【鬱の子】   作:湯タンポ

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あの時ジルコンは大きな傷を負わなかった。
それから12年が経ち、星野家は平穏な日々を過ごしている。

けれども、家族への歩み寄り方を知らない者達は、すれ違い、ボタンを掛け違い、未だ分かり合えずいる。

それは例え、誕生日ケーキが出るような特別な日でさえも………




蛇足
冷めた誕生日ケーキ 前


 

 

 

 

 

私の名前は星野アイ。

 

私は今、沢山の料理と3つのケーキを焼いている。その理由はもちろんお祝いの為だ。

なんて言ったって、今日はアクアとルビー、そしてジルの16歳の誕生日!

 

この間小学校に入ったと思ってたら、もう16歳なんだよね。

子供の成長は早いなぁ……なんて、私がいっちょまえに母親らしい事思える位時間が経ったんだなーと、しみじみ思う。

 

……本当に色んなことがあったし、これからもまだまだある。

だけど、アクアとルビー、そしてジルが……子供達が、元気に健やかに、そして幸せに生きてくれてる事が、私の母としての1番の願いであり、大きな幸せなんだ。

 

やりたい事はどんな事であれさせてあげたいし、応援してあげたい。

お金の事なんて気にせずなんでも挑戦して欲しいし、可能性を探して欲しい。

 

…私みたいに、生きる為にはもうこれしか無いっていう風にはなって欲しくない。

自由にのびのびと、焦らずしっかり考えて、幸せに生きて欲しい。

 

「アイ、こっちの料理の仕込み終わったからそっち手伝うわよ」

 

「アイ、飾り付け一通り終わったんだが、こんな感じで良かったか?」

 

「わ、ミヤコさんありがと〜!手早くて助かる~!あと社長、そっちの飾りつけ反対側で、机の上のそのフクロウは要らないかな。」

 

ミヤコさんが手伝ってくれていた事もあり、料理の仕込みが終わって、後は料理を仕上げるだけという所まで来た。

部屋の飾り付けも……うん、社長にしてはよく頑張った方だと思うよ…。

 

ちなみに今日のメニューはシーザーサラダ、もつ鍋、焼き鳥、黒豚焼売、お刺身、馬刺しだよ。

どれも子供達の好物で、だいぶ前に聞いた時に、

 

ルビーは『ママの作る料理はなんでも好き♡』

アクアは『まぁ肉とかは割と好きだな』

ジルは『馬刺しとお造り』

 

と、それぞれらしい回答が帰ってきた。

そんな可愛い子供達の誕生日パーティーだから、私も気合を入れて沢山準備したよ!

 

「……しっかしまあ、今回も豪勢に用意したわねえ……これにケーキもあるんでしょ?この人数で食べ切れるか不安になってきたわ……」

 

「大丈夫大丈夫!沢山作って余ったら明日の朝ご飯でも良いし、それでも余ったら別の物にすれば良いよ!3人とも育ち盛り食べ盛りだし、これくらい平気で食べちゃうよ!きっと!」

 

『これだけあれば二日間はもちそう』…… なんて微妙な顔して言うのが目に浮かぶようだ。

まあそこは美味しくて楽しかったら何でもいいかな。

1番大事なのは、皆で楽しく過ごす事なんだしね。

 

……そんなこんなでミヤコさんと話しているうちに料理も仕上がって、 ケーキもいい感じに焼きあがったし、最後にリビングの飾り付けを直せば……うん、あとはアクア達を待つだけだね。

 

「ママただいまぁー!!あーっ!いい匂いするー!」

 

ちょうどその時、ガチャッと玄関の開く音がして、そこからルビーの元気な声が聞こえた。

チラリと玄関の方を覗くと、元気にこちらへ向かってくるルビーと、次いで殆どいつも通りのアクアの姿が見えた。

 

2人とも高校から真っ直ぐ帰ってきた様で、共に制服を身に纏っていた。

 

「2人共おかえり!ちょうどご飯も出来た所だから、手洗っておいで」

「はーい!!」「ああ」

 

2人の元気のいい返事に思わずクスリと笑みがこぼれる。

 

