ガンダムSEED DESTINY IF ~もしも彼女がいたならば~    作:鯱出荷

14 / 21
【おまけ話】ある日のホーク姉妹の会話

メイリン「とりあえず食事よりも、恋愛話でお腹一杯になりたいかな~」

 

満面の笑みで微笑むメイリン。逃げようものなら、明日には噂が浸透し尽くすに違いない。

 

ルナマリア「あ~!もう!!わかったわよ!!で?どこから話せばいいの!?」

 

覚悟を決め、ベッドに腰掛ける。

 

メイリン「じゃ~ね~♪シンとの出会いから、聞きたいかな?」

 

ルナマリア「そこからぁ?」

 

面倒くさそうに、ルナマリアが言う。

 

メイリン「だってワタシがシンと初めて話したとき、お姉ちゃん、もう今みたいな関係だったから」

 

ルナマリア「…まぁいっか。シンと初めて会ったのは、アタシがまだ先生の弟子じゃなかった頃でね……」

 

 

 

***

 

 

 

およそ2年前

 

ルナマリア「先生!今日こそアタシに、武術を教えてください!!」

 

自由時間。

ルナマリアは、暇を見つけてはコニバンスがいる医務室を訪れるのが日課になっていた。

 

コニバンス「またお前か。帰れ帰れ」

 

ウザったそうに、コニバンスが答える。

 

ルナマリアはアカデミーでたまたまコニバンスに組み手の相手をしてもらって以来、こうして彼女の元を訪れているのだ。

 

ルナマリア「どうしてですか?アカデミーでアタシより強いと思えるのは、先生しかいないんです!!」

 

コニバンス「あたしが気に入らないのは、その思考。『人より上にいたいから強くなりたい』なんていう馬鹿に、教えるものなんてない」

 

ルナマリア「むぅ…。じゃあ!どういう考えだったらいいんですかっ!!」

 

いつものごとく、時間の許す限り食い下がろうとする。

時間まで適当にあしらわれて終わりというのがお決まりのパターンだったのだが、今日は違った。

 

コニバンス「ん?じゃ、そこで寝てる奴を部屋まで送ってやれ。そうすれば、少しはあたしが言いたいこともわかるかもな」

 

ルナマリア「奴……?」

 

そう言って、コニバンスがあごで指した方向を見る。

するとそこには、ボロ雑巾のように朽ちた人間が横たわっている。

 

ルナマリア「………死体処理ですか?ワタシ、そういったことはちょっと…」

 

コニバンス「アホ。アカデミーの医務室で死人がでるか」

 

カルテでルナマリアの頭を叩く。

 

コニバンス「そいつがちょっと暴力沙汰起こしてな。相手側の過保護な馬鹿親が文句言いに来たから、あたしが『では謝罪の意味で』と目の前でこいつを殴り倒 す。吹っ飛ぼうが意識飛ぼうが、殴り続ける。そのうち、向こうの親のほうから『もう結構です!わかりましたから!!』と許してくれたよ。その馬鹿親、真っ 赤な顔して入って来たのに、真っ青な顔して帰ってったよ♪」

 

ルナマリア「…作用で」

 

その光景が、目に浮かぶように想像できる。

 

コニバンス「ま。とにかくそいつを部屋まで持ってってくれ」

 

ルナマリア「…本当は、面倒くさいだけでは?」

 

コニバンス「それもある」

 

隠そうともせず、即答する。

 

コニバンス「だが、あたしがお前に求めてるものが見つかる可能性も、またある。人生、何がきっかけになるかわからんからな。今のまま闇雲に申し込んでいる だけよりは、可能性あると思うぞ」

 

ルナマリア「……たくっ!わかりましたよ!!」

 

半ばヤケクソ気味に、床でほったらかしになっている人物を担ぎ上げようとする。

 

ルナマリア「あら?コイツ……」

 

顔だけは知っていた。

アカデミーでの成績は、優等生で有名な『レイ・ザ・バレル』に匹敵するものの、私生活では不良と変わらないということで。

 

