北米の旅路の果てに、剣鬼は   作:綱久

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 どうも、初めましての方も久しぶりのお方も、綱久です。

 今回は初のFate作品、Fate/Samurai Remnantの小説です!!
 主人公の伊織、その相棒であるセイバーの物語が気になりゲームを買いましたが――本当に面白かったです!!
 3つのエンディングに対して文句は全くないのですが……やはり伊織――と、これ以上はこの話のネタバレになるので黙ります。
 
 公式の新たなルートの更新を待てど来ず、シーズンパックの新たなストーリーも待てなかったので、我慢できず執筆しちゃいました!! 
 ただ自分はFate関連の小説を書くのは初めてのため、至らぬ部分は勿論"独自解釈"や"ご都合展開"もあったりするかもなのでその時は本当にごめんなさい!! 
 そして本来なら1話完結で収めたかったのですが、描写を多く書いてしまい文字数が想定より多くなってしまうため――前編、中編、後編、エピローグの4話で完結させるつもりなのでよろしくお願いします!!

 こんな作品ですが、どうか読んでいただければ嬉しいです。では、どうぞ!!




前編  真に望んだ世界へ

 

 

 

 

 

 1783年、アメリカ大陸。

 本来なら独立戦争は終結し、アメリカは独立が認められていたはずだった。しかし現在この地は、とある2大勢力による戦争が行われていた。

 

 世界を滅ぼすという野望を持つ、狂王と女王率いる古代ケルトの戦士たち。

 アメリカを救い、自身が創造した国を永久に残すことを目論む、大統王率いる大量生産の権化たる機械兵士軍。

 本来ならあり得ぬ歴史。あり得ぬ神話の再来。

 

 これこそは、人理焼却を目論む《魔術王》ソロモンが介入し、生み出された7つの特異点が一つ。

 

 

 名をつけるのであれば―――北米神話大戦、イ・プルーリバス・ウナム

 

 

 

 

 

「かはっ……!」

 

 その舞台で行われる一つの戦場で、二人の武人の死闘が終わった。

 

 方や赤の長槍と黄色の短槍を両手に携えた騎士。方や太刀と小太刀の二刀流の侍。

 

 血反吐を吐き、倒れ伏したのは体を斜め十字に斬りさかれた騎士の方であった。

 侍の体にはいくつかの傷が見受けられ、中には今だ血が流れる傷もあり息も乱れているが、立つことに支障はなく今だ健在であった。 

 

「ここまで、か……」

 

 サーヴァントの身となった、己の生命線といえる霊格を見事に斬りぬかれたのだ。若草色の戦装束を身に着けた身目麗しい騎士は、己の最後を悟った。

 

「まさか、俺が……人間に、敗れるとはな……。貴様を、侮ってなどいなかったが……人の身で、よくぞここまでの、高みへと……至った」 

 

「貴殿のような英霊にそう言っていただけるとは光栄至極。そしてそんな貴殿と戦い、勝利できたこと……俺にとって誇らしい気持ちだ」

 

「ふふ……。できることなら、貴様とは"槍"ではなく……"剣"で、死合ってみたかった…ものだ」

 

 体が粒子となっていくことに、そろそろかと騎士は一度目を閉じる。

  

 人理の敵としてこの地に召喚されたことに、生前の自身の軌跡から思うところは勿論あった。しかし、不快なことばかりではなかった。

 何の偶然か、生前自身が仕えていた主君も召喚され、共に戦場を駆け巡れたことは騎士にとっても主君にとっても誉れだった。最後まで仕えることは叶わずだったが、この死合いに対しての後悔はなかった。

 

 人間の身であるにも関わらず、英霊となりサーヴァントとなった自分に迫る実力。そして技量においては下手すれば自身を上回りかねない――この世界の好敵手に出会えた。

 互いに全力を出し合ったサシの勝負、負けてしまったが悔いなどない。

 

 だからこそ騎士は最後に好敵手の侍に視線を向け、笑みを浮かべながら言葉を告げる。対して侍も騎士のそれに応えるように言の葉を紡ぐ。

 

