ガンダムSEED DESTINY IF ~もしも彼女がいたならば~    作:鯱出荷

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第十五話

まずは落ち着こう。俺の名前はアスラン・ザラ。

 

恋人はカガリ・ユラ・アスハ。

最愛の人はカガリ・ユラ・アスハ。

運命の人はカガリ・ユラ・アスハ。

人生の中で最も美しいと思う女性はカガリ・ユラ・アスハ。

俺の中で結婚したい女性NO,1はカガリ・ユラ・アスハ。

 

大丈夫。正常だ。

 

アスラン「……それだというのに、なぜミーアが同じベッドで寝ているんだ?」

 

昨晩の記憶をよみがえらせる。

 

ミーアと夕食は共にしたが酒は飲んでいないし、寝るときは間違いなく一人だった。

何より、ドアにはチェーンがかかっていた。この部屋にはマスターキーでも入れないはず。

 

アスラン「とりあえず、そんなことは後回しだ。次にどういった行動を取るべきか…!」

 

 

1 見なかったことにして、ジェントルマンらしく引き下がる

2 相手が起きるまで寝たふり

3 旅の恥を掻き捨て。――Let's Enjoy!!

 

 

アスラン「3は却下ーーーーーー!!」

 

ハロ「No Problem. Go! Go!」

 

アスラン「……変な案出したのはお前か」

 

床を見ると、ミーアが所持している赤ハロがいた。

 

ハロ「Good morning. How are you?――With no reply. She has not got up yet somehow. 5・4・3……」

 

アスラン「何のカウントダウンだ!?おいミーア、起きろ!これを止めてくれ!!」

 

相手が寝ているのもお構いなしに、ガクガクとミーアの肩を揺らす。

 

ミーア「ん~?あんまり朝から揺らさないでください……」

 

ハロ「Good morning. How are you ?」

 

登録した人物の音声に反応するのか、ミーアが声を発するとハロのカウントが止まった。

 

ミーア「あ~……。もうそんな時間ですの?」

 

ハロ「Yes. Hurry! Hurry!」

 

ミーア「わかりましたぁ……。ジストにはもう起きたとメールしといてくださいぃ……」

 

ノロノロとミーアが起き上がる。

 

ミーア「……あら?おはようございます、アスラン。昨日はよく休めましたか?」

 

アスラン「聞きたいことは多々あるが、まずはこのハロは何をしようとしたんだ?」

 

ミーア「え?ただの目覚まし機能ですけど?カウント終了時には、10ある防犯機能をランダムで……」

 

アスラン「金輪際このハロを俺に近づけないでくれ」

 

人懐っこくまとわりついてくるハロから距離を置く。

 

アスラン「そしてもう一つ。一体どうして、いつ、なんでこの部屋に?」

 

ミーア「覚えていませんか?お部屋に行くって約束しましたのに……。ノックしても返事がないので、寝ていたら悪いと思って、そこから入りました」

 

そう言ってミーアが指差したのは、窓。

 

アスラン「……ここ10階なんだが」

 

ミーア「屋上から行けばどうってことありませんわ。それよりも朝食に行きません?昨日も護衛としていたハイネさんから、お話があるようですので」

 

なんだか彼女を見ていると、常識が覆される気がしてならないのは自分だけだろうか?

 

 

 

***

 

 

 

シン「へ~。議長はもう発たれたんだ?」

 

同時刻。

シンとルナマリアは既に朝食を済ませ、のんびりと雑談をしていた。

 

ルナマリア「お忙しい方だもの。それこそ、昨日お話できたのが不思議なくらい。シンはいいわよねー!わざわざお忙しい議長から、個別にお褒めの言葉までい ただいてさ!!」

 

訂正。のんびりできる空気など微塵もありません。

何か言っても怒る。黙っていても怒る。今朝からずっとこんな調子だ。

 

???「お前たち、昨日のミネルバのヒヨっ子だろ?もう一人のフェイスの奴はどうした?」

 

声をかけられ振り向くと、昨日も護衛としていた人物が立っていた。

 

ルナマリア「失礼いたしました。おはようございます」

 

慌ててルナマリアとシンはその人物に敬礼する。

さすがに上官にまで八つ当たりはしない。

 

シン「それで隊長は……。そこですね」

 

