気付いた時には身体が動いていた
急いで距離を取る
今も背中を掠める質量に、俺は対抗する手段を持ち合わせていなかった
そして、同時に察していた
この鬼ごっこが長くは続かないことも
この半径100m程度の墓地に於いて、5mというリーチは反則にも近かった(枝部分も合わせると6〜7mはあるだろうか)。
一撃を避けるにも相当の体力を使った。相手はあれだけの重量を振り回しながらも、その敏捷性を衰えさせることはなかった。その分、攻撃も単調になったとはいえ避けやすくなった訳ではない。獣が一振りすれば墓石は忽ちに石ころへとその姿を変え、剥き出しの地表は砂を巻き上げた。そこへ畳み掛ける様な振り回し。勿論意図したものではないだろうがより大袈裟に回避することを強いられた。
それ相応に隙も予備動作もあるとはいえ、今躱すことができているのだって奇跡みたいなものだった。しかし、このままでは不利なままだということも分かっていた。体力の枯渇を狙うのは愚策だろう。獣は未だその動きに衰えを見せることがない。俺の体力もそれができるほどの余裕はない。
やはり、前進する他に道はなかった。使える道具ももう何一つ残っていなかった。どうせ、できることなどそれしか無かった。無駄に作戦など考えて恐怖から視線を逸らすのは、もう疲れた。
獣の振り下ろしを掠めながらも同時に前に進む
獣も俺を迎撃しようと振り下ろした質量を無理やり此方へと振り直す
ことはなかった
直前まで迫った段階で獣は唐突にそれを手放す
対応が遅れ、俺はカウンターの蹴りで腹を貫かれる
武器を振り下ろそうとしていた直前
防御することも叶わなかった
俺は漸く、自分が焦っていたことに気付く
宙を舞う俺に、相手は直ぐに持ち直した樹木を振り被る
何とか、空中で身を捩り武器を構えるが意味は薄かった
空中では踏ん張ることも叶わなかった
紙切れの様に人体が舞う
追撃と言わんばかりに木を何度も振り下ろされる
此処は四隅であった
横には避けようがなかった
何とか、鋸ナタを構えるも意味がなかった
ギチリ
嫌な音が鳴った
何か不味いと思った
急いで、立ち直ろうとする
出来るわけがない
今、地面に仰向けになって衝撃を地面に逸らせている状態でさえ、心臓を殴られる様な衝撃に襲われている。胸骨、腕も確実に骨折している。息をする度に、肺に刺さったであろう胸骨が暴れ回る。腕で武器を今も尚、支えられているのは単に酷使した筋肉が硬直しているから。腕と同時に潜り込ませた膝もそろそろ感覚がなくなって来た。
この足では、まともに逃げきれない。四隅であったためどちらにしろ逃げることはできなかっただろうが。
そして___
バキン
金属が砕ける音
勿論、俺の人体から出た音ではない
それは俺の唯一無二の獲物が、半ばから砕け散った音だった
思わず、呆ける
そこに、振り下ろされる重量物
沈んだ、身体が浮き上がる
これでもよくやってくれた方だと思った。修理は此処へくる前にやっていた。事前に激しい戦いになることは分かっていたし、事前に準備できることの一つだったからだ。だが、聖職者の獣やガスコイン神父の攻撃を正面から何度も受けたのだ、壊れるのは道理だった。特に、ガスコイン神父との戦いでの損傷が激しかった様に感じる。恐らく武器の強化の度合いで負けていたのだろう。
寧ろ、鋸ナタが此処まで耐えてくれていたのが異常だった。碌に回避も出来ず、逸らすこともできず、だから仕方ない、と。安心していた、甘えていた、壊れることはないだろうと。
今更後悔しようともう遅かった。俺にはもう戦う手段が殆ど残されていない。当然、鋸ナタはもう使い物にならない。この半ばから折れた鋸ナタでどれ程の傷が付けられるだろうか。また、当てるためにも以前と違い懐まで入らなければならない。他に出来ることといえば精々が残り数発もない銃撃だけだろうか。それも、大した有効だとはなり得ないだろう。
嗚呼、駄目だった
結局、こうなるのか
一度貰ったチャンスさえも無駄にしてしまうのか
それだけは絶対に嫌だ
でも、どうしろって言うんだよ
「…………、……………!」
これ以上、頑張れねぇよ
「……さ…、が……れ!」
もう、十分だろ
「狩人さん、頑張れ!」
お父さんを、助けてあげて‼︎
目が醒める
消えかけの意識に火が灯る
どうしようもない現実に一筋光が見えた気がした
俺なんかよりずっと小さくて、家族を失って間もない少女が勇気を振り絞っているのに、絶望しているだろうに
それでもと、こんな俺を助ける為に戻って来てくれたんだ
それなのに、俺だけ悲劇ぶっているなんて恥ずかしくて仕方ない
自分から始めたことなのに、勝手に諦めて馬鹿みたいだ
みたいだ、じゃない
馬鹿だ
大馬鹿者だ
改めて自分を恥じる
英雄じゃなくていい
カッコ良くなくていい
不細工でいい
今の俺にできる精一杯でいい、だから…!