……本当に大きくなったなあ、と改めて実感した。

ジルのあの事件があってからもう12年か……ジルは、今日は帰ってきてくれるかな……

 

「アクア、ルビー!今日もジルとは一緒じゃないのー?」

 

少し大きめの声で私が2人に問うと、ちょうど洗面所から出てきた2人が、

 

「いやー……それがさぁー……」「……ジルか……」と各々返事した。

私の前のソファーに腰掛け話を続けるが……2人の表情はどこか暗い。

 

「……なんか最近ジルのやつ、俺達の事避けてるっていうか、またちょっと距離が遠くなってる感じするんだよな」

「そう!そうなんだよね~!最近前より酷くなってるの!お兄ちゃんに話しかけても、必要最低限で切り上げられるし、どっか行こって誘っても軽くいなされるし……」

 

……2人の話を聞くに、やはりジルは2人との会話や遊びに付き合うことも殆ど無く、先に1人で帰ってしまう事も多いとの事だ。

 

「……そっかあ……」

 

「うん……でも私としてはさ!やっぱりお兄ちゃん1人の時間も必要だと思うし、お兄ちゃんは本当にヤバい事には手出さないって信じてるから。」

「ああ……俺もそう思う。だから、まあ……ジルもなんかひとりでしたい事あるんだろうし、それは邪魔しない様にするさ」

 

私の心配を他所に2人はそう答えた。

2人のその考えは立派だとは思うけど……

でも私はやっぱり少し寂しいなと感じてしまう。

 

 

 

 

……ここ2年くらいだろうか、ジルがあまり家に帰ってこなくなり、帰って来てもよく怒る様になった。

 

中学1、2年生の頃からその片鱗が見え始めてたから、10代半ばだし…思春期とか反抗期とかで、そういう時期なだけかな?と、最初はあまり気にしていなかったが……3年生に進級した頃のある日、ジルは香水の匂いをさせて帰ってきた。

 

…ジルはそれまで自分で香水なんてつけたの見た事なかったし、そもそもそういうのには興味無いタイプだと思ってたから、そろそろ興味が出てくる年頃なのかなーなんて、呑気に考えてた。

 

……でも、日にちが経つに連れて段々とジルの行動はおかしくなり、高校生にもなってないのにほぼ毎日明け方まで帰って来ないようになり、明らかに女物の香水の臭いを纏わせる様になった。

 

流石に良くないと、私はジルを問い詰めたが…

 

『あんたに何も言われる筋合いなくね?』

 

とだけ言われ、すぐ部屋に戻ってしまった。その目には明らかな敵意があり、それ以上何も言えず立ち尽くしたのを覚えている。

その後、ミヤコさんや社長にもお説教を貰ってたけど、改善の兆しは少しも見られなかった。

それ以降、私はジルに何も言えなくなり、ジルもあまり家に帰って来なくなった。

 

アクアやルビーには、私の口からはその事を話しては無いけど、2人も何か感じ取ってはいるんだと思う。

 

実際、それくらいから2人とジルは距離が開き始めたし……まぁどっちかって言うとジルが一方的に距離とってるだけな気もするけど……

 

だけど、2人は本当にジルの事大好きだし、私たち全員でずっと仲良くしていきたいと思っていると思う。勿論私もね。

私達の未来にはジルの存在が不可欠で重要な立ち位置にあると私は確信してる。だから……だから、今日くらいは…せめて成人するまでのお誕生日くらいは……皆でパーティーをして、ちゃんとお祝いしてあげたいなって思うの。

 

…だけど……

 

「………アクア…ママ、お兄ちゃん…帰って、来ないね……」

 

「…………ああ…」

 

「……うん…そう、だね」

 

…アクアとルビーが帰ってきてから、1時間たっても2時間たっても、どれだけ連絡をしても、ジルが帰ってくる気配はなかった。

 

3人で過ごせるはずの特別な時間が過ぎていく度に、アクアの口数は減り、ルビーの笑顔は曇っていった。

その様子を目の当たりにする度胸が張り裂けそうになり、早く送ったメッセージに既読が付かないかな…まだ返信来ないかな…と、繰り返しスマホの画面を見直してしまう。

 