「まだ来ていない」と言いかけて、こちらに向かっているアスランとミーアが目に入る。

嬉しそうなミーアを見て、ルナマリアは益々機嫌を悪くする。

 

ルナマリア「あらあら。ラクス様は朝からいいご身分ですね!!」

 

ミーア「ふふ。そんな眉間にしわを寄せていては、しわを寄せた分だけ思いを寄せる殿方が離れてしまいますよ♪」

 

いつものようにケンカ腰で話しかけるが、ミーアはアスランといて機嫌が良いのかさらりと流す。

 

ミーア「それよりも、ハイネさん?アスラン達にお話があるのでは?」

 

ハイネ「お心遣い感謝します。ラクス様。――で、だ。堅苦しいのはここまで。昨日はゴタゴタしてたんで、改めて自己紹介。特務隊ハイネ・ヴェステンフル ス。大戦のときはホーキンス隊だったやつさ。よろしく」

 

笑顔を浮かべ、アスランに手を差し出す。

 

アスラン「こちらこそ。俺は…」

 

ハイネ「アスラン・ザラ……だろ?知ってるさ、有名人♪」

 

有名人呼ばわりされ、複雑な表情を浮かべる。

だが、「有名」という言葉は実に色々な意味があることに気づく。

 

アスラン「……どういった意味で、でしょうか?」

 

ハイネ「……………そんな酷なこと、俺に言わせないでくれよ」

 

アスラン「アレだな!?『ハ』と『ド』がつくやつだな!?なぁ!?」

 

ハイネ「……それではお近づきの印に、一発ゲイでも」

 

シン「今あからさまな誤字がありませんでした?」

 

そんな言葉は無視して、ハイネはミーアに声をかける。

 

ハイネ「ラクス様。お手数ですが、ご協力いただけますか?」

 

ミーア「え?きゃあ!!」

 

返事を聞く前に、ハイネはミーアに全身を覆うような大きな布をかぶせる。

 

ルナマリア「OK!袋叩きにすればいいのね?」

 

ハイネ「物騒なこと言わない。――はい、1・2・3!!」

 

掛け声と共に布を取ると、先ほどまでステージ衣装だったミーアの服が純白のウエディングドレス姿に変わっていた。

 

シン「え!?ど、どうして!?」

 

アスラン「へぇ…。手品か。こんな大掛かりな物を、目の前で見るのは初めてだが」

 

ハイネ「ご名答。趣味の延長だけど、俺の特技さ。……まぁ、今ぐらい大掛かりのやつだと口裏を合わせないと無理なんだけどな」

 

ミーア「それよりもアスラン。どうですか?似合います?」

 

得意気なハイネを押しやり、アスランの前で嬉しそうに一回転する。

そんなミーアに、ルナマリアは極上の笑みで答える。

 

ルナマリア「ええ。とてもよくお似合いですよ。その死に装束」

 

ミーア「ほほほほほほほほ……。頭の無駄毛に栄養取られているのですか?ドレスと死に装束の違いもわからなくて?」

 

シン(なんでこうケンカする理由が尽きないんだか)

 

この殺伐とした空気をどうにかしようと考えていると、ハイネが一人、何か作業をしていることに気づく。

 

シン「何してるんですか?」

 

ハイネ「ん?お前も参加するか?」

 

シンが何のことか聞く前に、ハイネは大声で語り始めた。

片手にミーアのステージ衣装を持って。

 

 

ハイネ「さぁ!このさっきまでラクス様が着ていた、きわどいステージ衣装を1000円から!!」

 

従業員『5000!』

 

ヴィーノ『1万!』

 

バルトフェルド『200万で!!』

 

 

ミーア「返しなさい!!」

 

横から飛び出してきたミーアが、ハイネから衣装を強奪する。

 

アスラン「……今、この場にいてはいけない人物いなかったか?」

 

ミーア「気のせいでなくて?……そんなことよりも!早く元の服に戻してください!!」

 

怒り狂うミーアに対し、ハイネは渋々また布をかぶせ元に戻す。

 

ミーア「ふぅ。まったく、油断も隙も………」

 

 

ハイネ「さぁさぁさぁ!このラクス様脱ぎたてホヤホヤのドレスを、2000円から!」

 

支配人『2万!』

 

ヨウラン『3万!』

 

バルトフェルド『本年度の予算全額でどうだろう!?』

 

