ガンダムSEED DESTINY IF ~もしも彼女がいたならば~    作:鯱出荷

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【おまけ話】ドキドキ☆カナヅチだらけの海水浴

事の始まりは、物資の発注ミスでミネルバの出発が大きく遅れると伝達されたことだった。

 

タリア「………海?」

 

アスラン「はい。近場の海水浴場を管理者のご好意で貸切りに出来たので、そこでバーベキューでも」

 

それと同時に突然休暇が舞い降り、暇を持て余した乗組員が提案したことだった。

 

タリア「そうね。パイロット達ばかり外で休暇を過ごしては、不満が溜まってしまうわね。いいわ。ミネルバには私と駐在するディオキア基地から何人 か………」

 

アスラン「いえ。それでは意味がありません。艦長もぜひ参加してもらえないでしょうか?」

 

タリア「? 理由を聞いてもいいかしら?」

 

アスラン「今回の外出は、艦長の誕生日を祝うために乗組員総出で企画したことなので」

 

机上のカレンダーを見る。言われた通り、誕生日の4/8は今月だ。

進水以来、あまりに多忙が続いていて忘れていた。

 

タリア「そういえば、もうそんな季節なのね……」

 

せっかくの好意だ。ないがしろには出来ない。

 

タリア「じゃ、お言葉に甘えさせてもらうわ」

 

アスラン「ありがとうございます。皆、喜びます」

 

隣で控えているアーサーも、うんうんと頷く。

 

タリア「……というわけだから、アーサーは代表として残って」

 

アーサー「えええええええええぇぇぇぇぇ!?」

 

 

 

***

 

 

 

ハイネ「――というわけで、副艦長は不慮の事故で欠席となりましたが」

 

シン「死んでませんから。―――おいルナ!線香と位牌と卒塔婆を用意するな!!」

 

レイ「この黄色い花は何に使うんだ?」

 

シン「お供え物も却下!!」

 

ティルム「その木の棒、後で『吸い変わり』っていう儀式をやるから取っとけってコニバンス先生が………」

 

シン「『スイカ割り』ね。卒塔婆はそんなことするためにあるんじゃないの。罰当たりなことしちゃいけません!」

 

コニバンス「ちっ。うるさい奴だ」

 

シン「砂浜でのタバコのポイ捨て禁止!!」

 

右へ左へとツッコミをこなしていく。

 

エイブス「長くなりそうだから早くしたらどうだ?」

 

ディアッカ「いや。余計な一言でここまでトーク広げるあいつらが異常かと」

 

アスラン「とにかく!タリア艦長の生誕を祝い、乾杯!!」

 

乾杯の音頭を合図に、皆が紙コップを掲げる。

 

メイリン「お姉ちゃん。飲酒はダメだからね」

 

ルナマリア「わかってるわよ。このあとパイロット組は強制遠泳なんだから」

 

そうなのだ。今回の訓練は気分転換も兼ねて遠泳となったのだ。

もう春とはいえ、まだまだ海は冷たく気が乗らない。

 

メイリン「チャンスじゃない♪足つった振りしてシンに抱きついたり、人工呼吸してもらったり…」

 

ルナマリア「シンじゃなくて、あの人が助けに来ると思うんだけど」

 

横目でヴィーノ達にバーベキューの野菜を薦めているエイブスを見る。

 

エイブス『ゴラァ!昔から筋肉には野菜と言われとるだろうが!!健康な筋肉は健康や食材からだ!プロテインも忘れるなよ!!』

 

海パン一丁でムキムキ筋肉全開の、漢と書いて『おとこ』と呼ぶのにふさわしい生物がそこにいた。

 

メイリン「…………エイブスさんって、ああいう人だったっけ?」

 

ルナマリア「整備員の間では有名よ。普段はいい人だけど、筋肉が関わると豹変するって。暇を見つけてはスクワットや腹筋してるし」

 

その体力を買われ、今回の遠泳ではライフセーバーとして同行することになっている。

 

メイリン「でもさ、水着姿で誘惑すればさすがのシンも……」

 

ルナマリア「昨夜二人っきりのときにビキニ着て見せたら、『波の影響受けなさそうでいいな』って真顔で言われた」

 

メイリン「………………根深いね」

 

ルナマリア「それにどうせ何かしたところで、シンは『あれ』だし」

 

メイリン「あれ?」

 

 

