氷風のエエカトル   作:Damned

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ところで帝王新規がMDに来ましたね。初投稿です。



#05 風に乗る敗北の詩

 

 

 

「じゃあ、ターンを貰うぜ」

 ドロー。そしてメインフェイズ。

 

「おれは《マジェスペクター・ラクーン》を召喚し、効果を発動」

 

 

《マジェスペクター・ラクーン/Majespecter Raccoon - Bunbuku》

ペンデュラム・効果モンスター

星3/風属性/魔法使い族/攻1200/守 900

【Pスケール:青5/赤5】

【モンスター効果】

このカード名の(1)のモンスター効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):このカードが召喚・特殊召喚した時に発動できる。デッキから「マジェスペクター」モンスター1体を手札に加える。

(2):このカードがモンスターゾーンに存在する限り、このカードは相手の効果では破壊されず、相手はこのカードを効果の対象にできない。

 

 

「デッキから《マジェスペクター・ポーキュパイン》を手札に。そしてそのまま効果発動」

 

 

《マジェスペクター・ポーキュパイン/Majespecter Porcupine - Yamarashi》

ペンデュラム・効果モンスター

星4/風属性/魔法使い族/攻1500/守1500

【Pスケール:青2/赤2】

【モンスター効果】

このカード名の(1)(2)のモンスター効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1):自分・相手のメインフェイズに、自分フィールドに「マジェスペクター」モンスターが存在する場合に発動できる。このカードを手札から特殊召喚する。

(2):このカードが召喚・特殊召喚した場合、自分の墓地の「マジェスペクター」魔法カード1枚を対象として発動できる。そのカードを自分フィールドにセットする。

(3):このカードがモンスターゾーンに存在する限り、このカードは相手の効果では破壊されず、相手はこのカードを効果の対象にできない。

 

 

「さらに召喚されたポーキュパインの効果。墓地に存在する《マジェスペクター・サイクロン》をセットする。

 現れろ、永遠に吹き抜けしサーキット」

 召喚条件は《マジェスペクター》モンスターを含むPモンスター2体。

 

「おれは《マジェスペクター・ラクーン》と《マジェスペクター・ポーキュパイン》をリンクマーカーにセット。双犬(そうけん)よ、我が声に応え姿を現せ──リンク召喚。リンク2、《マジェスペクター・オルト》!」

 鵺とも双頭犬(オルトロス)ともとれる、蛇の尾を持つモンスターが現れる。

 

 

《マジェスペクター・オルト/Majespecter Orthrus - Nue》

リンク・効果モンスター

リンク2/風属性/魔法使い族/攻1500

【リンクマーカー:左下/右下】

「マジェスペクター」モンスターを含むPモンスター2体

このカード名の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):このカードがL召喚した場合に発動できる。自分のEXデッキ(表側)から「マジェスペクター」Pモンスターを2体まで手札に加える。その後、デッキから「マジェスペクター」Pモンスターを2体までEXデッキに表側で加える事ができる(同名カードは1枚まで)。

この効果の発動後、ターン終了時まで自分は「マジェスペクター」モンスター及び「竜剣士」モンスターしかEXデッキから特殊召喚できない。

 

 

「オルトの効果発動。おれは《ラクーン》と《ポーキュパイン》、を手札に加え、EXデッキに《マジェスペクター・フォックス》と《マジェスペクター・フロッグ》を置く」

 増えた手札は三枚。来ると、確実に分かっている。

「スケール2の《マジェスペクター・キャット》とスケール5《マジェスペクター・ラクーン》をペンデュラムスケールにセッティング」

 

 ──ペンデュラム召喚。

 一ターンに一度しか行えず、リンク召喚にルールが移行し、エクストラデッキから一体のモンスターしか出せなくなった事により消えてしまった、時代の被害者とでも言うべき召喚法。

 

「さあて……かわいい子たちのご登場だ、風の中を駆けようぜ。ペンデュラム召喚」

 リンク先に二体、そして手札から一体。

「《マジェスペクター・クロウ》、《マジェスペクター・キャット》、《マジェスペクター・フロッグ》の三体だ。それぞれの効果を発動しても?」

「チェーンは無いわ」

 

