ガンダムSEED DESTINY IF ~もしも彼女がいたならば~ 作:鯱出荷
家族を失ったことからオーブを離れアカデミーに入学したシンは、ようやくレイやルナマリアなどの友人も作れる余裕をもてるようになっていた。だから今まで 気づかなかった。
アカデミーのMS工房の端で、見たことのないMSをいじっている少女のことを。
シン「なあ。あんな子いたっけ?」
メイリンは「え?知らないの?」と返す。代わりにレイが答えた。
レイ「……彼女はティルム・ニックス。なんでも死んだ父が残したMS技術の提供・発展と引き換えにギルバート議長から奨学金・研究費・開発費などの待遇を 受けている、アカデミーの中でも異端な奴だそうだ」
ルナマリア「昔のアンタには負けるけど、ひどい人間不信ってことで有名よ。アタシが挨拶しただけで、ガタガタ震えてたぐらいなんだから」
レイ達に出会ったころのシンは何もかもが信じられなくなっていて、それは近寄る人間全てに悪態をつく程だった。
友人が出来るようになったのも、寒い・暗い・帰るのが面倒だと言っては勝手に人の布団で寝ることを繰り返すルナマリア、「姉が信用してるから悪い人のはず がない」と何度も気さくに話しかけてくるメイリン、そして何を考えているかわからないがどんなミスや暴言を吐いても自分の側にいてくれるレイ。
この三人がシンに周りを見る余裕を取り戻させた。何をしても直らないルナマリアの性格に屈服したとも言えるが。
シン「悪かったな。でもなんであんな子にそんな待遇を?見た目は俺より一つか二つ下だぞ」
ルナマリア「メイリンが講義の手伝いで生年月日見たことがあるって言ってたわ。確かシンより二つ下かな?優遇されてるのは、彼女の父親があのフリーダムの 開発者…『ルナマリア!!』『お姉ちゃん!』」
レイとメイリンの強い口調にハッとする。ルナマリアやメイリン、レイは数少ないシンのオーブに来た理由を知っている者の一人だった。
さっきまでいつものやり取りをニコニコと眺めていたメイリンも、恐る恐るうつむいているシンの顔を覗く。
メイリン「あ、あのね、シン…?」
シン「………」
そんなメイリンを無視して、シンはまっすぐMSいじりに夢中なティルムのほうへ歩いていく。
シンがオーブを離れた理由。それは味方側のフリーダムガンダムに、自分の家族を撃たれたからだった。
あわててレイとルナマリアも付いていく。
シン「ちょっといいか?」
ティルム「!!!!!」
飛び上がらんばかりに驚いたあと、恐る恐るシンの方へ振り返る。
シン「あ……」
その顔にシンも驚いた。話しかけただけなのに既に目には涙を溜め、フルフルと体を揺らしおびえていた。金色の短い髪も水色の目も、シンには彼女の清楚さと 弱々しさを引き出すためにあるように見えた。それと同時に、なんだか「彼女をいじめているのでは」といった罪悪感も生まれる。
ティルム「あ、その、えと……。な、なんで、しょうか……?」
いつまでも黙っているシンに耐え切れなかったのか、少女のほうから口を開いた。
その言葉にシンは頭をふり、雑念を振り払う。
シン「あんた、あのフリーダムを開発した人の娘さんだそうだな。なんでまたMSの製造なんかしてるんだ?」
シンのきつい口調に気づいたのか、ティルムは震えながらも答えた。
ティルム「ほ、他に……、生き方、を知らないから…」
シン「え?」
ティルム「ふ、フリーダムを奪われて、私のお父さんは全責任を取らされた……。他の開発者や関係者は略奪を事前に知っていて、ラクス・クラインと逃げたか ら…。そしてお父さんは銃殺刑…。それでも、社会は私達を許してくれなかった。私とお母さんは裏切り者扱いされて、石やゴミを投げられるのはいいほう…。 でもそれに絶えられなかったお母さんは、銃で自分、の頭、を…」
シンはもちろん、横にいたルナマリア達も呆然としていた。親の七光りやコネでここにいるとばかり思っていたからだ。完全に出鼻をくじかれたシンは、ただ 黙って話を聞く。
話に没頭してきたのか、うつむいたティルムの震えが治まってきた。
ティルム「親戚や友達も、誰も私を助けてくれなかった。お前の父親のせいで戦争が終わらないだって、父親が馬鹿をしたからナチュナル達が核を使ってきたん だって。お父さんは何も悪くない。悪いのは、裏切ったのはラクス・クラインと、フリーダムのパイロットのほうなのに……」
ティルムの目から涙が溢れ出す。彼女はそれをぬぐおうともしない。そしてその顔は怯えた顔から、怒りへと変わっていく。
