ガンダムSEED DESTINY IF ~もしも彼女がいたならば~    作:鯱出荷

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第五話

アレックス「カガリ…。その、平気か?すまない。やはり威嚇じゃなくて、ちゃんと足を狙うべきだったか…」

 

アレックスの危険な発言は置いといて。

 

キャット・ウォークでの一件以来、カガリは与えられた部屋で考えこんだままだ。

アレックスは元オーブ国民だった少年の言葉に傷ついたと思っていた。

 

しかしそれは違った。

確かにオーブに在住したことがありながら綺麗事と言われたのはショックだったが、全ての人間が同じ理念を共有することはできないということはわかっている。

 

そしてその理念が、時として敵を作ってしまうことも。

 

アレックス「…ガリ…し……うだ?」

 

だがあの一緒にいた少女がわからない。議長からの話では、自分とまるで接点がない。

 

仮にあの少年の恋人だとしても、当事者である彼以上の憎悪を引き出せる ものだろうか。

 

2年前タッシルの町がバルトフェルドに焼かれ、数名のレジスタンスが暴走に走ったことがあった。

目の前で町を焼かれた彼らの憎しみも、それを目の当たりに した自分の怒りも、彼女の殺意に比べたらまちがいなく赤子以下だ。

 

普通に生きていては。いや、戦争をしていても絶対に生まれない、生まれてはいけない異常なまでの怨念だ。

彼女はどこか『普通』じゃない。何か戦争での恨み 以外に、他の問題があるのでは……

 

アレックス「カガリ!!」

 

そこでようやく、自分を呼ぶ声に気づいた。

 

カガリ「あ…。どうした?アスラン」

 

アレックス「アレックスだ。それより、少し休んだらどうかって聞いてるんだ」

 

全く聞いていなかった。随分長い間考え込んでいたらしい。

 

カガリ「いや、大丈夫だ。それよりも議長のところに行こう。今後のことを話し合わないと」

 

 

 

***

 

 

 

あれからシンは艦長報告を代理であるアーサーに済ませ(なぜか必要以上の笑顔だった)、自室に戻った。

ティルムもシンについて行き、今は意味もなくベッド に横たわっている。

 

『はい、マユでーす。でもごめんなさい。今マユはお話できません。後で連絡するので…』

 

シンは家族の形見として唯一残った、ピンク色の携帯を握り締める。

留守番メッセージである『後で連絡する』の『後で』が、あの時から永遠に来なくなったと 思いながら。

 

ティルム「………」

 

兄の寂しげな顔を見ながら、ティルムは何も言わない。

 

本当はいない妹よりも、目の前にいる妹を頼りにしてもらいたかった。まるで、自分がマユという子の代わりみたいだから。

 

しかし、自分では失った悲しみを伝えられない。兄はその携帯で亡くなった家族の温もりとオーブへの憎しみを思い出しているのだろう。

 

だから今は自分が出る幕じゃない。兄が満足いくまであの時のことを思い出した後、そのとき新しい家族として自分が必要なのだ。

もう家族を失わせないという、決意のために。

 

シン「ティルム」

 

パチンッと携帯を閉めると、兄が優しく頭を撫でてくれる。

側に家族がいるということの確認のためだろう。

 

人はこれを傷の舐め合いと笑うだろう。だけどそんなことどうでもよかった。

あの日以来、他人から罵倒や暴力は十分に味わった。今更その程度の嘲笑、何だというのか。

 

頭を撫でているときに感じる手の温もり。

伝えなくても自分のしてほしいことをわかってくれる優しさ。

自分を必要としてくれる嬉しさ。

 

一度失ったことのある人間だけがわかる、至上の喜びだ。

こんな『今』があるから、今は何も怖くない。

 

全てを奪った、あいつらも。

 

レイ「シン。色々と辛いと思うが、顔だけでも出せないか?メイリン達が心配している」

 

ドアが開くと、ルームメイトで無表情のレイが現れる。いや、ごくわずかだが心配した表情をしている。

 

シン「…うん。もう大丈夫…。さっきのガンダム達の追跡と、艦長からの説教があるだろうし」

 

