終わりのアスタリスク   作:鉄血

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第三話

ガタンガタンと電車に揺られること十五分。

目的地であるアリーナ前の駅に到着した。

 

「いっぱい人いるねー。・・・全員オタクなのかな?」

 

「全員・・・とは言わなくても結構な数はいるんじゃねえの?」

 

そんなことを言う二人に対し、青年───浅井晴臣は弟達に言う。

 

「イベントがあるんだ。そりゃ人も来る」

 

イベントの力は恐ろしいぞ?

だが、晴臣は別のことを考えていた。

 

(ここで出てくる第一ヒロインの扱いが大変なんだよな)

 

第一ヒロイン 小倉唯

 

背中まで伸ばしたウェーブがかったブラウンに近いブロンドヘアに、大きな緑色の目。スタイルも良く、性格の方も正義感が強く真面目な所もあるがちょっと天然が入っているというこのゲームのキャラランキングで一位を独走するくらいの人気キャラクターだ。

だが、扱いが大変と言うのも理由がある。

それは普段の押しは弱い癖に一度吹っ切れると、一人でどこまでも突っ走っていくのだ。

しかもたちが悪いのはヒロインの怪物化だ。

それは彼女に与えられた力のせいでもあるのだが、それでも彼女が吹っ切れると自制心が抑えられなくなってしまい、怪物化した彼女を主人公が殺るとかいう胸糞エンドだ。

 

(下手に俺が関わると、主人公の優輝じゃなくて俺に好感度が上がるからなぁ・・・)

 

晴臣が唯一やらかした失態。それは原作ヒロインを知らずとはいえ攻略してしまったことだ。

何周目かの時、それでやらしたことがある。

主人公の優輝ではなく自分に好意を持たれてしまい、それに気づかず唯に拉致られ監禁エンド・・・しかも彼女、この国で有名な車会社の社長令嬢でもあるので誰もいない別荘に拉致られるという徹底ぶりだった。

その時はそんなエンド知らねえぞ!?彼女がいない時、弟と叫んだくらいである。

つまりはコスプレするし、真面目で正義感あって誰にでも優しくて可愛いけど、なにしでかすか分からない爆弾と言えばいいか。

声も少し小さくて可愛いから怒ってもあんまり怖くないが・・・吹っ切れるとガチで怖い。

 

「兄貴?」

 

「お兄ぃどうしたの?」

 

「・・・なんでもねぇ」

 

そんな晴臣の気など知らずか主人公と妹は首を傾げてくる。

お前らは能天気で良いよなぁ!そう言いたい。

そんな彼等はイベントをしているアリーナまで足を運ぶ。

そしてそこには沢山の人がいた。

 

「おおー、人がいっぱいだー」

 

「ああ。こりゃ並ぶのに時間がかかるぞ」

 

そんな呑気な話をしている二人に対し、晴臣は辺りを見渡す。

何度も見た光景だ。そんな中、彼等の後ろから声がかけられた。

 

「“ハル先輩“?」

 

その声に晴臣は振り返ると、そこには伊達メガネを掛け、アニメキャラのコスプレをした小倉唯がいた。

 

「おお、小倉か」

 

相変わらず露出多めな衣装のコスプレに晴臣は苦笑する。

そんな中で戸惑いの表情を浮かべる弟がいた。

 

「お前・・・小倉だよな?」

 

「あ、浅井君。こんにちは」

 

律儀に挨拶をする彼女に対し、主人公である弟はというと、彼女の意外な一面を見て、思考停止していた。

そうだよなぁ。生真面目で生徒達の人気者で勉強も出来て委員長気質で社長令嬢な彼女がこんな一面を持っていたら思考停止するわな。

 

「え?なに?にいに達の知り合い?」

 

「優輝のクラスメイトで車会社エニックスの社長の娘さん」

 

俺はそう言うと、理央がマジで!?と言って彼女を見る。

 

「後は兄貴のバイト先の後輩なんだっけ?」

 

「そう」

 

