【鬱の子】   作:湯タンポ

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世界は廻る

ぐるぐる、ぐるぐると。

回る、廻る




藍玉とストロベリーに芽生えたクローバー

 

 

 

ジルの葬儀は家族葬の形でひっそりと行われた。

 

 

参列者は俺、ルビー、アイ、斎藤社長、ミヤコさんの5人だけ。

 

 

まぁ、アイの葬儀中の様子を鑑みるとその方が良かったのかも知れない。

 

 

葬儀中、アイは虚ろな目で涙を流しながらジルの名前をひたすらに呼び続けていた。

 

 

ルビーはそんなアイをずっと抱きしめながら一緒に泣いていた。

 

 

斎藤社長はずっと無言で俯いていたし、ミヤコさんは終始泣き崩れていた。

 

 

お坊さんの読み上げるお経も、アイ達のすすり泣く声も、木魚の音も、何も耳には入ってこなかった。

 

 

火葬場でジルの遺体が焼かれる時、アイは火葬場の職員に掴みかかって必死に何かを訴えていたが、俺はそれをただぼんやりと眺めていた。

 

 

 

そしてお骨上げを済ませ、ジルの葬儀は恙無く終わった。

 

 

当然、行われる筈だったB小町、もといアイのドームライブは延期。

 

 

延期の理由は勿論、アイが使い物にならないから、そして警察の事情聴取やアイや俺達のカウンセリング、マスコミへの対処など、やらなければいけない事が山積みだからだ。

 

 

 

 

特にアイのメンタルケアは最優先で行われた。

 

 

アイは、葬儀が終わった後もずっと虚ろな目でジルの名前をブツブツと呟いていた。

 

 

火葬場の時のように誰かに掴みかかるような事こそ無かったが、それでも時折正気に戻ったかのように泣き叫ぶなど、精神的にかなり不安定な状態が続いている。

 

 

そんな折、ジルの葬儀が終わってから1週間ほどがたった頃だ。

 

 

 

「アクア」

 

 

「どうしたの、斎藤社長」

 

 

「男同士、ちょっと飯でも食いに行くぞ」

 

 

「はぁ」

 

 

斎藤社長が突然俺を飯に誘ってきた。

 

 

普段からよく分からんテンションが多いグラサン金髪のおっさんだが、今日のテンションは一段と分からない。

 

 

「まぁ、いいけど」

 

 

俺は斎藤社長の誘いに乗る事にした。

 

特にやることも無かったから。

 

 

 

 

 

そして連れてこられたのは個室のある焼肉屋だった。

 

 

まぁ個室のある焼肉屋と言っても別に高級店なんかでは無く、一人3000円くらいで食べ放題の店だが。

 

 

 

「てかなんで焼肉?人が殺された場面に居合わせた幼児を連れてくるところじゃ無くない?」

 

 

「……悪かったな、気の利かねぇおっさんで」

 

 

「いや別にいいけどさ」

 

 

俺は斎藤社長と対面で座りながら、適当に頼んだ肉を焼いていく。

 

 

「そう言えば、なんで俺を誘ったの?まさか焼肉を奢る為だけに誘ったわけじゃ無いんでしょ?」

 

 

「まぁな」

 

 

「てか呑むの?運転は?行きはタクシーだったけど帰りも?」

 

 

「ミヤコが迎えに来てくれる」

 

 

「うっわ嫁使い荒っ、社長そのうち絶対愛想つかされるよ」

 

 

「うっせぇ」

 

 

そう言うと斎藤社長はビールの入ったジョッキを一気に呷り、俺に問いかける。

 

 

 

「……なぁアクア、お前、弟が死んだにしてはちと冷静すぎやしねぇか?いや、それが悪いとかじゃなくてよ」

 

 

「……いや、どうだろう……多分現実を理解するのが嫌なだけなのかも。」

 

 

「そうか」

 

 

斎藤社長は意外にもあっさり引き下がると、またビールを呷る。

 

 

「まぁ、弟が死んだんだ。無理もねぇか……変な事聞いて悪かったな」

 

 

「いや別に……」

 

 

俺は斎藤社長の謝罪にそう返すと、焼けた肉を黙々と食べ始める。

 

 

そしてしばらくお互い無言で食事を続けていたが、ふと斎藤社長に聞きたかった事を思い出したので、俺は斎藤社長に聞くことにした。

 

 

