ガンダムSEED DESTINY IF ~もしも彼女がいたならば~    作:鯱出荷

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第七話

ティルム「ルナ!ルナ!ルナ!ルナ!なぁなぁなぁ!!」

 

帰還信号が出されやっとのことでテロリストから逃れたルナマリアだったが、ミネルバに着いた途端ティルムに駆け寄られる。

 

ルナマリア「さり気なく人の名前バカにしてるのはこの際いいとして、何をそんなに慌ててるわけ?もうすぐ大気圏入るわよ」

 

ティルム「艦のレーダーから、インパルスが消失したって!!ルナ、お兄ちゃん見かけなかった!?」

 

ルナマリア「なんですって!?」

 

カガリ「それにアスランもだ!最後に見たときでいいから教えてくれ!!」

 

ルナマリア「あら。大変」

 

カガリ「おい!」

 

「うるさい!」とティルムが横から怒鳴る。ティルムに対してこの前の印象が強く残っているカガリは、とりあえず黙る。

 

ルナマリア「アタシが最後に見たのは、発進してすぐよ。後はジンの相手で精一杯だったわ。アスランさんも以下同文」

 

おまけのようだが、カガリの質問にも答えてくれた。

 

ティルム「そんなぁ……」

 

ふらふらと壁に手をつくティルムを、ルナマリアが励ます。

 

ルナマリア「大丈夫。インパルスは大気圏突入に耐えられるんでしょう?それにシンの腕が加わるのよ。平気に決まってるわ」

 

カガリ「ザクはどうなんだ!?お前!?」

 

ルナマリア「……星になれるって素敵ですよね」

 

カガリ「どういう意味だ!?」

 

ティルム「そう、だよね…。ザクならともかく、インパルスは大丈夫だよね…?」

 

カガリ「『ともかく』って何だ!?」

 

ルナマリア「そうよ。だから安心して待ちましょう。すぐ帰ってきて、前みたいに艦長報告を後回しにしてでも頭撫でてくれるから」

 

カガリ「無視か!あー、もう!お前でいい!!ザクの装甲はどうなっているんだ!?」

 

帰還したザクのチェックをしていたマッドに問い詰める。

結論として、インパルスに比べ装甲は薄いが損傷・破損さえなければ問題ないとのことだ。

 

カガリ「お前…からかったな…!」

 

睨みつけようとするが、既にルナマリアはティルムを残し艦長報告に行っていた。

 

 

 

***

 

 

 

アスラン『無理をするな!このまま離してくれて構わない!』

 

インパルスはザクを抱えるようにしながら、地球上空を降下していた。先ほどのジンの突撃のせいでザクのブースターがいかれ、フォローが必要だからだ。

 

アスラン『いくらインパルスのスラスターでも、二機分の落下エネルギーをカバーするのは無理だ!』

 

確かにこのままだと、二機とも海に叩きつけられる。

 

シン『……!さっきからどうしてあなたは、そんなことばかり言うんですか!』

 

アスラン『…じゃあ何を言えばいいんだ』

 

シン『【さっさと助けろ!この未納者が!】とか…?』

 

アスラン『………。そう言って助けてくれるのか?』

 

シン『…ただの例えです』

 

つい頭に浮かんだことを口に出してしまった。

すると、ミネルバの発光信号が目に入った。

 

シン『助かった!』

 

生命的にも、場の空気的にも。

 

 

 

***

 

 

 

着艦したシンはティルムとルナマリアに必要以上に手荒い歓迎を受け、レイにも帰還命令無視での説教という勘弁してほしい歓迎を受けた。

 

しかしミネルバは問題なく着水し、今はオーブに向かっている。オーブとの通信はこの事件の混乱せいか軒並み使用不能となっているが、代表を送り届ける必要 があるからだ。

 

ヴィーノ「『タイヘイヨウ』って海に下りたんだろ、俺達?ハハ、でっけー」

 

ヨウラン「そんな呑気なこと言ってられる場合かよ。どうしてそうなんだお前は」

 

手の空いているメンバーが、ミネルバ艦上から海を眺める。

 

ルナマリア「やっぱ津波と隕石のせいか、海が濁ってるわね」

 