たまにバイト先の喫茶店で優輝の奴が金を落としにくる時に接客してるもんな。

 

「ハル先輩にはお世話になってます」

 

「別に大したことはしてねえよ?」

 

何周も喫茶店で働いてんだ。何百年も働いていりゃあベテランどころか廃人だわ。

 

「それでハル先輩と浅井君達は何をしにここへ?」

 

「コイツが行きたいって言ったから」

 

「なにおう!?私だけじゃないじゃん!!」

 

優輝に抗議する梨央に対し、晴臣は言う。

 

「こいつ等のお守り」

 

「兄貴!?」

 

「お兄ぃ!?」

 

そんなことで叫ぶ二人に、彼女はくすりと笑う。

 

「ハル先輩も大変ですね」

 

「まあな。それで小倉は?またいつものか?」

 

内容は知っているが一応聞いておく。

 

「いえ、今日はお店のお手伝いで」

 

「ああ、なんかやるって店長が言っていたな」

 

「はい。だからこの格好なんです。その・・・似合っていますか?」

 

もじもじとする彼女に俺はあー・・・とボヤいてから彼女に言った。

 

「ああ、似合っていると思う」

 

「それは良かったです」

 

笑う彼女に俺はそっぽを向くと、ソレを見た理央はニヤニヤと笑っていた。

 

「お兄ぃ照れてるー」

 

「うっせえ」

 

ウリウリ〜と脇腹を突いてくる妹に俺は押しのけ、彼女に言った。

 

「と言うか小倉。お前、店はいいのか」

 

「あっ!」

 

そう言えばといった表情をする彼女に、俺は言う。

 

「早く行っとけ。店長にどやされるぞ」

 

「はい!ハル先輩ありがとうございます!」

 

そう行って掛けていく彼女に俺は弟達に言った。

 

「さて・・・いくか」

 

「おう!」

 

「うん!」

 

イベントまでもう数時間だ。それまで楽しむとしようか!

しかし、俺は長年生きすぎたことで忘れていた。

この時点で彼女はハル先輩とは言わないことを。

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

最初は信じられなかった。

 

 

「やっぱり“ハル君“だった」

 

彼女───小倉唯は紅潮した頬を隠すことなく、上着から写真を取り出す。

それは“晴臣“の写真だった。

 

「ハル君 ハル君 ハル君 ハル君 ハル君・・・・」

 

私を恋人にしてくれたことを忘れられない。私を泣きながら殺してくれたことを忘れられない。私と愛し合ったことを忘れられない。

私が吸血鬼になった時、ハル先輩は私を救おうとしてくれた。飢えに耐えられない時、血を分けてくれた。私が化け物になりそうな時、泣いてくれた。

 

『ごめん・・・ごめんな・・・なあ、俺はあと何回、彼女等を殺せばいい?あと何回・・・俺は繰り返せばいいんだ』

 

泣かないでと言いたかった。抱きしめたかった。声をかけたかった。慰めたかった。

 

「・・・ハル、君」

 

浅井君じゃない。私をぐちゃぐちゃにするのはハル君がいい。

ああ。この胸に燃える燻りが何時までも収まらない。

こんな独占欲が強い私をハル君に見せられない。

だってこんなにも醜いもの。

 

 

この世界でのバグ。それは彼女が他の周回の過去を引き継いでいたことである。




プロフィール

浅井晴臣 アサイ ハルオミ

転生者 何千回、何万回と繰り返し続けたただの一般人。
主人公の兄として”弟”と転生する。

何度も生と死をくり返したせいで本能的に自壊衝動に駆られている。が、それでも止まれない。
彼が本当の死を迎えられるのは、ハッピーエンドを手に入れた瞬間だけであるのだから。


■■■■■

彼の内側にいる昆虫のような竜。
転生する前のハルオミの弟。
本来であれば彼が兄の役割をやる筈の人間だった。
■■■に愛され、彼が主人公をすればこの物語を繰り返さずに済んだ。
それでも───彼は兄の幸せを願う。
それは兄が転生前に得られなかったものだから。
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