氷風のエエカトル   作:Damned

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#2 氷嵐の呼び声

 

 

 

 データストームの渦巻く仮想世界、その住人は翠緑の突風を見た。

 

 一陣の風となって吹き荒ぶそれは、一羽と一匹のすぐ横を通り抜け、四つの人影に追いついた。

 

「乱入に次ぐ乱入で悪いね。二対一で追い回すなんて酷いじゃないの……いや、今は二対二のようだがな?」

「プレイメーカー。ここは俺が」

 頼もしく引き受けた、赤いマフラーを纏ったアバター。その言葉に頷いて、プレイメーカーはどこかへ飛び去ってしまう。

 

 残されたのは、赤いマフラーの少年と自分──そして、写し鏡のようにそっくりな色違いの二人(?)だけだ。

 デュエルディスクから顔を出した、赤みのある黒の姿が問う。

 

「君はプレイメーカーの仲間ではないようだが、何者だ?」

 ──イグニス。そう呼ばれる種族だ。ラヴィエカトルにとって、浅からぬ、どころか深い縁のある。そして……そのイグニスを連れているということは、彼もまた、()()()()の被害者。

 何重にも包み隠した声色で答えた。

 

「奴を探していた。そうしたら、こいつらが追い回していやがる」

「なるほど、敵ではないと考えても?」

「さあね、分からねえぞ? 今にも襲いかかる可能性だってある」

 敵の敵は味方──ではない。利権を争う競合相手だ。ラヴィエカトルにとって、このイグニスの持ち主へデュエルを挑まない理由は、今ではないから。それだけだ。

 

「そう悪い人柄ではないのだろう? 現に君は、偽悪的な冗談を口にするだけだ」

「はっ、冗談きついぜ。イグニスの持ち主。あんたの名前は?」

「……どうして知ってるんだ、アンタは」

「先に名乗るべきだったな。おれは『ラヴィエカトル』。訳ありでね……ともかく、こいつらを先にやらなきゃいけねえだろう? 協力するぜ」

 

「漢字で『不屈の(たましい)夢に非ず』と書いて不霊夢。彼はSoulburner(ソウルバーナー)……こちらこそ、よろしく頼む」

「不霊夢っ。何勝手によろしくしてるんだ! 敵かもしれないんだぞ!」

「だが今は協力してくれる。それだけでいいだろう?」

 

 赤いマフラーの彼──ソウルバーナーは、眉を顰めながらも不承不承といった風にため息をついた。

「我々は緑の方をやる。覚悟しろ、ソウルバーナーは情け容赦のない男だ。お前を完封してやる」

「そこまでは言ってないだろ!」

「ム……そうなのか?」

「適当なこと言うなよ……」

 ビシィッ! と双子を指差して告げた不霊夢に、ソウルバーナーが思わずと言った風に返した。

 

「あなた。あの色違いのお人形、かっ食らってもよろしくて?」

「ダメだ」

「絶対そっちの方が早くてよ。赤い方はまだ食べられそうですわ」

「あんなもん食べようとしなさんな! 腹を壊すぞ。だいたい、何のためにデュエルがあると思ってるんだ」

 その一方で、テュファとラヴィエカトルも茶番を繰り広げていた。

 

 そして当然、敵の方にそれを待つ理由もなく。

「ソウルバーナー……そしてイグニスも持たないが、訳知り顔の一般人……」

「目的を変更。イグニスの回収に加え、一般人も抹殺する」

 

「あの作戦で行くぞ」

「合体シーケンス」

「開始」

 二人が飛び上がる。並行に重なり、二人が一人に──否、半分になったそれぞれが合体し、ツートーンカラーのアバターに組み変わった。

 

「合体完了」

「なっ……」

「我らはビット」

「我らはブート。合わせて……」

 

「「ビットブート」」

 

 一方は右に緑で左に赤。もう一方はその逆。中身が人間ではこんなことは出来ない。

「AIか……?」

「なんだコイツら、合体したぞ!?」

 しかしなんの意味があるのか。それを考える時間もなく、それぞれがソウルバーナーとラヴィエカトルの間に割り込んだ。

 