 

ミーア「だからやめなさい!!」

 

正確無比に人中を狙い、ハイネを殴り倒す。

 

アスラン「今絶対いたよな!コーヒー好きの虎が!?」

 

シン「気のせいではないでしょうか?」

 

アスラン「だったらどうして目を背けるんだ?」

 

深く追求したいところだったが、殴られた箇所を撫でながらハイネが起き上がる。

フェイスだけあって、体は頑丈なようだ。

 

ハイネ「…まぁ、話戻すけど。この三人と昨日の金髪男、金髪女、そしてジュール隊員の全部で6人か。ミネルバのパイロットは?」

 

黙ったままシンが頷く。

 

ハイネ「なるほど。インパルス、ザクウォーリアー、セイバー、そして金髪男がブレイズザクファントムで、もう一人はケンプファー。じゃあ、あの子は黒い機体か?」

 

シン「レストレインをご存知で?」

 

ハイネ「『堅くて頑丈、だけどそれだけ』って有名」

 

これでもレストレインにとっては褒め言葉だろう。

実際は装甲は厚いが動きは鈍いことから、「黒い亀」と呼ばれているのだから。

 

ハイネ「で、お前フェイスだろ?艦長も」

 

シン「え?そうだったの?」

 

ルナマリア「聞いてなかったの?隊長がミネルバと合流した時よ。その時にパーティーも開いたじゃない」

 

シン「…あぁ。あのマンバのときね」

 

アスラン「嫌なこと思い出させないでくれ。――それがどうかしたのですか?」

 

その言葉に返事せず、ハイネはあさっての方向を見ながら呟く。

 

ハイネ「人数も決して少なくないし、戦力としては充分だよな……。なのになんで、そんな艦に行けというかね。議長は」

 

アスラン「え!?ミネルバに乗られるんですか?」

 

視線をシン達に移すと、二人とも「知らなかった」と言わんばかりに首を横に振る。

 

ハイネ「休暇明けから配属さ。立場の違う人間には見えてるものも違うってことだろうが、なんか面倒くさそうだよな?」

 

アスランが返答に困っていると、ハイネは思い出したかのように言葉をつなぐ。

 

ハイネ「悪いな。足止めして。朝メシまだだったんだろ?――とにかくよろしくな。議長期待のミネルバだ。なんとか応えてみせようぜ」

 

 

 

***

 

 

 

ルナマリア「さってと。これからどうしよっかなー?」

 

アスラン達と別れ、一足先にチェックアウトを済ませたルナマリアが呟く。

 

シン「ん?どうって?」

 

同じくチェックアウトを済ませたシンが、それに続く。

 

ルナマリア「街に出たい気もするけど、一人じゃつまんないし。レイにも悪いから艦に戻ろっかな」

 

シン「そっか。俺はちょっと行きたいところがあるんで、行ってくる」

 

ルナマリア「あ、やっぱ――――へ!?」

 

真っ先にティルムに会いに行くと思っていたため、驚いて振り返る。

 

ルナマリア「どこ行くの?シンが行くんだったら、アタシも行きたい」

 

シン「あー…。悪い、ちょっと遠慮してくれ。じゃあな」

 

ルナマリア「ちょ、シン!?」

 

背後からルナマリアの声が聞こえるが、それを無視してシンは足早に立ち去った。

 

 

 

***

 

 

 

数時間後。

基地から貸し出されたバイクで、シンは海を一望できる断崖にいた。

 

シン「………」

 

そこで何をするわけでもなく、ただ海を眺めていた。

ルナマリアと共に行動しなかったのは、たまには一人で考え事をしたいと感じたからだ。

 

自分の失った家族、オーブ、アスランやディアッカの言葉、デュランダルの言葉、ティルムの『症状』etc…

 

考えたところで何か変わるわけでもないだろうが、それでも考えずにはいられなかった。

今後もこの問題とは、向き合わなければいけないのだから。

 

シン「…のつもりだったんだけど、一人でいるのに飽きてきたな」

 

思わず口に出す。

元々物思いにふけるのは性に合わない。結局10分ちょっとで音を上げてしまった。

 

シン「……ん?」

 

そろそろ帰ろうとしたところ、やや離れた断崖で歌いながら踊る少女が目に入る。

その少女を「どこかで見たことあるな」などと考えていると…

 

