ガンダムSEED DESTINY IF ~もしも彼女がいたならば~    作:鯱出荷

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【おまけ話】ティルムのお料理実験記 ~彼女がマンバと呼ばれた日~

メイリン「じゃあ、ティルムちゃんは料理したことないの?」

 

シン達と会って、半年。

 

ようやくシン以外にも心を開いたティルムは、休日の度にホーク姉妹と雑談をするようになっていた。

そして今日も、そうなるはずだった。

 

ティルム「は、はい。今までお母さんがやってくれてたので…。私は、ずっと父が出した課題とMS関係の学問を…」

 

ルナマリア「年頃の女の子が何してんのよ。それでも『キング・オブ・マンバ』はひどいわよね」

 

だんだん話は、先日ティルムが獲得した通り名の話になっていく。

 

メイリン「だよね~。しかも調理実習を担当した教官だけじゃなくて、周りまでそう呼ぶんだから」

 

その時ティルムの料理を食した者は口々に「その名に相応しい」と断言するが、ホーク姉妹は一種のいじめだと思っていた。

 

ティルム「でも、仕方ないです。まずい物はまずいんですから」

 

少し悲しそうに笑うティルムを見て、ルナマリアは決心した。

 

ルナマリア「努力もしないで何言ってるの!こうなったら、休日返上で料理教室よ!」

 

ティルム「えぇ!?」

 

驚くティルムに、メイリンも行動を促す。

 

メイリン「大丈夫。練習すれば、すぐ上手くなるから。シンにも作ってあげたいでしょ?もし誕生日とかにティルムちゃんが料理作ってあげたら、シン喜ぶよ」

 

その言葉に、ティルムは考え込む。

 

言われてみれば、妹になったはいいが自分はシンに何もしていない。

 

シンにはMSのデータ取り、テスト前の家庭教師、寂しい日の添い寝など世話になりっぱなしだというのに。

 

そしてシンの誕生日は来月だ。人に迷惑をかけてばかりの自分でも、誰かを喜ばせることができるだろうか。自分が料理を作れば、あの兄は喜んでくれるだろうか。

 

ティルム「…うん」

 

兄の喜ぶ姿を想像したティルムは、ゆっくりとだが首を縦に振った。

 

ティルム「やる。何とかして、来月までに料理上手くなる!」

 

いつもの休日は、こうして特別な日となった。そして数時間後、この日はアカデミー史に残る特別な日の誕生となった。

 

 

 

***

 

 

 

アカデミーの厨房は、女子がいることから申請と片付けさえすれば生徒にも使わせてもらえる(材料費は別だが)。

さらに食堂は男女共同で、厨房は広々とした 作りに加えて調理器具も万全だ。

 

早速来週にでも、と申請したところ、その日は使用者がいなかったため当日申請でも使用できることになった。

 

メイリン「ちょっと買いすぎじゃない?」

 

大量の食材を調理台に並べたメイリンがぼやく。

 

ルナマリア「足りなくなったら嫌でしょ?それにこれが今晩の夕食で、余ったら弁当にして昼食」

 

アカデミーでも、学費節約のため自炊している生徒も少なくない。

 

シン「限度を知らないのかよ。ていうか俺を呼んだ時点で、大量に買う気だったろ?」

 

ルナマリア「アンタの分も作ってあげるから、わがまま言わない」

 

ティルム「何でお兄ちゃんがいるの!?」

 

誕生日に驚かそうと思っていたティルムは、兄の登場に驚く。

すると、そっとルナマリアが耳打ちする。

 

ルナマリア(大丈夫。シンには、ティーの名誉挽回のための料理練習って言ってあるから。それに、シンの味の好みも知っときたいでしょ?)

 

確かに料理下手な自分の場合、フルコースを作るなんて来月までには無理だろう。

ならばシンの好みを把握して、当日まで一つの料理を練習をしたほうがいい。

 

ティルムは口パクで「ありがとう」と言う。

 

シン「どうした?」

 

ルナマリア「なんでも。さぁ、ティー。まずは本を見ながら、一人で作ってみて」

 

そう言うと、料理本を手渡す。

 

ティルム「え、え?教えてくれるんじゃないの?」

 

メイリン「まずは、だよ。ワタシ達ティルムちゃんの腕がわからないから。大丈夫。その本に載ってるのは全部簡単なやつだから」

 

カタカナにもルビが振ってある、小学生向きの本だ。

 