俺の3m程手前に投げられたそれ
少女の力では、それが限界だった
でも、十分だった
獣が少女に気付きそちらを向く
こんな少女を殺すのに、武器など必要ない、と樹木を投げ捨て、牙を剥く
ガスコイン神父は、娘のことも忘れてしまっていた。きっと妻、ヴィオラのことも。思い出も、名前すら。いや、忘れたのではない。忘れさせかったのだろう、彼の獣性は。
忘れればもう自分を縛る枷などないのだから。忘れて、血と狩人ばかりに酔うことが彼(獣性)の幸せなのだから。
そして、その囁きにガスコイン神父は抗うことができなかった。もう、楽になりたいと。思い出せば、またやり場のない苦しみに醒めてしまうからと。
それは最早、ガスコイン神父ではない、全てから逃げた哀れな獣(男)だった。そして、それを突き付けようとしてくる、見るだけで心がどうしようも無く騒ついてしまう少女は、獣にとっては俺より目障りだった。
獣は死に目の俺に目も暮れず、一歩、また一歩と歩みを進める
それが、どうしようもなく不快だった
待てと、俺はまだ死んでないと、声高々に言ってやりたかった
喉は掠れ、小さな吐息を放出するばかりだった
気付かない獣は、尚も少女へと走り寄る
少女は逃げなかった
腕が今にも振り被られる直前
「お父さん
今まで、ごめんなさい」
一瞬だけ、速度が緩む
その、一瞬があれば十分だった
2人の間に割り込む
爪と刃が交錯する
ゆっくりと押し返す
自分が押し返された事に驚く獣に蹴りを入れる
しかし、蹴りは腕にガードされ距離を離される
獣は先程、投げ捨てた樹木を掴むと威嚇する様に振り回す
気にせず、前に攻め込む
豪快な横薙ぎ
それを、滑る様にして回避する
胴に二発
一発は、樹木によって防がれるがその太刀筋は見事に木を叩き切った
二発目も、今まで付けた傷よりずっと深い
少女から受け取った獣狩りの斧とそれによって俺と獣は漸く、対等となる
獣は、今の武器が役に立たないと分かると俺に投げつけて、追随する様に仕掛けてくる
それを叩き落とし、すれ違い様に一撃
背後から迫る一撃を砕けた鋸鉈で防ぐ
更に、一発
しかし、これに関しては力が入らず大した傷とはならなかった
それからは、乱闘だった
相手が一発入れれば、此方も一撃を入れ
相手が距離を取ろうとすれば距離を詰め
防御など考えも及ばなかった
回避するのが勿体無いと思った
吹き出す血が
浴びる血が
この時ばかりは心底心地よく感じた
楽しくて仕方なかった
受けた傷をリゲインで回復し、相手もまた同じことを成した
しかし、腕を掴まれ投げ飛ばされることでそれは中断された
まだ、足りないとそれを欲する
そこで、頬を伝う血液が蜜の様に垂れて俺を誘っているではないか
腕で拭うと同時に、思わず舌を伸ばした
「呑まれるな」
それを舌で転がし、喉を伝った後にはもう遅かった
自分が何をしていたか理解する
あれだけ煌びやかに見えた光は唯のドス黒い赤へと変わり
喉奥を粘つくそれもヘドロの様に感じた
一瞬でもそれらを感じてしまったことに途轍もない嫌悪感を感じる
呑まれ掛けていた、充血の快楽に
『獣血の丸薬』
___
獣血を固めたといわれる巨大な丸薬
故は分からず、医療教会は禁忌として関わりを否定している
飲んだ者を一時の獣性に導く
獣性は攻撃により、傷つき裂ける肉と返り血により高まりそれを続けることで、更なる力と快楽を、使用者にもたらす
___
使用することで一定時間、攻撃により獣性が溜まるようになる。また、獣性は溜めれば溜めるほど受けるダメージが増える。諸刃の剣、獣の本性を体現したアイテムだ。
もう、その獣性は落ち着きを見せている。自分から流れた血がそれを鎮めてくれたのかもしれない。あのまま獣性が進行すれば、受けるダメージが更に増えればリゲインが追いつかず死んでいたかもしれない。