???「あっ!!」

 

崖から海に落ちた。

踊りと歌に夢中で、周りが見えていなかったようだ。

 

シン「うわっ!嘘だろ!?」

 

慌てて下を覗くと、先ほどの少女が溺れている。

助けを呼ぼうにも周囲に人影はなく、仕方なく自分も海に飛び込む。

 

シン「おい、だいじょ――!」

 

少女に近づくと、必死にしがみつかれてしまった。

今更ながら、泳いで救助するということは救助の中でも最も危険な行為だったことを思い出す。

溺れた人間が救助に来た人間につかみかかり、救助しようとした人間も溺れてしまう二次災害の可能性が高いからだ。

 

シン(落ち着け!こういうときは…!)

 

しがみつく彼女ごと深く海に潜る。こうすると大抵相手は手を離す。

幸運にも、彼女はセオリー通り手を離してくれた。

 

シン「ごめん!」

 

その隙を逃さず彼女の背後に周り、髪を鷲づかみにする。

 

???「痛い!離して!お願い離して!!」

 

シン「我慢!!」

 

そのまま彼女を引っ張り、岸まで連れて行く。酷い扱いだが、これも救助方法の一つだ。

顎に手を回して、という方法もあるが誤って相手が舌を噛む危険があるのでこの方法にした。

 

 

 

***

 

 

 

シン「はぁ…はぁ……」

 

髪をつかんだ手は彼女によって引っかき傷だらけになってしまったが、何とか浅瀬までたどり着けた。

 

彼女に目を移すと、意識もしっかりしていてどうやら健在なようだ。

ようやく安心だと思った途端、無用心な彼女に対し怒りがわいてくる。

 

シン「――こんのっ!死ぬ気か!?馬鹿っ!!泳げもしないのに、なに『――嫌』し、て……?」

 

先ほどまで息も切れ切れだった少女が、今は極度に怯えていることに気づく。

 

???「嫌……死ぬの、嫌……嫌~~~~~!」

 

絶叫しながら、彼女は再び海へと突き進み始めた。

何が起きたのか呆然としていたシンだが、彼女が腰につかるまで海に進んだ所で慌てて引き止める。

 

シン「お、おい!ちょっと待て!!」

 

背後から捕まえようとするが、先ほど以上の錯乱状態なため手がつけられない。

 

シン(この子、もしかして……)

 

今の彼女の様子は、出会ったばかりのティルムと酷似していた。

深夜に跳ね起き、断末魔の如く奇声を上げるティルムに。

 

きっと彼女も、戦争によって辛い目にあったのだろう。

それこそ家族を失ったなどの、とても悲惨なものだったのではないか?

 

シン「大丈夫!君は死なない!」

 

だったらすることは一つ。

彼女を正面から強く抱きしめ、この場所が安全だということをわからせる。

 

???「死ぬ…怖いの……」

 

シン「そうだな。怖いよな。でも、大丈夫だから。俺がちゃんと守るから。な?」

 

出来るだけ優しく、相手を刺激しないよう慎重になだめる。

そのおかげかはわからないが、肩をふるわせながらしゃくりあげるものの、彼女は暴れるのをやめてくれた。

 

???「守……る…?」

 

シン「うん。君は死なないから。絶対に」

 

???「守る……」

 

シン「うん。守る」

 

安心させるため、先ほどつかんでいた髪を優しく撫でる。

 

???「あ…」

 

シン「ごめんね。まだ痛い?」

 

???「……平気」

 

シン「そっか。とりあえず、戻ろっか?このままだと体が冷えるし」

 

 

 

***

 

 

 

シン「……やっぱり登るのは無理か」

 

また浅瀬に戻り、バイクを停めてある崖を見上げる。

もし自分だけなら泳いで戻る方法があるが、彼女を置いてくわけにはいかない。

 

???「…ごめんなさい」

 

シン「え!?ち、違うから!君は悪くないから、ね?」

 

目に見えて落胆する少女の気をそらそうと考えていると、彼女が足に怪我をしていることに気づく。

 

シン「足、伸ばして」

 

訳のわからぬまま、少女は言われるまま足を伸ばす。

 

シン「今はこれで我慢して。帰ったら、ちゃんと治してもらってね」

 

持っていたハンカチを少女の足に巻く。

 

