【鬱の子】   作:湯タンポ

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今考えたらごんぎつねって中々の曇らせ作品では?

あれこそメリーバットエンドの鏡じゃない?


覆水盆に返らず

『ジルって料理出来たんだな……意外だ』

 

 

 

『これくらいなら誰でも出来るさ、それこそ小学生でも作ろうと思えば作れる。』

 

 

 

『そう言う事じゃないと思うけど……ジルって前世でなんの仕事してたんだ?料理の仕事か?』

 

 

 

『……一応、居酒屋でバイトしたことはあるけど……』

 

 

 

『……そうか…ん、これただの卵焼きじゃ無いだろ、だし巻き玉子か?』

 

 

 

『ああ、一応居酒屋仕込みだ。つっても普通の卵焼きに白だしとか入れた位しか変わった所無いけどな。』

 

 

 

『そりゃ美味いはずだな』

 

 

 

『ま、アクアなら料理でもなんでも出来るだろ、アクアだし。』

 

 

 

『なんだそれ……』

 

 

 

『お兄ちゃ〜ん!おかわり!』

 

 

 

『ルビーはちょっと食い過ぎだ』

 

 

 

 

 

―――眼前の血塗れのジルと、それを抱きしめるアイを見て、そんな朝のジルとの何気ない会話がフラッシュバックする。

 

 

 

 

「ジルッ!!」

 

 

 

隣で放心するルビーを置いて、俺はジルの元へと駆け出した。

 

 

 

勿論俺も放心したかった気持ちはあったし、疑問や状況への困惑で混乱していた。

 

 

 

だが、これでも前世では医者の端くれをやっていた身だ。目の前で起こっている事には、冷静に対処しなければならない。

 

 

 

「ジル!しっかりしろ!!」

 

 

 

俺はジルを抱えているアイにジルを一度仰向けで寝かせるように指示し、ジルの容態を確認する。

 

 

 

脈は……ある。呼吸もしている。

 

 

 

……だが、刺された場所がかなりマズイ。

 

 

 

「クソッ!腹部大動脈付近か…!」

 

 

 

「あ、アクア、こ、こんな時ど、どうしたら良いの!?」

 

 

 

「落ち着けアイ!まずは止血だ!洗面所から綺麗なタオルを持ってきてくれ!」

 

 

 

「わ、わかったよ!」

 

 

 

俺はひとまずジルの服越しに圧迫止血を行いつつ、アイに指示を出す。

 

 

 

「…ルビー!」

 

 

 

「……っ…ぇ…なにこれ…お兄ちゃん……っ!?」

 

 

 

アイが洗面所へとタオルを取りに行っている間に、放心状態から脱したルビーに声をかける。

 

 

 

「ルビー!ルビーは救急車を呼んでくれ!」

 

 

 

「……っ!わ、わかった……!!」

 

 

 

ルビーは震える手でスマホを取り出し、119と入力して電話をかけた。

 

 

 

「あ、アクア!取り敢えず綺麗なタオル三枚くらい持ってきたよ!」

 

 

 

「じゃあジルのお腹にタオルをきつく巻いて傷口を抑えてくれ!俺よりアイの方が力があるから!」

 

 

 

「う、うん!」

 

 

 

俺はアイにタオルを渡し、アイがそれをジルのお腹にきつく巻いていく。

 

 

 

ジルが小さな呻き声をあげる度に、アイは涙を零しながら謝る。

 

 

 

「ぐ………っ………っ…ぁ」

 

 

 

「ごめんっ!ごめんねジルッ!痛いよね!?苦しいよね!?ごめん…!ごめんねッ!ごめんなさい……ッ!」

 

 

 

 

「アクア、救急車あと五分以上は掛かるって…!どうしよう……っ!」

 

 

 

(5分…ッ!いや、10分以内に着けば早い方だ。…だけど、到着してから病院に収容されるまでに平均で三十分程はかかるとして……クソッ!ダメだ、ジルの出血量からしておそらく間に合わない!取り敢えず輸血代わりに生理食塩水を爆速で作る!与えすぎると逆効果だが現状ないよりはマシだ!)