リゲインは万能ではない。
血はどうしても滴り落ち、それを受け皿に戻すことは出来ないからだ。
また、仮に倒せたとしても血に呑まれ目的であった少女すら手にかけていたかもしれない。そうなれば本末転倒だ。人血は鎮静の効果を持つ、自分の愚かに感謝もしていた。
幸い、動揺は一瞬であり表には出さなかった為、相手に気取られることはなかった
戦闘は終盤、睨み合いが始まった
俺も、先程の攻撃でかなりの傷を負った
獣性の効果も先程のでほぼ失った
獣も、余裕そうに振る舞っているが満身創痍なのは分かっている
全力で動けるのも次が最後だ
間合いを図り、距離が空き少しばかり回復させた体力を次の一手へと賭ける
何の拍子か、同時に動き出す
一瞬の間に交差する
片手の攻撃を鋸ナタで防ぎ、もう片方で首を狙った
しかし、もう一押しが足りなかった
後ほんの少しが届かなかった
刃は途中で留まり、それ以上を許さなかった
相手の攻撃は、俺の横腹をゴッソリと抉り致命傷を与えた
結局は、身体能力がものを言った
振り返りの一撃が俺に迫ろうとしている
最初とは違い、酷く弱々しい一撃はそれでも致命の一撃たり得た
俺も負けじと腕を振るうが、相手の方が一歩早かった
それでも、俺の一撃は確かに届いた
少女の手によって
獣の背後に見えた少女は、火炎瓶を投げながらも目で訴えていた
(お父さんをこれ以上苦しまない様に…)
俺に振るわれた手は虚空を切る
そこに、斧を一太刀
勝敗は決した
___
俺の肩に凭れ掛かる様に倒れ込む獣
もう身体を動かすことはできないだろうが、まだ息だけは辛うじてしていた。
俺はその肩をゆっくりと傍らの壊れた墓石に乗せる
その最中に微かに聞こえた
__娘を頼む
ああ、分かった
ガスコイン神父は先程の獰猛な笑みと違い少しだけ満足そうに微笑んだ
それ以上の言葉は不要だと思った
これ以上苦しみが続かぬ様にと、介錯しようとする
「狩人さんお願い、待って…!」
振り上げた斧を下ろし、少女の方を向く
「最後に、これを聞かせてあげたいの」
少女の手には、小さなオルゴールが握られていた
そして、小さくも透き通る様な音色が唯2人ばかりを包んだ
「お父さん、今までごめんなさい」
「夜は危険だから、外に出るなって言ってたのに私、何にも分かってなかった」
「お父さんたちがどれだけ大変だったのか、全然知らなかった」
少女は震える口で言葉を紡ぐ
ガスコイン神父は唯、黙って聞いている
俺はそれを遠くから眺めた
「獣除けのお香だって、私を守るために一杯焚いてくれて」
「異邦人だからって、そんなに貰えなかったのに」
「お仕事大変なのに、遊んでっていつも無理言って」
「私、迷惑ばかりかけて…」
溢れた後悔は留めなく、涙と共に溢れ出た
今まで堰き止めていたものが、アイリーンと出会って再び持ち直した精神が
親の前では形無しだった
拙くて言葉を詰まることもあった
同じことを何度も口に出した
大きなことから些細なことまで全てを口に出して懺悔する
違う
ガスコイン神父が聞きたいことは、きっとそうじゃない
終わりこそ、死に行くものにこそ掛けられる言葉がある筈なんだ
少女の背中をそっと押しそれを伝えようとする
「あんた、それは無粋ってもんさね」
「あそこに、あたし達の居場所はないのさ」
肩を、掴まれる
突然のことに驚くも全てのことに合点がいった
少女にアイテムを持たせたのは彼女だった様だ
となると、ここまで連れてきたのも彼女だろう
しかし、腑に落ちない点もいくつかあった
そうだとしたら何故、態々そんな回り諄い手段をとったのだろうか
直接渡すのでは駄目だったのだろうか
何故少女に俺の後を付けさせたのだろうか
それとも、アイリーンは少女がここに来た一件とは関係がない?
