頭に響く鈍痛と共に、目が覚める。
気持ちが悪い。
身体中から噴き出る汗とそれによって張り付いた服が頭痛と相まって、目覚めを最悪なものとする。
何故か、荒立っている息を落ち着かせ状況を確認する。
俺は狩人の夢で石床の上にうつ伏せになって寝ていた。
碌な整備がされていない石床の上で寝たせいか、動く度に体の節々が張るような痛みを起こす。首については、若干の寝違えを起こしていた。しかし、それに輸血液を使うのも勿体無いし馬鹿らしいと思い無理やり関節を回し正常に戻す。
石畳が体を冷やし、気持ち悪さを緩和してくれていたのが不幸中の幸いだろう。
それにしても、こんなに汗を掻くとはどれほどの悪夢だったのだろうか。
いや、既に此処が悪夢なのだ。これ以上など、思い出してもいいことはないだろう。
服についた砂を払いながら、立ち上がる。
狩人の夢に戻ったのが随分と昔のように感じる。2回しか来たことは無いのに、此処は絶対の安心感と安らぎを俺に与えた。敵の奇襲を警戒する必要のない場所とはそれ程貴重なのだ。
どうせ、急ぐ用事もない。
暫くは、此処で暫くは休憩を取ろう。
それに折角、夢に戻ったのだ。
アイテムの取引や武器の強化などで遺志を消費しておくことも忘れてはならない。
家の階段下にある、水盆へと近寄る。
俺の腰程度まである水盆には此方を手招きしている使者が伺えた。
『水盆の使者』
___
血の遺志により使者と取引ができる。
また、証を渡すことによって、取引できるアイテムを増やすことができる。
遺志を己の力とする狩人に、使者は何処まででも答えるだろう。
だが、決して自分を見失わぬことだ。
___
手元にある遺志をある程度残しながら可能な限り、輸血液と火炎瓶を買い込む。
輸血液に関しては、いくらあっても困ることはない。それに、できればこの世界で輸血液を得るために夢をやり直す様なことはしたくはない。ゲームではよくデブ狩りなどと呼称し獣狩りの下男を倒し、輸血液を貯める様な真似をしていた。下男は他の敵より多くの輸血液を落とすからだ。俺以外のプレーヤーもそうしていたし、ネットなどの攻略記事でもその様な手法が取られていた筈だ。
しかし、それをするにはあまりにも下男は強すぎた。間近で早退すると分かる威圧感、巨体というのはそれだけで脅威だ。強靭も高く、リーチも長い。おまけに、敏捷性もそれなりにある。倒せないことは無いだろうが、倒せても収支は足し引きでマイナスだろう。
それに、アイテムの為だからと淡々と殺して回ることに俺は懐疑的であった。無論、そんなことを言っている場合じゃないのは分かる。必要に駆られれば、躊躇はするだろうが俺はやって除けるだろう。でも、自分の欲の為に殺すことは果たして、獣と何が違うのだろうか。何故狩りを行うのか、それの本当の意味を考えた時、アイテムを得るためだけの狩りは正しかったと言えるだろうか。
考えても答えは出ない。でも、例え結論が同じだとしても、この様に考えることこそきっと意味はある。
火炎瓶に関しても、以前の戦闘でその有用性が存分に知れた。数少ない飛び道具、戦闘の幅もグッと広がる。投げなくとも、牽制用としてチラつかせるだけで効果がある。やはり炎への本能的拒否感があるらしい。少々高価であるものの、現時点では遺志の使用手段が限られる。
後悔をすることはないだろう。
次に、武器を強化しにいく。
家の中にゲールマンはもう居らず、辺りを蝋燭と暖炉が寂しく照らし出している。
それを尻目に、部屋の隅を占領している工房へと足を運ぶ。
『簡易な工房』
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武器の修理や血石を使った強化ができる。
他にも、今は失われて久しい工房仕掛けがあるという。
机1つ分の小さな工房は、しかし雑多な日用品を狩道具へと作り替えた。
それは、獣狩りの起源となった。
___
様々な工房道具によって机は散らかっており、少し錆びついた様な道具もあったが、どれも使えそうな程度に保存状態は良かった。更に、初めて使う人にもわかりやすい様に机には強化、修理の仕方などが書かれてあるノートが置いてあった。
見開きで置かれていたそれは、後から書き足された様な小さな吹き出しやメモがみっちりと書き込まれていた。読み解くのに時間は掛かったが作業自体はそう難しい話ではなかった。
早速、鋸ナタに巻いてある布を外し強化に取り掛かる。血石の欠片を取り出し、すり鉢の様な物で砕いていく。血石は意外にも脆く簡単に砕くことができた。しかし、血石は序盤では希少な素材である。所持数は3個、第一強化に必要な数も同数。その為、強化を失敗しない意味でも時間を掛けて砕いていく。