 

 

「お前と死合えたこと、心より嬉しく思うぞ――宮本伊織

 

「俺も貴殿のおかげで、更に先へと歩むができた。感謝する――ディルムッド・オディナ殿

 

 

 騎士、ケルト神話において勇名を轟かせた《フィオナ騎士団》の一番槍――ディルムッド・オディナは満足そうに微笑み、消滅した。

 

 

 

 ディルムッドの最期を見届けた侍は天を見上げ、"人理"に刻まれし"英霊"を自身の力で斬り伏せたことを改めて実感する。そして次第に内から悦びが溢れる

 

 ……勝利し、剣の果て無き高みへと一歩進んだことに、この特異点……いや――

 

 

 

 ――()()()()()()()()()宮本伊織は、これ以上ない高ぶりと充実感を得ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 1651年、江戸。

 

 戦乱の世を収め、天下人となった徳川家康が《征夷大将軍》に補任され『江戸幕府』を創立して48年。

 『大阪の陣』、『島原の乱』といった大きな戦が起ってしまったものの、時代は泰平の世へと移り変わっていき、人々は平和な世を謳歌していた。

 

 しかしその時代に生きる――かの《剣豪》宮本武蔵の弟子にして養子である剣客、"宮本伊織"は"盈月の儀"なる戦いに巻き込まれることとなる。

 儀の担い手たる七人の人間と現世へと喚ばれた七騎の英霊による、生き残りと願いを懸けた殺し合い。伊織はその担い手、マスターの一人に選ばれ――

 

 

『――察するに、君が私の呼び人か』

 

 

 自身の声に呼ばれ召喚された"セイバー"と共に、儀を戦い抜くと伊織は誓った。

 

 

『――儀を止める。俺達が成すべきは、それだけだ』

 

 

 平和な時代のこの江戸の地を地獄にさせないため、罪なき多くの民草達を巻き込まないため。悪しきこと、人の道に反するこの"盈月の義"を止めるため、伊織は剣を握った。

 

 

 

 

 

 ――己の中にある長く欲していた欲が、満たされていくことに気づかぬまま。

 

 

 

 

 

  

 殺されるはずだった、あの夜から10日。

 

 それぞれの譲れない願いと信念をもつマスター達、それぞれの時代で生き英雄として認め崇められた万夫不当の英霊達。

 彼らと出会い、戦い、時には共闘し合い―――全てを乗り越えた伊織とセイバーは遂に、全ての元凶たる《盈月》の器を目の前としていた。

 

「ではイオリ。《盈月》の器を」

 

「あぁ……」

 

 セイバーの言葉に従い、伊織は壇上に置かれる《盈月》に手を伸ばしていく。

 紅玉の書に《盈月》を取り組ませ、無力化したところで《盈月》を魔導書ごと斬り、全てを終わらせる。そのために、二人はここまで来たのだ。

 

 

(――これで……君との日々は、終わってしまうんだな……イオリ)

 

 結局セイバーは、最後まで"盈月の儀"に臨んだ本当の願いを思い出せずにいた。

 しかし、生前の軌跡に誓って彼は善ある者として善を為す。ゆえに、《盈月》を斬ることに躊躇いはしない。

 ……例えこの時代で縁を結び、絆を育んできた無二の友と――別れることとなっても。

 

 そして……彼と共に過ごした日々の中で()()()()()()()()()()()を、心の奥底にしまってでも。

  

 

(これで、"盈月の儀"は終わる……)

 

 無辜の民を、江戸の平穏を護るために儀を終わらせる――伊織自身が"盈月の儀"に挑んだ望みであり、それは今叶おうとしている。

 そう、これは正しきことであり、善を為す者として成し遂げ――

 

 

 

 

 

(―――違う。俺は、そんなものは望まない

 

 

 もう無理だった。最早己が欲を抑えることができなくなっていた。

 