 

《マジェスペクター・キャット/Majespecter Cat - Nekomata》

ペンデュラム・効果モンスター

星3/風属性/魔法使い族/攻 100/守1800

【Pスケール:青2/赤2】

【モンスター効果】

「マジェスペクター・キャット」の(1)のモンスター効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):このカードが召喚・特殊召喚に成功した時に発動できる。このターンのエンドフェイズに、

デッキから「マジェスペクター」カード1枚を手札に加える。

(2):このカードはモンスターゾーンに存在する限り、

相手の効果の対象にならず、相手の効果では破壊されない。

 

 

《マジェスペクター・フロッグ/Majespecter Toad - Ogama》

ペンデュラム・効果モンスター

星4/風属性/魔法使い族/攻1300/守 500

【Pスケール:青5/赤5】

【モンスター効果】

「マジェスペクター・フロッグ」の(1)のモンスター効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):このカードが召喚・特殊召喚に成功した時に発動できる。デッキから「マジェスペクター」魔法・罠カード1枚を選んで自分フィールドにセットする。この効果でセットしたカードはこのターン発動できない。

(2):このカードはモンスターゾーンに存在する限り、

相手の効果の対象にならず、相手の効果では破壊されない。

 

 

「《マジェスペクター・サイクロン》を手札に、そしてデッキから《マジェスペクター・トルネード》をセットする」

 一気に並んだモンスターたちに、ブルーガールは目を細めた。

「……あれだけの口を叩くだけはあるじゃない」

「そりゃ光栄。続けようかね、おれは《マジェスペクター・クロウ》と《マジェスペクター・フロッグ》の二体でオーバーレイ・ネットワークを構築。双環(そうかん)の無限刻まれし時、秩序の塔が築かれる。混沌と理交わりし時、幻の竜が翼を開く。エクシーズ召喚──呼び起こせ、ランク4《マジェスペクター・ドラコ》」

 

 更にここからのエクシーズ召喚。言えたことじゃないけど、ターンが長いわね──思っていると、バトルフェイズに入るらしい。

「おれはキャットをリリースし、ドラマチスを対象に速攻魔法を発動。《マジェスペクター・サイクロン》」

 

 

《マジェスペクター・サイクロン/Majespecter Cyclone》

速攻魔法

(1):自分フィールドの魔法使い族・風属性モンスター1体をリリースし、相手フィールドのモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを破壊する。

 

「いいわ。ドラマチスは破壊される」

「オーケイ。なら、フィールドに存在する《ドラコ》の効果発動。X素材を一つ取り除き、デッキから《マジェスペクター・ユニコーン》を特殊召喚」

 

《マジェスペクター・ドラコ/Majespecter Draco - Ryu》 †

エクシーズ・ペンデュラム・効果モンスター

ランク4/風属性/魔法使い族/攻2300/守2000

【Pスケール:青5/赤5】

このカード名のP効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):もう片方の自分のPゾーンに「マジェスペクター」カードか「竜剣士」カードが存在する場合に発動できる。デッキから「マジェスペクター」カード1枚を手札に加える。その後、自分のPゾーンのカード1枚を破壊できる。

【モンスター効果】

レベル4モンスター×2

レベル4がP召喚可能な場合にEXデッキの表側のこのカードはP召喚できる。

このカード名の(1)のモンスター効果は1ターンに2度まで使用できる。

(1):このカードがモンスターゾーンに存在する状態で、モンスターがリリースされた場合、このカードのX素材を1つ取り除いて発動できる。デッキからレベル6以下の魔法使い族・風属性モンスター1体を特殊召喚する。

(2):モンスターゾーンのこのカードが戦闘・効果で破壊された場合、またはリリースされた場合に発動できる。このカードを自分のPゾーンに置く。

 

 

「それじゃあ、改めてバトルだ。おれはドラコでダイレクトアタック」

「受けないわ。罠カード発動、《トリックスター・ディフュージョン》」

 

 