コニバンス「知り合いか?そいつの名前は『シン・アスカ』。部屋は優等生『レイ・ザ・バレル』と同室と言えば、わかるだろ」

 

 

 

***

 

 

 

レイ「…珍しい組み合わせだな」

 

周囲から奇異の目で見られながら部屋までたどり着くと、最初にかけられた言葉がそれだった。

ちなみにアカデミーの女性寮は男子禁制だが、逆はそうではない。

 

ルナマリア「悪かったわね。ほら。荷物のお届け」

 

乱暴に、近くのベッドに放り投げる。

 

レイ「助かる」

 

そう言って席を立つと、未だ意識を戻さないシンをペタペタと触り始める。

 

ルナマリア「何してるの?」

 

レイ「ほっといていい怪我かどうかの、チェックだ。…相変わらず、何度やればわかるんだか」

 

驚いた。レイといえば、優等生と同時に他人に無関心ということで有名だというのに。

やがて問題ないと判断したのか、再び席に座り端末を操作し始める。

 

ルナマリア「………」

 

レイ「………」

 

沈黙が続く。

 

カチッ カチッ カチッ カチッ カチッ………

 

ルナマリア「………聞いていい?」

 

時計の秒針しか聞こえない状況に耐え切れず、ルナマリアが口を開く。

 

レイ「何をだ」

 

ルナマリア「ケンカの原因」

 

何度もやっているということは、理由があるのだろう。

 

レイ「どうせまた『難民孤児のくせに』と、からかわれたのだろう」

 

ルナマリア「え?」

 

難民ということは、同級生経由で知っていた。

だが、孤児というのは初耳だった。

 

ルナマリア「それってどうい『余計なこと、喋るな…!』…おはよう」

 

ベッドの方を見ると、ゆっくりとシンが起き上がっていた。

 

レイ「起きていたのか」

 

シン「あれだけ傷触られたら、嫌でも起きる。…で、お前誰?」

 

ルナマリアに目が向けられる。

その部外者を見る視線に、彼女は口調を強める。

 

ルナマリア「アタシはルナマリア。ルナマリア・ホークよ。それで、一応アンタをここまで運んであげたんだけど?」

 

改めて、この『シン・アスカ』という人物を見る。

傷だらけなのと目つきが悪いのを考慮しても、顔はまあまあの部類。コーディネイターだから、当たり前か。

 

だが最も特徴的なのは、意識がないときは見れなかったその眼。自分の髪よりも、さらに濃い赤。いや、紅と呼んだほうが的確な気がした。

 

シン「そ。あんがと」

 

それだけ言うと、よろめきながら洗面台に向かい、顔を水につけ始める。

 

レイ「傷口が傷むのではなかったのか?」

 

シン「しみるけど、冷やさないと痕になる」

 

レイ「そうか」

 

シン「………」

 

レイ「………」

 

ルナマリア「………」

 

妙な空気と共に、また無言になる。

 

ルナマリア(何?コイツら?)

 

黙って見ていたルナマリアが、率直に思ったのがそれだった。

 

最低限の会話

部外者にとことん警戒心を向ける態度

仮にも部屋まで送ってあげたのに礼は一言

 

ルナマリア(ダメだ。コイツらとは、住む世界が違うわ)

 

少なくとも、標準のアカデミー生ライフを送っている自分とは、無縁の世界だ。

そう結論付け、ルナマリアは「じゃ」と一言残し退室した。

 

 

 

***

 

 

 

ルナマリア「…っていう態度取られたんですよ!人がせっかく、他人の目を気にしながら運んでやったってのに!!」

 

翌日。

また暇を見つけたルナマリアが、医務室で愚痴る。

 

コニバンス「そうかそうか。ご苦労さん。ご褒美にアメ玉でもあげようか」

 

ルナマリア「………聞く気あります?」

 

コニバンス「ん?全くないが?」

 

ルナマリア「開き直らないで下さいっ!!」

 

結局『指導してもらうために必要なこと』のきっかけも掴めず、ルナマリアのイライラはピークに達していた。

 