しかし、それから1時間たっても、既読も返信の通知もまだ来ない。

そうこうしている内に、気付けば元々予定していた18時を大幅に上回り、21時を過ぎようとしていた。

 

チラリと2人に目をやると、アクアはソファーに腰掛けてボーッと天井を仰いでおり、ルビーはテレビを見てはいるが、その目はどこか虚ろだった。

 

 

「……ねぇママ、」

 

そんなルビー達に声かけようとしたら、テレビの方を見ていたルビーが不意にこちらを向き、話しかけてきた。

 

「……どうしたの?ルビー」

 

 

「私…お兄ちゃんに、嫌われる様な…事、しちゃったのかなぁ…っ…」

 

私が務めて柔らかく聞くと、ルビーはその紅い眼から、今にも涙が零れそうな顔でそう言った。

 

「っ……そんな事ないよ!絶対ない!」

「……でも私……前からずっとお兄ちゃんに避けられてるし……」

「そ、それはほら……!思春期の男の子はさ……?色々あるんだよ。だから大丈夫だって」

 

私は慌ててそう言ったが、それでもルビーの顔は晴れず、ついには涙を頬に零しながら続ける。

 

「……じゃあなんで?なんで今日お兄ちゃんは帰ってこないの……?今日は、私たちの"誕生日"なのに……」

「……っ……」

 

ルビーのその言葉に、私はルビーを抱きしめる事しか出来なかった。

 

「…それは…私にも分からないけど、ルビーがジルに嫌われてるとか、悪いことしたなんて、それは絶対に無い!それだけは断言できるから!」

 

ただ抱きしめて、そう伝えるしか出来なかった。

 

ルビーは生まれた時から、とても頭が良い賢い子だった。だからこそ考えてしまう事もあるのかもしれないし、不安になってしまう事だってあるかもしれない……。

だから今はただ安心させる様に抱きしめることしか私には出来ないけど……それでも私はそうするしかなかった。

 

「……っ…本当…?…ウソじゃない?」

 

「うん、これは絶対…嘘じゃない。」

 

「……そっか……っ……」

 

そう言ってルビーは私に抱きついてきたが……それでもまだ少し不安そうだったから、私はさらに強く抱きしめた。すると、それに答えるかの様に私の腰に手を回し抱きしめ返してくれた。

 

「……うん…だからさ、ご飯先に食べ始めちゃおっか。きっとジルも、私達が食べてるうちに帰ってくるよ。……ね?アクア、ルビー。」

 

「…うん……食べる」

 

「ああ…そうだな」

 

 

何とかルビーを落ち着かせ、何処かほっとした様な表情を浮かべたアクアを横目に見て、2人にそう声を掛け、私達は食事の準備を始めた。

 

準備を終え、ミヤコさんや社長も交えて、わちゃわちゃとご飯を囲み、皆で他愛もない話をしながら食事を進める。

さっきまでの不安そうな表情は何処へやら、ルビーとアクアもだいぶ話が弾んでる様だった。そんな2人の様子に思わず私も笑みがこぼれてしまった。

酔いの回った社長が、アクアにお酒を飲ませようとしてミヤコさんに張り倒されたり、それを私とルビーが眺めて笑って。

誕生日ケーキを出せば、年頃の女の子らしく、ルビーが甘い物!と目を輝かせ、アクアが渋い顔をしながら、お前よくそんな甘いもの食べれるな、とボヤく。

 

ご飯を食べ終わった後は、みんなで片付けを済ませて、ソファーに集まってパーティゲームなんかを楽しんで。

 

そうして過ごしていくうちに、ルビーもアクアも、そして私自身にも笑顔が戻っていって。

 

 

気が付けば何時も消灯する時間になっていて、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それでもまだ、ジルは帰って来ない。

 

 

 

 

 






|´-`)チラッ

最後の更新から4ヶ月以上…もう誰も見てへんやろ……今ならバレずにしれっと更新できるゾ。

ちなみにこの作品、本編がノーマル、IFがトゥルー気味な関係上、それ以外は基本ビターな感じになります。


以上、後に続く。

読者年代調査(恥ずかしがらず答えてね☆)

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