メイリン「あれだけの質量だもん…。ローマ、上海、ゴビ砂漠、ケベック、フィラディルフィアに大西洋北部。世界中で大変だって…」

 

シン「ん?そういえばティルムは?」

 

レイ「まだ整備が残っているのだろう」

 

口が裂けても、カガリ達と接触しないように不必要な仕事を与えられているとは言えない。

幸いシンは、フリーダムのパイロットの名前がわかったことを知らないようだ。

 

カガリ「けど本当驚いた。心配したぞ。MSで出るなんて聞いてなかったから」

 

そこへカガリとアスランがやってくる。

 

ディアッカ「まったくだ。ミネルバって戦艦が支援に来るって聞いたら、オーブのお前さんがいるんだから」

 

レイ「それは仕方がありません。彼がMSで出撃することが決まったのは、ユニウスセブン到着の数十分前でしたので」

 

アスラン「というかなんで平然とここにいる!?」

 

繰り返し言うが、今ここは太平洋だ。

 

ディアッカ「はぁ?このレイとかいう奴、元々ミネルバのパイロットだろ」

 

アスラン「お前だ!ディアッカ!!」

 

ディアッカ「はっはっは。あのテロリスト達がまだ健在だって通信聞いて捜索してたら、

そのまま地球側にズルズルと」

 

なんか今、2年前にも同じようなことがあった気が。

 

アスラン「…イザークは何て?」

 

ディアッカ「ミネルバに『わざわざシャトルを出すまでもない。宇宙に上がる際ついでで構わないので、それまで保管してくれ』って伝言が。ガナーザクウォー リア共々、そちらの指揮下に置いてくれってよ」

 

パイロットだけならともかく、ザクとセットとなると簡単にはいかない。かといってこのディアッカ用にカスタマイズされているザク(イザークの片腕として特 別に)を置いてくわけにもいかないからだ。

 

メイリン「追伸で、『手に余ったらパイロットは捨てて構わない。というか捨ててくれ』と言われてますが」

 

ディアッカ「……絶対生きて帰ってやる」

 

「ま、まぁ」とカガリが切り出す。

 

カガリ「とんでもない事になったが、お前やミネルバ・イザーク達のおかげで、被害の規模は格段に小さくなった。きっと地球の人達も感謝してくれることだろ う」

 

シン「あんた、それ意味わかってて言ってんのか?」

 

「ちょっと」とルナマリアが止めようとするが、カガリのほうから食いかかる。

 

カガリ「何!?」

 

シン「あんただってブリッジにいたんだろ!ユニウスセブンの落下は自然現象じゃなかった。犯人がいるんだ!落としたのはコーディネイターだ!」

 

アスラン「シン…」

 

シン「あそこで家族や恋人を殺されて、その事をまだ恨んでる連中が、『ナチュラルなんか滅びろ』って落としたんだぞ!」

 

カガリ「わ、わかっている。でも、お前達はそれを必死に止めようとしてくれたじゃないか」

 

シン「当たり前だ!!」

 

カガリ「え…」

 

アスラン「過程はどうあれ、結果として破片は落ちた……」

 

呟くように、アスランが口を挟む。

 

アスラン「一部の者達がやったことだと言っても…俺達コーディネイターのした事に変わりはない……。許してくれるのかな、それでも……」

 

ゆっくりと、アスランは館内へ戻っていく。

 

カガリ「アスラン……」

 

シン「…自爆した奴らのリーダーが最後に言ったんだ。俺達コーディネイターにとって、パトリック・ザラの取った道こそが、唯一正しいものだってさ!」

 

カガリ「なっ…!?」

 

シン「あんたってほんと、何もわかってないよな。…あの人が可哀想だよ」

 

そう言うとシンも館内へと入っていった。一刻も早く、この代表から離れたかったから。

 

ディアッカ「…あいつに何か、恨まれることしたのか?」

 

一人事情を知らないディアッカが、不思議そうにその光景を眺めていた。

 

 

 

***

 

 

 

カガリ「ちょ、ちょっと!ちょっと待ってくれ!」

 

足早に去ろうとしたシンに、カガリが駆け寄ってくる。

シンはかなり不満そうに振り返る。

 

