ガンダムSEED DESTINY IF ~もしも彼女がいたならば~    作:鯱出荷

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第十四話

ルナマリア「ふー…。ここのお茶、おいしい。もう一杯ちょうだい」

 

レイ「退室直前はあんなに渋っていたというのに、出た途端これか」

 

シン達を残し退室した後、アスラン達はホテル備え付けの喫茶店でくつろいでいた。

タリアとディアッカも残っている。

 

ルナマリア「ジタバタしても仕方ないじゃない。だったら心行くまで、無銭飲食」

 

タリア「せめてタダ食いと言ってもらえるかしら?」

 

領収書が降りるのをいいことに、彼女はさきほどから飲みまくっている。

便乗者がいるのも事実だが。

 

ミーア「アスラーーーーーン!!」

 

アスラン「うわっ!」

 

ガバッ!と突進するような勢いで、背後からアスランに抱きつく。

 

ディアッカ「ラクス!?なんでこんな所にいるんだよ!?キラはどうした?」

 

ルナマリア「…!ラク――ん?」

 

ミーアのことを知らない二人は、それぞれ違った反応で驚く。

ぼろが出ないように、ミーアは二人を黙殺する。

 

ミーア「お久しぶりですわ、アスラン。お元気そうでなによりですわ」

 

アスラン「あ…。ミー………ではなく、ラクスもお変わりなく…」

 

ミーア「ふふ♪戸惑っている姿も素敵ですよ。アスラン♪」

 

シン(そっか。ミーア先輩の憧れの人って、隊長のことか)

 

追いついたシンは、自分のときとはあからさまに違うミーアの笑顔に納得する。

 

そう思っていると、なぜかルナマリアがつぶやき始めた。

 

ルナマリア「眉整形30万、小皺除去20万・・・」

 

テーブルに肘をつきながら、無表情に言う。

彼女には今目の前にいるラクスが、ミーア先輩であることを告げていないはずなのだが。

 

ミーア「……何のことでしょうか?」

 

アスランに抱きついたまま、目だけをルナマリアに向ける。

 

まだ身元が割れたという確証がないこととホテルの従業員を含めた人前であることから、

挑発行為だとわかっていてもミーアはラクスとしての表情を崩さなかった。

 

ルナマリア「いえいえ~。こんな一兵士のことなんぞ、お気になさらずに。た・ま・た・ま思い出したことを口ずさんでいるだけですのでー」

 

相手が下手に出ているのをいいことに、調子に乗るルナマリア。

 

ティルム「その…ラクス――さま、がいるのに、本職の人の前で体形のことを指摘するの、は…」

 

ミーア「………」

 

ルナマリア「………」

 

無言の沈黙が続く。

 

ミーア「………………」

 

ルナマリア「………………ぜい肉、kg10万で30万くらい使ったのかしら?」

 

「チーン♪」と電子レンジのような音がしたと思うと、ミーアはゆっくりとアスランから離れる。

 

ミーア「あらあら。よくよく見ればあなた、無駄に横に広い体系をしてますのね。ほほほほほほほほほほほほ…」

 

ルナマリア「いえいえ。あちこちでライブを開いてお忙しいラクス様には敵いませんよ。ふふふふふふふふふふふふ…」

 

ミーア「………ハロ。お行きなさい!」

 

ハロ「OK.――Go to hell!!」

 

ルナマリア「上等!!機械ごときがアタシに敵うとでも!?」

 

レイ「……結局こうなるのか」

 

アカデミーでは見慣れた、いつものミーアとルナマリアの光景だった。

 

この二人はとにかく仲が悪い。MS操作、白兵戦、ペーパーテストなどあらゆる分野で拮抗しているライバル同士だから、というのが主な原因だろう。

とにかく、なぜだかわからないがルナマリアがミーアに気づいているのは間違いないだろう。

 

ディアッカ(おい、アスラン)

 

ようやくミーアから介抱されたアスランの袖を、ディアッカが引っ張る。

 

ディアッカ(どういうことか、後で説明しろよ)

 

冗談が通じないシリアスな目だ。

彼も少なくとも目の前のラクスがラクス本人ではないことに気づいたのだろう。

 

アスラン(…わかってる)

 

マネージャー「ラクス様。そろそろ公務の時間です」

 

ミーア「ジスト。…もうですの?」

 

小太りで眼鏡をかけた、マネージャーらしき人物に残念そうに呟く。

 

ジスト「ラクス様は皆の希望です。その希望が絶えてしまったとなると、至極絶望して……?」

 

ハロを分解し終えたルナマリアが、「じー」とジストのことを見ている。

 

ジスト「…なんやねん?」

 

ルナマリア「やっぱり!標準語になまりがあると思った!!シンー!見て見てーー!!関○人がいるよーーー!!」

 

シン(うっわ。他人のふりしてぇ)

 

先ほどのミーアとの戦闘といい、ここがホテルということを忘れているのだろうか?