まるで自分自身に言い聞かせるように、ゆっくりと起き上がる。

 

レイ「あまり気にするな。お前の言った事もまた正しいのだから」

 

シン「…はっ!大きなお世話だ」

 

やや早い歩調で部屋を出る。ティルムはレイと顔を見合わせ、軽く笑うと続いて部屋をでる。

 

ルナマリア「やっほー♪」

 

廊下を進むと、壁に寄りかかったルナマリアが軽く片手を上げる。

 

ルナマリア「ん♪差し入れ♪」

 

そう言って差し出されたのは紙コップだった。中にはシンお気に入りのコーヒーが入っている。

 

シン「…悪い」

 

ルナマリアにまで気を使わせてしまったと謝罪の意も込め、シンはコーヒーを一気に飲む。

少し冷めていた。彼女は一体、いつから待っていてくれたのだろうか。

 

 

しかし気づいてしまった。コーヒーを口にした瞬間、彼女がニヤリと笑ったことに。

 

シン「………何か入れた?」

 

かつての育毛剤入りチョコレートを思い出し、恐る恐る聞く。

 

ルナマリア「…知らないほうがいいこともあるわ」

 

シン「気になるだろうが!気になって夜も眠れない!!」

 

ルナマリア「平気よ。いやでも長ーく眠れるから」

 

ティルム「永眠!?」

 

ルナマリア「まさか。入っているのはティーの手料…」

 

シン「とりあえず!今すぐよこせ!解毒剤!!」

 

ティルム「お兄ちゃん、それってどういう意味かな?」

 

青筋立てて微笑むのはお控えください。

 

シン「えぇっと、んなこと言ってる場合じゃ…って逃げるなルナァァァ~!!」

 

駆け出すルナマリアに、それを追うシン。

ティルムから逃げただけな気もするが、気のせいだろう。

 

残されたティルムは、大きくため息をつく。

 

ティルム「ふぅ…。そういえばあの飲み物、何も入ってませんよね?」

 

レイ「当たり前だ。ルナマリアがあの笑い方をするときは、照れ隠しのときだ」

 

ルナマリアは差し出したコーヒーを飲んでくれたことが嬉しくて、あんなことを言ったのだ。

 

ちなみに育毛剤入りチョコも、バレンタインにて無骨で誰も受け取ってくれなかった義理チョコを、シンが食べてくれたことに嬉しくて言った虚偽。

 

このことを 知らないのは、唯一チョコを食べたシンだけだ(レイは甘いもの苦手で拒否)。

 

こんな嘘を言うのは彼女曰く、「いつもいじめてる弟に一喜一憂させられた仕返し」らしい。

すると、突然ティルムが質問してきた。

 

ティルム「あの…その…オーブの人達なら、知ってると思いますか?」

 

レイが「何をだ」と答える。

 

ティルム「フリーダムのパイロットを」

 

 

 

***

 

 

 

シン「差し入れに劇薬(義妹の料理)を入れるな!!」

 

休憩室でルナマリアから奪い取った解毒剤(実はただの栄養ドリンク。ラベルは事前にはがしてある)を飲み干し、大きく息をつく。

 

メイリン「まあまあ。元気出たでしょ?」

 

シン「冷や汗のほうが出たぞ!?」

 

またルナマリアの照れ隠しだと知っているメンバーが、笑いながらシンを見る。

そうでないメンバーは多少引いているが。

 

ルナマリア「はいはい。悪かったわよ。お詫びと言っちゃなんだけど、情報あげるわ」

 

シン「情報?何の?」

 

ルナマリア「オーブからのお客様」

 

場の空気が変わる。

 

シン「……いらない」

 

ルナマリア「シン。相手の理論を説き伏せるなら、相手が好きなのと同じくらい情報が必要なの。行き当たりばったりで反論しても、揚げ足取られて悔しい思い するだけよ。まぁ、アタシの情報はそこまで影響ないけどね」

 

小さく「……いる」と呟いたシンに、苦笑いする。

 

ルナマリアが言うには、一緒にいた護衛アレックスは元ザフトのエースパイロット、アスラン・ザラの疑いが強まったらしい。

 