シン「なんすか?あの人は反対のほうに行きましたけど?」

 

カガリ「いや、その。あいつとは後で話す。あーと、何だ。少し私と話をしないか?」

 

シン「はぁぁ?」

 

何を言い出すかと思えば。

 

シン「今までのこと謝れってか?『オーブの代表様に頭を下げろ』って」

 

カガリ「違う!今は代表とかそんなんじゃなく、アスハ家の一人として。いや、『カガリ・ユラ・アスハ』個人としてお前と話がしたいんだ!」

 

シン「俺は話したくない」

 

取り付く島もない態度で、そこから歩き出す。慌ててカガリもついて行く。

 

カガリ「待ってくれって。私なりに考えたんだ。どうすればお前と上手くやれるかを。だから、まずはお前のことを知ろうと…」

 

シン「あんたの父親は国民よりも理念を優先した。そして俺の家族はその理念の犠牲になった。それで終わりだ」

 

カガリ「それは誤解だ。お父様は、お前達を犠牲にするつもりであんな行動を取ったわけじゃない」

 

シン「『つもり』?そうかどうかは、結果とその影響を受けた当事者が決めるんだよ。あんたは人から『うるさい』と言われて、自分にとってはうるさくないから静かだとでも言うのかよ」

 

カガリ「そうじゃない。結果としてこうなってしまったという事実は、私も受け止めている。だからこそお前のような人間をよく知って、同じことを繰り返さな いように…」

 

シン「俺には自分を正当化してるようにしか聞こえないんですけどね」

 

カガリ「お前にはそう見えるだけかもしれない。だが私は自分と違う意見を闇雲に否定するのではなく、よく知ってから意見を出そうと思って…」

 

押し問答を繰り返しながら、シンとカガリはぐるぐると艦内を歩き回る。その後を追って、困った様子のアーサーが歩いていた。

 

アーサー(ようやくオーブと連絡取れたって言いたいけど、そんなこと言える空気じゃない…)

 

 

 

***

 

 

 

ミネルバというザフトの艦から連絡を受けたオーブの五大首長の一つセイラン家の長ウナト・エマ・セイランは、やっと安否の確認が取れたにも関わらず代表に 難癖をつける。

 

ウナト「まったく。あの姫はまた面倒なもので帰国される…」

 

ユウナ「仕方ありませんよ父上。カガリだってよもやこんなことになるとは思ってもいなかったでしょうし。国家元首を送り届けてくれる艦を冷たくあしらうわ けにもいきますいまい、今はね」

 

その息子ユウナ・ロマ・セイランだ。

 

ユウナ「とりあえずは、『歓迎』の準備をしないと。ミネルバの方々には物資を。カガリにはこれを」

 

そこには大西洋連邦からの同盟条約の締結の文書があった。

 

ウナト「…そうだな。もう展示物としての『飾り』の役目は十分に果たした。今後は身に着ける『装飾品』として大いに輝いてもらおうか」

 

 

 

***

 

 

 

翌日、アスランは特に目的もなく艦内を歩き回っていた。

カガリはオーブとの連絡が着いたため、ブリッジから離れられずにいるらしい。

 

メイリン「あ!アスランさん!!」

 

見ると、デッキ上で射撃訓練をしているシン達がいる。例の金髪の女の子と、ディアッカはいないようだ。

 

ルナマリア「あら。いいんですか?姫様から離れて」

 

あえて前回と同じ言葉をかける。

もっとも、アスランは好意にも疎いが悪意にも疎い。そんなことには気づきもしない。

 

アスラン「君達は…メイリンと…」

 

 

~アスラン回想~

 

?????『顔は女神・手足は白雪姫・宇宙を泳ぐ様はマーメイド。……マ…ア・ホークが支援するわ!』

 

~回想終了~

 

 

アスラン「メイリンと…ナマニア」

 

メイリン「わぁ!覚えてくれてたんですね!!」

 

ルナマリア「なんか今マラニアみたいな名前言いませんでした!?」

 

レイ「気にするな、生ニラ。おれは気にしていない」

 

ルナマリア「本気でぶっ飛ばすわよ!?」

 

シン「…こんなところに、何の用です?」

 

このままでは話が進まないと思い、シンが話しかける。

 