ティルム「…わかった。とりあえず、出来そうな奴やってみるね。お兄ちゃん、どんなのがいい?」

 

ついでにとばかりに、シンの好みを聞く。

 

シン「あ~と、それなりにこってりしたやつのほうが、食べた気するから好きだけど」

 

「こってりしたやつ…」とぶつぶつ呟きながら、ティルムは厨房に向かった。

 

 

 

***

 

 

 

とりあえず一回目は邪魔しないということで、シン達は先に席に着いていた。

 

先日のマンバ任命のことを全く信じていないシン達は、何の心配もなく待っていた。

これが恐怖の序章だと知らずに。

 

十数分後、ティルムが何か持ってきた。

 

ティルム「ど、どうぞ…」

 

恐る恐るテーブルに置いたのは、チャーハンだった。なぜか、必要以上に水分とテカリがある。スープチャーハンだろうか。

 

シン「…とりあえず、いただきます」

 

「じー」とティルムが見守る中、シンがレンゲで食べてみる。

 

シン「!!!!!!」

 

感想は一言で十分だった。

 

油。油っぽいではない。油。

 

さっき水分と思っていたものは、油分だったのだ。揚げ物の残った油を、直で飲んでいる錯覚に陥る。

 

だが吐き出すわけにはいかない。妹が頑張って作ってくれたのだ。限度を大きく超えているが、自分好みのこってりした物を作ってくれた。

そんな妹の前で吐き 出すなど、兄としても人間としても許されない。

 

しかしそう思っても、本能と体は口にある物を受け入れてくれない。現状維持で精一杯だ。

 

シン「…………」

 

一分以上テーブルに伏したまま言葉を発しないシンを見て、ぽつりとメイリンが口を開く。

 

メイリン「…ティルムちゃん?怒らないから、何入れたのか正直に言って」

 

ティルム「え?お兄ちゃんがこってりしたやつがいいって言ったから、チャーハンにヴァージンオイル・オリーブオイル・サラダ油・ラード・てんぷら油・ラー油・アーモンドオイル・ピーナッツオイル、それにアボカドオイル・牛脂。あと……」

 

次々と油の名前を挙げていく。

このままいくと、石油とか言いそうな勢いだ。

 

ティルム「あ!あとちょっとにんにく」

 

メイリン「いや、今更その程度の隠し味どうでもいいから」

 

ルナマリア「………シン?何とか頑張って。アタシ達、ティーに教えてくるから」

 

戦死した戦友に、優しく声をかける。

ルナマリアは、ティルムの料理はマズイと察知した。味ではなく、この世に存在していることが。

 

ホーク姉妹は、戦地に挑む気持ちで厨房に向かう。

この毒蛇を、野放しにするわけにはいかないと。

 

 

 

***

 

 

 

どうしてこうなったのか、ルナマリアは理解できなかった。

 

きちんと自分達は見ていたはずだ。

ましてやメイリンの教え方は、がさつな自分にでも料理が出来るようにさせたほどだ。

 

ルナマリア「アタシ達作ってたの、野菜炒めよね?」

 

目の前にあるのは、野菜・塩・油しか使っていないのに何故か血飛沫が舞う緑色の物体。

しかも不自然なほど鮮やかだ。

 

メイリン「うん…。この赤黒い液体、どこから来たのかなぁ…」

 

教える側のメイリンも、自身喪失気味だ。

 

姉妹は悟った。マンバの名は伊達じゃない。彼女は無から有(毒)を生み出す。

故にただのマンバではなく、『キング・オブ』マンバなのだと。

 

レイ「何をしている?」

 

見ると、なぜかギルバート・デュランダルと一緒のレイがいた。

聞くところ今は全プラントの視察をしていて、このアカデミーもその一つらしい。

 

ルナマリア「そうだ!レイ、これの感想をお願い!!」

 

緑色の物体の処理をどうしようか、考えていたところだ。

するとレイは、懐から測定器のような物を取り出し料理に当てる。

 

レイ「ほぅ…。成分だけで判断しても、見事の一言に尽きる。食せば即死、目に入れば失明、煙を吸えば呼吸困難、肌に付着すれば炎症を起こすという品物か。 これだけの物、なかなか作れる物ではない」

 

ルナマリア「科学兵器みたいな説明してるところ悪いんだけど、それティーの料理」

 

ふと見ると、ティルムが泣きそうな顔をしている。

 