「イグニスの回収は我らが」

「一般人の尋問は我らが」

「──はっ! やれるならな。オーケイ、そのデュエル、乗ったぜ」

 挑発的に笑んで、ラヴィエカトルは『ビットブート』と名乗った片方を見据えた。

 その背中に、ソウルバーナーの声がかかる。

 

「アンタ……ええと、ラヴィエカトル」

「長いだろう。カトルと呼んでくれ」

「……カトル。話は後で聞かせてもらうぜ!」

 短く告げて、ソウルバーナーは飛翔。もう一人のビットブートを連れて離れていった。

 ラヴィエカトル──カトルも、改めて残ったビットブートをにらむ。

「さあやろうぜ。対面が人でないことが味気ないが、テュファとおれの初陣だ」

「イグニスこそもっていないが、訳知り顔の貴様。何かしら、情報を持っているだろう」

 

 

「「デュエル」」

 

 

 

ラヴィエカトル

 

LP 4000

 

 

ビットブート

 

LP 4000

 

 

 

「我らが先攻で行く。手札より、《Dスケイル・サーベルサーディン》を召喚」

 

 

《Dスケイル・サーベルサーディン》

効果モンスター

星2/水属性/サイバース族/攻 600/守 300

このカード名の①の効果は1ターンに1度しか使用できない。

①:500LPを払って発動できる。

自分フィールドに「Dスケイルトークン」(サイバース族・水・星1・攻/守100)1体を特殊召喚する。

 

 

 メカニカルな魚の姿をしたモンスター。種族は──サイバース族。イグニスと深い関わりのある者しか持つことのない、高い展開力を持った種族。

 カトルは身構える。その先にある強力なリンクモンスターに。

「サーベルサーディンの効果発動。ライフを500払い、Dスケイルトークンを特殊召喚する」

 

 

ビットブート

 

LP 4000 → 3500

 

 

「「現れろ、我らのサーキット」」

 召喚条件は、Dスケイルモンスター二体。サーベルサーディンと生み出されたトークンでのリンク召喚が行われ、同じく魚のようなモンスターが現れる。

 リンク2、《Dスケイル・バトルシーラ》。

 

 

《Dスケイル・バトルシーラ》

リンク・効果モンスター

水属性/サイバース族/攻 1800/LINK 2

【リンクマーカー:左/下】

「Dスケイル」モンスター2体

①:1ターンに1度、自分メインフェイズに発動できる。このカードの位置を、このカードのリンク先のメインモンスターゾーンに移動する。

②:1ターンに1度、自分メインフェイズに発動できる。このカードの位置を、このカードとリンク状態のカードのリンク先の自分のメインモンスターゾーンに移動する。

 

 

「装備魔法、《Dスケイル・トーピード》をバトルシーラに装備!」

 

 

《Dスケイル・トーピード》

装備魔法

「Dスケイル」モンスターにのみ装備可能。

①:1ターンに1度、自分メインフェイズに発動できる。このターンに装備モンスターの位置が移動した回数×800ダメージを相手に与える。

 

 

「更にバトルシーラの効果!」

 

 

①:1ターンに1度、自分メインフェイズに発動できる。

このカードの位置を、このカードのリンク先のメインモンスターゾーンに移動する。

 

 

 その行動に、なんの意味があるのか。少し前、プレイメーカーが対面していた敵とのデュエルを見ていないカトルにはまだ分からない。ただエクストラモンスターゾーンを開ける為ならば、そんな行動は必要ない。

 その答えは、すぐに明らかとなる。

 

 

「スキル発動、《マーカーズ・ポータル》!