アスラン「いや、特に何も…」

 

ルナマリア「だったら、お手本でも。アタシ、射撃は苦手で」

 

お手並み拝見。恥をかけばそれも良しと、アスランに訓練用の銃を渡す。

 

アスラン「………」

 

言われるがままといった感じだったが、スタートボタンを押してからの姿にシン達は仰天する。

 

シン「全部…完璧に当ててやがる…」

 

メイリン「アスランさん!すごい!!」

 

そんな言葉にも、アスランは全く喜ぶ様子を見せない。

 

アスラン「こんな事ばかり得意でも、どうしようもないけどな」

 

ルナマリア「そんな事ないですよ。少なくとも、敵から自分や仲間を守るためには必要です」

 

アスラン「………敵って、誰だよ」

 

「そんなの…!」とシンが言おうとするが、ルナマリアが手で制する。

 

ルナマリア「…それじゃあ、こっちでやりません?」

 

スッ…と、ルナマリアが構えを取る。

 

 

 

***

 

 

 

構えを取った途端、周囲に張り詰めた空気が流れる。

 

ルナマリア「射撃は苦手ですけど、無手での白兵戦は得意なんですよ」

 

レイ「ルナマリア!!」

 

ルナマリア「あら。だったらレイが相手してくれる?」

 

その言葉に口を濁す。ルナマリアとまともにやり合えるのは、アカデミーでも数えるほどしかいない。

 

シンと会って間もない頃、しつこいと感じたルナマリアに殴りかかったシンを易々と返り討ちにしたほどだ。

 

アスラン「…構わないよ。どうせ、ただ待ってるだけだから」

 

そんなこと知らないアスランは、「こうするのも久しぶりだな」と軽い気持ちで構えを取る。

 

ルナマリア「ありがとうございます。……ではっ!!」

 

バッ!!と、女性とは思えない速さで服を掴もうとする。

しかしアスランは難なくそれをさばく。

 

アスラン(この構え…地球のアジア方面の物か)

 

威力よりも速さと手数を重視した技だ。

 

アスラン「だがそれだけでは!!」

 

彼女と同程度の速度と倍近くの威力で、次々と攻撃を繰り出す。とても長時間耐えられるものではない。

案の定アスランが繰り出す技のスピードは見る見る上がり、ルナマリアは防戦一方になっていく。

 

ルナマリア「…つっ!」

 

アスラン(彼女には悪いが、これで!)

 

終わりだ!と、しばらく立てないほどのボディブローを入れる。

 

 

バシィ!!

 

 

アスラン「……な?」

 

思わず目を白黒させる。抜群のタイミングで放ったはずのパンチは空振り。

逆にルナマリアから顔面に掌底を喰らったのだから。

 

ルナマリア「ふふん」

 

アスラン「…くっ」

 

違和感を抱きながら、再び彼女に拳を繰り出す。

するとすぐに、またアスランの一方的な展開になる。

 

アスラン(今度こそ!)

 

ここしかないというタイミングで、大きく振りかぶったパンチを繰り出す。かわせるはずがない。

 

ルナマリア「ふふ♪」

 

それだというのに彼女はまたひらりとかわし、自分に強烈な一撃を加えてくる。

 

アスラン「ぐっ!また…!」

 

妙だった。あの距離、あのスピード、あのタイミング。どれを取っても回避できるはずがないというのに。

彼女は一体何をしたのだろうか。

 

ルナマリア「念のため言いますけど」

 

そう前置きしてから言う。

 

ルナマリア「アタシをただのお笑い担当だと思わないで下さいね。シン達と一緒に歩けなくとも、その後ろを歩くことぐらいは出来るんですから」

 

 

 

***

 

 

 

レイ「”アンプロンプチュ”だな」

 

ルナマリアに手玉に取られるアスランを見ながら、レイが言う。

 

シン「止めなくていいのかよ。あいつのアレ、初めてで見破るなんて出来きっこないぞ」

 

レイ「本人が続けたいみたいだから構わないだろう。ルナマリアも初めの一撃だけで、あとは顔を避けている。問題ない」

 

メイリン「………」

 

