ガンダムSEED DESTINY IF ~もしも彼女がいたならば~ 作:鯱出荷
コニバンス「にしても、まさかあんたまでミネルバに来るとわね」
相変わらず医務室でタバコを吸いながら、呆れたような声でコニバンスが言う。
アスラン「それはこっちのセリフです。『医務室の大地主』の異名を持つ、あなたがアカデミーから離れるなんて」
アカデミーでコニバンスと顔見知りなのは、シン達だけではなかった。アスランを始め、イザークやディアッカも彼女と顔見知りなのだ。
コニバンス「こっちも色々あってね。だがお前といい、イザークといい。さすがあたしの教え子は、優秀なやつばっかりだな……………ディアッカは知らんが」
アスラン「決して、あなたのおかげで『あぁぁん!?』…ス本当ニドウモアリガトウゴザイマスアリガタスギテ言葉モアリマセン」
何故かカタコトだ。
コニバンス「そうか、そうか。素直でよろしいぞ。優等生」
問題児に言われたくないが。
コニバンス「……ニコルのことは、向こうで聞いたよ。プラント行ったとき、ちゃんと顔見せてやったか?」
アスラン「……………はい」
彼女との会話は、突然話題が変わるので心臓に悪い。
コニバンス「感心、感心。人間出世してこそ、横や下との繋がりに気を配らないといけない。長く人の上に立っていたいなら、なおさらだ」
アスラン「……そういえば、ここのクルーの一人が、あなたの弟子だそうで」
気恥ずかしさから、今度はアスランから話題を変える。
すると、ニッカリと彼女にしては珍しく破顔になる。
コニバンス「いい筋してるだろ?今までロクな奴がいないから相手にしてこなかったが、あいつは別だ。音感もあるし、飲み込みも早い。何より、メンタル面で 優れている」
甲板での練習の際、『アンプロンプチュ』と技名を聞いてもコニバンス関係とわからなかったのも、彼女の秘密主義ためだ。彼女は弟子に相応しい実力者が出て くるまで、技の名前すら公表していなかったのだから。
アスラン「ですね。あなたの弟子だと知っていれば、『手を抜こう』なんて馬鹿なこと考えませんでしたよ」
コニバンス「構えでわからん、お前が悪い。まだまだあいつのはあたしの模倣で、ちょっと見ればすぐわかる」
アスラン「普通はわかりませんよ。………それと、プラントでもう一人の『お弟子さん』にも会いましたよ。あなたに会ったら、よろしく伝えてくれと」
今まで気分よく話していたコニバンスが、急に不快な表情を浮かべる。
コニバンス「…プラントでモノマネやってる、あの馬鹿か」
アスラン「そんな言い方…。『彼女』は『彼女』なりに、プラントの為に…………」
コニバンス「人の二番煎じに浸かってる沈殿物など、あたしは知らないね。違う話題」
そう言って、タバコを大きく吸う。どうあっても、この話題に触れたくないようだ。
アスラン「では、あのティルムという少女の件で」
ピタリと、コニバンスの動きが停止する。
コニバンス「………………知ってどうする?」
アスラン「どうもしませんよ。ただ、関係の改善を。どうやら自分は、目の敵にされているようなので」
コニバンス「詳しくは言わんが、あいつはあたしの『患者』だ。完治するまで、あたしの物だ」
『患者』。つまり彼女は、何か病気を抱えているということか。
アスラン「詳しい症状は別に構いません。せめて、彼女の境遇を…」
事前に彼女の経歴などを調べようとはしたが、すでに消去されていて調べようがないのだ。
コニバンス「個人情報保護法違反。知りたきゃ、本人と保護者の許可書もらってきな。ちなみに書類上の保護者は、最高評議会議長様だ。またプラント行ってく るか?あと、今後のことを考えてシンの許可も必要不可欠」
断固として、この件に関しては口を割らないつもりだ。
先ほどの『彼女』の話といい、すっかりコニバンスは機嫌を損ねていた。
コニバンス「こんな話をするために、ここに来たのか?だったら、もう帰れ。あたしは暇じゃないんだ」
アスラン「あ……!い、いえ!!これが、本当の目的です」
ティルムの症状が、肉体的なものか、精神的なものかだけでも聞きたいと思っていたが、これ以上は無理だと判断する。
コニバンス「……『腹黒い恋人』?」