 デュエル中に一度、自分のライフが元々の数値以下になった時、デッキからリンク魔法(マジック)一枚を選択して発動する!」

「な……リンク魔法(マジック)だと!?」

 

「輝け三本の矢! 行く手を阻む敵を射よ! リンク魔法、裁きの矢(ジャッジメントアローズ)!」

「何だそれは……ッ!?」

 デッキからカードを発動するスキル、だけであればまだ分かる。しかし、リンク魔法。そんなカードを、カトルは知らない。聞いたこともない。

 

 

裁きの矢(ジャッジメントアローズ)

リンク魔法

【リンクマーカー:左上/上/右上】

①:「裁きの矢」はリンクモンスターのリンク先となる自分の魔法&罠ゾーンに1枚しか表側表示で存在できない。

②:このカードのリンク先のリンクモンスターが戦闘を行うダメージ計算時のみ、そのリンクモンスターの攻撃力は倍になる。

③:このカードのリンク先にモンスターが存在し、

このカードがフィールドから離れた場合、そのリンク先のモンスターは全て破壊される。

 

 

「何なんだ貴様らはっ」

「それを答える必要などない。続けて、バトルシーラの効果発動」

 

 

②:1ターンに1度、自分メインフェイズに発動できる。このカードの位置を、このカードとリンク状態のカードのリンク先の自分のメインモンスターゾーンに移動する。

 

 

 バトルシーラが裁きの矢(ジャッジメントアローズ)のリンク先に移動。

 恐れ慄け、脅威のコンボを見せてやる。ビットブートがそう宣言する。バトルシーラは移動したが、ただそれだけ──否。先程発動した装備魔法の効果は。

 

 

「バトルシーラに装備された《Dスケイル・トーピード》の効果、装備モンスターの移動一回につき、800のダメージを相手に与える」

 

 

①:1ターンに1度、自分メインフェイズに発動できる。このターンに装備モンスターの位置が移動した回数×800ダメージを相手に与える。

 

 

「なるほど、移動をダメージに変換する……初めて見るテーマだな」

「言ってる場合ですの?」

 のべ1600のダメージが降りかかることが確定している。飛来する攻撃をいなして、歯を食いしばった。

 

ラヴィエカトル

 

LP 4000→2400

 

 

「く……」

「これぞバトルシーラ、トーピード、裁きの矢(ジャッジメントアローズ)の三枚による最強のコンボ。名付けて、『地獄への航海』……」

「バトルシーラが移動する度、震えるがいい」

 

「「ターンエンドだ」」

 

 初期ライフ4000、その半分弱を初手で削られた計算。しかしカトルには、焦りひとつ無かった。

 

「おれのターン」

 ドロー。

「まずはあのコンボを打ち砕こう」

「データごとこんがり焼いてさしあげるのは如何でして?」

「悪くねえ。おれは手札の《WW(ウィンド・ウィッチ)-アイス・ベル》の効果を発動するぜ」

 

 

WW(ウィンド・ウィッチ)-アイス・ベル/Windwitch - Ice Bell》 

効果モンスター

星3/風属性/魔法使い族/攻1000/守1000

このカード名の①②の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

①:自分フィールドにモンスターが存在しない場合に発動できる。 このカードを手札から特殊召喚する。 その後、デッキから「WW」モンスター1体を特殊召喚できる。 この効果でデッキから特殊召喚したモンスターはリリースできず、 この効果を発動するターン、自分はレベル5以上の風属性モンスターしか EXデッキから特殊召喚できない。

②:このカードが召喚・特殊召喚に成功した場合に発動できる。 相手に500ダメージを与える。

 

 

「サイバース族ではない……やはりただの、自己主張の激しい一般人か」

「言ってろ。手札からアイス・ベルを、デッキからは《WW(ウィンド・ウィッチ)-グラス・ベル》を特殊召喚する」

 

 

WW(ウィンド・ウィッチ)-グラス・ベル/Windwitch - Glass Bell》

チューナー・効果モンスター

星4/風属性/魔法使い族/攻1500/守1500

「WW-グラス・ベル」の効果は1ターンに1度しか使用できない。

①:このカードが召喚・特殊召喚に成功した場合に発動できる。 デッキから「WW-グラス・ベル」以外の「WW」モンスター1体を手札に加える。 この効果の発動後、ターン終了時まで自分は風属性モンスターしか特殊召喚できない。