メイリンは姉とアスランの試合を、ただただ不安そうに見つめていた。

伝説のエースを相手にしている姉を応援すべきか、アカデミー屈指の実力を持つ姉と戦うアスランを心配すべきか。

恐らく後者だろう。姉の真骨頂はこれからなのだから。

 

 

 

***

 

 

 

そんな会話が聞こえることなく、アスランは目の前の相手に集中していた。

最初は手早く終えるつもりだったが、そんなことできる生易しい実力ではないと。

 

ルナマリア「はぁぁっ!……まだやります?」

 

何度目かわからない掌低を喰らいながら、アスランは思考していた。

 

フェイントもカウンターも、引っかかる素振りすら見せない。

完全にこちらの攻撃のタイミングを知っているとしか思えない反応。

攻撃から防御に転じるとほぼ同時に畳み掛ける判断力。

しかし、なぜか自分のほうが優勢な時間が長いという矛盾。

 

ルナマリア「せいっ!」

 

そんなことを考えていると、横腹に彼女の手刀で突かれてしまう。

 

アスラン「はぁ!はぁ!はぁ…はぁ…」

 

もう肩で息をするのもつらい。

応戦しようにも自分の動きが読まれている理由がわからなく、必要以上に慎重になってしまう。

 

ルナマリア「…アンプロンプチュ」

 

「?」といった表情で、アスランは顔を挙げる。

 

ルナマリア「意味は『即興曲』。この技の名前です。最初の打ち合いの時に、アナタが好むリズムを覚えさせてもらいました。人間誰しも好むリズムがあり、そ のリズムは日常生活でも同じです。もちろん、武術においても」

 

アスラン「もしかすると……!」

 

ルナマリア「ちなみにアナタの攻撃のリズムは3種類。ドドド・レファ、ソソシラソ、ミファシシ・ドド。…アタシは絶対音感の所持者ですので、リズムは音階 でわかるんですよね」

 

体に染み付いたリズムというものは、無意識に体に出てしまう。彼女はそのリズムを敏感に読み取り、攻撃・回避のタイミングを見切っているのだ。

 

ルナマリア「しかも意識しない限り、リズムというのは変な途切れ方をしません。『切りが悪いところ』というのを、無意識に避けるものなんです」

 

例えば自分の好きな曲を聴いているとき、それをサビの途中で切りたいと思うだろうか。

ましてや、それがあと数秒で終わるとしたら。その例えでいう『あと数秒で終わり』が、とどめや回避のタイミングに相当する。

 

優勢な時間が長いのもそのためだ。アスラン自身は押している(音楽でいう『ノッてる』)と思っている状態が、実際はルナマリアに好きなリズムで押させてもらっている(ノせられている)だけにすぎない。

 

相手を好きなリズムで気分と調子を良くさせ、『サビ』の部分までに「自分は絶好調だ」と勘違いさせる。

そして絶好調だと思い込んで大きな一撃を出してきた らカウンター。自分が攻撃のときはあえて相手の好きなリズムで攻撃し、相手にとって『切りが悪い』ところで突然リズムを変えて奇襲。

 

これがアンプロンプ チュの基本的な戦法だ。

 

ルナマリア「こんなところです。他に質問はあります?」

 

アスラン「…ハンデのつもりか?」

 

手品の種がわかればと、アスランはルナマリアに向かって行った。

 

 

 

***

 

 

 

シン「これだからルナとやるのは嫌なんだよ…」

 

これからあの人は泥沼にはまって行くだろう。

アンプロンプチュが厄介なのは、説明を聞く前より聞いた後だ。

 

メイリン「リズムを読まれると知ったら、無理にでもリズムを変える…。でもさっきまでの打ち合いで疲労していて、しかも慣れてない行き当たりばったりのリ ズムで勝てるほど、お姉ちゃんは弱くない…」

 

彼女の強さは技より、その技に依存しない所にある。事実、相手のリズムがわかるまで打ち合えたのは彼女の実力だ。

 

レイ「ここまでか。アスラン氏は今までに多彩な攻撃を放ちすぎた。もし攻撃の強弱や速度を変えても、攻撃の音階までは変えられない。…さらにもう一つ、ル ナマリアは罠を仕掛けている」

 