コニバンス「わかった、わかった。それじゃ、条件を変えようか。それをクリアしたら、お前が何も変わらなくても教えてやる」

 

ルナマリア「本当ですか!?やります!!」

 

昨日ぐらいのことなら、嫌ではあるが容易いものだ。

そう考え、コニバンスの提案に食いつく。

 

コニバンス「話が早いな。お前にやってほしいことは、あたしの重荷を減らすことだ」

 

詳しく聞くと、コニバンスが教えようとしない理由の一つとして、『自分担当の患者がいて指導する時間がないから』らしい。

 

コニバンス「…で、片方は深刻な状態だから人任せには出来ん。もう片方は放置するわけにはいかんが、日常生活は送れる程度は回復してる。その片方の奴を、 お前がなんとかして改善しろ。そいつの症状は精神面での問題だから、たとえ強く当たっても死んだりしないはずだから。………悪化はするかもしれんが」

 

ルナマリア「無責任なこと言わないでください!!」

 

コニバンス「何を言っている?お前は自発的に、『自 発 的 に』そいつと接触するんだろ?患者が日常生活を送っている以上、医師が人間関係まで首を突っ込む義務はない。日常生活内で悪化したとして、それのどこにあたしの責任がある?ん?」

 

ルナマリア「……あくまで、自己責任ということですか?」

 

コニバンス「最低でも、最善は尽くせ。万が一のとき、『フォロー』はする」

 

そのフォローとは、証拠隠滅のことだろうか。それとも、警察への通報ということだろうか。

 

ルナマリア「…えぇい!やりますやりますよ!!どうせやらないと、卒業しても指導してくれないんでしょうし!!」

 

下手すると犯罪に手を染めることになるが、背に腹は変えられない。

 

コニバンス「本当に、話が早くて助かる。じゃ、行ってこい」

 

ルナマリア「はーい……って、例の患者さんの名前、教えてくださいよ。………まさか、これも自分でやれと?もしかして、諜報訓練も兼ねている!?」

 

コニバンス「ノリツッコミはいいから、さっさと行け。名前と部屋は、昨日教えただろうが」

 

ルナマリア「は?」

 

 

 

***

 

 

 

ルナマリア(よりによって、コイツかい…!!)

 

例の患者の部屋に向かったルナマリアは、その部屋で恨めしそうに、問題の患者を睨みつける。

 

シン「………何だよ」

 

いきなり訪れては、無言で椅子に腰掛け続ける彼女に言う。

なおコニバンスの患者の一人であるシンは、何故ルナマリアが訪れたのか知らされていない。

 

ルナマリア(しかも精神上問題だって言ってたけど、どう異常なのか教えてくれないし。レイだったら教えてくれるかもしれないと来てみたら、留守だし)

 

幸先絶不調だ。

そんなことを考えていると、シンが口を開いた。

 

シン「…何話せばいいんだよ?」

 

「え?」と、ルナマリアは思わず聞き返す。

 

シン「ここに来たってことは、理由があるんだろ?いつまでもそう睨まれて気分いいもんじゃないから、質問にはとっとと答える」

 

コイツ、もしかして察しがいい?

まぁ、本人がこう言っているので遠慮なく…

 

シン「レイが部屋にいないときに来たのも、そのためだろ?今までにもそういう奴いたから、さすがに慣れた」

 

…ん?なんか話が変な方向に行ってない?

 

ルナマリア「……確認したいんだけど、アタシが来た目的、わかってる?」

 

シン「レイとの仲介役」

 

ルナマリア「違う」

 

やっぱりダメだコイツ。アタシが、男目的で来たと思ってる。

 

自分が照れた様子も見せないで即答したのが意外だったのか、シンは初めて不愉快以外の表情を浮かべる。

 

シン「…じゃあ、何の用だ」

 

ごもっともな質問をされ、返答に困る。

 

ルナマリア(まさか、アンタが弟子入りの条件だとは言えないし…)

 

結局この日はレイが戻ってこなかったため、この後も終始口を開くことはなかった。

 

 

 

***

 

 

 