 

 

「特殊召喚に成功したグラス・ベルの効果によって、おれはデッキから二枚目の《WW(ウィンド・ウィッチ)-アイス・ベル》を手札に加えるぜ。さらにアイス・ベルの効果。相手に500のダメージだ」

 

 

ビットブート

 

LP 3500 → 3000

 

 

「そして、手札から《WW(ウィンド・ウィッチ)-スノウ・ベル》の効果発動。自身を特殊召喚する」

 

 

WW(ウィンド・ウィッチ)-スノウ・ベル/Windwitch - Snow Bell》

チューナー・効果モンスター

星1/風属性/魔法使い族/攻 100/守 100

①:自分フィールドに風属性モンスターが2体以上存在し、 風属性以外のモンスターが存在しない場合に発動できる。 このカードを手札から特殊召喚する。

②:このカードをS素材として風属性SモンスターをS召喚した場合、 そのSモンスターは相手の効果では破壊されない。

 

 

「何もねえようなら──おれはレベル3のアイス・ベルに、レベル4のグラス・ベルをチューニング! 氷嵐に踊る魔女よ、雪も氷もその力として切削しろ。 シンクロ召喚、レベル7《WW(ウィンド・ウィッチ)-ウィンター・ベル》!」

 

 

WW(ウィンド・ウィッチ)-ウィンター・ベル/Windwitch - Winter Bell》

シンクロ・効果モンスター

星7/風属性/魔法使い族/攻2400/守2000

チューナー+チューナー以外の風属性モンスター1体以上

「WW-ウィンター・ベル」の①②の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

①:自分の墓地の「WW」モンスター1体を対象として発動できる。 そのモンスターのレベル×200ダメージを相手に与える。

②:自分・相手のバトルフェイズに自分フィールドの「WW」モンスター1体を対象として発動できる。 そのモンスターのレベル以下のレベルを持つモンスター1体を手札から特殊召喚する。 この効果で特殊召喚したモンスターはこのターン攻撃できない。

 

 

 データベースに情報があるのだろう。サイバースでさえない【WW(ウィンド・ウィッチ)】のテキストを参照したのか、対面が青ざめた……ように、感じた。

 しかし容赦をする理由などない。

 

 

「ウィンター・ベルの効果だ。墓地に存在するWWのレベル分、ダメージを受けてもらおう。おれが参照するのはレベル4の《WW(ウィンド・ウィッチ)-グラス・ベル》だぜ」

 

 

(1):自分の墓地の「WW」モンスター1体を対象として発動できる。 そのモンスターのレベル×200ダメージを相手に与える。

 

 

ビットブート

 

LP 3000 → 2200

 

 

「そして、レベル7のウィンター・ベルにレベル1のスノウ・ベルをチューニング! 吹き荒ぶ氷嵐は細氷と凝華した。凍てつく空気の冷酷さを教えてやれ! シンクロ召喚、レベル8《WW(ウィンド・ウィッチ)-ダイヤモンド・ベル》!」

 

 

WW(ウィンド・ウィッチ)-ダイヤモンド・ベル/Windwitch - Diamond Bell》

シンクロ・効果モンスター

星8/風属性/魔法使い族/攻2800/守2400

チューナー+チューナー以外の風属性モンスター1体以上

このカード名の①の効果は1ターンに1度しか使用できない。

①:このカードがS召喚に成功した場合、 自分の墓地の「WW」モンスター1体を対象として発動できる。 そのモンスターの攻撃力の半分のダメージを相手に与える。

②:1ターンに1度、相手が戦闘・効果でダメージを受けた場合、 フィールドのカード1枚を対象として発動できる。 そのカードを破壊する。 このカードが「WW」モンスターのみを素材としてS召喚されている場合、 この効果は1ターンに2度まで使用できる。

 

 

「シンクロ召喚に成功したダイヤモンド・ベルの効果により、ウィンター・ベルの攻撃力の半分のダメージを受けてもらおう」

 ウィンター・ベルの攻撃力は2400。よって1200ダメージである。

 