差し出されたのは、プラント産の洋菓子の箱詰めだった。
アスラン「転属の、挨拶変わりです」
これはカガリに教わったことだが、オーブでは引越し先に『引越しソバ』という物を送る習慣があるらしい。
ソバではないが、出戻りの自分を快く思わない者がいると思われるため、会話のきっかけになれば。
そう思って顔見知りな人間だけにでも、と用意したのだ。
コニバンス「また無難なやつ持ってきたな。シンプルな味で、大抵の奴は問題なく食える」
ネーミングセンスは問題だと思うが。
***
こうしてアスランの、挨拶回りが始まった。
タニアには万年筆を、チェン・マリク・バートには無難な菓子折りを、アーサーにはハンカチを。
なぜかアーサーには『ちょうど古いのがダメになってきたところ』と、大いに喜ばれた。
アスラン「あ。すまない。少しいいだろうか?」
ミネルバ内を歩き回っていると、休憩室でくつろぐヨウランとヴィーノを見つけ、呼びかける。
アスラン「これからよろしく頼む。これは、挨拶変わりだ」
そう言って先ほどコニバンスから聞いた、二人の最近興味があるという物を渡す。
ヨウラン「おーーー!ラクス・クラインのポスターじゃねぇか!!」
『いつでも私を感じますように♪』とミーアから押し付けられた物だ。彼女には悪いが、意外なところで役に立った。
ヴィーノ「なぁ!ここ見てみろよ!」
ヨウラン「どれ?うおっ!!すっげーー!!」
聞いていた以上に喜ばれ、アスランは安堵の表情を浮かべる。が………
アスラン「ふ、二人とも……そのぐらいにしたほうが………」
しかし二人はポスターに夢中になり、聞く耳を持たない。
ヨウラン「ほら!このライン!!やっぱここだよな~!!!おい!!!」
ヴィーノ「ここも捨てがたいよ!このきわどさ!!さすがラクス・クラインだね!!!」
????「……………私の前でそんなの見るなんて、いい度胸してますね」
ピシッ!!!と、周囲の空気が冷え切った音が聞こえた気がした。
ヨウラン「………」
ヴィーノ「………」
そ~~~~~~とヨウランとヴィーノが振り返ると、声の主は青筋を浮かべるティルムだった。
アスランは、既に見て見ぬ振りだ。
ティルム「知ってます?近頃は部室に女性の水着のポスター貼っただけで、セクハラになるのを?それだというのに、よくもまぁ、こんな物を休憩室で大っぴら と。法廷行きます?それとも、ルナとお兄ちゃんに報告します?」
ヨウラン・ヴィーノ「「あ、あははははははははは………………。失礼しましたーーーー!!!!」」
二人ともポスターを脇に抱え、全力で逃げ出した。
アスラン「………ところで『あなたも同罪だということを、忘れないでください。渡すなら、せめて場所を考えてください。あなたの時代ではそれで良かったか もしれませんが、近年では女性が同じ職場にいるのが当たり前の時代です。そういった無責任な行動が、女性の活躍の場を奪うんです』………はい…………」
さすがに見逃してくれなかった。
前回信用を得られるように努力すると言ったのに、もう影が差し始めた。
アスラン「えっと……。ティルムにも、あるんだけど………」
気を取り直して、彼女の為に用意した物を袋の中から探す。
ティルム「…生理用品や下着だったら、本当に訴えますよ」
アスラン「君の中で、俺はそういうキャラなのか?用意したのは、これだよ」
ようやく目的の品を探り当て、彼女に差し出す。
アスラン「君はこれが苦手だと聞いてね。知り合いが薦める、簡単なやつを選んだんだ」
今のところ、結果はどうあれ喜んでもらっている。そのせいか、自信満々で見せたのだが…
ティルム「………………………………ぐすっ」
アスラン「えっ!?」
突然涙ぐんだ。
不可解な事態に、混乱したアスランの思考は完全に停止する。
ティルム「う……うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!ひどい!ひどすぎます!!アスランさんなんかアデラ○スのお得意様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
泣き叫びながら、逃げ出してしまった。
アスラン「………………何が悪かったんだ?」