それに気づいても気づかなくても、結果は火を見るより明らかだ。

レイ達がそろそろ止めようとしたところ、今までその場にいなかった人物が声を上げた。

 

アーサー「えーと…悪いけど、ちょっといいかな?」

 

アスラン・ルナマリア「「あぁぁぁん!?」」

 

二人とも、性格変わってます。

その気迫に怯えながら、なんとかアーサーは口を開く。

 

アーサー「そ、そのですね…み、明日にはオーブに着きますので、カガリ代表がお呼びです…はい……」

 

アスラン「………」

 

黙ってアーサーに向けていた顔を、ルナマリアに戻す。

 

ルナマリア「…な~んか冷めちゃった。続きはまた次の機会にしません?」

 

「いつかわかりませんけど」と付け足し、両手を下ろす。

 

アスラン「そうだな。……君はすごいな。その年でここまでやれるのは、なかなかいない」

 

ルナマリア「アタシは守られるだけじゃ嫌な女ですので。……アスランさん、敵は誰だよって言ってましたよね。アタシの答えは、『自分の大切な人を傷つける 人』です。そしてアタシの考えてる『敵』は大切な人が傷つけられないと生まれない、受身な考え方です。『敵』が出てきてから手遅れにならないように、アタ シは『こんなこと』が得意なんです」

 

先ほどの、銃の腕に対するアスランの言葉を引用する。

 

ルナマリア「敵味方の区別なんて、人それぞれです。強いて万人に当てはめるなら、味方は自分と同じ立場、敵は自分と違う立場といったところですかね。…色 々考えること多いみたいですが、大雑把でもいいんで自分だけの正義をもったほうがいいですよ。他人の正義に合わせていたら、いつまでも『自分』という人間 はできません。…な~んて、余計なお世話でしょうけどね♪」

 

軽くウインクをする。

 

アスラン「…覚えておくよ」

 

そう言って艦内に戻ろうとすると、「あと」とルナマリアが声をかける。

 

ルナマリア「アスランさんのリズム、ミファシシ・ドドじゃなくてファファシミ・ドレです。…あんまり人の言うこと、真に受けないほうがいいですよ」

 

驚いたアスランは、大きく口を開いたまま言葉を無くす。

 

 

 

***

 

 

 

シン「やけにあっさりやめたな」

 

アスランが去り、落ち着き始めたところでシンが話しかける。

彼女の性格上、何かを中途半端で終わらせるのは好まないはずなのに。

 

ルナマリア「………」

 

黙って腕まくりをする。

 

メイリン「えぇ!?」

 

そこにはさっき出来たと思われるアザが、幾つもあった。

 

シン「これ…最初の打ち合いで……?」

 

頷く。

 

ルナマリア「攻撃のリズムがあと一つ多かったらヤバかったわ。それに、結局最後まで両足を使ってこなかったし。…今更だけど、ちょーっと興味持てたか な?」

 

楽しそうに笑うルナマリアの腕を、ムッとした顔のシンが掴む。

 

シン「…ちょっと来い」

 

そのままルナマリアを引っ張り、艦内に入っていった。

 

メイリン「シン…!」

 

咎めようとするメイリンを、今度はレイが制する。

 

レイ「ほっとけ。あいつもいつまでも昔のままではない。自分が嫌いな人間を褒めたからと言って、どうのこうの言う奴じゃないはずだ」

 

 

 

***

 

 

 

ルナマリア「ちょっとちょっと。何なのよ」

 

無言のままシンの部屋に連れてかれると、自分の上着を脱がしにかかる。

 

ルナマリア「しししししし!シン!?ちょちょちょ!?」

 

一体どうして今までそんなそぶり欠片も見せなかったのに汗かいてる姿に惹かれたとか何シンは汗フェチというかさすがにシャワー浴びないで汗だくの状態では いくらなんでもでもでもせっかくシンの好みがわかった絶好の機会なのにここを逃したらいつチャンス再来かわからないしというか今昼間だし鍵もかけてないし レイもこの部屋の鍵持ってるしていうか何で抵抗しないアタシ今でも十分居心地良い関係ではないかでもでもでも

 

シン「何慌ててるんだ?」

 