ティルム「それなのに、あの人達は前大戦の英雄扱い!あの人達の正義のせいで、都合の悪いことは全部私達に向けられた!あの人達が奪った物も、壊した物 も、殺された人も、全部全部全部!!だから、だから私はお父さんが残したこの技術を完成させて、絶対に……?」
ティルムが驚いて目を開く。
シンが突然、頭を撫でてきたからだ。
シン「その、ごめん、な?つらいこと思い出させて…」
別にシンにしては、頭をなでることに深い意味はなかった。ただ妹のマユがこうすると喜んだことを思い出し、実行しただけだった。
それでもティルムの怒り狂った表情は消え、されるがままに頭を撫でられている。
彼女の父も、泣いた時や怒った時には同じことをしてくれたから。
シンはティルムを撫でながら、自分と周りの人間の紹介、事情をゆっくりと話し始めた。
レイ達もそれを止めようとはしない。
オーブに家族がいたこと。オーブが連合と戦争になったこと。そして、自分の両親と妹がフリーダムにやられてしまったこと……。
全てを聞き終えると、再びティルムの目から涙がこぼれ始める。
ティルム「ごめ、ごめんな、さい…。申し訳、ございません…。父が、私が、憎いですよね?恨めしいですよね?どうか、どうか私を殴るなり蹴るなり、好きに してください…。私は、私達はあなたにそうされるだけのことをしたのだから……」
きっと今までそうしてきたのだろう。彼女はギュッと目をつむり震えながらも、決して逃げようとしない。
だがシンは頭を撫でることをやめなかった。
シン「いやだ」
ティルムが「え?」と目を見開く。シンはなぜか顔を背けながら言った。
シン「いやだって言ったんだ。あんた自分で言ってただろう。悪いのはあんた達じゃなくて、奪った奴らだって。だから俺はあんたを殴らない」
でも…と言いかけるティルムの頭に、スパーン!と心地よい音が響く。
メイリン「お姉ちゃん。そのスリッパどこから出したの?」
ルナマリア「メイリン、そんなことどうでもいいの!アンタ、ミリュウムだっけ?やられた本人が別にいいって言ってんだから、儲けもんだと思って受け取って おきなさい!」
ティルム「み、ミリュウム?私はそんな化学物質みたいな名前じゃ…。そ、それよりも、例えシンさんがそう言ってくれても…」
ルナマリア「あー、もう。バリウムだかデンドロニウムだかどうでもいいけど、いい?シンは…」
レイ「シンは以前の自分のようにはなってほしくないそうだ」
横からレイが口を挟む。
レイ「以前のシンは世界は全て自分の味方ではないと思い込んで、殻の中に閉じこもった。君にはそうならずに、今からでも幸せな人生を送ってほしいとシンが 言っている」
シンは顔を真っ赤にしてレイに食いかかる。
シン「言ってねぇだろ!んなこと!」
レイ「顔に書いてある。お前はおれの知り合いの中でも、一際わかりやすい」
シン「友人少ないのにか!?……あ」
気づいた頃には遅く、レイは壁にうじうじと「の」の字を書く。…いや、「呪」の字を書いている。あわてたシンは、レイのフォローに奮闘する。
ルナマリア「シンもバカね~。何度やったらわかるのかしら」
メイリン「アハハ。そこがシンのいいところだよ。ところで、ティルムちゃんだよね?」
くるりと顔を向けるメイリンに「あ、はい…」と、どこか遠くを見ている目で返事をする。
メイリン「あのさ、あのシンと一緒にいるレイって人、どう思う?」
ティルム「え?あの、タイプじゃないです」
ルナマリア「きっぱり・即答。ふむ。脈なしと」
メイリン「お姉ちゃん!…そうじゃなくて、いい人か悪い人かってこと」
そう言われ、ティルムは考える。見た目は優しそうではないけど、シンの遠まわしで不器用な優しさを教えてくれたし、さっきのやり取りを見ると冷たい人でも なさそうだ。結論として、ティルムはいい人と答えた。
その答えにメイリンは満足そうに笑う。
メイリン「レイが大丈夫だったらワタシ達も大丈夫だよね?ワタシ達の友達になってくれる?」
ティルムは今日一番目を見開いた。父が亡くなって数ヶ月あまり、絶交・絶縁以外の人間関係を求めてくる者などいなかったからだ。
ティルムが「でも…」と言いかけると、またもやパパーン!と歯切れの良いスリッパ音が鳴り響く。
ルナマリア「シンは反抗してばっかりのガキだけど、アンタは優柔不断なガキね。アタシ達が友達になりたいって言ってんだから、YesかNoで答えればいい の!ティー!」
多分ティーというのは自分のことだろう。困ったように苦笑いするメイリンを見る。