シン『ティルム!豚肉はよく火を通さないと危ないって言ってるだろ。焼けるまでこの肉食べてなさい』

 

ティルム『で、でも…。私ばっか牛肉……』

 

ヨウラン『お兄ちゃ~ん。俺にもお兄ちゃんの分の牛肉ちょうだ~い』

 

シン『テメェは箸の先につけたタレでもしゃぶってろ!!』

 

 

メイリン「………………シスコンモードに入ってるね」

 

シン「コラ、そこ!!ティルムが珍しく水着姿だからって写真撮るんじゃねぇ!」

 

マツザワ「くっ!なんというプレッシャー……!しかしこの広報課カメラマン、アカオ・マツザワ!着痩せするティルムちゃんの写真をこの手に収めなければ、 死んでも死に切れん!!」

 

シン「ほう……。だったら、死に切るまで殺してやるよ!!」

 

***

 

 

 

エイブス「泳ぐ前は足がつらないよう、必ず準備運動をすること!しっかりとだ!!―――いや、シンはやらなくていい。これ以上体力を浪費するな」

 

シン「え?いいんですか?」

 

意外そうな目でシンが答える。

太陽の光を浴びてキラキラと輝く、赤黒い物を体に付着させながら。

 

アスラン「結局、何人抜きしたんだ?」

 

レイ「広報課3名、協力者である整備員5名、伏兵のブリッジ要員3名。そして逃げ遅れたディアッカさんの計12名で す」

 

ディアッカ・エルスマン。

不慮の事故により遠泳欠席。

 

ちなみにその加害者であるシンは、女性を執拗に狙うカメラマンから守った功績が女性陣の支持を得てアスランからの説教のみとなった。

 

エイブス「それでだ。今回の目的地は向こうに見える無人島だ。着いたら独断で休憩を挟み、ここへ戻ってくること。島で遊んでから戻ってきても構わないぞ」

 

シン「目視できる距離ですね」

 

といっても、ナチュラルなら片道3・4時間はかかる距離だ。

 

ハイネ「油断禁物。往復すること考えると、結構辛いぜ」

 

ルナマリア「ティー?辛かったら早くリタイアしなさいよ」

 

そう忠告し、ルナマリアは真っ先に海に飛び込んだ。

 

 

 

***

 

 

 

シン「………比較的たくさん質問があるんですが、いいですか?」

 

義妹のペースに合わせ、最後尾で島に泳ぎ着いたシンがつぶやく。

あおむけにされたかと思えば、大量の砂を使って生き埋めにされた状態で。

 

レイ「裁判長。被告人は反省の言葉どころか、我々に異議を申し立てるようです」

 

ハイネ「うむ。判決。―――死刑じゃ!」

 

シン「どこの独裁国家だよ!?」

 

アスラン「あのなシン。妹を心配する気持ちはわかるが、手助けは駄目だろ」

 

こうなったのは、初めての海水と波に戸惑ったのか途中で泳ぎ疲れたティルムをシンが引っ張ってきたからだった。

 

シン「疲れた表情で『まだ頑張れる』って言う姿を見て、つい……」

 

ハイネ「だったらなんで俺達に一言いわなかったんだ?どこかで悪いと思ってたから黙ってたんだろ。悪いと思ってるなら、罰を受けることに文句言うんじゃな い」

 

つまりこの始末は、ペナルティとしてらしい。

 

シン「………」

 

ハイネ「ティーちゃんもだ。参加しないことが迷惑なんじゃない。無理して参加することが迷惑なんだ。覚えといてくれよ」

 

虚勢を張って途中でお荷物となるくらいなら、最初からいないほうがいい。

このメンバーに自分を見捨てることが出来ない人物がいるなら、なおさらだ。

 

ティルム「すみません……」

 

アスラン(ティルムにはペナルティいいんですか?)

 

ハイネ(彼女の場合、何も処分しないほうが辛いんじゃねぇ?)