それ以前に、初対面のジストに対して失礼だと思わないのか。

 

ルナマリア「そ、それで、あの…。これってチャウチャウですか?」

 

おずおずと、ドーベルマンの置物を指差す。

 

ジスト「ちゃうのではおまへんやろか?」

 

怒りはしないものの、さすがにイラついたのかぶっきらぼうに答える。

 

ルナマリア「そこは『チャウチャウとちゃうんちゃう?』って言うもんじゃないの!?」

 

ジスト「…のアマ!!黙って聞いてりゃ好き放題言ってくれるやないか!?なんや!○西人ってそないなに珍しいんか!?駅前で友人と会話してるだけで警官に 『困るんだよねー。こんなところで漫才やられても』って言われる身にもなれや!!」

 

シン「帰っていいか?」

 

心の底から懇願する。

だが、それは意外な人物から抑止された。

 

デュランダル「今晩はこのホテルに泊まっていったらどうかね?もう人数分の個室を取ってある」

 

事前に話を聞いていたのか、タリアもその提案を薦める。

 

タリア「休暇なんだし、議長のせっかくのご厚意なんだから。私は艦長としての仕事が残っているけど、貴方達はこちらでゆっくりさせていただきなさい」

 

アスラン「そうさせていただけ。艦には俺が…」

 

ミーア「………」

 

そっとミーアがレイに目配せ。

それを察したレイが、アスランの発言をさえぎるように口を開く。

 

レイ「艦には私が戻ります、隊長もどうぞこちらで」

 

アスラン「あ、いや…。それは」

 

レイ「褒賞を受け取るべきミネルバのエースは、隊長とシンです。そしてルナマリアとティルムは女性で、ディアッカさんもミネルバに来て以来まともな休暇がありませんでした。私の言っていることは順当です」

 

流暢にアスラン達に気を遣うなか、申し訳なさそうにティルムが手を挙げる。

 

ティルム「あの…。せっかくですけど、私は戻ります。届けてもらった物の確認をしたいので」

 

ディアッカ「んじゃ、俺も。もらったMSの調整しないと。――というわけだから、お前さんは残れ」

 

ポンッ、とレイの肩を叩く。

 

レイ「いえ。整備員であるティルムと、本来はジュール隊員であるディアッカさんに任すわけにはいきません」

 

ディアッカ「それ、微妙に傷つくんだが。――まぁ、いいや。アスラン達で楽しんできてくれよ」

 

 

 

***

 

 

 

ユウナ「……どういうことか、ご説明いただきたい」

 

たっぷりと怒気を含んだ声で、ユウナは中継画面のジブリールを睨む。

 

ジブリール『言葉通りの意味ですよ。同盟国の責務として、黒海にはオーブに行ってもらいたいと』

 

恐れていた事態に舌打ちしたくなる。

 

オーブは中立。

そして中立を維持するのに必要なのは意思ではなく、何者にも左右されぬほどの巨大な力。

力なき中立など、言いがかりをつけられ植民地化がいいところだ。

 

それだというのに、先人の知恵と経験と出来事を学ぼうとせず各地でゲリラ戦をしてきた代表は『強すぎる力はまた争いを呼ぶ』と叫び力を持つことに反対し た。その結果がこれだ。

 

中立のくせに生半可な戦力を持つから、他国から協力という名の加勢を求められる。断ればどうなるか言うまでもない。

 

ユウナ「…大西洋連邦との同盟条約はあくまで被災地への救助救援で、それ以外は関与しないとの話でしたが。こちらの我がままの見返りとして、オーブ駐留中 のミネルバの情報と証拠品の名目で例のMS諸々を。それでこの話は終わったはずです」

 

ジブリール『それはそれ、これはこれですよ』

 

ふっ、と卑屈な笑いを浮かべる。

 

ジブリール『この間なんですけどね、こんな面白いものが飛び出してきましてね』

 

その写真を見せられ、ユウナは今まで耐えていた舌打ちをする。

 