シン「そういえばまだ聞いてなかったけど、君はこの街の子?名前はわかる?」

 

???「名前、ステラ。街、知らない…」

 

記憶の中で「ステラ」という女性を思い出すが、どうにも思い出せない。

 

シン「うーん…。あのさ、ステラ。この前、どこかで会わなかった?俺なんとなくステラのこと知ってる気がするんだ」

 

ステラ「………?」

 

視界いっぱいになるほど顔を近づけ、じっと見つめられる。

 

シン(可愛い、かも…)

 

平静を装っていたが、内心では心臓が破裂しそうだった。

そもそもシンは女性に免疫はない。

 

彼女いない歴=年齢。

ホーク姉妹は、悪友と友人で対象外。

最も身近な女性であるティルムも、出会ったときの幼い姿が記憶にあるため、一度も女性として見たことはなかった。

 

ステラ「……紅(あか)!きれいな紅!!」

 

シン「うわっ!」

 

そんなことを考えステラに見惚れていると、突然抱きつかれ押し倒されてしまった。

 

ステラ「紅♪紅♪」

 

嬉しそうに眼を覗き込む。その仕草でようやく思い出した。

アーモリーワンで、自分がぶつかってしまった少女だ。

 

ふと『どうしてアーモリーワンにいたのか』や『どうしてここにいるのか』を聞こうとしたが、もしかするとアーモリーワンでの戦闘が怖れている記憶のきっか けの可能性がある。

それを考慮して口に出さないことにした。

 

シン(それとも、まさかこの子が新型MSを…)

 

一瞬浮かんだ考えに、我ながら馬鹿らしく思い苦笑いを浮かべる。

 

ステラ「?」

 

黙っているシンに、どうしたのかと言いたげに首を傾ける。

 

シン「あぁ、ごめん。ところで、俺『紅』じゃなくてシンって名前なんだけど…」

 

ステラ「…シン?」

 

シン「そう」

 

ステラ「シン……シン……」

 

決して忘れないと言わんばかりに、懸命に反復する。

 

ステラ「…覚えた。ステラ、『シン』覚えた」

 

シン「うん。いい子」

 

また頭を撫でる。

やや「子供扱いしすぎたかな?」とも思ったが、当の本人が嬉しそうに笑っているので構わないだろう。

ついでに、いつまでも押し倒された体勢も気恥ずかしいので体を起こす。

 

シン「いつもは誰と一緒にいるの?お父さん、お母さんは?」

 

ステラ「一緒はネオ。スティング、アウル…。父さん、お母さん、知らない……」

 

シン「そっか……。ステラが出かけたこと、その人は知ってる?」

 

ステラ「うん」

 

シン「だったら大丈夫。今頃その人達が探してるだろうから」

 

 

 

**

 

 

~その頃のスティング達~

 

妊婦「うーん……う……!生ま、れる……!」

 

アウル「おち、落ち着け!落ち着けって!!こういうときはまず、お湯と日本刀と蝶ネクタイを!!」

 

夫「おまえ妻に何するつもりだ!?」

 

スティング「このバカは無視してもらえますか?とりあえず最寄りの病院に寄りますので、奥さんを自分達の車に乗せてあげてください」

 

 

**

 

 

 

シン「大丈夫。すぐ来てくれるよ」

 

当分は来ないと思う。

 

シン「お父さんとお母さん、知らないんだ……。きっと君は、怖い目にあったんだね」

 

ステラ「怖い?」

 

シン「ああ、ごめん!大丈夫。俺がちゃんとここにいて守るから」

 

ステラ「ステラ、守る?死なない?」

 

シン「うん、大丈夫。死なないよ」

 

ステラ「………」

 

不意にステラが立ち上がり、服を探り始める。

 

シン「ん?どうかした?」

 

ようやく目的の物を見つけたらしく、ステラは探していた物をシンに差し出す。

 

シン「え?……くれるの?」

 

差し出された手にあるのは、ピンク色の貝殻。

 

ステラ「あげる」

 

シン「……ありがと。大事にするから」

 

ステラ「うん…♪」

 

受け取ってもらえたのが嬉しかったのか、彼女はシンの隣に座りこむ。

隣といっても、紙が入る隙間がないほどピッタリと。

 

シン「え、えーと…。ステラ、お腹空いてない?」

 