 

言われティルムを見ると、シンの顔を覗きこみながらひたすら謝罪の言葉を繰り返していた。

その表情はまるで臨終する人間を見取るかのように、申し訳なさそうな顔だ。

 

アスラン「……たしかに」

 

ハイネ「だろ?んじゃ、俺は一足先に戻るぜ」

 

ルナマリア「遊んでいかれないのですか?」

 

遠泳しながら持ってきたビーチボールを膨らまし、遊ぶ気満々のルナマリアが尋ねる。

 

ハイネ「ここで遊ぶのも悪くないが、大勢で馬鹿騒ぎするほうが好きなんでね。じゃ、後ヨロシク」

 

アスラン「では俺も戻ります。一人では何かあったら大変ですし、ここはエイブスさんがいれば大丈夫ですので」

 

二人が海に飛び込んでいったのを見届け、エイブスが口を開く。

 

エイブス「後のメンバーはどうする?シンのこともあるし、俺は最後まで残るつもりだが」

 

ルナマリア「レイは残るでしょ?パイロット組以外の友人少ないん――――冗談だって。冗談だから、藁

わ ら

人形握り締めるのやめてくれない?」

 

舌打ちするレイに冷や汗をかきつつ、シンの側にいるティルムの手を引っ張る。

 

ルナマリア「ほら、ティーも。向こうで遊びましょ」

 

ティルム「うぅ……お兄ちゃん………。必ず……必ず会いにくるからねー!!」

 

シン「どっかで俺が言ったセリフを使わないで」

 

 

 

***

 

 

 

砂風呂状態にされ、二時間経過。まだ春といっても、天気は快晴で暖かい。

そんな中、砂に埋まったシンは順調に脱水症状へと向かっていた。

 

シン「あいつら、絶対こういうこと想定してねぇだろ……!」

 

思わず恨み言を口にする。

エイブス達を呼ぼうとしても、首の動く範囲に人影はない。しかもここは無人島。

ただでさえ喉がカラカラなので、大声を挙げる気には到底ならない。

 

シン「……まぁ、レイとかがそろそろ気づい『シーン!!』――ぐごぉ!?」

 

砂に埋もれて動けない体に、その砂山目がけて誰かが乗っかってきた。

こんなことするのはルナマリアぐらいだと思い怒鳴ろうとしたところ、その見覚えのある顔に驚く。

 

シン「……って、ステラ!?」

 

上で鎮座していたのは、先日会ったばかりのステラだった。

 

ステラ「シン、約束守ってくれた♪ステラに会いに来てくれた♪」

 

どうやら彼女は、自分がここでステラを待っていたと思っているようだ。

 

シン「………それよりもステラ。ここ無人島なのに、どうやっ……」

 

アウル「あーーーーーー!またお前かよ!?」

 

シン「はい?―――ってそりゃこっちのセリフじゃこの青カビ野郎ぉ!!」

 

そこにはこれまた先日会ったアウルと、頭痛がするのかこめかみを押さえているスティングがいた。

 

アウル「誰が青カビだ!そういうお前こそ、そんな情けない格好で何やってんだよ。島流しか?」

 

シン「っの野郎……!人が動けないのを良いことに好き放題言いやがって……!」

 

アウル「はっ!まだまだ言い足りねぇな。ま、安心してそこでミイラになりな。あの子は俺が代わりに可愛がってやるからよ!!」

 

スティング「アウル。ステラが嬉々としてあいつを掘り起こしているから、その辺でやめたほうがいいぞ」

 

アウル「ホントすみませんでしたっ!!」

 

シン「いやいや、そんな土下座なんてしないで結構ですよ」

 

ようやく埋葬から解放されたシンは、ゆっくりと体についた砂をはらいながら優しく微笑む。

 

アウル(あれ?もしかしてコイツ、いい奴?)

 

しかし、スティングだけは気づいていた。

目の前の男は満面の笑顔に反して、目がまったく笑っていないことに。

 

シン「謝ろうが何しようが、殺ることには変わらないから………さぁ!」

 

油断したアウルに、チョークスリーパーホールド。

殺す気満々で。

 

ステラ「シン、いじめはダメ……」

 

顔を青くし、必死にタップアウトをするアウルを見かねて口を挟む。

 

シン「大丈夫。これはいじめじゃなくてスポーツだから」

 

スティング「スポーツだと言い張るんなら、タップしてる時点で離すべきだと思うが」

 

シン「家に帰るまでがスポーツです」

 

??「あー……、坊主?そいつが怒らせること言ったのはわかるが、せめて虫の息で勘弁してくれ」

 

そこには下は海パン、上は仮面という素敵なファッションに身を包んだあまりお近づきになりたくないお方が。

 

シン「…………あなたは?」

 