 

ビットブート

 

LP 2200 → 1000

 

 

 ライフは既に危険域。カトルと立ち位置が逆転してしまっているはずだが、ビットブートの態度は道端の石を見るような余裕さだ。

 何がある、と探りつつも、ダイヤモンド・ベルの効果を発動。

 

 

②:1ターンに1度、相手が戦闘・効果でダメージを受けた場合、 フィールドのカード1枚を対象として発動できる。 そのカードを破壊する。 このカードが「WW」モンスターのみを素材としてS召喚されている場合、 この効果は1ターンに2度まで使用できる。

 

 

「対象は《裁きの矢(ジャッジメントアローズ)》」

「そのお邪魔なリンク魔法(マジック)には、消えていただきましてよ」

「悪くない効果だ」

「だが無駄なこと」

「私のスキル、《マーカーズ・ポータル》で呼び出されたカードは、相手のカード効果では破壊されない」

 

 僅かに舌打ちを漏らす。

「甘かったですわね」

「流石に対策済みって訳か」

「次のターンに焼き殺せば問題ありませんわ」

「ごもっともだな。しかしテュファ、もっと簡単な方法がある……手札より、《ガルドスの羽根ペン》を発動する。墓地のスノウ・ベルとグラス・ベルをデッキに戻し、《裁きの矢(ジャッジメントアローズ)》には手札に戻って貰うぜ」

 

 

《ガルドスの羽根ペン/Quill Pen of Gulldos》

通常魔法

自分の墓地に存在する風属性モンスター2体を選択してデッキに戻し、フィールド上に存在するカード1枚を選択して持ち主の手札に戻す。

 

 

「な、何ぃいいっ」

「ガルドスの羽根ペンだとっ?」

「うるせえ。確か、そのリンク魔法(マジック)がフィールドから離れると、確か……」

 リンク先のモンスターが自壊する。

「違ったかい?」

 

 

③:このカードのリンク先にモンスターが存在し、

このカードがフィールドから離れた場合、そのリンク先のモンスターは全て破壊される。

 

 

「そのカードのリンク先には《バトルシーラ》が居る。今度こそ消えてもらうぜ、その装備魔法と共にな」

「ば……馬鹿な……!」

「カードを一枚伏せて、バトルフェイズ。おれは《WW(ウィンド・ウィッチ)-ダイヤモンド・ベル》で直接攻撃(ダイレクトアタック)

 ビットブートのライフは、残り1000。フィールドは更地。この攻撃が通れば、ふたつでひとつの奇妙なAIは敗北する。

 

「──ダイヤモンド・シャワー」

「うわあああぁっ」

 命中。降りしきる氷柱に吹き飛ばされて、ビルのガラスを突き破ってビットブートの姿は見えなくなる。足掻きとカードを発動されるのではないか、と警戒していたカトルは、デュエルが終わったことを告げるテュファの声に安堵する。

 

「勝利でしてよ。狼藉者のライフはお亡くなりですわ」

「……本当にか? この手の連中はしぶといと聞いているが」

「おほほ。無傷とはいきませんでしたが美しい勝ち方ですわ」

 ボードから降り、内部に転がっているであろうビットブートを探す。しかし居ない。捨て石だったのか、と結論づけたカトルは再びDボードに飛び乗った。

 

「行方はどうあれ、勝ちましたのよ。わたしのあなた」

「目先の勝利に喜んでいる暇はねえ。あいつらを探すぞ」

「オーライですわ」

 

 Dボードを上昇させ、ソウルバーナーを探そうとしたその時、凄まじい勢いで何かが叩き落とされる。轟音が鼓膜を劈き、崩れた建物からは煙とデータのノイズが溢れていた。

 

「おいお前──」

「悪い! 大丈夫か!」

「問題ねえ。あの様子を見るに、終わったのか?」

「勝った。だが……」

「消えてしまったな。データの欠片も存在しない」

 