メイリン「それで後追っていく内に、好きになったんだね」

 

ルナマリア「いや。全然」

 

即答で首を横に振る。

 

ルナマリア「その日からシンを観察することにしたんだけど、一週間経っても原因どころか、どういう症状なのかさえ確認できなくて」

 

当時のことを思い出しているのか、段々顔つきが険しくなる。

 

ルナマリア「しかも結局レイは何も教えてくれないわ、先生に助言求めに行ったら『はっはっは。才能ないな。お前』って馬鹿にされるわ、シンは短気で無口で 性格は悪いでストレス溜まるわ、クラスの連中からストーカー呼ばわりされるわ。………ふふふ。思い出したら、何かムカついてきたわね」

 

メイリン「へ、へー…」

 

ルナマリア「後ずさりしないでよ。とにかく、この時はシンのことはただただムカつく奴、ティーに会うまでは手のかかる弟としてしか見てなかったわ」

 

「話戻すけど」と、ルナマリアが言う。

 

ルナマリア「結局どんなに調べても埒が明かないんで、昼がダメだから夜に調べることにしたの。それで部屋の前に泊り込みで、張り込みすることにしたんだけ ど…」

 

 

 

***

 

 

 

ルナマリア「ん………?」

 

張り込みを始め、三日目。

廊下で毛布をかぶっていたルナマリアが、深夜物音で目が覚める。

 

ルナマリア「…?」

 

悪いと思いながらも、レイ達の部屋に忍び込む。

すると案の定、シンのベッドはもぬけの殻になっていた。

 

ルナマリア(ビンゴ!?まだ暖かい!!)

 

ベッドに温もりが残っているのを確かめると、レイを起こさぬよう物音を立てず静かにここから退し…

 

レイ「ルナマリア」

 

ルナマリア「ぬっふぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーー!?」

 

背後からの声に大びびり。

 

ルナマリア「お、起きてたんだ…。びっくりした……」

 

レイ「部屋に入ってきたから、初めは物取りかと思って様子を見ていた」

 

ルナマリア「わかったから、その物騒なトンファー仕舞って用件言って」

 

いつもこんなもの潜ませているのか。コイツは。

 

レイ「む…。それでは言わせてもらうが、お前の事情はコニバンスから聞いている。興味本位でこんなことをしているなら、これ以上深入りするな」

 

いそいそとトンファーを仕舞いながら言う。

 

ルナマリア「…は?何言ってんの?」

 

レイ「思ったことを言っただけだ。どういう意味かは、自分で考えろ」

 

それだけ言うと、またレイは布団に潜っていった。

 

 

 

***

 

 

 

ルナマリア(気にしない気にしない。アタシはそんなの気にしな~い)

 

レイの言葉を歯牙にもかけず、ルナマリアはシンの捜索をしていた。

 

ルナマリア(どうせ、あのシンを庇って言ってるハッタリでしょ。見え見えよ)

 

とはいうものの、中庭・食堂・屋上に玄関。

思い当たる所を一通り探したが、シンは見つからない。

 

ルナマリア(あの友人の少ないシンだから、他人や教師の部屋ってのはありえないものね。とすれば、まだ探していないのはシャワー室と…)

 

男子トイレに目を向ける。アカデミー寮のトイレは共同で、部屋ごとではなく各階に2箇所という構造になっている。

さすがにここを調べるのは抵抗があり、後回しにしていたのだ。

 

ルナマリア(ま、今の時間なら大丈夫か)

 

念の為周囲に人影がいないのを確認してから、シン達の部屋最寄りのトイレを覗いてみる。

 

ルナマリア(いた…!)