 盈月の儀に呼ばれた、一騎当千の英霊達。彼らと日々幾度も死合ったことで、伊織の渇いていた心は滾り満たされ、諦めていた己の野望を取り戻したのだ。

 

 

 "多くの敵を斬り、勝ち進み、その果てに剣の頂へと至る"―――修羅の道を。

 

 

 泰平の世では決して叶わなかった血沸き肉躍る戦。互いの命を削り合い、勝者が生き敗者が死ぬ無情の戦場。

 それこそが、伊織が心の奥底から望んでいた戦乱の世界。以前までならともかく、その味を知っていまった以上……もはやそのような世界でしか自分は生きることができない。

 

 それが自身の変えられない、生まれながらの性であるが故に。

 

 盈月の儀が終われば、自分の生は再び灰色へと戻る。

 滾る欲を心の奥底へ封じ、戦なき穏やかな世を享受しなくてはならない……まさに息をしない屍のように。

 

 

 

 ――そんな日々は、二度と御免だ。

 

 

(《盈月》は、壊さない。これを餌に、数多の強者をこの江戸に呼び寄せる)

 

 もはや伊織の思考は、この災いを永続させることしか頭になかった。それに生じる犠牲が出ることすら、今の伊織にとっては些事なこと。

 

(何度でも、何度でも。例えこの江戸を地獄絵図に変えようとも、例え無辜な民を犠牲にしようとも。例え邪魔をするのなら――) 

 

 

 

『――もう、本当にしょうがないんだから、兄ちゃんは』

 

 

 自身ですら、最悪だなと卑下する思い描いた剣鬼としての思考は―――突如脳裏によぎった妹の姿に、止めざるをえなかった。

 

 

(…………カヤ)

 

 江戸には"カヤ"が――血は繋がってはいないが、幼少期より共に暮らしてきた大切に想う家族がいる。

 伊織が今まで人として生を送れたのは、自制の枷を掛けていたことと同時に、彼女の存在があったからこそだ。彼女の存在が、伊織を今まで"鬼"としてではなく"人"として在らせてくれた。

 他はいい。だが彼女までこの地獄に巻き込むことに、流石の伊織も躊躇われてしまう。

 

 

「――イオリ?」

 

 《盈月》の前で動きを止め、一向に動き出さない伊織を心配してかセイバーが声を掛けるが、今の伊織の耳には届かない。

 先ほどまで揺るがぬと思っていた己の欲に塗れた願いは、妹という存在一つで揺らいでしまった。"そんなもの切り捨てれば"と己の中の鬼は囁くが、この迷いを簡単に断ち切ることは……今の伊織には難しかった。

 自分は本当に半端者だなと、失意しかけた寸前――

 

 

『――この私は、他の世界へ渡るのです』

 

 

 ふと、ある人物の言葉が頭に浮かんだ。

 

 この"盈月の儀"において"狂戦士(バーサーカー)"で召喚……いや、その枠に収まる形で参戦した。もう会うことはないと思っていた養父であり、剣の師でもある――別の世界から来訪した女性である"宮本武蔵"を。

 

 

『数多の可能性、数多の"平行世界"を海とすれば――私は流されるまま漂流する小舟が如きモノ』 

 

 平行世界……正直伊織にとって詳細は今だ不明だ。だが少なくとも、この泰平の江戸とは違う場所へ行くというのは何となくだが理解はした。

 だからこそ、それを羨ましく思ったが故に伊織は――

 

 

 

「――師匠のように、世界を渡れる力が……俺にも――」

 

 

 ――つい、思ったことを口にしてしまった。それは意図したことではなかった。本気で願いを叶えたいとも思ってはいなかった。

 

 

 だが《盈月》は、伊織のその言葉を"願い"と聞き届けたのか――

 

 

「な…っ!?」

 

「え、《盈月》が――!?」

 

 

 ――《盈月》の器は、紅黒く光輝き始めたのだ

 

 

 

 

 