 イグニスたる不霊夢の言だ。間違いはないのだろう。カトルも先程、同じように消えたのを確認しているため頷く。

「アンタも勝ったのか」

「当然。おれに敗北は許されねえ……それよりも、プレイメーカーを追いかけるのが先なんじゃないのかい?」

 

 Dボードを駆って併走する。ここで談笑している暇などないのだ。カトルの提案に乗って、ソウルバーナーも加速する。

「テュファ、ユー・ハヴ・コントロール」

「アイ・ハヴ・コントロールですわ。急ぎまして」

 

 ビルの隙間を、崩れる建物をすり抜けて、テュファの操るDボードはデータストームを最短で突っ切っていく。

 たどり着いた先では、すでに奴らは消えていた。──()()()()()()()()()()

 プレイメーカーが、エリアを隔てる赤い壁に触れている。凄腕のハッカーであると聞いているが、それでもアクセスはできないらしい。

 

「進入禁止エリアに逃げたか」

「わたくしでしたら破壊も可能でしてよあなた」

「……やめとけ。罪に問われるのはおれ達だぞ」

 

──進入禁止エリアへの違法アクセスが確認されました。緊急防衛プログラムを作動します──進入禁止エリアへの違法アクセスが確認されました。緊急防衛プログラムを作動します──

 

 繰り返されるアナウンス。遅れて到着したソウルバーナーも状況を察したらしい、眉間に皺を寄せる。

 

「これ以上は無理だと思うぜ」

「……ここまでか」

 ラヴィもそう判断したが、プレイメーカーはログアウトより先に尋ねる。

「お前たちの名前は。何故、俺を助けた?」

「俺の名前はSoulburner(ソウルバーナー)。大丈夫だ、俺たちはまた会える」

 一方的にそう通達して、ソウルバーナーはログアウト。残ったのはカトルだけだが、こちらは情報を渡す気は更々無い。

Lawihecatl(ラヴィエカトル)……カトルと呼んでくれ。それじゃ、いつかどこかで」

 

「おい、待──」

「いつかと言った」

 カトルも同様に()()る。何か言いたげだったが、ここで下手に馴れ合う必要などないし、リアルの情報も足りていない。そして何より──

 

 

 

「ぁ、があぁッ……!」

 全身を鋭い痛みが走って、冷泉は絞り出したような悲鳴を上げた。整えられたシーツにシワが寄って、握りしめる拳は震え血管が浮き出ている。

 ──リンクヴレインズでのダメージのフィードバック。甚大な損傷などを受けた場合に多く見られるが、冷泉が受けたのはライフの半分にも満たない1600ダメージである。そして吹き飛ばされて叩きつけられたなどの被害もない。それなのに、何故ここまでの苦痛があるのかは、今の冷泉には知ることもできない。

 

 できるのは、この苦痛の波をやり過ごすことだけである。

「ぐ……うぅ、ぁ、く……ッ」

 キリキリと歯の噛み合う音がする。切り刻まれるような痛みと皮膚が裂かれる幻覚に苦悶の声を漏らしながら、ベッドの上をのたうち回った。

 どれほどそうしていただろうか。痛みが違和感程度にまで落ち着いたところで、冷泉は気怠げに発声する。

 

「……テュファ」

 ネットワークへの同期が完了したため、彼女も現実で応答することが出来る。部屋に置いたスピーカーから、気の強そうな女性の声が届く。

 

『はい、わたくしですわ。……もうよくって?』

「ああ。ログアウトしてからどのくらいだ?」

『十分ほどですわ』

「そうかい。……今日は一旦寝るよ。さすがに疲れた」

『かしこまりましたわ。おやすみなさいませ、わたくしのあなた』

「ああ、おやすみ。テュファ」

 腕に着けていた情報端末を外し、瞼を閉じる。

「思ったよりも、フィードバックがきついのな。先が思いやられる……」

 

 

 





義によって動くのが人間であるなら、利によって動くのもまた人間である

ささやかな勝利、その果てにあるのはいずれか

次回、『探し人はいずこ』

心とは、彩り変わる万華鏡
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