??「ネオだ。ネオ・ロアノーク。こいつらの保護者……かな?」

 

シン「要するに、『子供の責任は親の責任』。『代わりに自分が犠牲になりたい』と受け取っていいですか?」

 

ネオ「こんな奴で良ければどうぞご自由にお使いくださいませ」

 

保護者、平伏。

 

シン「……ところで、どうしてこの島へ?確かこの島は、無人島だったはずですが」

 

ネオ「ん?ステラの機嫌直しに、クルーザーを使って来たのさ」

 

シン「機嫌直し?」

 

ネオ「あぁ。それがな………」

 

 

 

***

 

 

 

ステラ「♪~♪~~」

 

足の治療を終えたステラは、寝室で足に巻かれていたハンカチを機嫌良くもてあそんでいた。

 

アウル「あのバカ、何やってんの?」

 

スティング「さぁな。構ってやる手間省けるから、俺としてはどうでも」

 

興味ないといった様子で、スティングは読書にふけっている。

アウルとしてはそれが面白くなく、悪戯心でステラからハンカチを取り上げる。

 

ステラ「! 返して!シン返して!!」

 

アウル「はぁ?しん?」

 

ステラ「シンはシンなの!紅のシンなの!!」

 

ネオ「おい、どうした。廊下まで声が響いてるぞ」

 

スティング「ノックしてから入ってくれと、いつも言ってるだろ。――で、こうなったのは……」

 

先日ステラが世話になった人物と、こうなった経緯を説明する。

 

ネオ「ふむ。つまりステラの言ってる『シン』とは、その紅目のシスコンのことだな」

 

てっきり『神(しん)、神』叫んでいるので怪しい宗教でも始めたのかと思ったが、それだったらなにより。

 

ネオ「それにしても、随分とそのハンカチを気に入っているな。ステラはそのシンとかいう子が好きなのかい?」

 

スティング「あの野郎!よくもステラをたぶらかしやがって!!」

 

アウル「スティングも十分シスコンじゃねぇ?」

 

荒ぶるスティングは無視して、ステラはネオの質問に答える。

 

ステラ「シン、『好き』違う。『好き』はネオ、スティング、海………」

 

スティング「そ、そっか。そうだよな、うん」

 

安堵で泣きたくなる。

 

アウル「なぁ。俺、入ってないんだけど?」

 

疎外感で泣きたくなる。

 

ネオ「なるほど。ちなみに好きじゃないんだったら、そのシンって子は何なんだい?」

 

にっこりと微笑むステラ。

 

ステラ「大好き♪」

 

ネオ「………」

 

スティング「…………………ステラ。これ捨てるからな」

 

アウルが持っていたハンカチは無言で奪い、そう宣言する。

 

ステラ「ダメ!シン捨てちゃダメ!!」

 

スティング「目を覚ませステラ!あんな奴に騙されちゃ駄目だ!!」

 

両者必死に、本当に必死でハンカチを引っ張り合う。

しかし引っ張っているのは、どこにでもある普通のハンカチ。

成人男性並の腕力に耐えられるはずもなく。

 

 

ビリッ!!

 

 

スティング「…………あ」

 

破けた。綺麗に半分に裂けて。

 

スティング「………」

 

アウル「……俺、1ぬ~けた」

 

ネオ「同じく2。後は頑張れ」

 

世の中は無情である。

 

ステラ「…………ふええええええええぇぇぇぇぇん!嫌い!!スティング大っ嫌い!!」

 

スティング「あぁぁぁぁ!悪かった!悪かったから!!ほ、ほら。一枚が二枚になったと思えば、良かったろ?」

 

泣き叫ぶステラをなんとかあやそうとするが、一向に泣き止まない。

 

スティング「わかった!お詫びに海連れてってやるから!だから泣き止んでくれよ!!な!?」

 

 

 

***

 

 

 

ネオ「―――というわけさ」

 

??「それに付き合わされる私の身にもなりたまえ」

 

麦わら帽子をかぶり、肩にはパラソルとクーラーボックスを担いだ体格の良い人物がぼやく。

 

ネオ「おっと。彼はイアン・リー。私の友人のようなものさ。……そう怒るな。俺はクルーザーの運転なんて出来ないんでね」

 

リー「一つだけ言っておく。私は同僚だ。勘違いするな」

 

ルナマリア「シーン?生きてる―――って、またアンタ?」

 

ようやく思い出したらしく、エイブス達が戻ってきた。

先日会ったステラにルナマリアはいい表情を浮かべていないが。

 

シン「あ、この方達は遊楽でここに来た方で――エイブスさん?」

 

お互い何かを感じあったのか、エイブスはリーと睨みあう。

 

エイブス&リー(できる………!)