 《盈月》には既に"アーチャー(周公瑾)"、"アサシン(甲賀三郎)"、"逸れのバーサーカー(サムソン)"の3騎分の魔力が。

 そして今日、"セイバー"の宝具によって消滅した"ライダー(丑御前)"。

 長らくの霊地を離れ戦い続け"ライダー"との最後の戦闘でも"宝具"を惜しみなく使ったことで、霊基が保てず消滅した"逸れのセイバー(木曽義仲)"の2騎が加わった。

 

 更にこれは伊織もセイバーも知らぬことだが、この場より少し離れた場所で"ランサー(ジャンヌ・ダルク)"のマスターである地衛門と魂喰いで霊基を保っていた"キャスター"が衝突。結果地衛門は死亡するもキャスターを道連れで消滅させ、マスターである地衛門が死んだことによって"ランサー"も消滅したことで更に2騎分。

 "バーサーカー(宮本武蔵)"もこの儀からは脱落をして消滅はしてはいるが、彼女は例外中の例外のため魔力の貯蔵はされていない。

 

 

 そして、《盈月》を願望機として正常に使用するための最期の鍵、"十五騎目"のサーヴァント――セイバーの生前の妻である、"オトタチバナヒメ"の魂も《盈月》の器に蓄えれた。

 

 彼女は生身の人間の娘――カヤの体を依り代とした、"疑似サーヴァント"として召喚された。

 欠陥や行程のある《盈月》のために召喚された身ではあるが、生前愛していた夫の"セイバー"と奇跡の再会を果たし、彼の現代の生活を近くで見守ることもできた。

 ゆえにもう現代に未練もなく、元より叶える願いもなかったこと、そして自分が依り代としている彼のマスターの"妹"をこれ以上危険に巻き込まないために、自分を誘拐しようとしていた"ランサー"の消滅を確認した後、自らの意思で霊基だけを退去させ消滅したのだ。

 

 

 よって現在"盈月"には8騎分のサーヴァントの魔力が、願望器としての役目を果たすには十分の魔力が貯蓄されている。そして"15騎目"の魂が入ったことで、汚れた魔力は"無色"となり、正常に使用することが可能となった。

 

 しかし、《盈月》はこの儀の黒幕――"土御門泰広"を筆頭とした《土御門家》が構築した、本来の"聖杯戦争"で使われる《聖杯》を模倣した贋作。

 とはいえ"逸れのキャスター(キルケー)"曰く限りなく完成度が高く、実際"聖杯戦争"という名の"盈月の儀"は行われ、《盈月》は願望機としての機能も備わっているという。

 だが備わっているとはいえ、あくまで"盈月"は模造品。本来の"聖杯"と違い、願いの奇跡の範囲は日ノ本のみ。平行世界の移動など"魔術"を超えた"魔法"を、一人の人間に刻み行使させることなど、本来なら不可能だ。

 

 しかし原因は不明だが、《盈月》は願望機としての役目を果たそうとしている。考えられるとすれば―― 

 

 

 盈月の儀で"バーサーカー"をいう枠に収まった、女の宮本武蔵という数多の世界を渡り歩く例を、《盈月》が観測してしまったからか……。

 平行世界からとはいえ"宮本武蔵"という存在より剣を教授したがゆえにか、宮本伊織にはその素質が何よりも高かったからか……。

 それとも、遠くない未来において……日の本を、下手をすればこの世界の人類を地獄へ誘う可能性を大きく秘めた宮本伊織を――

 

 

 ――この世界から追放するのに都合よしと判断した《抑止力》、もしくは平行世界を運営するかの御仁が介入したからか……。

 

 様々な要因は考えらるが、結局のところそれは"どうでもよい"ことだ。

 

 

「嫌な予感がする…! 急いでここから離れ――イオリ!? なにをして――」

 

「………」

 

 セイバーの言葉はもはや伊織の耳には届かず、その場から一歩も動かずただ惹かれるように《盈月》から目を離さなかった。そして、《盈月》の輝きが室内を満たした瞬間――

 

 

 

 

 ――宮本伊織の願いは、叶うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「成程、"平行世界"……か」

 

『あぁ。君の話を聞く限りだと、そうとしか考えられない』

 