メイリン「ゴメンね。お姉ちゃん、2文字以上の人の名前覚えるの苦手で」
かつて特別指導員としてアカデミーに来たイザーク・ジュールに、案内役のルナマリアが目の前で『イザ汁(じる)さん』と呼んだ武勇伝があるぐらいだ。その くせ家族と偉人は覚えられるのだから、たちが悪い。
ちなみにその後、全アカデミー生(指導者・経営者含む)が一致団結して横にいたディアッカという人物に罪を着せ、事なきを得た。「あの連帯感さえあれば我 が隊も楽につぶされる」と、事情を知らないイザークが感心したそうな。
レイ「話は済んだか?」
何事もなかったかのように、レイが話しかける。隣には説得で少しやつれたシンの姿もある。
レイ「どうせおれやシンの時と同じで、友達になってくれと言ったのだろう。お前ら姉妹の場合、嫌だと言っても諦めないがな」
身を持って知っているシンが横で何度も頷く。特に姉に関しては、何度女であることを疑っただろうか。
ふと、シンは自分の制服の裾を申し訳程度につかんでいるティルムに気づく。
ティルム「あ、あの…?私、も、みんなの友達になりたいんですけど、一つだけ、お願いが……」
先ほどとは違い、もじもじと恥ずかしそうに口を動かす。
シンにはその姿がマユの仕草と重なり、思わず優しい口調で話しかける。
シン「ん、いいよ。何でもいってみて」
最初と違い優しい口調に安心したのか、シンの目を見ながらはっきりと言った。
ティルム「わた、私…、シンさんの妹になりたいです!」
シン「……は?」
思わずフリーズ。今目の前の、会って間もない子は何と?
しかしそう思ったのはシンだけらしい。
レイ「良かったじゃないか。新しい家族ができて」
メイリン「おめでとう、シン!」
シン「簡単にいうな…ってルナ!そこで何吹き込んでる!?」
見るとルナマリアが、ティルムに何か耳打ちしている。今までこいつが影で動くときはろくなことがない。そして、今回もその予想を裏切らなかった。
ティルム「ダメ?『お兄ちゃん』?」
涙目&上目遣い&首傾け。離れて傍観していたアカデミー生にもズギューン!とくるものだ。
シン「ぐっ…!」
しかしシンにも譲れない事情がある。たとえ幾分立ち直ったといっても、やはり自分の妹はマユだけなのだ。ここで折れては天国のマユに足向けできない。
だが思考している間、黙っていたのがまずかった。沈黙=拒否と受け止めたのか、みるみるうちにティルムの目に涙が溜まっていく。
シン「ちょ!?ティルム!!?」
ルナマリア「あ~あ、泣かした泣かした~。お姉さん悲しい~!」
シン「目薬点しながらギャラリーをあおるな!」
ルナマリア「もう、何が不満なの?金髪・年下・清楚・義理の妹・それにさっきチェックしたけど、この子着やせするタイプよ」
シン「何しとるんじゃ!お前は!!」
メイリン「シンは女の子に『私を好きにしてください』と言わせときながら捨てるの?」
シン「重要なところを省いて、人を女たらしみたいにいうな!!」
しかし一寸遅かった。周りのアカデミー生達が、シンを軽蔑するような目で、ティルムを同情するような目でちらちらと見てくる。
ルナマリア「ほらほら~。どうするぅ~?ティルムを妹だって認めれば手助けしてあげるわよぉ~?それとも傷物にしたって噂流して、若奥様ゲットするぅ ~?」
この女はやるといったらやる女だ。悪い意味で。
シンには選択肢などなかった。
シン「…の……とだ」
ルナマリア「ん~?聞こえな~い」
シン「彼女は俺の妹だ!!文句あるか!?」
その言葉にティルムは、ぱぁぁと花が咲いたような笑顔を浮かべる。
ティルム「ありがとう!お兄ちゃん!!」
シンは、そう言って抱きつき頬ずりする義妹にされるがままだ。これでシスコンという噂が流れようが、ますますルナマリア達のおもちゃになろうが、天国のマ ユに怒られようが、もうなるがままになれと落胆した。
ミネルバ進水式の、一年前の出来事だった。
今更ですが、この話は無種至上主義・本編寄りの方には優しくない内容です。
本編でスルー・疑問に感じた問題をしつ こくつついてみよう、と始めたものです。
また本編とは多少違う展開にしようとオリジナルキャラクターと性格が変わった(崩壊?)キャラを出してます。
こちらは精神不安定な本編シンが近くに心の支え的存在・苦しみを理解、温和してくれる人が いれば違っただろうと考え、入れてみました。
真面目な展開を期待してくれる方には申し訳ありませんが、今回の後半のようなノリが6割、シリアス3割、兄妹愛や友情・ラブコメなどは消費税程度になると 思います。