 

見つけた。トイレの洗面台にしがみつき、ひざまずいている。

 

シン「……さん…ユ…」

 

ルナマリア(ん?何か言ってる…)

 

ピンク色の、とても男性が持つようには見えない携帯電話を握り締めて。

 

シン「どうして…俺だけ。俺だけ生き残って、こんな……うっ!げぇ…!!」

 

飛びつくように洗面台に向かい、激しく嘔吐する。

けども、手の携帯電話は決して離すことなく。

 

それを見て、一つの考えが浮かぶ。

彼が難民孤児だということを。つまりあの携帯電話は彼の物ではなく、遺品ではないのだろうかという考えを。

 

シン「げほっ…がっ……」

 

なお苦しむように嘔吐と嗚咽を繰り返すシンに、ルナマリアの足は自然と動いていた。

 

シン「!?」

 

背中を誰かに触られる感触に、慌ててシンが振り返る。

そこには、黙ったままシンの背中をさするルナマリアがいた。

 

シン「あんた…」

 

ルナマリア「何も言わないで」

 

口を開こうとするシンを、そっと黙るように促す。

が…

 

シン「いや。ここ、男用の便所なんだが…」

 

空気を読めない男に、とりあえず掌底をお見舞いすることにした。

 

 

 

***

 

 

 

ルナマリア「そんなことがあったんだ…」

 

トイレの洗面台に座るルナマリアが呟く。

事情を聞いてみると、意外な程すんなり話してくれた。

 

自分の部屋にも洗面台はあるにも関わらずこうしてわざわざトイレまで来るのも、少しでもルームメイトに迷惑がかからないようにする、彼なりの心遣いからだ ろう。

 

シン「…あとはもう笑うなり馬鹿にするなり、好きにしろよ」

 

ルナマリア「は?」

 

考えふけっていると、突然シンがそんなことを言ってきた。

 

シン「皆そうさ。同情的な目を向けても、どうせ心の中ではいつまでも下らないことにこだわってる奴だと思ってるんだ」

 

ここにきてようやくわかった。コニバンスが言う、シンの症状が。

彼は極端な人間不信に陥っていて、自身を『誰からも必要とされず、ただ邪魔なだけの人間』と思い込んでいる節がある。

 

この彼が感じている苦しみも、「どうせ他人には理解してもらえないに決まっている」と思っているのではないか。

 

だから、本当は誰かに頼りたいのに誰にも頼ろうとしない。問題は誰にも頼らずなんとかしようとして、どんどんストレスが蓄積していく。誰にも心を開かない 故、治療が難しいのだろう。

 

(でも……わかったからといって、アタシなんかじゃ何にも出来ない。でも、先生に言われたからとかじゃなくて、何とかしてあげたい…)

 

ルナマリア「………」

 

シン「…じゃあな」

 

急に黙り始めたルナマリアを疑問に思いながらも、シンは立ち上がると部屋に戻っていった。

 

 

 

***

 

 

 

ルナマリア(どうしよう…専門的な治療は、先生や専門の人が実施済みだろうし……何か、アタシだけが出来ること………)

 

翌日からルナマリアは尾行を止め、図書館でシンの治療方法を考えていた。

 

ルナマリア(多分シンがああなったのは、信じてたオーブへの不信感からよね…)

 

オーブ側にはオーブ側の事情があるのはわかるが、それを説明したところで今のシンが受け入れるとは思えない。

何かよい方法はないか。途方にくれ図書館に来たものの、無駄足だったか。

 

司書「これでどう?一通り、心理関係の書物そろえてみたけど」

 

見ると、先ほどレファレンスサービスで応対してくれた女性の司書だった。

 

最近の図書館は『図書館はサービス業』という考えが主流なため、どんな大雑把な質問にも可能な限り答えてくれる。

そしてルナマリアがした質問が、『精神の病気を扱った書物はないか』というものだった。

 

本当は『こんな精神の病に対して、良い治療方法を扱った書物』を要求したのだが、『質問された問題が専門的なものの場合、専門家ではない図書館員は答えそのものを伝えてはいけない』という規則があるらしい。

他の例で言うなら、宝石・骨董の鑑定、法律関係がそれに当たる。

 

ルナマリア「あ、すみません」

 

司書「いいのよ。近頃は皆電子書籍ばっかで、図書館員は暇なの。ゆっくりしてってね」

 

置かれた書物を見てみる。

言われなくとも、ゆっくりせざるを得ない量だ。

 

ルナマリア(やったるかぁ!!)