「でも意外だったよ、社長も結構冷静だよね。てっきり蒸発とかするかと思ったよ」

 

 

「お前ってたまに超失礼なこと言うよな……って言いてぇが、刺されたのがジルじゃなくてアイだったら…って考えたら、割と有り得そうなのが困る。自分の事だが。」

 

 

情けない話のはずなのに、さらっと認めるもんだから、俺は思わず吹き出してしまった。

 

 

「ははっ、確かに」

 

 

「笑い事じゃねぇんだよ……ったく……」

 

 

斎藤社長はそう言うとビールを呷る。

 

 

 

 

「…じゃあさ、ジルが刺された事は別にそこまで気にしてな―――」

 

 

「そんな訳ねぇだろうが」

 

 

半分ふざけたままの空気で言おうとした言葉は、今まで社長から聞いた事のないような冷淡でドスの効いた声に遮られた。

 

 

「……社長?」

 

 

俺は思わず聞き返す。

 

 

「あいつが刺されて何とも思ってなぇわけねぇだろ、勝手に自殺なんかしやがったクソ犯人も、裏から糸を引いてるクソ野郎も、この手でぶっ殺してやりてぇと思ってるに決まってんだろ……!でもな、俺がキレて暴れたところで何も変わらねぇんだ……!仮に俺が犯人を殺したら一時的に溜飲は下がるかもしれねぇ、だがその後に待ってんのはミヤコやお前たちの社会的な死なんだよ!だから俺は冷静にならなきゃいけねぇんだ……!感情的になったら負けなんだよ……ッ!」

 

 

 

斎藤社長はそう言うと、一気ビールを呷る。

 

 

「……社長」

 

 

「……すまん、冷静でいるつもりが、つい熱くなっちまった」

 

 

「いや、そうじゃなくて……"裏から手を引いてるクソ野郎"ってなんの事?」

 

 

「……………………」

 

 

黙った。

 

 

正直社長がこれだけ感情を露わにするのなんて初めて見たし、それだけジルが大事だって事も分かった。

 

 

 

「……社長、今からそんな顔しても挽回は無理だから、正直に話してくれ」

 

 

 

「……分かった分かった、まぁ正直お前なら自力で考えつくことだろうし、話してもいいか」

 

 

そう言うと斎藤社長はビールを一口呷り、話し始める。ちょっと飲みすぎじゃない?

 

 

「まず前提としてだが……そもそもこの事件はおかしい事が何個かある。」

 

 

「おかしい事?」

 

 

「まず、ジルが殺された事だ(・・・・・・・・・)

 

 

「は?それはアイを狙ったあのストーカーがたまたまジルを刺したってだけでしょ?」

 

 

「じゃあどうやって住所を知ったんだ?」

 

 

俺は斎藤社長のその問いに、言葉に詰まる。

 

 

「あの家は引っ越してからまだ1週間しか経ってなかった。それをあの…リョースケ?ベロリンガ?まぁあんなドブカスの名前なんかどうでも良いが…そんなただのストーカー如きがどうやって突き止められたんだ?それ自体自体がまずおかしいだろ。」

 

 

「確かに……そうだ」

 

 

言われてみれば確かにおかしい。

 

 

犯人のリョースケとかいう奴はなんのスキルもないただの平凡な大学生だった。

 

 

そんな奴が、ストーカーだったとは言え仮にも芸能人であるアイの住所を…それも引っ越して1週間も経たずに突き止められるか?

 

 

絶対に有り得ない話では無いが、どう考えても情報提供者、つまり共犯者が居ると思う方が妥当だ。

 

 

 

 

「まぁごちゃごちゃ探偵の真似事みたいなのはやめて結論を言うぞ」

 

 

「えじゃあ今の会話何だったの?」

 

 

「まぁ聞け」

 

 

斎藤社長はそう言うと、ビールを呷り話し始める。だから飲みすぎ。

 

 

「アイの住所を教えた情報提供者は―

 

 

 

 

 

―――お前達の父親の可能性が高い」

 

 

「は……?」

 

 

俺は斎藤社長のその言葉に、思わず固まった。

 

 

「……アイは割とアホの気が有るが、他人に住所を教えるほどバカ(・・)じゃねぇ。そして、そんなアイが唯一俺たちにも内密に連絡を取り、住所を教える可能性が有るのは自分の男……つまりお前達の父親だ。」

 

 