 

リー「ふっ……。貴様の前でこんなもの無粋だな」

 

肩のパラソルとクーラーボックスを床に置き、『バッ!!』と服を脱ぎ捨て海パン一丁に。

 

リー「―――どうだ!!」

 

両腕で力こぶを作り、大きくポーズ。

 

エイブス「…………ふん!!」

 

同じポーズで応戦。

 

リー「なんの!!」

 

ムキッ!

 

エイブス「ぬん!!」

 

ムキムキッ!

 

リー「と あ ぁ ぁ ぁ ぁ ぁ ぁーーーー!!」

 

エイブス「ほ あ ぁ ぁ ぁ ぁ ぁ ぁ ぁーーーー!!」

 

あまり深入りしたくないが、色々と同調した模様。

 

ステラ「……………ふほぉぉぉぉぉぉーーーー!!」

 

シン「ステラ!!そっちに行っちゃ駄目だから!」

 

スティング「ステラを止めてくれるのはありがたいのですが、そろそろ先ほどからピクリとも動かないアウルを離してくれませんか?」

 

 

 

***

 

 

 

アウル「う~……ん………」

 

????「あ……。気がつきましたか?」

 

何やら声がする。

なぜか体を動かすのが億劫なので、目だけを開くと

 

 

リー『まだぁぁぁまぁぁぁだぁぁぁぁーーーー!!』

 

エイブス『負ぁぁぁけはせーんぞぉぉぉぉーーーー!!』

 

【ムッキムキ♪マッチョだらけの漢祭り】開催中。

 

????「あ、あの……。そっちじゃなくて、こっち………」

 

意識が飛びかけたところで反対側から声をかけてくれた。

体の節々の痛みを我慢に、今度こそ声がするほうに体を向ける。

 

????「良かった。大丈夫そうで。――ごめんなさい。私のお兄ちゃんが迷惑かけたみたいで」

 

目の前に広がるのは、申し訳なさそうな表情を浮かべる水色の目をした金髪の少女。

かつて自分が押し倒してしまった子だ。

 

アウル「は!?い、いや、大丈夫さ!ほら!!この通り!」

 

寝そべったままの格好がつかない体勢が嫌で、無理やり起き上がる。

 

????「わぁ……。すごいんだね」

 

アウル「は、はははははははははは……(←乾いた笑い)そ、それよりもさ。他の連中は?」

 

体の調子を伺いつつ周囲を見回すと、エイブスとリーと自分達以外に人影はない。

 

????「お兄ちゃん達はステラさん…だっけ?その人達と一緒に遊びに行ったよ。私は『体力ないから休め』って言われたから、ちょっと休憩中」

 

体力がない劣等感を隠すためか、小さく笑いながら話す。

 

????「私はティルムっていうの。君はアウル……だったよね?『アウル君』って呼んでいいかな?」

 

アウル「あ………。もちろんもちろん!!な、なんだったら呼び捨てでもいいからさ!」

 

ティルム「ありがとう。私の周りの人はみんな私を子ども扱いするから、アウル君みたいな気さくそうな人と話してみたかったの」

 

控えめにだが、嬉しそうに笑顔を浮かべる。

 

アウル(この子……メチャクチャ可愛い………♪)

 

どっかの凶暴シスコンとは大違いだ。

それに彼女が水着姿だからわかるが、年不相応なスタイルがまた――――

 

ティルム「………?っあ……。あんまり、じっと見ないでほしいな……」

 

アウルの視線に気づき、胸元を両手で隠す。

だがそれは胸を寄せる体勢になり、より刺激的な光景になっていることに気づいていないのだろうか。

 

アウル「い!?ご、ゴメンゴメン!つい、見惚れちゃって………」

 

ティルム「………さっきいたステラさんのほうが、ずっとスタイルいいと思うんだけど……」

 

アウル「あ~……。あいつとはずっと一緒だったからね。今更って感じ」

 

一番の違いが、ステラには恥じらいというものがない。

目の前の彼女とは大違いだ。

 

ティルム「………やっぱり、男の人ってそうなのかな…」

 

アウル「は?」

 

ティルム「あ……ごめんね。こっちの話」

 

こちらの目を見て、また微笑んでくれる。

 

アウル(やっぱりかわいいな~~。なんとかして、良いとこ見せてー)

 

改めて彼女をじっくり見てみると、金髪で水色の目をしていることに気づく。

 

アウル(もしかして、英語圏に住んでる子じゃねぇ……?)

