ガンダムSEED DESTINY IF ~もしも彼女がいたならば~    作:鯱出荷

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第一話

一年後、無事アカデミーを卒業したシン達は戦艦ミネルバに就任することとなった。

 

偶然か気を使われてか、全員同じ配属先である。今では本当の妹同然可愛 がっているティルムから離れずにすむし、長い付き合いのあるレイ達と同じ職場で働けると充実した毎日を送っていたのだが…

 

シン「………何してやがる?」

 

その日の目覚めは最悪だった。昨日は深夜までティルムのMS起動テストの手伝いをして疲れていた。

 

ようやく就寝かと思えば数時間後にはなぜか寝苦しく、目 を開けるとルナマリアが乗っかっていたのだから。

 

恋人同士ならいい展開だが、自分はこいつと付き合っていないし、付き合う気もない。

 

シン「いや、それ以前にノックしたか?」

 

妹が出来てから、ノックの音に敏感な(というより飛び起きる)体質になってしまった。

 

それは義兄妹の契り以降今まで一人だった反動だろうか、ティルムから添い寝の懇願が増えたことから始まった。

 

これ自体には問題はなく、事件はシンがノックに気づかず寝入ってしまい、ルームメイトも不在中という不幸が重なったときに起きた。シンに気づいてもらえなくても健気にティル ムは部屋に帰らず、そのままドアの前で一晩を過ごした。そして

 

翌朝廊下で寝ているティルムが目撃され、自分が部屋から追い出したという疑いが生じたのだ。 この後の出来事は軽いトラウマとなっている。

 

ちなみにティルム曰く、「少しでもお兄ちゃんの側で寝たかったから」だそうだ。なんだかんだいっても妹に甘いシンに、愛情に飢えていたティルムが心を許す のに数日とかからなかったのだ。 

 

とにかく、もしノックがされていたらシンがこうして寝ているはずがないのだ。

 

ルナマリア「あ、忘れてた。ちょっと待って」

 

部屋のドアに、履いてた靴をドン!と投げつける。

 

ルナマリア「さ、これでいいでしょ」

 

シン「いいわけあるかい!!」

 

ルナマリア「あ~、男のくせに細かいわね!それよりも買い物の約束、覚えてるでしょうね!?」

 

枕元に置いてある、マユの携帯の時刻表示をみる。確かに約束の時間だ。

 

シン「すぐ準備します」

 

「よろしい」と頷くと、ルナマリアはヒョイッとベットから降り出て行った。

シンが着替えを見られるのが嫌いと知っているからだ。

 

これがルナマリアだった場合、シンとレイ限定だが人前でも人の部屋でも平然と着替えるし着替えを見る。

さらにティルムに添い寝してあげてる最中だろうと、 「今終わったんだけど、帰って同室のメイリンを起こすのは可哀想だ」などと言ってはシンのベットにもぐりこんで来る。

 

レイのベットはあちこちに武器を仕込んでいて、硬くて眠れないから嫌らしい。

 

ルナマリア「あ、それとヨーランから伝言」

 

ドアから首だけを出す。長い付き合いなら4・5文字の名前も覚えられるようになったらしい。

幸いにもシンは、まだ着る服を選んでいる途中だった。

 

ルナマリア「10分遅れたら、一品ティー手料理の試食ね」

 

この伝言にシンは固まった。ティルムの最大最凶の欠点、それが料理だった。

 

ティルムは初めてアカデミーの厨房で調理した際、料理長から『料理界のキング・ オブ・マンバ』の称号を得とくしている。補足だが、マンバとはコブラの仲間で自然界最強と呼ばれる毒蛇だ。

 

ティルムの料理は、そんなマンバの『キング』に位置する。もはやシンに一刻の猶予もなかった。

 

 

 

***

 

 

 

ティルム「お兄ちゃ~ん……?そんなに私の料理食べたくないの~…?」

 

全力で駆け抜けてきた兄に、怒気を含んだ声で話しかける。

すると、メイリンが優しくティルムの肩に手を置く。

 

メイリン「ティルム?議長に『人に食べさすのならマウス、犬、サル、アウストラロピテクスを通してからだ』って言われたでしょう?」

 

ティルム「アウストラロピテクスなんて今いないよ!」

 

議長直々にドラッグ扱いされていることは構わないのだろうか?