 

腕まくりをし、覚悟を決める。

求める解決法が見つかったのは、それからしばらく経ってからのことだった。

 

 

 

***

 

 

 

シン「ん…?」

 

深夜。

シンはドアが開く音に目を覚める。

 

ルナマリア「よ♪」

 

見ると、あの日以来ばったりと来なくなったルナマリアがいた。

 

シン「…今度は何の用だよ」

 

もう自分に用はないはずだ。

そう思い無愛想に言うと、ルナマリアはニッコリと笑う。

 

ルナマリア「泊めて♪」

 

シン「……………」

 

予想しなかった発言に、開いた口がふさがらない。

 

ルナマリア「悪いわね~。図書館こもってたら、すっかり遅くなっちゃって」

 

シン「待て待て待て!俺は許可した覚えはない!!」

 

布団に潜り込もうとするルナマリアを、慌てて制する。

 

シン「自分の部屋帰れ!!」

 

ルナマリア「帰るの面倒。女子寮、ここより遠いんだもの」

 

シン「だったら教官んとこ行け」

 

ルナマリア「生徒が夜中教官の部屋訪れるのは、世間的にまずくない?」

 

シン「この状況も、十二分にまずいと思わんか?ほら。レイも黙ってないで何か言えって」

 

この騒ぎで寝ていられるような人間ではない、レイに助けを求める。

 

レイ「……おれは明日早いんだ。さっさと寝ろ」

 

駄目だった。

 

ルナマリア「そんなわけで、おやすみ~♪」

 

ため息をつくシンと毛布を共有しながら、レイが打ち合わせ通り行動してくれたことに満足する。

これがルナマリアが考えた、自分にしか出来ないシンの治療法だ。

 

彼は極端な人間不信に陥っていて、とにかく人との接触を避けようとしている。

それならば逆に、嫌というほど人の温もりを与えてやろう、という方法だ。

 

念の為コニバンスに実行してよいか聞いたところ『勝手にしろ』と言われたので、レイに協力を依頼し実行することにした。

 

 

 

***

 

 

 

ルナマリア「後はアタシが思った通り。頻繁に泊まりに行って何回か殴り合いのケンカもしたけど、そのうち友達になれて、他の人にも少しは心開くようになっ たわ。…その間に、完全に女扱いされなくなったけど……」

 

メイリン「それが、今となって後悔していると…ってそうじゃなくて。お姉ちゃんも女性なんだから、少しは身の危険とか考えないと…」

 

ルナマリア「ん?だってシンに女襲う度胸あるようには見えなかったし、いざとなったら簡単に返り討ちに出来るし」

 

散々な言われようだ。

 

ルナマリア「というわけで、無事シンは回復して、アタシも無事先生に指導してもらえるようになりました。めでたし、めでたし~。さ、今晩の献立は…」

 

メイリン「お ね え ち ゃ ん~~~?」

 

退室しようとするルナマリアの肩を、メイリンがガッシリと掴む。

 

メイリン「肝心の、『どうしてシンを好きになったのか』を聞いてないんだけどな~?」

 

ルナマリア「め、メイリン!掴んでる辺りから、『ギリギリ』と軋むような音がするんだけど!?」

 

メイリン「あははははははははははははは。やだなー、お姉ちゃん。ワタシにそんな力あるわけないじゃない」

 

ルナマリア「可愛い妹がそうであると思いたいのは山々なのですが!傷む体がこれは現実だと主張して止まないんです!!あぁ!あんな幼かったメイリンもすっ かり大人に…」

 

ギチギチギチ……

 

ルナマリア「痛い痛い痛い痛い!!わかった!わかったから!!」

 

スッと、メイリンが肩から手を離す。

 

メイリン「うんうん♪ワタシ、素直なお姉ちゃん好きだな」

 

ルナマリア(アタシ、ブラックな妹は嫌いだな)

 

心の中でせめてもの抵抗をしながら、再び腰掛ける。

 

メイリン「それで?もう過程とかどうでもいいから、さっさと言って」

 

言いたくないことを言わされてるのに、何故こちらが急かされる!?