 

ふと異文化交流をする際、最も相手と分かり合える手段は現地の言葉で話すのが良いという話を思い出した。

そうでなくても英語は地球第2の共通語。きっと通じるはずだ。知的な印象を与えるのも悪くない。

 

アウル『ちょっとの間、この言葉で話してみない?』

 

突然英語に切り替えてみる。

 

ティルム「え……?えーと……『うん、いいよ。でもアウル君は英語もできるんだね』

 

言語が統一化される以前の地球製の文献を読むのに必要なので、ティルムは英語も習得している。

 

アウル(答えてくれた……!けど問題はこれからだね……!!)

 

ない知識を振り絞ったところ、たしか彼女の国は牛肉が大好きなはずだ(←偏見です)

牛肉が他国に輸出禁止になったときは、国のトップが輸出先の国に圧力をかけたと聞いたことがある(←ノーコメントでお願いします)

 

そしてリーが持ってきたクーラーボックス内に、ビーフジャーキーがあったのを思い出す。

 

アウル(でも彼女も牛肉持ってたら意味ねぇし……【←持ち歩いてる人はまずいません】。聞いてみっか)

 

教科書に載ってる程度の英語力で、なんとか彼女に伝えようとする。

 

アウル「Do you have a beef ?」

 

~良い子の外国語講座~ 

Lesson 1 ~国際線の旅客機内で使える英語~

(実際にこの発言を用いてそれが原因でトラブルが発生しても、作者は責任を取りません)

 

・Do you have 【a】 beef ?

訳(意訳)

『何 か 文 句 あ ん の か ?』

 

ティルム『え……?そ、その……ご、ごめんなさい………』

 

何故か(←アウルにとって)彼女が涙目に。

理由がわからないアウルはパニック状態。

 

アウル(うわ!?牛肉嫌いだったか?えーとえーと……。そうだ!たしかフルーツジュースがあったはず!!ついでに気に入らないけどあのシスコンも呼んで、 大勢で賑やかになろう!)

 

そう考え、名誉挽回と言わんばかりに出来るだけ優しい口調で話しかける。

 

アウル「Let's enjoy fruity party♪」

 

~良い子の外国語講座~

Lesson 2 ~海外で特定の趣味を持つ方と仲良くなる英語~

(この単語を使用して肉体的・精神的苦痛を受けても、作者は知ったこっちゃありません)

 

・fruity 

意味:同性愛の

 

訳(意訳)

『さぁ。同 性 同 士のいかがわしいパーティーを楽しもうじゃないか』

 

ティルム「………」

 

横にいる筋肉コンビのせいで、リアルティ倍増。

笑顔で語りかけるアウルに対し、ティルムが取るべき行動は一つだった。

 

ティルム「………………助けてーーー!お兄ちゃーーーーーん!!」

 

アウル「なんで!?」

 

 

 

***

 

 

 

シン「やりすぎた侘びに最愛の妹を看病に置いてやったのに、その妹をセクハラして泣かすとはいい度胸だと思わんか?ん?」

 

先ほどのシンと同じように生き埋めにしたアウルを、グリグリと踏みつける。

 

アウル「だかっぷ!ごぐぁいばぁっぺぇ!!(だから!誤解だって!!)」

 

シンとの唯一の違いは、生き埋めにされた地点が『波打ち際』だということだ。

 

ネオ「見損なったぞ、アウル。人様の妹に手を出そうとするとは……」

 

スティング「いい機会だから覚えとけよ。イタズラとセクハラは違うんだ」

 

アウルに味方なし。

日頃の行いは大事である。

 

ティルム「さすがにやりすぎだと………」

 

ルナマリア「同情は禁物よ、ティルム。性犯罪者のほとんどが再犯を犯すんだから」

 

どうやらアウルの性犯罪は確定のようだ。

 

シン「まぁ、俺も鬼じゃない。同じ過ちを繰り返さないと誓うか?返答次第では止めてやる」

 