少女が自らついて来たという可能性も考えられるがこれは本人に聞くしかない
そも、少女と彼女はどう言った関係なのか
獣となり果てた狩人を忌み嫌う彼女がどうして獣血の丸薬など持っているのか
色々聞きたいことはあったが、今はそういう場面じゃないのは分かった
「ほら、見てみな」
「あいつは、やる時はやる男さ」
視線の先では、涙を目一杯に溜め込んだ少女にゆっくりと腕を差し伸べる父親の姿があった
一瞬、手を空中で遊ばせ引く素振りを見せながら、少女の頭に手を置く不器用な父親の姿があった
「おとう、さん…」
「お前は、俺の立派な娘だ」
獣となった声帯では碌に喋ることも難しいだろう
それでも、ゆっくりと言葉を紡ぎ少女を慰めた
「だから、謝らなくて…いい…」
「お父さん…、今まで、ありがとう…」
「それで…いぃ…」
打切棒で素っ気ないその言葉には確かに愛情が込められていた
彼はこの一時だけは狩人も獣も辞めて、真に父親であることができた
少女は、繰り返し「ありがとう」を伝えた
言葉を尽くすことはなく、何度も何度も
しかし、彼ももう限界だった
彼は十分満足してしまった
娘も妻も蔑ろにして血に明け暮れる日々
それが2人を守る為だったとしても父親としては失格だ
許されようなど鼻から思っていなかったし、寧ろ内心では恨まれているとさえ思っていた
終わりは言うまでも無く碌でもないものになる
2人に知られることもなく孤独に死んでいく
その報いは、死後にも続いていくのだろう、と
最後に娘に何を言われようと受け止める気でいた
しかし、いざその時が来てみて思った
案外、悪くない
だからか、少しづつ頭を撫でる手が動かなくなり
遂には下へと垂れ下がる
___
YOU HUNTED
___
ガスコイン神父は元からそこにはいなかったかの様に消え去った
辺りには暫し少女の嗚咽だけが響いた
___
「嬢ちゃんは、もう大丈夫かい」
「うん…」
「ならいい。ここも安全じゃない、この先のオドン協会に向かうよ」
その前に、少女に渡すものがあると伝える
『真っ赤なブローチ』
___
女物の真っ赤なブローチ
刻まれたヴィオラの名も見て取れる
その宝石は、誰か狩人の贈ったものだろうか
使用により希少な雫の血晶石となり
工房道具があれば、あらゆる武器を強化できる
___
ガスコイン神父が妻ヴィオラに送った宝石
今は、どちらも居らず少女の物となる。
戦闘の最中、獣が近寄らせない場所があった。ヴィオラの死体の付近である。それは意識か無意識かは不明だが、そこに意図せず接近した時はいつもより反撃が激しかった様に感じた。しかし、ガスコイン神父自体もその死体に近づくことは疎か視界に入れることするなかった。妻の死を受け入れられない、こんな姿で近付きたく無いという精神が働いたのかもしれない。
言うまでも無いが俺が持つべきでは無い。砕き結晶石とすることなど以ての外である。まず最初に、ガスコイン神父に祟られることだろう。
装飾品として使用するなら、それは少女にこそ映えるものだろう。
少女は、それをギュッと抱きしめるとまた泣き出しそうになる。
返すタイミングを間違えたのかもしれない。もう少し間を置いてからにすべきだったかも知れない。父親との別れを済ませたばかりの少女には酷だったろうか。しかし、その期間俺が持っていると言うのは違う気がすると思った。後に返すにしても、タイミングが分からないし尾を引かれる訳には行かない。ここで全てを清算するべきだと思ったからだ。
ならば、今問題なのは少女をどうやって泣き止ませるかだ。しかし、何もいい言葉が思いつかなかった。あまり口が得意ではなかった。瞬時にあれこれ思い浮かべるもどれも少女の心には響きはしないだろう。
しかし、心配は杞憂に終わる。
「ありがとう、狩人さん…」
「忘れて無かったんだね、お願い」
少女は涙を堪えて、お礼を伝えて来た。
それを見て、敵わないな、と感じた。一回りも小さい子供に気を使われたことを悔いる。
「話はそこまでだよ」
「…うん」
ガスコイン神父の持っていた鍵によりオドンの地下墓の門が開く。
そこから梯子を登ると小さな書斎へと辿り着く。
『血晶石の工房道具』
___
狩人の夢から失われていた、工房道具の1つ
これを取り戻した狩人は血晶石を捩じりこみ武器を強化できる様になる
血晶石の強化は、また武器の性質を様々に変化させる
それは、血そのものが生き物を規定するように
___
宝箱に入っていたそれは武器に血晶石をつけることができる道具であった。今は血晶石を持っていないため扱うことはできないが、今後激しくなる戦いには必須であった。何せ、付けるだけで強くなるのだから。