 

 ディルムッドとの戦闘から数日後、伊織は自身に襲い掛かる"ケルト"なる兵を幾多も斬り進むうち、ある小さな街で4騎のサーヴァント(一騎は瀕死)と一人の人間と遭遇した。

 伊織は今までの"ケルト"なる敵とは全く違う風貌であること、相手側はアメリカやケルト兵とは全く異なる和服を纏い腰に刀を差した人間であることに一瞬戸惑うも、互いに殺意もなければ敵意もなかったことから、互いに腰を据えて話をすることになった。

 伊織自身、今いる場所と今この地で起こっている状況の把握をいい加減にしておきたかったこともあり、これ幸いと彼らと互いの素性と情報を交換することとなった。

 

 そして自分が何故、江戸とは全く異なる場所にいるのかの答え合わせもしておきたかった。

 

 

『初めまして、俺は《カルデア》の一員の"藤丸立香"。頼りないとは思いますが、これでもサーヴァントと契約し共に戦うマスターです』

 

『同じく《カルデア》所属、"マシュ・キリエライト"と申します。こう見えても"サーヴァント"で、マスター立香の"ファーストサーヴァント"です! これからよろしくお願いします』

 

『ふぁあすと…? 何故それを強調してるのかは分からぬが――俺の名は"宮本伊織"。ただのしがない浪人であるが、以後よしなに頼む』

 

 互いに自己紹介ものの、伊織は《カルデア》なる組織、藤丸達は明らかに日本人である伊織が何故この特異点にいるのかという疑問が浮かぶ。

 だからこそまずはマシュ、そして通信越しの割り込みではあるが《カルデア》の所長代理を名乗る"ロマニ・アーキマン"なる男の説明をまず聞くこととなる。

 

 

 人理継続保障機関《カルデア》。

 この時代、そして伊織が生きた江戸の時代より遥かな未来の世界の組織であること。その目的は"人理焼却"の原因である過去に発生したいくつもの特異点を修正し、人理の世界を元に戻すこと。

 そして"藤丸立香"と名乗る人間の青年が、"人類最後のマスター"であり、多くのサーヴァントと契約を結び特異点を修復できる唯一の存在であることを。

 

 他にも難しい単語がいくつも出たこともそうだが、この場所の時代が自分が元いた場所の時代よりも時が経っていることに一瞬驚愕するが、持ち前の順応性の高さから伊織はすんなりと呑み込むことができた。

 そして彼らもまた、自分と同じように英霊――サーヴァントと関わりの深い者達であることを知った。

 

『――さて、次は君のことを聞かせてはもらえないかい、宮本伊織君。アメリカの大陸で場違いともいえる日本人、そして人の身であるにも関わらず"ケルト"の兵達を容易く一蹴する実力。我々も人のことを言えた義理ではないが、この特異点を修復する上で――君の存在はあまりにも異質で不気味だ』

 

『……だろうな』

 

 彼らもまた、違いはあれど"盈月の儀"――"聖杯戦争"の関係者。ならば自分の今の状況を知るために、伊織は彼らに自身の身の上を話すことにした。

 

 自分は1651年の日ノ本の江戸の住人であること。

 万能の願望機たる《盈月》を巡り争う――"盈月の儀"なる戦いの参加者たる"マスター"に選ばれ、召喚した"セイバー"のサーヴァントと共に戦い抜いたこと。

 そしてその果てに《盈月》を目の前としたが――気がつけば、この地に迷いこんでしまったことを。

 

 最後の部分を除いて正直に話した結果、当然相手側は全員驚愕しており、特にロマニは『まさかのタイムトラベル!? というかそれ以前に今から350年も前に《聖杯戦争》!!?あ、ありえなぁぁぁぁい!!!』と頭を抱え狼狽する始末だった。

 やがて落ち着きを取り戻し、彼の話を信じた上でロマニは再び伊織に問う。

 