 

 

 

「ね、ねぇ……"せんせ"、私はどうしたらいいの?何かやる事はある?」

 

 

 

「…ルビーはアイと一緒にジルの止血を―――」

 

 

 

「アクア」

 

 

 

「……っ!……ジル……」

 

 

 

俺はがルビーに指示を出そうとしたところで、ジルが目を覚ました。

 

 

 

「お兄ちゃん!?」

 

 

 

「ジルッ!」

 

 

 

アイとルビーは嬉しそうにジルを呼ぶ。だが……

 

 

 

「……アクア、ルビー、アイも…最後に話、聞いてくれるか……?」

 

 

 

「最後って……なに、言ってるの……?ジルは死なないよ!死んじゃダメなの!!だから、そんな事言わないでよ……ッ!」

 

 

 

「そうだよお兄ちゃん!!絶対助かるから!大丈夫だから!!」

 

 

 

「……アクア…悪ぃが現実を突きつけてやってくれ……俺はあと何分"持つ"?」

 

 

 

ジルは、アイとルビーに優しく諭すように言い、俺に聞いてきた。

 

 

 

「……持って……10分だ……ッ」

 

 

 

前世の医者として経験、知識、勘、全てを総動員して出した結論。

 

 

 

俺は、それをジルに告げた。

 

 

 

その時の俺はどんな顔をしていただろうか。少なくとも苦虫の1万匹や2万匹潰した程度では到底足りない顔をしていたと思う。

 

 

 

「……そう…か」

 

 

 

 

自分の残り時間を告げられたジルは、妙に落ち着いた…いっそ清々しい表情で呟いた。

 

 

 

「アクア…お前、わりと、冷静だな…もうちょっと、慌てるかと思ったけど…まあ、何考えてるか、分かんないような奴が…消えるなら、清々するか……」

 

 

 

聞き捨てならない事を言うジルに、俺は思わず反論する。

 

 

 

「馬鹿かお前は……ッ!お前が死んで清々なんてするわけないだろ!これから少しづつでもお前のことを知ろうと思ってたんだ…!アイも、ルビーも、俺も!」

 

 

 

「…そう、なのか…俺はてっきり、アクアは俺の事、嫌いなのかと…思ってた…」

 

 

 

「なんで…そう思ったんだよ」

 

 

 

「だってよ、俺が話しかけても…あんまり聞いてくれなかったし、妙によそよそしかった、し…」

 

 

 

「それは……っ」

 

 

 

 

―――心当たりしか無い気がする。

 

 

 

 

 

 

『この時代ってまだ日本はF4ファントム飛んでるんだよな〜、やっぱかっけぇなぁ〜』

 

 

 

『ふーん』

 

 

 

『あのごついフォルムに何とも言えない良さが宿ってる』

 

 

 

『……そうなのか』

 

 

 

『……やっぱこの話面白く無いか』

 

 

 

『…いや、そんな事は無いが……あ、ジル、飯出来たってさ』

 

 

 

『……ああ、今行くよ』

 

 

 

 

―――それ以来、ジルは俺にあまり話しかけなくなった。

 

 

 

 

「ごめん……俺は、お前とどう接していいか分からなかったんだ。初めての兄弟で…初めての"弟"だったから…っ」

 

 

 

「……そう…か…だから、距離感が分からなかったんだな……アクア、お前の事を1つ、知れたな」

 

 

 

「ああ、そうだな……ッ!」

 

 

 

俺は泣きながら答える。ジルも力なくだが微笑む。

 

 

 

「お兄ちゃん!諦めちゃダメだよ!!今救急車呼んだから!もう少しの辛抱だから!!」

 

 

 

ルビーが必死に止血を続ける。アイも涙目になりながらタオルで傷口を圧迫する。俺も涙を拭い、手持ち無沙汰な手でジルの手を優しく握る。

 

 

 

「……アクア」

 

 

 

「なんだ?」

 

 

 

「お前と過ごした時間は、結構楽しかった……医者としての知識とか色々教えてもらったしな……女絡みの、失敗談とかさ…面白かった」

 

 

 