あの姫様が何度も「アスラン」と 呼んだのを、多くの人が見かけたからだ。

それと姫様の様子。シンが立ち去った後どこか上の空で、今は護衛と部屋で休息中。そのまま部屋から出ていないそうだ。

 

ルナマリア「どう?聞く価値あったでしょ?」

 

シン「…どこが?」

 

ヴィーノ「どこがってお前、あのアスラン・ザラがいるんだぞ?大戦の英雄の!」

 

「知ってるけど、だからって別に」と、興味なし。というより、関わりたくない。

そこへヨウランが大慌てで駆け込んで来た。

 

ヨウラン「おい!ユニウスセブンが大変だって!」

 

 

 

***

 

 

 

カガリ「どういうことだ!?」

 

ブリッジに着いたカガリ達は、突然の報告に驚いていた。

 

タリア「わかりません。しかし動いてるのです。それもかなりの速度でもっとも危険な軌道を。そして本艦でも確認いたしました」

 

アレックス「しかしなぜそんなことに。あれは100年の単位で安定軌道にあるといわれていたはずのものでは…」

 

アーサー「隕石の衝突か、はたまた他の要因か、とにかく動いているのです。今このときも」

 

カガリ「落ちたら、落ちたらどうなるんだ?オーブ、いや地球は!…いや、聞くまでもないか」

 

改めて、画面に表示されているユニウスセブンのデータを見てそれを理解する。

 

デュランダル「原因の究明や回避手段の模索に今プラントも全力をあげています。姫には大変申し訳ないのですが、私はこのミネルバにもユニウスセブンに向か うよう特命を出しました。幸い位置も近いもので。姫にもどうかそれをご了承いただきたいと」

 

カガリ「当然だ!これは私たちにとっても、むしろこちらにとっての一大事なのだから!」

 

 

 

***

 

 

 

ヨウラン「…ってことらしいぜ」

 

シン達と合流したレイが、休憩室備え付けの端末を操作しながら言う。

 

レイ「こちらでも確認した。ミネルバも直ちにユニウスセブンへ向かえという特命が出ている。アーモリーワンで強奪事件があったばかりだというのに、次から 次へと…」

 

技術者でもあるティルムが、横から端末を覗く。

 

ティルム「これが現在のデータだとすると、質量から予想して軌道の変更は手遅れ…。ということは、砕くしか方法が……」

 

メイリン「そんな…。あんなの、どうやって砕くの?それにあそこにはまだ死んだ人たちの遺体もたくさん…」

 

一気に暗くなる空気に気を使ってか、ヨウランが口を開く。

出口の通路にカガリとアレックスがいることに気づかないで。

 

ヨウラン「でも、ま!それもしょーがないっちゃ、しょーがないか?不可抗力だろ?変なゴタゴタもキレーになくなって、案外楽かもよ。俺たちプラントには」

 

カガリ「よくそんなことが言えるな!お前たちは!!」

 

入り口からカガリが怒鳴り込んでくる。

 

ヴィーノ「いぃ!?」

 

その場にいた全員が慌てて敬礼をする。シンは不承不承な様子で、ティルムは背を向けて無視と決め込んだようだが。  

 

アレックス「カガリ!!」

 

遅れて入ったアレックスが、カガリを止めようとする。

 

カガリ「しょうがない!?案外楽!?これがどんな事態か、地球がどうなるか、どれだけの人間が死ぬことになるか本当にわかっていってるのか?!お前たちは やはりそういう考えなのか!?お前たちザフトは!!」

 

『やはり』の部分で、シンがピクリと動く。

まるで最初からそういう目で見て、プラントに訪れましたと言っているようで。

 

その様子に気づいた者が、冷や汗を出しながら横目でシンを見る。

 

ヨウラン「すみません……」

 

カガリ「あれだけの戦争をして!あれだけの思いをして!やっとデュランダル議長の元で変わったんじゃなかったのか?!」

 

シン「別に本気で言ってたわけじゃないさ、ヨウランも。そんぐらいのこともわかんないのかよ、あんたは」

 

