞬間を捉えておれば、能力の解析が進んだじゃろうに……。解析機材を持ってくるとか言っておった喜助(きすけ)は何処をほっつき歩いとるんじゃ!誰か、あいつを引っ張って連れてこい!」

 

「あ、ダイジョブっスよォ。今着いたので」

 

 夜一の怒声に合わせて入室してきたのが、両手に何か機械を担ぎながら、さらには機械を載せた台車を己に括りつけて持ってきた男、浦原(うらはら)喜助である。

 まだ隊長でも副隊長でもないので、三席の階級章を付けた一般隊士の服装だ。

 

「遅いぞ喜助!お前がモタモタしておる間に、件の下手人は性転換してしまった!」

 

「???」

 

 夜一の叱責に喜助は首を傾げているが、言葉の字面が字面なので、仕方のない事である。

 

「……あの、下手人は男だって聞いてたんスけど」

 

「だからさっき言ったじゃろ、性転換したと!」

 

「……ほうほう、なるほどォ」

 

 予定されていた尋問相手が事前情報と違う。その事を視認した喜助は、夜一から再度放たれた謎ワードをようやく理解し、俄然好奇心が湧いていた。

 

「いくつか質問しますけど、お答えいただけますか」

 

「気分次第で答えるよ。気分次第で嘘も吐くから、そっちで真偽を判定してね?ちなみに僕の今の気分を明示しておくと。『BLEACH』(この)世界きっての科学者に会えて、最高な気分さ!」

 

 持ち込んだ機械をセッティングしながら、カイへと質問する喜助。そんな彼に、カイは笑顔で応答していた。その言葉に、一切の嘘はない。これ以降はおそらく嘘が混じるが。

 

「……ボクの事、知ってるんスね。高々三席であるこのボクを」

 

 まだ目立った事はしていないと、喜助は自己認識していた。霊術院では好成績を収めたが、主席ではない。卒業にかけた年数も、1・2年ほどしか短縮していない。趣味で色々作っていたが、それを公表してもいない。

 『世界きっての科学者』と、評するステータスはまだ見せていない。

 なのに、この男は自分が結果的に隠す事になったステータスを知っている。

 喜助は、小さな恐怖心と一緒に、大きな好奇心を抱いた。だからこそ、機械をセッティングしながらも、カイを横目で注視している。

 そんな喜助に、カイは気味悪く口の端を吊り上げて見せる。

 

「知ってるとも。君が、種族の壁を壊す方法について、研究してる事も」

 

 喜助はカイのその言葉に目を(みは)り、思わずセッティングの手も止める。

 その研究については、まだ誰にも、夜一にも言っていないはずだ。

 

「ああ、ついでに言っておくと。既に完成してるかどうかは知らないけど、その研究で出来上がる玉は、君が望んだ結果をもたらさないって事を忠告しておこう。ま、ただ単に失敗したんじゃなくて、予想外の成功を収めるんだけど」

 

 動揺している喜助を尻目に、カイは未来を予言した。ま、ただの原作知識であり、本当に親切心からの忠告であったが。

 残念ながらその親切心は、喜助の恐怖心を煽る事となる。

 

「…………貴方は、何を知っている」

 

 ただ、恐怖した故に、喜助は踏み込む。深淵を、覗くように。

 

「全部、と言いたいけど。ほんの一部さ。この世界からしてみれば、ほんの一部。あと数年か数か月後に起こる事件と、それから端を発する約百年後からの数年の出来事。僕が知っているのは、そんな、何千・何万・何億と続く『BLEACH』(この)世界の、ほんの少しだけの事だ」

 

 深い深い闇が垣間見える。普段よりほんのちょっと開かれた瞼から、カイの真っ黒な瞳が覗く。

 

「……貴方は、どうして」

 

 喜助は踏み込んでしまう。その深淵に恐怖してなお、踏み込んでしまう。いや、恐怖したがためと、言うべきか。狂気に落ちかけているためと、言い表すべきか。

 だからこそ彼は、深淵に覗かれる。

 

 

 

この世界が、僕は大好きだからだよ」

 

 

 

 何の変哲もない、世界を愛しているという、それだけの言葉だ。それだけのはずなのだ。

 だが喜助は、別の意味があるように感じてしまった。自分に向けられるその真っ黒な瞳に映る自分が、墨で描かれた白黒の人物画のように、フィクションに登場するキャラクターのように、見えてしまったから。

 この世界もそこに生きる命も、全部虚構(オール・フィクション)であるような錯覚に陥ってしまったから。

 

「『起きろ』っ、『紅姫(べにひめ)』ェ!」

 

 喜助は、斬魄刀を抜いた。あまつさえ始解まで行い、カイに切り掛かる。

 そんな事が現実であってほしくないと、逃避するように。

 

 凶刃がカイに迫る。だが、それは防がれる。

 斬魄刀を振るう腕、それを夜一が蹴り上げたのだ。ほぼ条件反射だった。どうして喜助が下手人を突然切ろうとしたのか、夜一は推測もできない。

 

「何をしておる、喜助!」

 

「そいつを生かしておいたらダメだ!ボクたちも、世界もっ、皆虚構にされる!!」

 

 狂を発した。今の喜助は、夜一からしてそうとしか見えない。

 何が喜助をそうさせた?