女性特有の香りに戸惑いながら、シンはなんとか会話をつなげようとする。

 

ステラ「ちょっと……」

 

シン「そっか。たしか、食べる物持ってたはず……」

 

手探りで服を叩いていると、何かが手に当たる。

 

シン「――何だこれ?」

 

 

 

グミ 『M A G U R O』~大トロの香り~

 

効能:疲労回復

   胸焼け勃発

   

 

 

シン「またこのネタか!!しかもなんだ『大トロの香り』って!『大トロ臭い』の間違い

だろ!!」

 

ステラ「……まずい」

 

シン「食べちゃ駄目ーーーー!」

 

 

 

***

 

 

 

ミーア「昼食も付き合っていただき、ありがとうございました。アスラン♪」

 

ヘリを前にし、ミーアは嬉しそうに微笑む。

これからも各地でコンサートを行うため、ミーアはディオキアを発たなければいけないのだ。

 

アスラン「いえ、これぐらいは。――では、どうぞ気をつけて」

 

敬礼しようとするアスランを、ミーアが制する。

 

ミーア「婚約者には、敬礼などよりこちらのほうが普通ではありません?」

 

何か言う前に抱きつかれたかと思うと、頬に何かが触れる。

 

アスラン「え?あ、あの……!」

 

頬に触れたのがミーアの唇だとわかり、アスランは顔を赤くする。

そんなアスランを見て、ミーアは可笑しそうに笑う。

 

ミーア「本当は口にしたかったんですが……やっぱり初めては、男性からしてほしいですからね♪」

 

呆然とするアスランを残し、「それでは、また♪」と手を振りながらミーアはヘリに乗り込んでいった。

 

アスラン「……なんだろな。この嵐が過ぎ去ったような解放感は……」

 

飛び立つヘリを見ながら、しみじみとそう感じた。

 

 

 

***

 

 

 

ステラの胸焼けがようやく収まったころシン達はまだ浅瀬にいた。

 

シン「………」

 

ステラ「………♪」

 

その間、二人は無言だった。

一人は慣れない事態に冷や汗をかきながら。もう一人は極上の笑みを浮かべながら。

 

初めは日が沈んでしまったので、体を冷やしてはいけないので近くの洞窟で火を起こすだけのつもりだった。

だが、シンが水を吸った上着を脱いで絞ったことからシンにとっての我慢大会が始まった。

 

シンの様をマネしようとしたステラが自分の服を脱いだところ、その服がドレスの様な服

だったため着付けが出来ないという自体が発生。

当然シンが知っているはずもなく、帰る際は自分の上着を貸してあげることでこの問題は解決したと思った。

だが、脱いだ服を干し終わると先ほどのようにステラが寄り添って来た。

 

半裸で。

 

断ると泣きそうな顔をされるので離れるわけにもいかず、シンは「女の子の肌って柔らかいんだなぁ…」などといった煩悩と戦っていた。

それこそ、目の前にフリーダムがいる並に必死に。

 

そんな具合に長時間煩悩と戦っていたので、ようやく気づいたことがある。

浜からだいぶ離れたところに座っていたはずのステラが、今にも波に触れそうな位置にいることに。

 

シン「ステラ。足を怪我してるんだから、あんま動き回っちゃ駄目だよ」

 

ステラ「…?ステラ、ずっとシンから離れてない」

 

シン「へ?」

 

言われ、焚き火の位置を見てみる。服を乾かすために作った即席の物干し台から見ても、

自分達はその場から動いていない。

波に近づいたのではなく、波が近づいてきたのだ。

 

シン「満ち潮……!」

 

洞窟を見上げると、天井にまでフジツボがある。ということは、満潮時この洞窟は海の中。

 

シン「くっそ!後で何言われるかわからないから、使いたくなかったけど…!」

 

最後の手段としていたミネルバへの救難信号を発信する。

だが、恐らく間に合わない。救助が来る頃には、この洞窟は海中行きだろう。

 

シン「ステラと一緒にいる人は何してんだよ!」

 

 

 

**

 

 

~その頃のスティング達~

 

夫「おかげさまで母子共々無事でした。本当にありがとうございました」

 

スティング「いえ、当然のことをしたまでです」

 

妻「ほら、あなた。元気な男の子ですよ」

 

夫「そうか、そうか。『お母さん』に似て、きれいな唇だな」

 

アウル「あ……あぁ………!!お、かあ………!」

 

 

ブロックワード発動。

 

 

看護師「ど、どうしました!?急いで先生の所へ…」

 

スティング「問題ありません!ほっとけば治りますので!!」

 

 

**

 

 

 

向こうは向こうなりに、生命の危機を感じているようです。

 

シン(こうなったら、ステラを背負って街まで泳ぐしか……!)