 

 

 

***

 

 

 

話はアカデミーにて、シン達がティルムに出会うまで進む。

 

ルナマリア「あら。ちゃんとティーのこと、可愛がってるのね」

 

部屋に訪れたルナマリアは、シンの膝を枕にして眠るティルムを見つける。

正直この生意気なガキにこんな温順な子を任せるのは心配だったが、取り越し苦労だったようだ。

 

シン「当たり前だろ。――この子は俺みたいな駄目人間でも、本当に頼りにしてくれてるんだ。裏切れねぇよ……」

 

寝息を立てるティルムの髪を、シンがそっと撫でる。

その表情はいつものわがまま小僧の顔ではなく、慈愛に満ちあふれた表情。シンのそんな表情を見たのは、初めてだった。

そんな穏やかな光景を見て、ルナマリアは心から思ったことを口にする。

 

ルナマリア「とりあえず言わせてもらうとね…手出したら承知しないぞ。このシスコン野郎」

 

シン「人がしんみりとしてるのをぶち壊すか!?」

 

そんなこと言われても、そうとしか見えないんだから仕方がない。

 

ルナマリア「事実でしょうが。プラント中探しても、この歳で膝枕してあげる兄なんてアンタぐらいよ」

 

シン「ぐっ…。べ、別にいいだろ!!『膝枕してほしい』って頼まれたんだから!!」

 

ルナマリア「断ればいいじゃない」

 

シン「涙目で『駄目なの?』とか言われたら、断れないだろ!!」

 

ルナマリア「だから、断ればいいじゃない。『疲れてるから』とか適当なこと言って。それが出来ないから、シスコンなんでしょ?」

 

うつむき、「違うやい……」とシンがぶつぶつ呟く。

そんなシンを見てルナマリアは、しばらくからかうネタには困りそうにはないなという、不謹慎なことを考えていた。

 

 

 

***

 

 

 

ルナマリア「…とまぁ、最初感じたのはこんなんだったんだけど、そのうちシンのああいう表情が、その、『いいなぁ…』って思ったり……」

 

真っ赤になったルナマリアが、自分の枕で顔を隠しながら話す。

 

ルナマリア「でもその表情はティーにしか向けてくれなくて。それが何だか嫌で。だからティーと競うようにシンに抱きついたりベッドを共有してたりしてたん だけど、それは自分がティーに嫉妬してるからだってことに気づいて………そんなこんなで、現在に至るってわけ」

 

うんうん、とメイリンが横で頷く。

 

メイリン「なるほどね~。つまり、意識するようになったのは最近になってからなんだ。どうりで、今までと態度に変化がないわけだ」

 

その言葉に、ルナマリアが反論する。

 

ルナマリア「何よ。少しは女らしいこと始めたわよ。料理覚えたり、占い雑誌見て服選んだり」

 

が、次の瞬間大きくため息をつく。

 

ルナマリア「……でも、オーブ外出初日にシンに置いてかれた腹いせに、自分の枕を的にして射撃訓練したのは女らしくないわよね」

 

メイリン「そんなこともしてたんだ………あれ?じゃあ、その枕はどうしたの?」

 

さっきから顔をうずめている枕は、新品ではなくある程度使われたと思われる品だ。

 

ルナマリア「あぁ、これ?シンが外出してる間、チャンスだと思ってシンの部屋からぁ、ぁ……………」

 

「しまった」と思っても、後の祭り。

 

メイリン「………(ニヤニヤ)」

 

ルナマリア「………(汗)」

 

メイリン「………………(ニヤニヤニヤ)」

 

ルナマリア「………………(汗)」

 

スゥー、とメイリンが深呼吸。

大声を挙げるために。

 

メイリン「シンーーー!?ここに、お姉ちゃんが盗ったシンの枕がーーー!」

 

ルナマリア「許してーー!アスランさんの個人プロフィールのパスワード、入手してあげるからーーー!!」

 

こうしてこの日以来、姉妹の上下関係が大きく逆転したのである。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告