ジブリール『この写真の件はどうお考えで?この写真を公開すれば、連邦やザフトどころか、他中立国も黙っていないと思いますが』

 

ユウナ「…行方不明の代表がお考えのことなど、到底私には」

 

ジブリール『ということは、この件についてはユウナ殿は不干渉。そして代表による自作自演の疑いありということですな?では、彼らを誘拐及び虚言などの疑 いで国際手配しておきましょう。ご心配なく。こちらのほうで手続きは済ませておきます。受理されるまで、さほど時間はかからぬはずですので』

 

反論の余地もなく、事を進めていく。

 

ユウナ(わざとらしい…。最初からそのつもりだっただろうに)

 

肯定すれば共犯者、否定ならば責任追及。

そしてかけた疑いが無実だとしても、連邦ではなくこちらの責任。自分は全く傷つかずに、オーブだけを傷つけるやり方だ。

 

どうやら連邦はとにかくオーブを追い込んで、なにがなんでも自分の手中に収めたいらしい。

 

ジブリール『なにもザフトと闘えと言っているわけではありません。我々は貴国が彼らを捕らえる手助けをすると申しているのです。オーブが我々と共に行動す れば、彼らもきっと現れるでしょうし。そして彼らが現れたら説得、それが無理でしたら貴国の責任で彼らに処罰を。出てこなかった場合は戦闘を行わずに、そ の場にいていただくだけで結構ですので』

 

連邦としてはそれだけでザフトへの牽制となるので、これは心からの言葉だった。

 

しかしオーブとしては表向きの理由はそうでも、マスコミは大々的に連邦との共同作戦と発表するだろう。もしくは、そう「書かせる」か。

そうなってしまえば国の威信は地に落ち、以降オーブは連邦と行動を共にせざるを得なくなる。

 

彼らを追い出すために締結した条約が、追い出した彼らによって窮地に立たされるとは。

 

ユウナ「…私の一存では決めかねます。お時間をいただきたい」

 

こんなもの時間稼ぎにしかならないだろう。

このままでは連邦とザフト、両者を敵にまわす。そしてミネルバの一件があるザフトと、条約違反の決定的証拠を得ている連邦。

 

他の人間に聞いたところで、どちらにつくか考えるまでもない。

 

ジブリール『統帥権、行政権が世襲の国家とは思えぬ言葉ですね。――まぁ、いいでしょう。明日(みょうにち)再度。よいお返事をお待ちしています』

 

最後に嫌味を言い放ち、ジブリールは通信を切った。

 

ユウナ(どこまでも私の邪魔をする奴らだ。ならば、私もどこまでもやってやるさ)

 

ギリッ!とユウナは歯軋りをする。

 

ユウナ(国民が衰弱していく様を見せ付けられた無力な私が、力はあるくせに戦争の綺麗な箇所しか見ていないような奴らに屈してたまるか…!)

 

 

 

***

 

 

 

シン「………ねむ」

 

ホテルの廊下を歩きながら、シンがぼやく。

 

部屋でうたた寝していたところ、ジストに呼ばれミーアの部屋に行ったのが運のつき。

自分の立場からあまり話し相手がいないことを口実に延々と愚痴を聞かされ、途中でミーアの事情を知っているジストからも愚痴られ。

 

数時間後、ようやく解放されたのだった。

 

シン(もうとっとと寝よ)

 

そう心に決め、カードキーを通しドアを開ける。

 

ガチャ

 

ルナマリア「あ、お帰り。シャワー空いたわよ」

 

そこにはガシガシとタオルで髪を拭く、バスローブ姿のルナマリアが。

 

シン「………すみません。間違えました」

 

バタンッ

 

ドアを閉め、部屋のキーと部屋番号を確認。

結論。全て一致。

 

ルナマリア「何やってんの?ほら」

 

廊下で突っ立っていると、ドアが開き部屋に引きずり込まれる。

 

シン「ちょっと待て!!ここ俺の部屋だろ!?どうやって入った!?」

 

ミネルバの自室ならともかく、今日宿泊されることを告げられたホテルにだ。

 

ルナマリア「え?シンのポケットからカードキーをスって、スキミン…」

 

シン「それ常習犯の手口だろ!?」

 

この女は一回警察に突き出して、余罪を調べてもらったほうが世のためかもしれない。

 

ルナマリア「アタシのことなんかより。シンはこんな遅くまでどこ行ってたの?」

 