 

無謀な賭けを決意したとき、「パサリッ」と何かが地面に落ちた音がした。

 

シン「………?」

 

地面に落ちたのはロープだった。そのロープは、自分達が落ちてきた上のほうへと続いて

いる。

そしてロープ沿いに下りて来た人物に、シンは仰天する。

 

シン「ルナ!?どうして!?」

 

ルナマリア「帰りが遅いから、何かあったのかと思ってバイクに付いてる盗難防止用の発

信機たどって来たの。トレジャーハンター部OGを舐めないで、よね…ぇ……」

 

トレジャーハンター部とは、アカデミー時代にルナマリアが所属していた部だ。サバイバルはもちろん、ピッキングやスキミングまで教える恐ろしい部でもあ る。

この部のOGであるルナマリアに部屋の無断侵入などで何度この部を恨んだかわからないが、生まれて初めてトレジャーハンター部に感謝する。

 

シン「ありがとルナ!!戻ったら何か礼を……?」

 

ふと、先ほどからルナマリアが無言で固まっていることに気づく。

そして、その視線は自分を捉えていないことにも。

 

ルナマリアの視線の先を見てみる。

そこには初めて見る人物に怯えているのか、やや後方へと下がったステラがいた。

 

 

 

半裸で。

 

 

 

そして自分の姿を確認。

ズボンは履いているが、上半身裸。

 

 

Q,この場に突然来た人間の反応(予想)

 

A, 誤解を招く可能性、極めて高し

 

 

 

 

 

ルナマリア「……………」

 

無言のまま、ロープを登って帰ろうとする。

 

シン「うわ!ちょっと待ってくれ!!」

 

置いてかれてはたまらないと、必死にルナマリアの足首を掴む。

 

シン「絶対お前誤解してるから!!」

 

ルナマリア「うるさい!アタシが悪かったんでしょ?お楽しみの邪魔して!!とっとと続きしてなさい!!」

 

何か言おうとする前に、第三者の介入。

 

ステラ「いや!シン!行かないでっ!!」

 

一人にされると思ったのか、後ろからステラがシンに抱きついた。

 

 

 

半裸で。

 

 

 

その行為に、シンとルナマリアは顔を真っ赤にする。

片方は羞恥心で、片方は怒りで。

 

ルナマリア「離してよ!シンはそこで自分の子供で国立競技場のスタンド埋め尽くすくらい繁殖活動してな、さ……ぃ…」

 

シン「出来るかい!!それよりも、俺の話を……?」

 

またルナマリアが固まった。

どうしたものかと、今の状況を確認する。

 

上方には、ロープに掴まったルナマリアがいる。いつものように、ミニスカート姿で。

自分は登らせないように、ルナマリアの足首を掴んでいる。下から。

 

そして今、自分はルナマリアを見上げている。足を掴んで。

つまり見上げた先には、ルナマリアの黒いレースのデルタゾーンがばっちりと。

 

ルナマリア「――こんの…ドスケベーーーー!!」

 

ロープを放した落下の勢いそのまま、ルナマリアの膝蹴りが直撃した。

 

 

 

***

 

 

 

シン「………その、いろいろとすみませんでした……」

 

ルナマリア「………」

 

命がけで現状を理解してもらい、なんとか海岸線まで戻ること数十分。

足を怪我したステラはシンが背負い、今は基地に向かって歩いている。ちなみにステラの

着付けは、ルナマリアにやってもらった。

そしてルナマリアは、無言でシンが乗ってきたバイクを押している。

 

シン「えっと……。この子、どうしたらいいと思う?」

 

ルナマリア「………」

 

シン「……俺としては、基地に連れてって身元を捜してもらおうかなと…」

 

ルナマリア「………」

 

沈黙が痛い。

普段うるさい分、この仕打ちは怒鳴られるよりよっぽど精神的に堪える。

 