其れを刃の部分に刷り込み研磨していく。鋸ナタは刃先がギザギザである為、それ専用に研磨道具があり、その使用方法も別のページに細かく記載されていた。ただでさえ初めてなのに、手先が器用でない俺にはかなりの労力を要した。1つ目の血石を使い終わり2、3つ目へと取り掛かる。
そして、数時間の作業の末、何とか強化に成功した。最後に、解いた布を以前と同じ様に巻いていく。無くてもいいとも思ったが巻いてあったということは何かしらの意味があったからに違いない。
疲れた手を解しながら武器を持ってみる。
研磨による摩擦のせいか、熱を帯びている様に感じる。
早速外へ出て、凝り固まった体を解す意味合いでも素振りを行ってみる。柄を握った瞬間から何処か確信めいたものを感じた。
今までと振る速度は変わっていない、重さもほぼ変わっていない。
当たり前だ、俺の身体能力が変わったわけではない。
なのに
今までより風を切る音が強くなったのが明確に伝わった。
ゲームで言えば高が10程度の攻撃力の違いであっただろう。しかし、実際に肌身に感じて、それが違うことことを認識する。明らかに、先程の武器とは段が違う。
しかし、先程も言った様に俺自身が強くなったわけではない。
慢心しないようにだけ気を付けよう。
___
再び市街へと戻り、開通したショートカットから先に進む。
門のすぐ前にいる群衆で試し切りを行う。
相手の攻撃を間合いで避け、カウンター気味に攻撃する。俺は武器をはたき落とそうとした。
しかし、その刃は、相手の洋剣を根本から容易く切り裂きそのまま相手の胴体にダメージを与えた。
驚きの余り、続く二撃目が遅れたせいで反撃を喰らうが、刃がかけた剣では服に傷をつけるのが精一杯だった。それも次の攻撃で呆気なく倒れ、リゲインで傷が癒える。
余りの火力の上昇に驚きを隠せなかった。
素振りをした時点で確信はしていたがここまでだとは思っていなかった。
血石は出来るだけ早く回収した方が良さそうだ。
建物にいる群衆は外へと吊り出し、車椅子の群衆に察知されない様に屠る。
車椅子の群衆は、まだ此方には気付いていない。背後から近寄り車椅子ごと薙ぎ払い倒す。
この車椅子の群衆については思うところはあるが、それで自分が殺されるようなことがあってはならない。
彼の懐から水銀弾を拝借していると、目の前の机に一つの走り書きが残されているのを発見する。
以前は急いでいて見ていなかった其れを読む。
"獣狩りの夜、聖堂街への大橋は封鎖された
医療教会は俺たちを見捨てるつもりだ
あの月の夜、旧市街を焼き棄てたように"
医療協会は、以前に獣の病蔓延を防止する為、市民ごと旧市街を焼き払った過去がある。その惨劇をまた繰り返そうとしてるらしい。
しかし、俺の記憶通りなら上層部もおなじような有様であろう。最早、医療協会ですら、真っ当に機能しているかは怪しい。あまりにも杜撰で一方的な措置も、もしかすると教会の一部の独断なのかもしれない。
しかし、其れを咎める者も、咎められる者でさえ、ここにはもういない。この群衆らもそれを悟り、狂い獣に成り下がったと考えればどこまでも不憫に感じる。
せめても、未だまともな人位は助けてやりたい、と思うのは偽善だろうか。生きたまま焼かれるなど、それこそ地獄だ。
やらない善を説くのは本当はやらないことに、見捨てることに自責の念がありそれを誤魔化しているからだ。俺は、2度とそうはなりたくない。当事者だからこそ人事にできない、やる偽善の方が何倍も価値がある。
なるべく、早く聖堂街へ向かう必要があるかもしれない。
俺は、何かに急かされるようにして狂犬のいる道へと突き進んだ。
___
狂犬は檻に入れられていた影響か肋骨が浮き出る程には酷く痩せ細っている。故に、図体の割に体幹は酷く弱い。奇襲を掛ければ呆気なく倒すことができた。
檻から出た狂犬は気づかれる前に全て後ろから胴体を切り裂き処理していく。
また、以前と同様、檻に閉じ込められたものも処理していく。
そして、以前は行かなかった、先へと進む。
そこには、民家のへと吠え立てる狂犬の姿が窺えた。獣除けのお香が焚かれているのにも関わらず、一向に退く気配がない。
粗悪品を摑まされたか
丁度、お香が切れかけているのか
或いは、此処が下水道付近である為、お香の効果が薄れたのか…
何れにしろ、狂犬は此方に気付いていない。
後ろに陣取り、ため攻撃を浴びせる。
一撃で倒す。
すると…
「…あぁ、あんた、狩人なんだろう?」
「だったら、知らないのかい?