シン「へ!?あ――。ちょっと最近の隊長の様子が知りたいって頼まれて、ラクス…様のところに。これから隊長の部屋行くからって、ついさっき解放された」

 

喫茶店での一件があるとはいえ、シンはあくまでミーアではなくラクスと呼ぶ。

 

ルナマリア「ふ~~~ん」

 

が、彼女はまったく納得した様子は見せなかった。

 

シン「そんなことよりさ。ティルムに届いた荷物、知ってるか?」

 

ティルムで身についた、話題をそらす話術を繰り広げる。

 

ルナマリア「知らない。艦長やレイは?」

 

シン「さっさと帰ったから聞いてない。やっぱ物資とかかな?」

 

だがシンは忘れていた。

その話術を教えたのが、誰であったか。

 

ルナマリア「うーん…どうだろ。予想するぐらいなら、ミーアに聞いてみたら?」

 

シン「だから、ミーア先輩は隊長の部屋行くって言っただろ。今更聞きに行けるか」

 

ルナマリア「…バカ?」

 

シン「………。好きなように呼んで下さい…」

 

思わずうなだれる。

自分の軽率さが恨めしい。

 

シン「――どうして気づいた?俺が喋る前からわかってたよな?」

 

ルナマリア「隊長に抱きついたり、話す口調のテンポがミーアとまったく同じだった。何度も組み手やったから、忘れようがないわ」

 

つまり彼女は、ほんの少しの行動と言語でミーアと断定したのだ。

 

ルナマリア「あと偽者だと確信したのが、ティーがラクス【さま】って呼んでたこと。彼女がそんなこと言うはず絶対ない。そんなこと言うくらいなら、彼女は舌を噛み切るわ」

 

シン「…そうだな」

 

ティルムの事情を知る者なら、それに疑問を感じないはずがない。

自分がぼろを出さなくともとっくに目をつけていて、あくまで最終確認として先ほどの会話をしたのだろう。

 

ルナマリア「…ま、それはついでの話なんだけどね」

 

そういえば、その話をするためだったらシンの部屋で入浴する必要などない。

何の用だろうか?

 

ルナマリア「泊めて♪」

 

シン「…は?」

 

各自個室が割り当てられているというのに、意味不明なことを言う。

 

シン「…ゴキブリでも出たか?だったら俺がルナの部屋泊まるから」

 

ルナマリア「そうじゃなくて、アタシ枕替わると眠れないの」

 

シン「だったらなんで俺のとこに?」

 

ニコニコと、ルナマリアはシンの二の腕を叩く。

 

シン「…あぁ。ラリアットか。上手く決まるかわからないから、眠れるまで十発くらいは覚悟してくれ」

 

ルナマリア「う・で・ま・く・ら!!」

 

シン「腕しびれるからやだ」

 

即答する。

甘えたがりのティルムですら、シンに配慮して一年に数回しかねだってこないというのに。

 

ルナマリア「けい…じゃなくて、寝付けの酒飲んでも駄目だったの~。お・ね・が・い~!」

 

本格的に酔いがまわってきたのか、駄々をこね始める。

 

シン「あ~。まーた酔ってんのかよ」

 

ルナマリア「そーだよー♪アタシはシンにメロメロで~す♪」

 

シン「やかましい、暑苦しい、うっとうしい」

 

バスローブ姿で抱きついてくるルナマリアを引き剥がし、シンは自制を促す。

思い出すのはアカデミーで出会ったばかりのこと。

自分の世話をしてくれるルナマリアに、大きく自惚れた勘違いをしていたこと。

 

シン(…あんな惨めな思い、こりごりだ)

 

どうせ今も自分をからかっているだけだろう。

一度そう考えると、不思議に先ほどまでの照れは消えていく。

 

シン「わかった、わかった。俺は寝るから勝手にしろ」

 

無視を決め通して、ベッドに入る。

元々ミーアに呼ばれる前からまどろんでいたせいか、すぐに意識が遠のく。

 

シン(ルナもからかってるだけだから、俺が寝たら諦めて帰るかとっとと寝るさ…)

 

 

 

***

 

 

 

ルナマリア「…シン?寝たの?」

 

腕に頭をのせていたルナマリアは、シンから寝息が聞こえ始めたことに気づく。

 

シン「……すぅ…すぅ…」

 

ルナマリア「………。これでも駄目かぁ……」

 

心底残念そうに、シンの腕に顔を埋め体を密着させる。

 

ルナマリア「どうしたら、今更本気になったって信じてくれるのかなぁ…」

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