一触即発の空気をがんがんに浴びながら公道を歩いていると、すれ違った車がクラクションを鳴らしながらバックしてきた。

 

スティング「ステラ!………まったく、どこ行ってたんだ」

 

無事出産を見届け、再びステラを探していたスティングだった。

なおアウルはブロックワード発動で疲労し、後部座席で横になっていた。

 

シン「ステラ、知り合い?」

 

名前を呼んだので知り合いに間違いないとは思うが、念の為ステラに尋ねる。

 

ステラ「…………知らない」

 

スティング「ステラ!?」

 

ステラ「ステラ、シンのとこ行く…」

 

スティング「ちょっと待てって!!ネオも心配してるから帰ろう!な!?」

 

会話の内容から明らかに顔見知りの二人だが、ステラ本人が否定しているので無理やり帰

すわけにもいかない。

どうするべきか戸惑っていると、シンが一つのことに気づく。

 

シン「……思い出した。この前、妹を押し倒した奴の連れか」

 

とてつもなく嫌な覚えられ方だ。

その言葉で、スティングもシンのことを思い出す。

 

スティング「その節は失礼しました。彼は現在違う箇所を探していていますが、戻ったらきつく言っておきますので」

(アウルが寝ていて良かった……!)

 

目の前のシスコン男が、肉食動物の目つきになっていることを見逃さなかった。

 

スティング・オークレー。

気苦労の絶えない環境で育ったため、人一倍トラブルに敏感な男。

 

シン「ほら。お兄さんが来たから、もう大丈夫」

 

スティングに事情を話し背中のステラを下ろそうとすると、目に涙を溜めて抗議される。

 

シン「あぁ、ほら、また会えるから。きっと、ね?」

 

そう言いなだめて、ステラをスティングに引き渡した。

離れるシン達を助手席から身を乗り出して見送っていたステラだが、かすかに見える程度まで遠ざかるとステラが叫んだ。

 

ステラ「シーン!」

 

シン「ステラ!会いにくるから!」

 

大きく手を振って返す。

そんなやり取りの中、後部座席で動きが。

 

アウル「うるせーな。こっちは寝てるんだよ――って。ステラ、見つかったんだ」

 

スティング「馬鹿!顔を上げるな!!」

 

アウル「へ?」

 

思わずスティングの視線の先をたどってしまう。

見た方向には、黒髪紅眼の素敵な殿方が。

 

シン「………ここで会ったが10年目ぇぇぇーーーーーー!!」

 

アウル「お久しぶりです、お義兄さん!出来れば会いたくなかったです!!」

 

お互い、前回の印象はバッチリのようです。

 

アウル「うわっ!追いかけて来た!!スティング!早く出せ出せ!!」

 

ステラ「シン…ステラを守るって………」

 

スティング「わかってる!というかステラ!サイドブレーキから手を離せーーーー!!」

 

 

 

***

 

 

 

同時刻

シン達がいた洞窟

 

アスラン「くそっ!やはり海中に洞窟がある!!満潮で沈んだのか!!」

 

シンからの救難信号を受信し、救助に駆けつけたアスラン達だ。

 

信号を受け急いで小型船で到着した所は、浅瀬一つない断崖絶壁。

もしやと思い、アスランが素潜りで調べていた。

 

ディアッカ「一回戻って応援呼んだほうがいいんじゃねぇか?」

 

同じく、素潜りで周囲を探索していたディアッカだ。

 

アスラン「馬鹿野郎!!今も近くで必死に助けを待ってるかもしれないだろうが!!」

 

 

 

**

 

 

~その頃のシン達~

 

ルナマリア「~♪~~♪」

 

バイクを走らすシンを後ろから抱きしめ、ルナマリアはご満悦だった。

 

シン(ただ『バイクの後ろ乗るか?』って聞いただけなのに………。そんなにバイクに乗りたかったのか?)

 

シンはシンで、とりあえずルナマリアが機嫌を直したので安心していた。

 

 

***

 

 

 

ディアッカ「……ちっ!脳裏に海中でもだえ苦しむシンを思い浮かべちまった……。やるしかねぇじゃねぇか!!」

 

いいえ。それは妄想です。

 

アスラン「その意気だ!待ってろシーーーーーン!!今助けてやるからなーーー!!」

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