 

ヨウラン「くくく……。やっぱシンにはティルムちゃんが一番効くな」

 

肩で息をするシンに笑いかける。

 

対するシンは、会話もできないほど体力を消費しているのだから相手にしない。

 

ルナマリア「まったく…。アンタと同じ時間に終わったティーはちゃんと起きたのよ?しっかりしなさい!」

 

バンッと背中を叩く。

 

普段なら何の問題もない、いつものコミュニケーションだ。

しかし今はまずかった。

 

自分の仕事とは別に義妹の手伝い&寝起き&朝食抜き &全力疾走、そこに手加減しているとはいえ赤服であるルナマリアの一撃。

 

結果として、グラリと前に倒れてしまった。

 

ルナマリア「え!?」

 

あわてて手を伸ばすが、ルナマリアの手は空を切った。

他のメンバーもまさかと思い一瞬反応が遅れ、間に合わない。

 

シンが地面との激突を覚悟し、せめて顔面だけでもなんとかしようと考えていると、

 

???「……あ」

 

フニョンという感触が顔に当たり、覚悟した衝撃はこなかった。

 

シン「……?」

 

顔を挙げると、目の前にいたのは女の子だった。

 

ティルムとはまた違う金髪の。不思議な物をみる目で、こちらのことを眺めている。

 

今自分の顔に当たっているのが、その女の子の胸だと気づいたのはそれからすぐだった。

 

シン「ごごご、ごめん!」

 

即座に顔を離そうとするが、その女の子はガシッ!とシンの顔を両手で挟み、自分に向かせる。

 

???「………」

 

シン「あ、その……」

 

黙って見つめてくる女の子に怒っているのだと感じたシンは、なんとか謝罪のタイミングを見つけようとする。

 

しかしその女の子から出た言葉は、シンにとって意外なものだった。

 

???「きれい…」

 

え?と言うが、聞こえていないようだ。どこかうっとりとした表情で、自分の眼を見つめ続ける。

 

???「本当に、きれいな……、紅(あか)……。ガラスや、血なんかより、全然……」

 

そこでシンは気づいた。彼女が自分の眼のことを言っているのだと。

 

だからといってこの状況が改善するわけではない。

 

というより、これは見ようには女の子に キスを迫られているようにも見え…

 

???「ダメ」

 

眼を背けようとするシンに、有無を言わさない強い口調で言われた。

 

いやひいき目に見ても可愛い子から見つめられるのは自分も男だから嬉しくないとは言えないが後ろには義妹や同僚もいるわけでだが自分は彼女に失礼を働いて しまったので彼女の言うことをきくのが人情であり義理でありしかしルナなんかをほっとくと精神的に危険なのは身に沁みていて……

 

軽く混乱しているシンに、横から声がかかる。

 

?????「ステラ。それぐらいにしとけ」

 

ステラ「スティング……」

 

ステラと呼ばれた少女の目が自分から離れたので、シンも同じ方向を見る。

 

そこには緑色の髪をした男と、青色の髪をした男がいた。

すると、目が合った青色の髪の男が軽く手を合わせる。

 

???「ゴメンね!まぁ、そっちもおいしい思いしたからおあいこってことで…」

 

スティング「アウル」

 

「なんだよー」と小言を言うアウルを無視して、スティングが話しかけてきた。

 

スティング「大丈夫ですか?どうやら体調が優れていないようですので、お早めに帰宅されたほうがよいかと」

 

「あ、はい…」と気の抜けた返事をする。

そしてまだシンを離さないステラに顔を向ける。

 

スティング「ほら、ステラ。そろそろ行かないといけないから、彼を離しなさい」

 

ステラ「ん…。もう少し……」

 

ステラ!と、スティングはやや乱暴にシンからステラを離させる。

 

何度も言うが、今のシンは体力がない。

 

しかも長い間ステラに顔をつかまれていたのに乱暴に離させたせいで頭を揺らされ、立ちくらみを起こした。

 

そしてその 体は、アウルの方へ倒れこんでしまった。

 

アウル「へ?ってうぉ!」

 

ドシャァと、今度こそ覚悟していた衝撃が来た。

しかし何よりも青髪の彼への謝罪が先だと起き上がる。

 

シン「すみません!一度だけならまだしも二度まで、も……」

 

そこでシンが見たのは、アウルに押し倒された愛しのマイシスター、ティルムだった。

 

シン「……………」

 

ティルム「ご、誤解よ!?お兄ちゃん!」

 

自分に軽い気持ちで手を出した男の末路を知っているティルムは、とにかく目の前の男性の冤罪を訴える。

シンのただならぬ雰囲気に、普段はマイペースなアウルもあわてて口を開く。

 

アウル「そ、そうです!お兄ちゃん!(←つられた)」

 

……あわてなければよかった。

 

シン「キサマー!!誰がお義兄さんだとー!!??」

 

アウル「断じてそんなこと言ってません!!」

 

 

 

***

 

 

 

ステラ「もっと見たかった……」

 

名残惜しそうに、ステラは自分達が逃げてきた方角を眺める。

 

スティング「頼むから勘弁してくれ…。奴とやり合って生き残る自信がない」

 

アウル「まったく……。スティングが逃走経路の確認とか言って外に出るからこうなったんじゃん。時間まであと何時間もあんのに」

 

スティング「逃走経路の確認はお前が外出したいって駄々こねるから、ネオの奴を言いくるめただけ。しかもさっきの紅眼の奴を怒らしたのも、お前の余計な一 言が原因だろうが」

 

耳をふさぎ、アウルは「聞こえな~い」とあさっての方を見る。

頼むから早く約束の時間になってくれと、スティングはプラントの人工空を眺めながらため息をついた。

 

 

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