『――宮本伊織。データベースで確認したところ、君はかの《大剣豪》宮本武蔵の養子。豊前国小倉――当時"播磨国明石藩主"だった"小笠原忠真"に15歳で士官し、『島原の乱』での活躍によって小笠原家の筆頭家老となった。養父である武蔵が成せなかった、剣によっての成り上がりを果たした武士……と記録に遺されているけど、相違はないかい?』

 

『……師匠の養子であることは肯定する。しかし、俺が武家に仕えるなど有り得ない。確かに士官の話は一度受けたが、剣の道を究めるために断っている。先ほども言ったが、俺はただのしがない浪人に過ぎない』

 

『うわー、明らかに食い違ってるぅ…。まあ仮に合ってたとして、そもそも"サーヴァント"としての全盛期の姿じゃなくて、君は正真正銘の人間だからそんな――ちなみに伊織君って歳はいくつ?』

 

『……確か、今年で23――になるはずだが』

 

『……記録上では15歳の時点で君は士官したとされている。そして記録を信じるのであれば、1651年の時点で君の歳は39のはず。だけど君は、どこからどう見ても20代前半の若い姿だ』

 

 史実とは異なる宮本伊織の年齢に歴史、そして本来なら起こりえないはずの年代の江戸での"聖杯戦争"という名の"盈月の儀"。とても信じられない話だし、そもそも彼が"宮本伊織"の名を語る別の誰かの可能性だってある。

 

 だが、生憎と《カルデア》にとってあまり珍しいことでもない。

 

 "人理焼却"が起こってしまった時点で、カルデアスにおける観測は様々な可能性が入り乱れ、異なった世界線の事象するも観測してしまう。

 現に本来なら"聖杯戦争"が起こったのは2004年が最初で唯一だったはずなのに、5回も"聖杯戦争"が行われた別の世界線の特異点が発生し修復した事例があり、その世界線に縁のあるサーヴァントも召喚されている。

 

 つまり――

 

 

『伊織君。君には理解しがたいと思うけど、こちらの結論を言わせてもらうよ。君は恐らく僕達の住む世界とは異なるもう一つの世界―――"平行世界"の住人、ということになるかな』

 

「…………平行、世界」

 

『そう。武家に士官し歴史に名を遺した"宮本伊織"の世界線があるように、君のように士官せず浪人としての"宮本伊織"の世界線が同時に存在する。つまり、あったかもしれないイフ……"もしも"の世界――それが平行世界だ。そして僕達の世界から言わせてもらえば、君は異なった歴史を歩んだ世界から現れた"宮本伊織"ということになる』

 

「………―――やはり、そうなのだな」

 

『あれ、思った以上に伊織君の驚きの度合いが少なすぎると思うんだけど……。まさか、今の説明でもう理解したのかい!?』

 

「……いや、これでも十分驚いているとも。ただ元いた世界でも、"平行世界"という言葉は一度聞いていたからな。大雑把にしか意味を捉えていなかったが、貴殿のおかげでより詳細を知ることができた」

 

『君のいた世界では江戸の時代から既に"多次元宇宙論"が唱えられていたのかい!? いや、特異点でもないのに江戸の時代で"聖杯戦争"なんて起こる世界だ。あり得なく、もないのかな……』

 

「しかしドクター。伊織さんが平行世界からの住人であるのは分かりましたが、では何故そんな彼がこの特異点にいるのでしょうか?」

 

「しかもサーヴァントとして召喚されたわけじゃなくて、生きた人間として……だよね」

 

『うーん、それについては現状では不明だ。平行世界とはいえ今から400年以上昔の時代に"レイシフト"が出来る環境や技術力があったとはとても考えられないし……』

 

 混乱するカルデア側をよそに、伊織はようやく実感した。

 予感していたとはいえ、ここが自分がいた江戸とは違う世界であること―――自分が口にしてしまった思いつきを、《盈月》が叶えてしまったことを。

 

 その現実を理解した途端、ある感情が胸中から湧き上がる。

 平行世界故に、元の世界への帰還ができないかもしれない悲しみ? それとも絶望?