どっか安全なところをさ」
礼も前置きも無くそんな言葉が浴びせられる。
俺の返事を待つことも無く、相手は言葉で責め立てる。
「あたしゃあ知ってるよ」
「もう家の中だってダメらしいじゃあないの」
「あんたたち狩人が役立たずで、こんなことになってるんだから」
「あたしを、助ける義務があるってもんさ」
「さぁ、はやく
どこか知っているんじゃあないのかい?」
生憎、知ってはいるが今は教えることができない。
俺は知らないと答えるしかなかった。
「そうかいそうかい」
「役立たずだねぇ。それとも、ババアに用はないってかい?」
「ああ、余所者なんて所詮そんなものだよ」
「どうせ、あたしらを、おかしいと思ってんだろう!」
「消えちまいなよ!あたしゃあ知ってるんだよ!」
一方的に会話を切り上げ、それ以降は緘黙を貫いた。しかし、会話が成立した時点で以前の民家の者より相当にマシであろう。何より、ゲームでこの老婆が本当は我が子思いのいい人であることを俺は確かに知っていた。この老婆を見捨てる様なことは可能な限りしたくはない。
聞いているかは知らないが、避難所を見つけたら知らせに来るとだけ伝える。
民家の先は、大きな下水道へと繋がっており、入り口付近からでも分かる酷い異臭を放っていた。
入り口先の樽に隠される様にしてある脇道先
その縁側に、俺の目的とする人物は居た。
紅谷板を無造作に踏み鳴らしながら彼女へと近づく。それは相手へ自分を知らせる為の行動であった。誰でも、気配を隠され近付かれることは嫌だろう、狩人なら尚更。まぁ、こんなことをしなくとも気付いてはいただろうか。
彼女は、音に気付くと鉄柵から手を離し此方に視線を向ける。
ペストマスクに、猛禽類の羽を彷彿とさせる黒いローブに身を包んでいる。正に、鴉といった装いだ。
因みに、皆も知っているかも知れないがペストマスクとは、17世紀ごろに発明されたペスト医師の為の装束である。当時は、呪いや祟りなどより外因性を含んだ瘴気論(病気は悪い水や空気から発生する)が主流になりつつあった。嘴状のマスクはミントやクローブなどを詰めてそうした正気から身を守る為に作られた。しかし、霊的な物も未だ信じられており患者の視線も感染原因と考えられ、アイピースという目の覆いも付けられている。
鴉羽の"狩人狩り"、アイリーン
文字通り狩人を狩る狩人。とは言っても、彼女のそれは獣の様に無闇に殺し回るようなものではない。彼女は寧ろそれを嫌悪している。だから、獣の病を患い狩りの標的すら判別できない、そういった者たちを狩っているのだ。これ以上の醜態を晒さぬ様に、と。
特定の何かしらを専門としてかる狩人は確かにいる。その中でも異端的な存在。それも、当たり前の話ではあった。狩人と敵対することは百害あって一理なし。
狂った狩人は近づきさえしなければ獣を狩ること自体はする為、近づきさえしなければ無害なのだ。更に、その者を狩ってしまえばその場を担当する者が居なくなり獣が野晒しになってしまう。普段、獣は自分の縄張りを守る様に同じ場所を徘徊することしかしないが、もし別の場所、市民がいる場所などを襲ったらそれは誰の所為であるか。つまり、狂ったとて狩人を狩ると言うことはその者の責任を負うと言うことに他ならない。
また、狩人は悪夢に生きている、故に一度殺したとて差して意味はない。更には報復の為、何度も襲いかかって来るとなればその面倒さが伝わるだろうか。獲物を見定めた獣は執拗いものだ。故に、狩人を本当の意味で殺すには何度も、それこそ気が遠くなるくらいには殺さなければならない。夢を見なくなるまで。
結局、何が言いたいかと言うと彼女は強い、ということだ。
彼女は一眼で俺に敵意が無いことを感じ取り、武器に掛けていた手を下ろす。その後、少しの老いを感じさせる声で俺に同情の声を掛けてきた。
「…なんだい、あんた狩人かい…」
「それに、外から来たんだろう?」
「因果なことに巻き込まれちまったね。特に今夜は酷いものさ」
「これは新入りに、餞別だよ」
『狩人の確かな徴』
___
狩人の脳裏に刻まれた逆さ吊のルーン
これを模し、よりはっきりとしたビジョンを可能にする呪符。