海水が目に入るのもお構いなしに、アウルは必死に首を縦に振る。

 

シン「わかったんだな?――そうらしいので、エイブスさん。お願いします」

 

エイブス「任せな。――――トォォォォォォォーーーー!!」

 

首だけを出したアウルにアイアンクローをしたかと思えば、そのまま引っこ抜き海のほうへ投げ飛ばす。

 

アウル「うおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ………!!」

 

レイ「人間とはあんなに飛ぶもんなんだな」

 

スティング「感心しているところ申し訳ないんですが、うちのアウルは泳げないんですが」

 

 

 

***

 

 

 

アウル「ご……ごほっ!げほっげほっ………」

 

ネオ「お?息を吹き返したようだぞ」

 

アウル「ネオ……?俺………」

 

ティルム「溺れて気を失ってたの。心配したよ。何回も人工呼吸して、やっと水を吐いてくれたんだから」

 

アウル「人工呼吸?誰がしてくれたんだよ?」

 

ティルム「……そんなこと言えません」

 

うつむいた様子で、目をそらされる。

その表情は読み取れないが、見ようによっては照れに見える。

 

アウル「うぉぉぉぉーー!!マジかよ!?」

 

もしかすると、もしかする!?

 

ティルム(言えない……。そこにいるマッチョさん【達】が、交互に人工呼吸してくれたなんて……)

 

決して表情を読ませてはいけない。そんな思いでティルムは必死に無表情を貫いていた。

 

ネオ「でだ。向こうでビーチバレーやるつもりなんだが、お前もやるか?」

 

視線の先を見ると、シン達はどこからか持ってきたネットを取り付けている。

水難に逢った人間をほったらかしてそれはどうかと思うのだが。

 

アウル「目を覚ましたばっかで出来るわけないじゃねぇか。バッカじゃねぇ?」

 

ネオ「そんなこと言っていいのか?賞品もあるんだぞ」

 

アウル「何だよ」

 

ネオ「まずうちらが勝ったら、残り時間全てあのシンとかいう坊主一人占め」

 

『シンともっと遊びたい』というステラの頼みを受け、ネオとスティングが要求したものだった。

 

アウル「俺には関係ないね」

 

馬鹿馬鹿しくなって、惰眠をむさぼろうとする。

 

ネオ「話は最後まで聞きな。もう一つの物が……」

 

耳打ちして、その賞品を伝える。

 

アウル「…………マジで!?」

 

ネオ「ちなみにこちらが負けたら、クーラーボックスの飲み物提供だ」

 

アウル「やるやるやる!男の夢が目の前にあんのに、やらねぇわけねぇじゃん!!」

 

そんなアウルの様子を遠目に見て、シンはニヤリと笑う。

 

シン「くくく……。単純な奴が」

 

ルナマリア「…………アンタ、あの賞品ひどくない?」

 

シン「嘘は言ってないぞ。それにあいつ以外は負けても勝っても大した被害はないし」

 

ルナマリア「…………」

 

企みが上手くいって愉快そうなシンとは対照的に、ルナマリアはあまり気が乗らない。

 

ルナマリア(負けたらシンと遊べないじゃない……)

 

あのステラという子も多かれ少なかれシンに好意を持っている。こんな賭け、楽しいわけがない。

そんな思惑を他所に、準備は着々と進んでいく。

 

スティング「こっちのネットは結び終わったぞ」

 

レイ「ご苦労様です。―――で、チーム分けはどうする?」

 

ネオ「こちらは俺とスティングとアウルだ。……いや、こちらも女性を入れたほうがいいかな?」

 

マッスルフェアの二人は除外して、相手側は男女ともに二人ずつということに気づいて言い直す。

 

ルナマリア「結構です。ハンデとして、ちょうどいいんじゃありません?」

 

腕をグルンと回し、自信満々に言い放つ。

 

アウル「始める前から負けたときの言い訳か?――それよりもさっき言ってた賞品、ホントだろな?」

 

シン「ティルムの前で嘘なんか言うか。約束は守るよ」

 

アウル「っっっしゃあぁぁぁぁぁ!!とっととやろうぜーーーーー!」

 

闘志に燃えるアウルを先頭に、ビーチバレーを開始。

ちなみに審判はティルム。

 

ネオ「向こう側からのボールだな。スティング!トスを上げるぞ!!」

 