《トリックスター・ディフュージョン/Trickstar Diffusion》 †

通常罠

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1):以下の効果から1つを選択して発動できる。

●自分の墓地のモンスターを融合素材として除外し、「トリックスター」融合モンスター1体を融合召喚する。

●「トリックスター」Lモンスター1体のL召喚を行う。

(2):墓地のこのカードを除外し、自分フィールドの「トリックスター」モンスター1体を対象として発動できる。このターン、そのモンスターが自分フィールドに表側表示で存在する限り、相手モンスターは対象のモンスターしか攻撃対象に選択できない。

 

 

「墓地の《ホーリーエンジェル》と《シャクナージュ》を除外──聴かせてあげるわ、トリックスターが奏でる音楽を! 融合召喚! 《トリックスターバンド・ギタースイート》!」

 アイドルのような装いから、パンクなアレンジのされた融合モンスターが現れる。

「……困ったもんさね。手札に《キャロベイン》まで抱えてるんだろう? 怖いねぇ」

「攻撃をやめるかしら? どちらにせよ、貴方にターンが回ってきたら、ライフはゼロになるのよ」

「……ふ。甘い考えだ」

「なに?」

「次のターンなんてないからな」

 

 勝利を確信した表情に侮蔑のいろを向けて、ブルーガールは一瞬、呑まれかけた。

 先程までの飄々とした表情は無い。ただ対戦相手(てき)を殺すために駆動するための機械のように、無機質な瞳がこちらを見つめている。

「おれはドラコで、ギタースイートを攻撃」

「……貴方、本当に分かってるの?」

「勿論だよ」

 

 ギタースイートの攻撃力は2200。ドラコの攻撃力は2300。勝っているように見えるが、ブルーガールの手には先程加えた《トリックスター・キャロベイン》があるのだ。

 それでも、彼は攻撃してきた。自爆──ではない。何かがあるのだ。絶対に。

「ダメージステップ開始時に、何かあるかい?」

「当然。私は手札からキャロベインを捨てて、効果発動!」

 

 

《トリックスター・キャロベイン/Trickstar Corobane》

効果モンスター

星5/光属性/天使族/攻2000/守1000

このカード名の(1)(2)の効果は1ターンに1度、いずれか1つしか使用できない。

(1):自分フィールドのモンスターが、存在しない場合または「トリックスター」モンスターのみの場合に発動できる。このカードを手札から特殊召喚する。

(2):自分の「トリックスター」モンスターが相手モンスターと戦闘を行うダメージステップ開始時からダメージ計算前までに、このカードを手札から墓地へ送って発動できる。

その自分のモンスターの攻撃力はターン終了時まで、その元々の攻撃力分アップする。

 

トリックスターバンド・ギタースイート

ATK2200→4400

 

「だろうな。だからおれも、最適解を持ってる。手札から《マジェスペクター・ソニック》を発動」

 

 

《マジェスペクター・ソニック/Majespecter Sonics》

速攻魔法

(1):自分フィールドの「マジェスペクター」モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターはターン終了時まで、攻撃力・守備力が倍になり、相手に与える戦闘ダメージは半分になる。

 

 

マジェスペクター・ドラコ

ATK2300→4600

 

「何ですって……!」

「そのモンスターには、消えてもらおうか」

 ギタースイートが砕け散る。その欠片の向こうで、ブルーガールは目を見開いた。

「改めて。マジェスペクター・ユニコーンでダイレクトアタック」

 

ブルーガール

LP 4000 → 1900

 

「もう一度だ。マジェスペクター・オルトでダイレクトアタック」

 

LP 2000 → 400

 

 そこで、足りない。あと400、ライフポイントを削ることができない──はずだ。

「手札から、《マジェスペクター・ウィンド》を発動」

 

 

《マジェスペクター・ウィンド/Majespecter Wind》

速攻魔法

このカード名のカードは1ターンに1枚しか発動できない。

このカードは自分フィールドの魔法使い族・風属性モンスター1体をリリースして発動する事もできる。

(1):自分の手札・墓地から「マジェスペクター」モンスター1体を特殊召喚する。モンスターをリリースしてこのカードを発動した場合、代わりにデッキから「マジェスペクター」モンスター1体を特殊召喚する事もできる。

 