これにより、血の意思を捨てず、狩人は目覚めをやり直せる。
まことに都合のよい技術である。
___
狩人の徴はこうである。
『狩人の徴』
___
脳裏に刻まれた逆さ吊のルーン。狩人の徴。
これを強く思うことで、血の遺志を捨て、狩人は目覚めをやり直す。
全ての出来事が、まるで悪夢だったかの様に。
___
狩人の徴は全ての狩人の脳裏に刻まれたルーン文字。所謂、狩人の象徴とも言えるものだ。使うと以前目覚めた地点に戻れるが血の遺志を失う為、事実上の死と言ってもいいかもしれない。苦痛から逃れたい場合は使うのも手かもしれない。
そんな全てを夢とする狩人の徴と違い、狩人の確かな徴は行った経験(血の遺志)を正夢の様に目覚めた後に持って来れる。序盤では、中々入手できない代物だ。血の遺志を多く抱えている時などに使うのがいいだろう。まさに夢のような代物である。
正気を失わずに、此処へと辿り着いたことへの褒美だろう。有り難く受け取る。
しかし、何故自分が新入りであることに気付いたのだろうか。
気になり、聞いてみる。
「匂いで分かるのさ」
「獣を長く狩ってきた者は匂いが違う」
「あんたも、何れ分かる様になる」
生き延びれたらね、と暗に言われている様に感じた。
「…だから、しっかりするんだよ」
「もう誰も人じゃあない。人を喰らう獣どもだからね…」
「どうした?まさか狩人が、獣が恐ろしいのかい?」
フフッ
質問されると思わず、受け答えに戸惑っていると彼女は、俺のその様子を僅かに笑う。
「あんた、狩人に向いて無いね」
「…まぁいいさ。恐れなき狩人など、獣と何が変わろうものかね…」
吐き捨てる様な言葉と共に会話を切り上げる。
俺は、それを見計らい此方の要求を伝える。
「なんだい、あんた、しつこいね」
「……ククッ、それは何の冗談だい?」
別に、冗談で言ったわけでは無い。
そう伝えると…
何のつもりだろうか
彼女は、徐に腰から刃をとりだす。
「あんた…、可笑しなことになってるね」
「あんたには悪いが、一回死にな」
急なことに、体が硬直するも奇跡的に鋸ナタを構え防ぐことに成功する。
片手で振り下ろされた1尺程の歪んだ刃は、しかし両手で押さえて尚、押しつぶされそうな程に重かった。そのまま吹き飛ばされて、床板を軋ませながら転がる。
直ぐ様、体制を立て直しすぐ側にまで迫るアイリーンから逃げようとする
アイリーンも俺に滑る様な
破れかぶれに武器を振り回し、相手を退ける
一体、どういうことだ
訳が分からない
意味が分からない
何故、攻撃されなければならない
俺は唯、
「戦闘の合間に考え事とは、随分と余裕そうじゃないか」
アイリーンは、俺の薙ぎ払いを軽く躱しがら俺を追い詰める
上段
下段
突き
変形攻撃
どれもが、掠りもしない
逆に、相手の攻撃は全て此方に当たる
「あたしだって本意じゃないんだ」
「年寄りのいうことは素直に聞くもんだよ」
アイリーンはそんな勝口を叩いた
戦闘中にそんなことが出来るくらいには手加減をされていた
実際、攻撃頻度も少なく銃なども使ってこない為、俺は今こうやって自分を顧みず攻撃ができている
それでも、巫山戯るな、と言ってやりたかった
例え、それが事実だとしても、死んでなんてやるもんか
俺には、それに返す余力すら残っていなかった
必死に、緩急を付けて当てようとする
防ぐことすらされない
それが、悔しかった
俺だって、かなり成長した筈だ。今まで、此処に来るまで人を殺したことすらなかった俺が、それでも考えて頑張ってきたんだ。そうだ、此処に来るまでは怪我だって転けて擦り傷や打撲を負うくらいが精々だった、筈だ。切られるのは勿論、身体を喰われたりするのだって初めての経験だった。言葉で表せない位痛かった。
それでも、此処まで来たんだ。
なのに、それがどれ一つとして叶わない
確かに、相手は俺の何倍も此処で辛い目にあってきたのかも知れない
それでも、こんなにも差があるものなのか
武器のリーチだって倍以上の差がある
更には、彼女は未だに本気を出していない様に見えることもそうだった
相手から距離を離したい一心で、火炎瓶を取り出そうとした瞬間