返ってきたボールを正確に上げる。

 

スティング「任せな!―――馬の骨なんぞにステラはやらんぞアタァァァァーーークゥ!!」

 

シン「怨念をこめるな!!」

 

ルナマリア「はっ!軽いわね!!」

 

スティングの意図から外れ、横にいたルナマリアがフォローに入る。

 

ルナマリア「長年のコンビネーション、見せてあげるわ!レイ、合わせて!」

 

既にベストポジションに就いているレイが頷く。

 

アウル「あいつ!いつの間にあんな位置に!?」

 

ルナマリア「今更気づいても遅い!さぁ!!行くわよ!」

 

相手のアタックを上げる姿勢に入る。

 

ルナマリア「殺人『パス』!!」

 

レイ「ぶぼぁ!!」

 

アタックを行うため構えていた無防備なレイのわき腹に、ダイレクトトス。

 

スティング「おい。そいつ痙攣してるが大丈夫か?」

 

ルナマリア「…………これぐらいじゃないと、ハンデにならないんじゃありません?」

 

シン「お前あくまで過失を認めない気だな!?」

 

レイ・ザ・バレル。

不慮の事故により棄権。

 

ルナマリア「さぁ!レイの無念を晴らすわよ!!」

 

シン「ちょっと黙れ。加害者」

 

2対3となったものの、抜群のコンビネーションを誇るシン達にネオ達は苦戦する。

 

ネオ「ちっ……。少し大人げないがね!」

 

シンがネット付近に近づいたのを確認して、ネオが跳躍と同時に大きく砂を蹴る。

 

シン「っ!汚ねぇ!!」

 

目に砂が入ったシンが抗議する。

 

ネオ「いやいや、すまない。事故だよ、事故」

 

事故だろうと反則は反則なのだが、そんなことを知らないティルムは続行を指示。

 

ネオ「たった二人でここまでやったのは見事だが、さすがに彼女ひどぅぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?」

 

勝ち誇るネオに、横から右ストレート。

 

スティング「………………ステラ、さん?」

 

ステラ「シン、いじめちゃダメ……」

 

放ったのは、観客として今まで見物していたステラだった。

そして1発でグロッキー状態にされたネオに、じわじわと近づく。

 

ステラ「シン、ステラ守る……。ステラもシン守る……」

 

ネオ「くっ……!これもステラの機嫌を直すためだ!コークスクリューでもデンプシーロールでも何でもこいや!!」

 

余談ですがゆっくりとにじり寄るステラは、愛用のナイフを握り締めてます。

 

ネオ「許容範囲外ーーーーーー!!」

 

アウル「ネオ!逃げろ!!逃げろーーーーーー!!」

 

シン「一体何が起こってるんだ!?」(←目くらましされているため現状がわからない)

 

シン・アスカ。

目に異物が混入したため、大事を取ってリタイア。

 

ネオ・ロアノーク。

家庭内の事情により棄権、というか逃亡。

 

 

 

***

 

 

 

その後ルナマリアは一人で奮闘するものの、さすがに2対1では勝負にならず。

結局ステラ達の勝ちとなった。

 

ステラ「シーン♪シンシン♪」

 

シン「あ、あのさステラ……。あんまペタペタ顔触られるのは恥ずかしいんだけど………」

 

公約どおりシンを独占し、その紅眼を思う存分観賞できてステラはご機嫌だった。

 

ネオ「ふむ。ステラも機嫌が直ってなによりだ」

 

自身の身の安全が保障されたことが、安堵する一番の理由だ。

 

スティング「その通りなんだが………。何だ!?この敗北感は!!」

 

一部、心中穏やかではないようだが。

 

ルナマリア「というかね、負けたアタシ達が言うことじゃないんだろうけど――――――なんであの子シンを膝枕してんの!?」

 

ティルム「ステラさんが言うには『こっちのほうが見やすい』からって……」

 

なおも何か言おうとするルナマリアを、アウルが制する。

 

アウル「それよりもさ!約束の物!!早く早く!!」

 

急かすアウルに、シンはステラにちょっと待ってもらえるように頼む。

 

シン「心配するなって。ちゃーんと約束は守る」

 

遠泳しながら持ってきた物を手渡す。

 

シン「ほら。約束のティルムが一つ一つ手で握った特製おにぎりだ。残さず食えよ。―――――絶っ対残すなよ?」

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