【鬱の子】   作:湯タンポ

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このifの主題曲は、13の冬。




あなたは、この地獄に耐えられますか?




未だ晴れぬ冬空

 

 

 

 

ジルが目を覚ましたと病院から連絡が来たのは二日前で、私は仕事を特急で終わらせ、北海道から最速で病院へ来た。

 

 

走った。

 

 

走った、とにかく走った。

 

アルコールの匂いに全身を包まれ、制止する声を無視しながら、走った。

 

 

今だけは病院への迷惑とか外聞とか、そんな外面的な事は考えないで走る。

 

 

1分でも1秒でも、刹那でも早く姿を見たくて、会いたくて、声を聞きたくて、触れてたくて。

 

 

心の底から湧いてくるそんな衝動に突き動かされて私は走った。

 

 

ただ、ひたすらに走る。

 

 

会いたいという想いで胸がはち切れそうになる。

 

 

そんな思いのまま廊下を走り、角を曲がり、曲がり……そして漸く病室の前に到着した。

 

 

酸欠で荒ぶる肺を必死に押さえ込んで、荒く息を繰り返しながら病室のスライドドアに手を掛け……その瞬間、脳裏に過ぎったのは、人工呼吸器すら外され、ただ永遠に眠り続けるジルの姿。

 

 

「っ……!」

 

 

私は一瞬躊躇し、ドアから手を離してしまう。

 

 

もしも、そんな姿になっていたら……そう考えただけで手が震える。

 

 

…だけど、会いたい。会いたいんだ。

 

私は嫌な想像を振り切って、もう一度ドアに手を掛けた。

 

 

そして、病室の扉を開け放つと、そこには……

 

 

「ジルっ!!」

 

 

最愛の人が、ジルが居た。

 

 

私はそのままジルに駆け寄って勢いよく抱きしめた。

 

 

13年ぶりに感じる彼の体温は、とても温かかった。

 

 

「おかえり……っ!おかえりっ!ジル……っ!」

 

 

涙を我慢するなんて出来るはずがなかった。

 

 

「会いたかったよ……っ、ずっと、寂しかったんだよ……」

 

 

点滴だけじゃ栄養が足りるはずもなく、私より少し上くらいまでしか背丈も成長していないジル。

 

 

「この13年間……もう待ちくたびれちゃったよ……」

 

 

私はその小さくて華奢な手を、優しく握って想いを馳せる。

 

 

「はやく目を覚まさないかなって思ってずっと待ってたんだよ……?目が覚めたらたくさん話したい事もあったし、色んな所に行きたいって思ってたんだから」

 

 

私がジルにそう語っていると、ドアが開く音が聞こえた。

 

 

「……ママ、もう来てたんだ、早いね。でもお兄ちゃんの目が覚めたんだからそれもそうだよね。」

 

 

「…アイ、社長やミヤコさんも今こっちに向かってるそうだ。」

 

 

ルビーとアクアは息を切らしながらこちらに近寄ってくる。私と同様ここまで走って来たのだろう。

 

 

「うん。…とりあえずさ、ルビーもアクアも、ジルに挨拶してあげて」

 

 

「ん、そうだね。……ママの言う通りだ。」

 

 

「ああ。そうだな……13年、ぶりか……」

 

 

ルビーとアクアはジルの前に立つと、声をかける。

 

 

「……お兄ちゃん、久しぶり。随分長く眠ってたけど、お寝坊さんだね?もう私、高校生だよ?……伝えたいこと、いっぱいあるから覚悟してねっ…!ずっと、ずーっと話したかったんだから…っ!」

 

 

「……ジル、久しぶりだな。……俺はまだ言葉に出来るほど気持ちの整理がついてないんだが……起きてくれて、帰って来てくれて…ありがとう。」

 

 

13年もの間昏睡状態にあったジルは、ルビー達の言っていることが理解出来ているのか微妙なところだったが、何かを理解しているのか終始穏やかな顔で二人を見つめていた。

 

 

「……ほん、とにっ…ほんとにずっと、ずっとずっと、会いたかったんだからっ!お兄ちゃんっ……!…お兄ちゃんが起きない間、ママやアクアと何回も喧嘩しちゃったりで…っ……酷い言葉、沢山言っちゃった……っ!ママ、アクア、ご゙め゙ん゙な゙ざい゙ぃ゙!!」

 

 

「っ!いいよ、そんな事…ママの方こそごめんね、ルビーとアクアに充分に構ってあげられなくて……っ!」

 

 

ルビーとアイはそれぞれジルを抱きしめながら、堰を切った様に涙を流す。

 

 

13年という時間は長すぎた。

 

 

待ち続けた時間はあまりにも長すぎた。

 

もう帰ってこないのではないか、もう目覚めないのではないか、もしかしたら今日にも呼吸が止まってしまうのでは無いかと不安な日が続いた。

 

 

だからこそ、こうして13年前から止まっていた時間が動き出した事に二人は涙する。

 

 

アクアも、ルビーたちの様に大泣きしてこそ居ないが、その目は涙に濡れていた。

 

 

そして、ルビーとアイがひとしきり泣き終えた後、3人は顔を合わせると頷き合い、ジルに向き直った。

 

 

「「……ジル」」

 

 

それぞれ言いたいことはあった。

 

語りたいこともあった。

 

 

けど、それらの全てを言葉にする事は無かった。

 

 

……話したいことが多すぎて何から話せばいいのか分からない。

 

 

13年という長すぎる時間によって一方通行に募り続けた想いは、複雑に絡み合い、もう言葉一つでは言い表せなくて。

 

 

……でも、この思いだけはそれは言葉にする必要が無いくらい確かなモノで。

 

 

だからこそ、一言に集約させる事が出来る。

 

 

 

 

 

「「……おかえり」」

 

 

 

たった四文字のその言葉。

 

 

その言葉を伝える事が出来る機会を、アイも、アクアも、ルビーも、全員が待ち侘びていた。

 

 

13年間、ずっと待っていた。

 

 

ようやく伝えられたその言葉に、ジルは穏やかな表情で目を細め……か細い声で、ついに13年の沈黙を破った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すみません、どちら様ですか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

新たな絶望の芽生えと共に。

 

 

 

 







ロリ神「……ある日奇跡が起きて、何かも上手くいくなんて魔法は何処にもない。神様にだって、出来ることに限りがあるのさ。」








前回で味をしめました、また宣伝させてください。わたくし最近オリジナルも書いたりしてます。

『殺し屋してます、幼女拾いました』
https://syosetu.org/novel/342818/#

気が向いたら読んでやってください。

読者年代調査(恥ずかしがらず答えてね☆)

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