腕に何かが突き刺さる
『スローイングナイフ』
___
細かいギザ刃のついた投げナイフ
特に古狩人ヘンリックの愛用したもの
獣に対し大きなダメージが期待できるものではないが上手く使えば、牽制と翻弄に威力を発揮するだろう
___
かなり深くまで突き刺さったナイフ
明らかに、牽制の火力ではないと思った
刃を自傷を承知で引き抜く
痛みに悶えながら、それを相手に投げつける
怒りやら絶望感やらで、思考が乱雑になる
相手との距離が離れたのを見て、透かさず輸血液で回復する
当然、相手が完全に回復を許す筈もなく2つ目の輸血液をナイフで破壊され血が辺りに散らばる
続くようにして、距離を縮め突き攻撃を放ってくる
後ろへ避けようとするも後ろが柵であることに気づく
相打ちを覚悟で柄の根本を握り締める
相手の突きを必死に堪えて、溜攻撃を喰らわせる
当たったと思った
しかし
そこで、相手は初めて武器変形を使用する
武器が割れ、双剣となる
片方の刃で鉈を受け止められ、もう片方で心臓を一突き
会心の一撃でさえ片手で受け止められ、呆然とする
最早、抗う気すら起きなかった
薄れる意識の中、声が聞こえた
「あんた、まだ夢を見るんだろう?
…人形のお嬢ちゃんに、ババアがよろしくってね…」
まともになったら、また来な
___
目が覚めれば、狩人の夢にいた
アイリーンの言葉がひたすらに脳をめぐる
おかしなことになっている
まともになったら、来い
改めて、考えても意味が分からない。
教えるなら、もっと分かりやすく教えてくれ。唯でさえ、分からないことだらけなのに。
俺が、銃の使い方を知らないことがそれ程変だったということか。
しかし、それは俺が異邦人だからで、今までで銃を使ったことなどそれこそゲーム位のものだ。
アイリーンも最初に『外から来たんだろう』と言っていたことから、そのことはわかっている筈だ。水銀弾を銃弾とし血を混ぜ打ち込むヤーナム独自の機構など異邦人が知っている筈はないからだ。それとも、俺以外の異邦人は皆んな最初から使えていたのか。俺は俺以外のことを知らない。ギルバードに聞くというのも手かも知れない。
でも、使え無くとも殺しまでするだろうか。彼女は滅多矢鱈に人を襲う様な人間をこそ嫌悪しているため、自分がそのような行いをする事はないと思われる。本意ではないと言っていたことや、本気では戦っていなかったことからもやはり知っていること、使えることが当たり前という様な意味合いを持っているに違いない。それにしても、もっとやり方はあっただろうが。殺す以外方法がなかったと言うことだろうか。実際、あの戦闘は俺を出来るだけ傷付けまいと、最後以外は攻撃を殆どしてこなかった様に感じた。
ならば、何処かに教えてくれる様な人がいたのか、或いは、使用法などが書かれてある紙などが何処かに置いてあったか。
俺は、何かを見落としている可能性が高い。
今までずっと、左手に握り締めていた獣狩りの短銃を見やり、思考する
いや、待て…
ずっと、左手に握り締めていた?
そうだ
そうだった
なんで、忘れていた
俺は、最初に輸血液を輸血された時点で、銃の使い方を知っていた筈だ
獣狩りの群衆を倒す際も
狂犬を牽制する際も
アイリーンとの戦闘時でさえ
俺は、撃てなかったんじゃない
撃たなかった
知らないんじゃない
銃の存在そのものが記憶から抜けていた
銃を撃つなんて簡単じゃないか
引き金を引くだけでいいのだ
俺がいつも輸血液を、火炎瓶をどこからともなく取り出す様に
唯、弾を念じ、血を念じるだけで撃てる
そういうものだ
今一度、それを試す
ダンッ
乾いた空砲が辺りに響き渡ることでそれが証明される
俺は本当におかしくなっている
いつから
どこから
記憶が弄られている
誰に
もしかしたら、俺のゲームで得た知識も弄られているかも知れない
俺の根底が覆された気がした
全てが朧げで不安定に見える
膝を折る
動悸が激しくなる
「…大丈夫ですか、狩人様?」
すぐ側から、声が聞こえる
何故、彼女が…
そこには未だ動くはずのない人形が膝を折り、俺を心配そうに見る姿があった。
少女の名前
-
なし
-
勝手に決めろ
-
考えてやろう