 

「墓地からフロッグを特殊召喚する。何か言い残すことはあるかい?」

「……ッ、貴方、最悪の性格してるわ」

 恐れから一転、彼女はカトルを睨みつける。

「そりゃ褒め言葉だ。対戦で人の嫌がることするのは当然だからな。……じゃあ、さよならだ」

 

 彼はうっそりと笑った。人を和ませる表情のカエルが、鳴き声と共に風を吐き出す。攻撃力1500。妨害も耐久も使い切った彼女は、その身で受けるしかなかった。

 

ブルーガール

LP 400 → 0

 

「うう……っ!」

 よろめいた彼女を、ゴーストガールが支えた。まだ痛みに苛まれているブルーガールは、それでもカトルを睨んでいる。

「……貴方、展開したがりとか私に言っておきながら、変わらないじゃない」

 先程までの雰囲気から一転、けろりと返す。

「そりゃ必要を感じたからさ。下手にドローさせると死ぬのはこっち。短期決戦以外の道はない」

 

「……私が下手みたいに言わないでくれ──」

 支えられたままのブルーガールを、腕を掴んで引き寄せた。突然のことに反応する間もなく、カトルはそっと耳打ち。

「もう少し姿もデッキも変えろ。馬鹿なのはお前さんだ」

「な……っ」

「じゃあな」

 言うだけ言って彼女をそっと押し返した直後、アバターが消えていく。カトルが追い出し(ログアウトさせ)たのだ。

 

 静寂が戻る。ログアウト処理が完了した後も、澱のように漂う熱は散ってはくれない。残されたゴーストガールも口を開かず、ただ彼を見つめていた。

 今のように飄々とした振る舞いだった男が、デュエルの最中にだけ〝最適解〟を求めるための機械と化していた。殺すために追い求めていた。無駄な動きも感情もなく、ただデュエリストを殺すだけの殺人機械だ。

 

 戦いぶりだけを見れば、ただ効率よくデュエルをしただけだ。しかし、その根底にあるものは──

「憎しみ、かしら」

 自分でも聞き取れぬほどの、短い言葉。しかしカトルに届いていたらしい。

「だったら、同情でもするかい?」

 

 返した言葉は、皮肉の色を含んでいた。ブルーガールの時よりもずっと柔らかく、敵意の代わりに無力感に苛まれたようなものだ。

「……言い返してくる余裕はあるのね」

 ため息と共にそう口にして、同時にブツリとマイクがオンにされたようなノイズが届く。腕に──デュエルディスクに搭載されたホログラムが展開し、音の波形を見せる。

 

「あなた。口ぶりに反して、辛勝でありませんこと?」

「酷いなテュファ。黙らされていたことの意趣返しか?」

 

 たかい、まくし立てるような声。デジタルな響きに、誰かと連絡を取っているのだと思ったがち構うようだ。アバターがないが、それがかえって人のように見せていると感じる。

「相手が雑なプレイングを見せたからな。ヒヨスをだしたのも、リインカーネーションを手札に持ってこなかったのも、嬉しい誤算だ」

「あら。素直で宜しいこと」

「うっせ」

 

 気怠げに手を振って、波形を追い払う仕草を見せる。当たり前だが意味などなく、くすくすと笑うのが耳に届いた。

 そのやりとりに、ゴーストガールは尋ねる。

「支援AI? よく喋るようだけど」

「ああ、そんなところだ。あんた達に遭遇してからずっとミュートにされてたのを、やっと開放されたって訳さ」

「申し訳ないわね。SOLのをカスタムした訳じゃない……自分で組んだの?」

「ふふ、ご明察、ですわね。それに、あのような連中が、わたくしのように素敵な子を作れるとは思わなくてよ」

「……お前さんにそんな機能載せたつもりはねえけどな」

 

 実体があれば、肩を竦めていただろう。声音だけでわかる──それほど感情表現が忠実なのだ。それを横目に、カトルは尋ねる。

「ああ、そういえば」

「何かしら?」

「あんたも、やるかい?」

 