血が生物そのものを規定すると言うなら、無機物である武器に血晶石をつけることはどう言う意味を持つのだろうか。無機物であっても生命は宿る物だろうか。
日本でも似た様な考え方があった。八百万の神、海や山など全ての物には神(精神的性質)が宿っているとする観念。長い年月を経た道具などに宿るともされている。この世界ならそう言った話もあり得るのかも知れない。
"ビルゲンワースの蜘蛛が、あらゆる儀式を隠している、見えぬ我らの主も。ひどいことだ。脳の震えが止まらない"
辺りは本が乱雑に捨て置かれ、地面に散らばったものに湿気でやられていた。どれも腐敗が進み字も点ではっきりしない。その中でも机に置かれた、比較的真新しい物にはそう書かれていた。
見えぬ我らの主、啓蒙を一定以上上げることによって見えるそれは上位者の一角でもあった。いや、それらと言った方が正しいだろう。主とはその中の1柱に過ぎない。好戦的では無いが近付けば、脳は忽ちに血を吹き出し現実を否定する。
そしてそれはこの先にも確かにいるのだろう。
階段を上がった扉の先はオドン教会
『地下墓の鍵』
___
オドン地下墓を閉ざす門扉の鍵
この地下墓の先、オドン教会は聖堂街の中心にあり、だが、いまや人気のない廃教会でもある
噂では、オドンの住人は皆、まともではなくなってしまうのだと
___
それは噂ではないのだろう。知識が確かなら今も主とやらはこの教会に根付いている筈だ。
しかし、元より安全地帯などそう多くはない。狩人の夢も、今は俺しか行くことができない。少女の家だって、獣除けのお香はそうは残っていなかっただろう。他は挙げるまでもない。不用意なことさえしなければ、安全なのは間違いないのだ。
「なぁ…、あんた…もしかして、獣狩りの…狩人さんか?」
教会の隅で背を丸める赤いローブを羽織った老人
露出した腕は異様に細く、血色も酷く悪い
顔も酷く痩せこけていて尋常ではない
老人は他所他所しい、それでいて粘り着く声で俺に話しかけて来た
「あぁ、すまない。お香のせいで、匂いが分からなかったよ」
「あちらは、直ぐに分かったんだがね…。話しかけ辛かったんだ」
アイリーンを見やりながら言う
彼女程、多く獣を狩っているとお香越しでもわかる物なのだろう
「でも、良かった。あんたが狩人なら、お願いがあるんだ」
「獣狩りがはじまって、まともなのは皆閉じこもってる」
「昔のように、いつものように、全てが終わるのを待っているんだ」
「…でも、今回は異常だよ。実際、閉じこもった連中にも犠牲がではじめてる」
「さっきから、女の悲鳴と獣くさい呻きばかりが増えてるんだ」
「おそらく、ヤーナムはもうおしまいだ…」
ヒヒッ
狂気に塗れた嘲笑は、喉に引っ掛かり不気味さを演出した。
「でも、もしあんたがまともな生き残りを見つけたなら」
「この場所、「オドン教会」を教えてあげて欲しいんだ」
「ここは安全だ。獣除けのお香もしっかりと焚かれてる」
「だからなんとか逃げてこいってさ」
「あんたに頼る話じゃないのは分かってるんだ、だけど…」
「なぁ、お願いだよ…」
「あとは、まともな生き残りがいてくれれば…」
「あぁ、楽しみだなぁ…」
ヒヒッ
最後の台詞は、心の言葉が溢れ出た物だろう。夢心地で、もうそれが叶った後の光景を幻視している。俺がいることなど眼中にもない様だ。単なる善意ほど怖いものは無い。だからこそ、後ろめたいことを隠される位なら、こうして包み隠さず明け透けな態度の方が返って安心できた。気分がいいかは別として。
それに、老人が言っていることは全て事実ではある。籠っている人々も獣になる可能性がある今、この教会より安全な場所などそう多くはない。少なくとも、俺はここ以外を知らない。元より、この老人言われなくともそうする算段だった。また、少なくともこの老人に関しては何もして来ないだろうし、何もできないだろうという考えもあった。やる度胸も無ければ、力もない。少女に護身用具でも持たせれば大丈夫だろう。そういう意味では信用していた。
それから、アイリーンや少女と少しの会話をして、俺は狩人の夢へと目覚めるのだった。
感想の返信、作者の考察(考察は活動報告や後書きを使用)
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前者だけいる
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後者だけいる
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どちらもいる
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どちらもいらない