またかといった様子で、ルナマリアは手で顔を覆う。

 

レイ「シン、言葉に気をつけろ」

 

無視を決め込んでいたティルムも、顔だけをカガリ達に向ける。

 

ティルム「そうだよ、お兄ちゃん。『一応』、この人オーブの代表で偉いんだから」

 

カガリ「お前らぁ!!」

 

アレックス「いい加減にするんだ!!カガリ!」

 

激高するカガリを一喝し、続いてシンを睨む。

カガリにも落ち度があると判断したのか、今回は銃は納めたままだ。

 

アレックス「君達はオーブが嫌いなようだが、なぜなんだ?昔オーブにいたという話だが、下らない理由で関係ない代表にまでつっかかるというのならただでは おかないぞ」

 

その言葉に、シンはアレックスを睨み返す。

 

シン「下らない…!?下らないなんて言わせるか!関係ないってのも大間違いだね!オレの家族はアスハに殺されたんだ!」

 

カガリ「え……!?」

 

シン「国を信じて、あんたたちの理想とかってのを信じて、そして最後の最後に、あんた達が連れてきたフリーダムに殺された!」

 

アレックス「キラ、に……!?」

 

シン「だから俺はあんたたちを信じない!オーブなんて国も信じない!そんなあんたたちの言う奇麗事も信じない!『この国の正義を貫く』?あんたたちだって あの時、自分たちのその言葉で、誰が死ぬ事になるかちゃんと考えたのかよ!何もわかってないような奴が、わかったようなこと言わないでほしいね!」

 

そう言うとシンは周りの人間を押しのけ、休憩室を出て行った。ヴィーノが慌ててカガリに敬礼し、シンの後を追う。

呆然とするカガリにアレックスが何か言おうとするが、横から声をかけられる。

 

ティルム「フリーダムのパイロット…。『キラ』って名前なんですかぁ…」

 

それは静かだが、聞くもの全てに恐怖を感じさせる声。いつの間にかこちらに体を向けていた、ティルムだった。

 

カガリ「き、君は、一体……」

 

ティルム「やっぱり、知っていたんですね………?あの人のこと………」

 

誰もが少女の放つ威圧感に、指一本動かせない。

 

それを直接向けられているアレックスにいたっては、この威圧感だけで殺されるかもしれないと思う程の恐怖を感じていた。

かつてナチュラル全てを憎んだ、父 パトリック・ザラの狂気でさえ比較にならない。

 

『各乗組員に連絡する!本艦はデュランダル議長の特命により、ユニウスセブンに向かう!至急持ち場に…』

 

館内放送だった。ハッとしたルナマリアが、ティルムを外へと連れ出す。

 

ルナマリア「サササ、サア!!持ち場に行かなきゃ!!ティーは格納庫でしょ!?一緒に行きましょう!!」

 

裏声でグイグイと背中を押され、ティルムはかなり不満気にそこを離れる。

数十秒間沈黙が続いた後、メイリンが大きく息を吐いた。

 

メイリン「……っはぁぁぁぁぁ~…。死ぬかと思ったぁ……」

 

そう言うと、ヘナヘナと床に腰を下ろす。周りも「助かった」「初めて見た」と騒ぎ出す。

 

カガリ「あ、アスラン?大丈夫、か…?」

 

放心したままのアレックスに話しかける。その言葉にアレックスは我を取り戻す。

 

アレックス「あ、あぁ…。何とか……」

 

未だ騒いでいる乗組員達に、カガリが質問する。

 

カガリ「誰か彼女について知っている者はいないか?彼女は何者なんだ?」

 

その問いに、ミネルバ乗組員は顔を見合わせ戸惑った様子を見せる。

 

レイ「代表。今はユニウスセブンの件をどうにかしないと。では、失礼します」

 

そう言うレイにつられ、他のメンバーも「急がないと」「俺も」と言っては去っていく。

 

カガリ「お、おい」

 

カガリの呼び止めにも誰も応じず、あっという間に休憩室にはカガリとアレックスだけになった。

 

アレックス「一体…何だというんだ…?」

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