 分からないまま、夜一は喜助と対峙する。

 

「SANチェックに失敗して〈アイデア〉ロールに成功しちゃって、それで一時的発狂をしちゃった訳だ。INT(知能)が高い人程そうなるよね。……、誰が神話生物だよ。失礼しちゃうなぁ、もう。僕程の純粋で純情で純正な人間は居ないっていうのに」

 

 発狂の原因である神話生物紛い(カイ)はこの通りである。悪びれは当然してないし、むしろ神話生物の如き扱いにちょっと怒っていた。残念ながら妥当な扱いだというのに。

 

「これ、おぬしのせいじゃろ!?おぬしでどうにかせい!」

 

「いや、拘束されている人にそれ言う?」

 

「『剃刀紅姫』!」

 

「しまっ―――」

 

 喜助の攻撃を防ぎ続けていた夜一だったが、一瞬だけカイに意識を向けた事で出来た隙を狙われた。ただ、喜助が放った『剃刀』と称するに相応しい鋭い、そして赤い衝撃波は、夜一でなくカイを捉える。

 カイは見事、カイを拘束していた椅子ごと袈裟切りに真っ二つとなった。

 

「っ!喜助え!自身が何をしておるのか、分かっておるのか!」

 

 尋問中の下手人を殺傷しにかかるという、明らかな隊律違反。それを夜一は叱責したが、彼女の視界に入った喜助は安堵しているようだった。

 

「……ああ、これで証明された。……創造主を殺しても世界が崩壊しないって事は、そもそも創造主でも何でもなかったって事だ。……この世界は、あいつの見る夢じゃなかったって事だ」

 

 喜助は、酷く安堵していた。カイを殺した事により、この世界がカイによって創造されたモノではないという事が、この世界が幻想(フィクション)でないという事が、証明されたからだ。

 しかし悲しきかな。創造主疑惑の人物を殺す事でその証明とするならば、まだその証明は終了していない。

 何故なら――

 

「『元気良いなぁ、何か良い事でもあったのかい?』なんてね」

 

――椅子に拘束されているカイが、真っ二つになる前と寸分違わない姿をした創造主疑惑の人物が、そこに何食わぬ顔で生きているからである。

 

「何……だと……」

 

「本日2度目の『何だと』をいただきましたー、ありがとうございまーす」

 

 おまけに驚き固まる喜助を揶揄う創造主疑惑の人物である。

 

「さて。議題は僕が創造主かどうか、だったね。その議題に対して、僕自身も明確な答えを持ち合わせてはいないんだけど。君の恐怖心を取り除く方法は持ち合わせているよ?」

 

 本人的には親切心のつもりで、カイは動く。いや、身体的には椅子に拘束されたままだが、そんな身動きができない状態で、カイはスキルを使ったのだ。

 喜助の頭と胸に大きな釘を生やすという形で。

 

「喜助ぇ!……くっ、おぬし……っ!」

 

 呆然とした顔で倒れ伏す喜助の姿に、夜一は怒りを搔き立てられ、カイを睨んだ。

 

「そう怖い顔をするなよ。どうせ()()()()さ」

 

 不気味な笑顔を浮かべるカイ。その言葉を証明するように、喜助は何事もなかったかのように上体を起こす。

 

「……死んで、ない?……釘も、ない」

 

「またか!儂らにもやったその死者の蘇生を、こうも易々と!」

 

「死者の、蘇生……?」

 

 確かに死を体験した喜助は呆けながら、しかし夜一の言葉を聞き、徐にセッチングしていた機械を操作し始めた。

 だが、録画機材には先程の光景が映っていない。喜助が死んだ瞬間の映像が、喜助が突如倒れて起き上がっただけのそれにすり替えられている。喜助の頭と胸に生えたはずの釘など、何処にもない。

 

「釘は、楔なのか……?」

 

「あながち、間違いでもない」

 

 喜助が零した推測に、カイは応える。

 

「釘は、対象物Aを対象物Bに固定するための物だ。少なくとも、僕はそう認識していて、僕がスキルを使うイメージに合っている」

 

 何かに何かを固定するため、釘を打ち付ける。それが、カイがしている『幻実当避(オール・イズ・ファンタジー)』行使のイメージだ。

 

「ま、だからって絶対に釘を打ち付けなくちゃいけないって訳でもないんだけどね。あくまで、自分の得物が欲しいと思ったから、イメージに合っている釘を得物にしているだけさ。ほら、この通り」

 

 夜一と喜助が一瞬きした後に、カイが椅子の拘束から逃れている光景をその目にする。

 拘束具である椅子は何処かに消え、カイが悠然とそこに立っているのだ。

 驚きのあまり、夜一と喜助は己の目を疑ってもう一瞬きする。そうすると、カイは元通り、椅子に拘束されていた。

 

「……まるで訳が分からん」

 

「……永続性が、ない?……発揮される効果次第で、持続時間が短くなる?」

 

 見せ付けられた不思議な光景。夜一と喜助の反応は全くの別物だった。

 夜一は全く理解が追いつかず、反して喜助は推理を深めていく。

 

「これ以上の能力開示は止めておくよ。能力考察の楽しみが減ってしまうからね」

 

 そう言って、カイは口の端を吊り上げながらも閉口する。

 

 喜助は今ある材料だけで、先程体験した事とカイの言葉、そして機械の計測結果で、推理し続ける。

 と言っても、機械での計測は芳しくない。さっきも言ったが録画は件の光景を残していないし、その他の計測機器も軒並みマイナスに振り切って、ただこの下手人が霊圧を持たない存在、死神でもなければ(プラス)でもない事を示すだけ。そんな存在など知らない喜助は、この下手人が何者なのか推し量る事が出来ない。

 だから、つい訊いてしまった。

 

「貴方は、何者なんスか……」

 

「その質問に対しては、僕は絶対こう答えるようにしている」

 

 カイは、その目を見開いた。

 

「人間だよ」

 

 喜助はただただ、その覗く深淵に、恐怖心を抱くのだった。




 お待たせいたしました。本作の更新を再開しようと思います。
 しかし、申し訳ありませんが、更新は不定期となります。第1日曜・第3日曜に更新される、かも……?という感じで、ご理解いただけますよう、お願いいたします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。