呆然とするアスラン。
その手には、アカデミー時代にルナマリアから手渡されたのと同じ、あの料理本が握られていた。
***
メイリン「あ♪アスランさーーん!」
ア○ランス愛用者の烙印を押され、足取りの重いアスランに、元気よくメイリンが駆け寄ってくる。
アスラン「…あぁ。君か」
メイリン「元気ないですよー?どうしましたー?」
下から覗き込むように、顔を近づける。
アスラン「色々あってね…」
そこで、アスランは思いついた。
何も『贈り物はこちらが選んだ物でなければならない』という決まりはない。となれば。
アスラン「実は今、お近づきの印にミネルバのクルーに贈り物をしていて。メイリンは、何か欲しい物があるかい?どんなのを送れば喜ばれるか、少しわからな くなっていてね…」
その言葉に、メイリンは目を輝かせる。
メイリン「本当ですか!?だったら、その……アスランさんの写真、頂けますか……?」
上目遣いで、恐る恐る尋ねてくる。
そんなメイリンの要望に、アスランは笑顔を浮かべる。
アスラン「そんなのでいいのかい?それだったら、いくらでも」
そう言って、懐に手を入れる。
メイリン「え?いま持っているんですか?」
アスラン「もちろんさ。俺がこの写真を手放すわけないだろう」
メイリン「………は?」
ドサッドサッドサッ
アスランが懐から自慢げに取り出したのは、カガリとのツーショット写真。それも、大量に。
メイリン「………………………………」
冷たい視線を気にすることなく、アスランは熱く写真の解説を始める。
アスラン「ほら。これなんか夏に海に行ったときの写真なんだが、もうカガリが綺麗で可憐で愛しくて!他にも、これなんかどうだい?『着物』という服らしい んだが、またいつもと一味違って!洗練された美というか、類まれな絶世の美女というか!言うまでもないが、普段も十二分に綺麗なんだぞ。これなんか珍しい プレミア物、カガリの寝顔写真だ!本人に写真を見せたら『は、恥ずかしいから返せよ』なんて言うカガリが、また格段に可愛くて!!……あぁ。どれも遠慮せ ず、持っていってくれ。ネガは閲覧用・保存用・保険用・災害用・対キサカ用と随時厳重に保管して……」
メイリン「もう結構です!!!!!」
***
アスラン(本当に、何がいけなかったんだろう……)
明らかに悪化していく人間関係に、アスランは相当落ち込んでいた。
まだ挨拶を済ませていないのは、シン・ルナマリア・レイの3人。特にシンは、慎重に対応しなければいけない。
アスラン(今まで物だったのがいけないのか?何か形に残らない、贈り物……。そういえば、シンは妹さんを亡くしていたな……)
ティルムの経歴を調べる最中、何か接点はないかと、一緒に調べておいたのだ。
アスラン(今の彼に必要なのは、財力でも権力でもなく………………。そうだ!これでいこう!!!)
あるアイディアが頭に浮かび、アスランは袋の中をあさり始めた。
***
ティルム「うわぁぁぁぁぁぁん……お兄ちゃぁぁぁぁん………」
自室でルナマリアと話していたシンは、泣きながら駆け込んできた義妹を慰めていた。
ルナマリア「まぁ、悪気はなかったといってもねぇ……」
事情を聞き、『自分に責任はない』とは言い切れないルナマリアが、歯切れが悪そうに呟く。
なお、レイは只今外室中。
シン「聞いた話だと、俺達のところにもあの人は来そうだな。その時にでも、どうしてこうなったのか説明しよう」
アスラン『シン。アスランだ。入って構わないか?』
噂をすればなんとやら。当の本人である、アスランが来たようだ。
ノックの音に一瞬怯えながら(第一話参照)、シンが返事をする。
シン「…どうぞ。鍵はかかってませんから」
ドアが開く音と共に、アスランが入室する。
シン・ルナマリア・ティルム「「「………………………」」」
アスラン「喜べシン!今日から俺がお前の妹になってやる!!…いや、『シン』じゃない
な。よし。今から『兄さん』と呼ばせてもらうぞ。兄さん!」
ブラウス・スカート・三つあみカツラ。
そこにいたのは完璧に女性物に身を包んだ、フェイスのアスラン・ザラだった。いや、アスラン・ザラ『だった』人物というべきか。