上着は脱がしたルナマリアの腕を掴むと、両腕を洗面台に置かせ思いっきり蛇口をひねる。

 

ルナマリア「…へ?」

 

シン「アザになってんだから早く冷やせよ。ほったらかしにすると、後に残るんだから」

 

腕に当たる冷たい水で、段々と頭も冷えていく。

 

ルナマリア「………そう」

 

シン「何だよ」

 

とりあえず、これはこれでシンの優しさに触れられたと頭を切り替える。

 

ルナマリア「別に~♪普段は周りの迷惑考えずに突っ走る救いようのないガキだけど、たま~にこういうところがあるから可愛いのよね~♪」

 

ティルムの真似で、横にいるシンの腕に頬ずりする。

 

シン「あぁ、うるせぇな。汗臭いんだから臭い移すな。ただ傷が残って結婚できなかったとか愚痴られるのが嫌なだけだよ」

 

ルナマリア「…そんな傷ぐらいでゴチャゴチャ言う男、こっちから願い下げよ」

 

シン「あ…」

 

しまったと思う。彼女は今までまともな恋人がいなかったため、この手の話が極端に嫌いだからだ。

 

彼女の初恋で初めての彼氏は、付き合った目的は妹への通過点変わりとしてだった。しかも妹に脈がないとわかると態度は豹変し、一方的に別れを告げられた。

 

婚姻統制で候補に挙がった男性との初顔合わせのときも、「子供ができる体だったら別にいい。会うのは面倒だ」と門前払いをくらった。ちなみに事情を聞いて 激怒したルナマリアの父により、この話は即座に白紙になったが。

それ以来だという。彼女が女性らしさを無くし、勝気な性格になったのも。

 

シン「あ、その…わる」

 

ルナマリア「謝らない。アタシは気にしていないんだから」

 

シン「えっと…悪い…」

 

どうにも要領の悪い同僚に、軽い笑みを浮かべる。

「それよりも」とルナマリアは話題を変える。

 

ルナマリア「そっちのほうこそ大丈夫?最近のアンタ、昔のアンタに戻ってきてるわよ」

 

すぐ頭に血が上る。気に食わない相手がいたらなりふり構わず噛み付く。周囲の迷惑も気にしない。『義妹』という、自分の後ろを歩く人物が出来る前のシン だ。

 

シン「…そんなことない」

 

ルナマリア「アンタはティルムのこととか十分背負ってるんだから、小荷物ぐらいアタシ達に押し付けてもいいと思わない?少なくとも、ティルムの面倒はアタ シ達でも出来るわ」

 

今でも十分頑張っている、ということを強調する。

 

シンは褒めれば伸びるタイプだ。もちろん度を越せば付け上がるが、シンは怒られると今までの行為全てが否定されたと不貞腐れる。逆に褒められると自分の行 為が評価させていると受け取り、その期待に応えようと一層努力する。

 

頼まれると『期待されている』と嬉々としてやるが、命令されると『どうでもよく思われている』と反発心を抱く。そんな性格にありがちなタイプだ。

 

ルナマリア「アンタが突っ走ると、ティルムにも悪影響与えちゃうでしょ?これ以上あの子が『悪化』したら、本当に止められなくなるのよ。だから、もう少し 押さえられない?」

 

説教は賞した後に。そして『こうしろ』ではなく『こうしたほうが』と伝えるのが彼には効果的だ。

 

アカデミーではいたが、『どんな人間でも叱ればいい』と思っている教育者は無能だ。中には褒めることで人間もいるというのに。

そういう意味で言えば、シンは規則を重んじる軍人に向いていないが。

 

シン「…わかったよ。ちょっとは気をつけるよ」

 

ムスッとした表情で言う。ルナマリアは『これ以上の深追いは逆効果だ』と判断し、追求しない。

 

アカデミー在学中に付いた『シン・アスカ専属調教師』の通り名は伊達じゃない。ちなみに飼育係はレイだ。

 

ルナマリア「はいはい。…………オーブにいる間は色々あると思うけど、無理するんじゃないわよ。もうアンタの体は、アンタだけの物じゃないんだから」

 

シン「………」

 

その言葉にシンは返事をせず、ひたすらルナマリアの腕を冷やし続けた。

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