「いや、でも……それならそれでどうしてアイにその事を伝え……いや、今のアイにそんな事を伝えようものなら……」

 

 

「……あぁ、だろうな。そう思って俺も言ってねぇ」

 

 

今のアイにそんな事を伝えたら、アイがどうなるかなんて火を見るより明らかだ。

 

 

確実に壊れる(・・・)

 

 

 

「……で、そんな話を僕にして何がしたいの?」

 

 

正直これが1番聞きたかった。

 

 

わざわざこんな話を聞かせる為に呼んだわけではあるまいし、そもそも斎藤社長はそんな回りくどい事をする男では無いはずだ。

 

 

「俺はそいつに復讐する」

 

 

「は?」

 

 

俺は斎藤社長のその言葉に思わず耳を疑った。

 

 

「さっき殺すのはダメだって自分で言ってなかった?」

 

 

「あぁ、言った。だが俺はそいつを"殺す"なんて一言も言ってねぇぞ、復讐(・・)するって言ったんだ。」

 

 

「は?じゃあどうやって……」

 

 

「社会的に抹殺する。そいつ…仮に"黒幕A"とでもするが、そいつに社会的死をくれてやる。」

 

 

「社会的死って……具体的には?」

 

 

「少なくとも日本社会で生きていけないレベルの制裁だ。……奴が奪った"命の重み"を実感させてやるんだよ。」

 

 

 

……目的は分かった、でも何故俺にそれを話す?

 

 

俺にそんな事を話した所で、俺は幼児で何も出来な―――

 

……待てよ、社長は黒幕が俺の"血縁上の"父親である可能性が高いと言った。

 

 

血が繋がっているという事は、DNA鑑定で誰が父親なのかを割り出せる。

 

 

……つまり、俺自身が黒幕Aへの手掛かりって事だ。

 

 

なら、俺が今返すべき言葉は―――

 

 

 

「いいよ、社長。…()も復讐の共犯者になるよ」

 

 

「……実質的に一人の人間を殺す事になってもか?」

 

 

「ああ。」

 

 

 

迷いは無い。

 

 

ジルを殺して、アイとルビーの心に癒え無い傷を刻み込んだクソ野郎を、俺は許すつもりは無い。

 

 

結果的にそいつが死ぬことになるとしても、迷いは無い。

 

 

むしろ望むとこ―――

 

 

 

 

 

 

 

 

…あと、復讐とか考えんなよ…お前、向いてないから

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……っ…迷いは、ない。

 

 

 

「……分かった、これで仲良く地獄行きだな」

 

 

斎藤社長はそう言うと俺の肩を叩く。

 

 

「うん、そうだね」

 

 

「……おい、急に泣いてどうした? 」

 

 

 

「え?」

 

 

俺は言われて初めて気付いた。

 

 

俺の目からは涙が流れ落ちていたのだ。

 

 

 

「……あれ…?…あぁ…本当に…ジルって、死んだん、だな…」

 

 

「……そうだな。」

 

 

「もう……会えないんだよな……」

 

 

「あぁ、そうだ。」

 

 

 

分かっていたのに。

 

 

死んだ所を見たのに。

 

 

それでも俺は、ジルが死んだという事実が受け入れられなかった。

 

 

復讐するって話をして、ようやく実感した。

 

 

 

「…社長…っ…ジルはもう、居ないんだな…っ、俺の弟は、死んだんだ…っ」

 

 

俺は、今までずっと堪えていたものを吐き出すかのように泣きじゃくった。

 

社長はそんな俺の頭を、ビールを呷りながら何も言わずわしゃわしゃと撫でてくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「しゃちょう、ぜったいのみすぎだよ…っ!」

 

 

「今日はどんだけ飲んでも酔わねぇんだよ、仕方ねぇだろ……っ…なんかこのビールしょっぺぇな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「社長、絶対復讐を成功させるよ」

 

 

「ったりめぇだ、死んでも許さねぇよ」

 

 






某カラス幼女「折角星の子達を新たな道へ導いてあげようと"彼"を無理やり連れて来たのに……結局戻ってしまったね、しかも復讐…やれやれ…人類史は本当に繰り返しの多いコンテンツだ」




Kさん「知らないところで事が大きくなってる気がする」

読者年代調査(恥ずかしがらず答えてね☆)

  • 15〜19
  • 20〜29
  • 30〜39
  • 40〜49
  • 50〜59
  • 60〜以上
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