 ただ遊びに誘うように、訊かれる。軽いように見えるその声は、先程までの〝殺意〟の残滓があって。

 ゴーストガールは数度瞬きした後、

「悪いけど、遠慮するわ。似た性質のデッキで泥仕合なんて御免だもの」

「……へえ。対戦が長引きそうだ。それに、SOLの連中はお人好しなのかね? こんな男と会話して」

「私はフリーランスよ。一緒にしないで欲しいわね」

「そりゃ失礼。フリーでもこんな依頼を受ける──そっち側で動いてるんなら、何かしら色があると思ってたんだが」

 

 はじめから、彼女がSOLテクノロジーの者ではないと分かっていたのだろう。世間話の体をなした探り合いは続く。

「〝色〟で測ると言うなら、貴方のほうが余程黒く見えるけど」

「否定はしねえよ」

 

 肩を落とすように吐き出された言葉に、「本当にこいつ、私より年下なのかしら」と疑問が湧く。あまりに凝縮された感情──恐らくは憎しみは、積年の恨みという他ない。

 藤色の瞳から視線を外して、カトルの足元に移す。僅かに震え、乱れた重心に気づいた。

 

「……貴方、彼女の前では平然としていたけれど。酷い状態じゃない?」

「さあな。なんの事か──」

 返されたのは乾いた笑いだった、が。最後まで発する前に、彼のアバターは壁に身を預けるようにして崩れ落ちた。

 本当に、虚勢だったのだ。

 

「ちょっと、」

「……おれが、どんな状態だって? 自分じゃどう見えてるか分からねえからな」

 荒い息と共にカトルは吐き捨てる。

 アバターの挙動ではない。恐らくは、アバターとリンクしている神経の反応がエラーを起こしているのだ。この仮想空間には、軽減され微細になったとはいえ痛覚も存在する。軽減の機能が失われ、リアルのボディにも影響を及ぼしている。

 

「違法なアバターを使用してる訳じゃなさそうね。何かしら」

「知るかよ。こんな身体望んでないし、そう設計した覚えもない」

 ──こんな身体で表に出るなど、無駄死にだ。彼女の瞳は、そう言いたげだ。彼はそれでも戦う理由が、必要がある。たとえ命が燃え尽きようとも。

 

「……馬鹿な男ね」

「褒め言葉として受け取っておくぜ、姐さん」

 

 再びの〝姐さん〟呼ばわりに目を細めるも、それ以上口にすることはない。

 何なのだ、この男は。

 男の正体も標的も、「おそらくは復讐」ということ以外全てが霧の向こう。それでも彼は、確かに〝標的〟に向かって突き進もうとしている。その先に何があるのか、どれほどのものがあるのかも、わからない。

 ただ理解できるのは、彼は止まらない、止められない。

 

「あの子と同じように、私も追い出して貰えるかしら?」

 努めて軽い申し出だった。しかしそれは、ラヴィエカトルといったこの青年が見せた優しさ──いや、敗北の代償に従ったものだ。

 

 カトルは壁に凭れたまま、目を伏せた。浅く掠れた呼吸の中で、ニヒルな笑みを浮かべる。

「……てっきり、あんたは着いてくるんだと思ってたけどな。見張る必要があるだろ、こんな怪しい人間、いつLINK VRAINS(リンクヴレインズ)を崩壊させてもおかしくないだろ?」

「貴方にそれほど余裕があるようには見えないもの。それに、現状が分かっていればそれでいいわ。こんな所で無為に過ごすのは本意じゃないって事」

「そうかい」

「それじゃ、私もあの子みたいに落として欲しいんだけど。お願いしていいかしら?」

 

 カトルが左腕を持ち上げた。重さに逆らうようにぎこちない動作と共に、畳まれたデュエルディスクを操作する。展開されたプログラムを確認して膝をつく。

「レディ。貴方のお望み通り、エスコートして差し上げましょう」

「貴方──」

 

 仮想の風が吹き抜けると、ゴーストガールのアバターは光の粒となって消えていく。その残滓の中、べしゃりと支えを失ってカトルは地面に頽れた。カトルは重たい指でパネルをタップし、ログアウト操作を行う。

 事実、この状態では立つことすらかなわない。

 

 

 

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