『泣く子も黙る』という言葉があるが、その格好を見たティルムは、確かに泣き止んだ。
ショックで。
シン「………ルナ」
ルナマリア「………うん」
アイコンタクトを交し合い、いま最もやるべきことをお互い確認。
シン「うわぁぁぁぁぁ!!」
ルナマリア「てぃぃぃぃぃぃい!!」
そして二人は飛翔した。
ザフトの汚点を。自分の上司になりうる人物を。ティルムの目の毒を。目の前の女装趣味な変態を。
全身全霊で払拭するために。
***
シン「………それならそうと、最初に言ってくださいよ」
アスラン「俺にも非があると思うが、少しやりすぎじゃないか?」
二人がかりでボロボロにされ、逆さ吊りにされているアスランが呟く。
もちろん、格好は入室したままである。
ルナマリア「『俺にも』ではなく『俺に』の間違いでは?写真撮って、ばら撒きますよ?」
アスラン「そう言いつつ、写真を撮るのはやめてくれ……」
なんだかんだ言って、降ろす気ゼロである。
シン「とにかく。別に贈り物とかじゃなくて、一回食事おごってもらえれば十分ですから」
ティルム「むしろ、他に何もしないでください」
もはや信用する・しない以前に、人間としてアスランを軽蔑するティルムが追い討ちをかける。
アスラン(彼女の評価は、今日だけでだいぶ変わったな…………)
大きくマイナス方向に。
当面の課題として、彼女に真人間として認めてもらえるよう努力しなければ。
ルナマリア「それで?アタシ達は食事でいいとして、レイはどうするおつもりで?」
それが問題だ。コニバンスも、彼の趣味がわからないと言う。
アスラン「特にいい案が浮かばないから、シン達と一緒に食事でも…と思っているんだが」
繰り返し言うが、今もアスランは逆さ吊りの真っ最中である。女装のまま。
シン「レイの好きなもの?………あっ」
ルナマリア「ん?何か浮かんだ?」
レイとの付き合いなら、自分よりシンのほうが長い。気づくなら、彼のほうが当然先だろう。
シン「うーん……一応。物ではないんだけど…」
その思いついたものを口にする。
ルナマリア「なにそれ?そんなの、贈りようがないじゃない」
シン「だから『一応』って言ったんだよ。文句言うなら、ルナも何か……」
アスラン「……いや。それでいける。なんとか、なりそうだぞ」
シン・ルナマリア「「は?」」
***
アスラン「さぁ。出来たぞ!!」
シン・ルナマリア・ティルム「「「………」」」
自信満々に、逆さ吊りと女装から解放されたアスランが、レイに贈る品を見せる。
そこにあるのは
毛むくじゃらの枕。
ものすごく、モサモサした枕。
夢でワカメに溺れ死にそうな、正直ウザい枕。
ルナマリア「…本気で、これをレイに贈るんですか?」
ちなみに先ほどシンが言ったのは、レイの尊敬する人物。つまり、デュランダル議長と言ったのだ。
それが、どうしてこんなことに?
アスラン「何が問題なんだ?議長の髪型を忠実に再現するため、そのボリュームにふさわしい最高級の毛糸で枕をコーティング!!しかもスピーカー内蔵で、頭 をのせると議長の演説がリピートで流れる親切機能!その数驚くなかれ!何と1647パターン!!」
シン「忠実に再現して高性能にすれば、いいってもんじゃないですよ……」
レイが怒り狂わなければいいなぁ…
そこへタイミング良く(悪く)、レイが戻ってきた。
レイ「アスランさん?何か御用でしょうか?」
アスラン「あぁ、ちょうど良かった。お近づきの印にこれを、と思って」
レイ 「……………」
【この直後の詳細は、とても書けるモノではありません】
【ただレイの中でのアスランの評価が、最低になったということだけ明記しておきます】
***
~ちなみに~
ディアッカ「いーですよ、いーですよー。どうせ俺との友人関係なんて、この程度の物なんですよねー」
アスラン「すまん!ディアッカ!!この通り!!」
先日マンバの毒にやられ、点滴を受けていたディアッカの存在を忘れ去っていた。
結局その日のアスランの行動は、プラスよりもマイナスのほうがはるかに多い結果に終わった。
~さらに~
数日後。
デュランダル議長から直通で、アスランは減給3ヶ月の処分を受けた。
心当たりがありすぎるアスランは、一切の抗議をすることなく、その通告を受け入れた。