デュランダル「レイ。女性は泣かすのは感心しないな」

 

最も尊敬する人物からの一言に、レイは動揺する。しかし、最悪な事態を回避する一つの方法を見つけた。

 

レイ「では議長。彼女の料理に的確なご感想をお願いします」

 

デュランダル「……………なに?」

 

このままだと、自分がこれを食べる羽目に会うのはわかりきっている。

ならば、誰かに押し付けるしかない。

 

たとえ誰であろうとも。

 

レイ「ですから彼女の料理のご感想を、と」

 

デュランダル「待ちたまえ、レイ。ついさっき君が生物兵器のような解説をした物を、食せと?」

 

レイ「ご心配なく。議長ならヒ素ぐらい平気です」

 

デュランダル「根拠ないをこと言うな! 君達もフォークとナイフの用意をするな!!」

 

黙々とフォークなどを整えるホーク姉妹を注意する。

 

ちらりとティルムを見ると、相変わらず泣きそうな顔をしている。

なんとか、この場を逃れなければ…。

 

デュランダル「す、すまないが、私は今晩会食が…」

 

メイリン「野菜炒め一口で結構です。さ、どうぞ」

 

着々と準備が進められ、されるがまま着席させられる。

 

デュランダル「………」

 

目の前の、『自称』野菜炒めと向き合う。

 

隣のテーブルでうつ伏せになっている黒髪の少年は、恐らく彼女の料理の犠牲者だろう。

自分もあの程度で済むといいが。

 

デュランダル(なんだこのプレッシャーは!?)

 

ルナマリア「大丈夫です。彼女の料理は『I(アイ)情(じょう)』たっぷりですから」

 

つまり、『I(い)情(じょう)』と言いたいわけか。遠まわしな警告だ。

 

覚悟を決め、そっとナイフを野菜炒めに当ててみる。

なぜか切り口から『ジュュュワァァァァ』と黒煙がたちこめる。

 

確認するが、これは野菜炒めのはずだ。

 

デュランダル(私にもわかるぞ!私の最後の時が…)

 

多くは望まない。どうか無事でいられますように。

大きく深呼吸し、デュランダルは料理を口に含んだ。

 

 

 

***

 

 

 

『アカデミー生、世紀の科学兵器完成か!?』

 

次の日の朝刊は、このことで持ちきりだった。

 

新聞では議長がその科学兵器の視察に訪れ、実験に失敗しただのバイオハザードが発生しただの、色々書かれていた。

 

責任者のコメントでは、「厨房の使用許可は出したが、科学兵器の作成は許可していない!」とあった。

 

議長といえば、即座の応急処置で一命は取り留めた。

目覚めてからの第一声が、「彼女の料理はモルモットを通せ」だった。

 

退院した後、さらに条件を厳しくしたが。

 

ティルム「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」

 

後日見舞いに訪れた彼女は、ひたすら平謝りだ。

とりあえず真実を言っても誰も信じないに決まっているので、視察の疲労が溜まって倒れたということにした。

 

デュランダル(彼女は、MS開発はもちろん科学兵器開発としても天才だったか……)

 

病院のベットで、デュランダルは「スカウトする分野間違えたか?」としみじみ思っていた。

 

 

 

***

 

 

 

おまけ

 

後日ティルムの元に、料理を回収した化学処理班からスカウトが来た。

「正に人類始まって以来の人材だ。ぜひ我が社に」と。

 

しかも噂を聞きつけたのか、地球 からもスカウトが来たほどだ。

言われたティルムが、しばらく落ち込んだのは言うまでもない。

 

その間にシンの誕生日を忘れてしまい、誕生日当日にさらに落ち込んだというのは別の話。




ジャンルは一応ギャグなので、議長さんにも貴重な体験をさせたつもりです。
とりあえず議長好きの皆様、大変申し訳ございません。

ちなみに『血飛沫舞う野菜炒め』のモデルは、家族が作ったものです。

血飛沫の正体は、炒めている最中に入れた醤油でした。

血飛沫っぽく見せるコツとし ては、醤油をやや焦がせる 水分を多く入れるというポイントさえ押さえれば、あっとびっくり血醤油の出来上がり。

醤油はかけるより、垂らしたり叩きつけるようにすればなおさらリアルになります。

…いや、初めて 見たときは本当にビックリしました。
もちろんあくまでモデルなので、黒煙がたちこめたりしません。
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