【鬱の子】   作:湯タンポ

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……あなたが言いたいことは分かります。なぜ半年も音沙汰が無かったのか、ですよね。

特に理由はないので初投稿です()




海の君に嫉みを
愛の炎が消えた時


 

 

 

あいつがずっと、羨ましかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「たっだいま〜!ジル、遅くなってごめんねー!アクアとルビーももうちょっとで撮影終わって帰ってくるって!」

 

その日、私が撮影終わりにスーパーに寄ってから帰った時、家はやけに静かで、部屋の電気も何一つ点いてなかった。

 

「…ジルー?まだ寝てるの?」

 

それなりに大きな声で呼び掛けても、帰ってきたのは静寂だけで。

ホントに寝てるのかなと思いながら玄関の鍵をかけて、僅かな焦燥感に駆られながら廊下を進み、リビングの電気を点ける。

 

「……リビング、こんなに綺麗だったっけ」

 

パッと明かりが灯り、映し出されたリビングはいやに綺麗だった。

 

「またジルが家事してくれたのかな……、今のジルには、休んでて欲しいんだけどな…」

 

―――ジルが刺され、全てが変わったあの事件から13年が経った。

アクアもルビーも17歳になり、高校生を謳歌してるみたいで、最近は学業と芸能人としての狭間で忙しなく動いている。

 

一方で私はと言えば、あの事件から2年ほどでB小町…ひいてはアイドル活動を卒業し、女優としての道を歩き始めた。

 

その時はもうそれなりに知名度はあったし、アイドルとしての活動が無くなったとは言っても、そこまで大きくやる事が変わったわけじゃ無い。

せいぜい映画やドラマ、バラエティとかの比率がアイドルとしての仕事と反転した程度だけど、そのお陰で今じゃこうしてジル達と一緒に住む家が買えるくらいにはお金が稼げている。

 

 

でも、いい事ばかりじゃ無かった。

 

元々活発じゃ無かったジルが、事件後は更に塞ぎ込むようになってしまい、ついに今となっては殆ど外出もしなくなってしまった。

 

心的外傷後ストレス障害、PTSD。

それに近しいものであろうと、医者はそう言った。

 

さらに、ジルはアクアやルビー、私とさえも話をしなくなった。

 

だからといってホントに全く話さないというわけでは無いけど、明らかにコミュニケーション不足を感じる。

 

「ここにも居ないってことは……、自分の部屋かな?」

 

それでも、ジルは今日みたいに家事をしてくれる。

特に頼んだりもしていないのに、朝起きたら掃除されてたり、帰ってきたら食事が作り置きされていたりする。

 

それはとても嬉しくて、苦しい。

 

感謝する一方で、私は……星野アイは、母親としてこの子に何を返してあげられるんだろって、考える。

 

ジルには、幸せになってほしい。

 

どんな形でもいい。心の底から笑って、幸せだ、って言ってもらいたい。

……そして、出来たら『愛してる』って言って欲しい。

 

私は嘘吐きだから、愛してるって言って、愛してるって言われなきゃ、あの日言って言われた『愛してる』が、ホントかどうか分からなくなりそうで、それが怖くて、不安になる。

 

―――カタンッ……

 

リビングから廊下へ出て、足音を立てないようにゆっくり歩いて、ジルの自室の前まで来た。

 

「ジル?起きてる?開けていい?」

 

扉を軽くノックしてみても、いつものように反応は無くて。

恐る恐るドアノブに手を掛けても、案の定施錠されてはいなかった。

 

勝手に入るのはあまり良くないとわかっていながらも、何かあったらという考えが頭を過ぎり、無意識的に取っ手を押し込んでいた。

 

「ジルごめんね、入るよ……?」

 

でもいつもならジルはきっと寝てると思うから、そろそろ起こしてあげて一緒にご飯の準備でもしよう。

そうすれば少しだけでもお話出来るだろうし、ジルの悩みとかわがままを聞いてあげられるかも。

 

そんな淡い期待を抱きながら、私はジルの部屋に足を踏み入れた。

 

 

 

 

 

 

 

……ギィ…ギィ……ギリリ

 

 

 

 

 

 

 

―――私はなんで、ジルと13年もずっと距離を縮めたりしなかったんだろう。

 

どうして、アクアとジルの仲が複雑なことから目を逸らしていたんだろう。

 

どうして私は、ジルともっとお話しなかったんだろう、悩みを聞いたりしなかったんだろう。

 

どうして私は、思春期が終われば、アクアやルビーとジルが勝手に仲直りするなんて勝手に思い込んでいたんだろう。

 

 

どうして私は……、あれからジルに『愛してる』って、言えなかったんだろう……。

 

 

 

そんなどうしようも無い考えが頭に過ぎると、いつの間にか、なんだかやけに甲高くて不快な音が、耳障りなくらい大きく響いていて。

 

窓から差し込む夕陽が、ジルの部屋の中を茜色に染め上げて、私が見上げた先に居るジルを良く照らしていた。

 

 

先程から響くこの音の正体を理解したと同時、ようやく私の脳がその事象を理解した。

 

 

 

 

あぁこの音……私の悲鳴だ。

 

 

 

 

 

 

「―――ッい、ゃああぁあぁあああアアアァあああ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"!!!!!!!!!」

 

 

 

 

 

私の声など聞こえないと言うかのように、ジルを吊る縄が柱を軋ませる音が鳴り続けた。

 

 

 






5話くらいで終わりの予定。
来週くらいには終わりたい。



補足;今回のお話は、ジルっちが12話で刺されて普通に回復した場合です。

読者年代調査(恥ずかしがらず答えてね☆)

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