「そんなのいくらでも聞かせてやる!だから死ぬなよッ!死んだら許さねぇぞ!!」

 

 

 

「は……アクアは、優しいな…他人の死に、そこまで感情的になれる……のは、"前"から変わってないな」

 

 

 

「他人じゃねえよ!俺達は"家族"だろ!?他人なんて言わせねぇぞ!!」

 

 

 

「……そうか……そうだな、家族、だもんな……」

 

 

 

ジルはそう言うと、俺の目を真っ直ぐ見つめて言った。

 

 

 

「…アクア、アイとルビーを、しっかり守れよ。」

 

 

 

「ッ!……ああ、もちろんだ」

 

 

 

「…あと、復讐とか考えんなよ…お前、向いてないから」

 

 

 

「……ああ」

 

 

 

 

俺の言葉に僅かに微笑んで頷くと、ジルはルビーの方へと顔を向け、言葉を続ける。

 

 

 

「ルビー……こんなのが兄貴で、ごめんな……大丈夫だと思うけど、アクアとアイと、ちゃんと仲良くするんだぞ……」

 

 

 

「お兄ちゃんっ!嫌だよ、そんな最後の言葉みたいな事言わないでよッ!!」

 

 

 

「…いや、実際、そうなんだが…」

 

 

 

「お兄ちゃんっ!嫌だよっ!!私もっとお兄ちゃんと話したい事がいっぱいあるのにっ!ねぇ!死なないでよぉっ!」

 

 

 

「…大丈夫、俺が居なくても、君にはアイもアクアもいるだろ?……だから、俺の事なんか忘れて、自分の夢を追いな。」

 

 

 

「嫌だっ!これから毎日お兄ちゃんが朝ごはん作ってくれなきゃやだっ!」

 

 

 

 

ルビーは泣きながら叫ぶ。

 

 

 

ジルはそんなルビーの頭を撫でて、優しく微笑みながら言う。

 

 

 

「そりゃ…嬉しいが、ちょっと面倒くさそう、だな…それに、俺より多分、アイやアクアの方が、上手いと思う…」

 

 

 

「やだ…!お兄ちゃんが作ったご飯を皆で食べるの!そうじゃなきゃ意味が無いの!…ずっと、ずっと欲しかったの…!皆でご飯を食べて、皆で笑いあって、皆でゲームして…!"前 "から、ずっと…!だから……っ!」

 

 

 

「そうか……でも、アイドルに、なりたいんだろ?アイみたいな、キラキラした、アイドルに……。"前"から、言ってたもんな。」

 

 

 

「うん……っ!だから……だからぁ……!」

 

 

 

「だから、やっぱり俺の事なんか、忘れろ……君は、ようやく"前"の病室から、抜け出せたろ?なら、俺の事なんか忘れて……もっと自分のために生きろ。」

 

 

「でも……でもぉ……っ!」

 

 

 

「ルビー、お前の兄貴として、ひとつだけ、言うことを聞いてくれ」

 

 

「……っ…な、にぃ……?」

 

 

 

「幸せになってくれ、アイと、アクアと、ルビーの、三人で。俺は、要らない。最初から、そうだったんだ。」

 

 

「いみ、わかんないよ…!お兄ちゃんも、一緒に幸せになるのっ!」

 

 

「いや……俺は、元々ここに、居なかったんだ…だから、これでいい、アイを助けられたから…もう、満足だ。

 

……君たちの幸せを、願ってる。」

 

 

「やだよぉ……お兄ちゃんっ……!お兄ちゃんも、一緒に幸せになれば良いじゃん……!」

 

 

ルビーは泣きながらジルに抱きつく。

 

 

ジルは優しく微笑みながら、泣きじゃくるルビーを撫でると、アイへと顔を向ける。

 

 

 

 

「アイ―――」

 

 

 







「人が幸福になるのはそう難しくは無いよ。
不幸では無い日常の積み重ね、それが幸福だと思える様になれば良いだけさ。
……ただ、人並みの日常すら送れない"彼"は、生きる事による幸福よりも、死による救済を望んだ。それだけだよ」







あ、これまだ続きます

読者年代調査(恥ずかしがらず答えてね☆)

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