 

 否。これは――

 

 

 ――泰平の世から離脱したことへの、悦び

 

 

 表情に出さなかったものも、抑えきれなかったのか口角が僅かに上がってしまう。ならば最早自分が知るべきなのは――この特異点で起こっている出来事のみ。

 

『すまないが伊織君。現段階では君がどうしてこの特異点に漂流したのか、そして君の元の世界への帰還方法も我々でも分からない。君から更に話の詳細や"聖杯戦争"――"盈月の儀"についてもう少し深く聞くべきだろうけど、僕達カルデアはこの時代の"特異点"の修正を優先しなければならない。だから――』

 

「――俺の件は後回しにする、だろ。勿論構わないとも」

 

『台詞を先取られた上に即答!? 自分で言っておいてなんだけどいいのかい!?』

 

「ほ、本当によろしいのですか? 伊織さんからすれば、一刻も早く元いた場所に――」

 

「マシュ殿、だったな。俺のことは気にせずともよい。まだ帰れないと決まったわけでもなし。それにここに来るまでの間に何度も襲撃を受けた身として、この世界――いや特異点で何が起こっているのか知っておきたいからな」

 

「伊織さんの順応力が高い……」 

 

 伊織本人から言われたこともあり、3人は一時席を離れていた"この地に召喚されたサーヴァント"――『フローレンス・ナイチンゲール』と『ジェロニモ』、そして瀕死の状態の『ラーマ』を交え、このアメリカで起きている異変について改めて話をすることとなる。

 

 

 この地は東部と西部の二つの軍の戦争状態であること。

 片や今の時代より遥か昔に猛威を振るい、この時代の人間達を蹂躙する古代"ケルト"の戦士達。

 片やケルトの戦士達に対抗するべく、質より量を重視し戦線を五分へ引き戻した"アメリカ"の機械兵士達。

 そして"ケルト"はこの時代の特異点の元凶であり、"アメリカ"側は"ケルト"を倒すことは目標とはしているが、時代を修正する気がないということ。

 

 そんな両軍のどちらにも属さず、人理焼却を防ぐカウンターとして召喚されたサーヴァント達が率いる"レジスタンス"。そして《カルデア》とナイチンゲールは"レジスタンス"と協力し、"聖杯"を回収しこの時代を修正することを決めたこと。

 

 そこまでは伊織も静かに聞いていたのだが、流石にこの先の話を聞いた途端表情を崩さずにはいられなかった。

 

 インドの大英雄の一人、二大叙事詩の一つ『ラーマーヤナ』の主人公"ラーマ"。

 現在彼は瀕死の重傷であり、更にナイチンゲールの治癒力を以てしても治せない"死の呪い"が刻まれ、刻々と死へと近づいている状態だ。

 そんなラーマをここまで追い詰めたのは――

 

 

「『クーフーリン』、"逸れのランサー"がこの地にいるのか……」

  

「え……伊織さん、クーフーリンを知っているんですか!? もしかして――」

 

「あぁ。"盈月の儀"に呼ばれたサーヴァントの一人だ。マスターを持たぬ"逸れ"ではあったが、紛うことなき強き偉大な武人であった……」

 

 どうやら藤丸達も、別の特異点でクー・フーリンと出会っていたそうだ。"ランサー"としてではなく"キャスター"のクラスではあったそうだが、右も左も分からなかった自分達を教え導き、激励してくれた大恩ある英霊だそうだ。

 そんなクー・フーリンが敵側におり、いずれ戦わねばならないことに藤丸とマシュは少しばかりのショックを受けていたが、伊織は違う。

 確かに伊織自身、クー・フーリン個人には恩もある。幾多の戦いでも自分達に加勢し力を貸してくれ、更に自分の実力を認めた折には自身の技を教授してくれた。だが……

 

 あの神速の槍捌きに獣の如き俊敏力、そして彼が積み重ねてきた武の極み。

 "盈月の儀"では"逸れ"であったことから力は本来よりも弱まっていた。それを今度は"逸れ"の制限もない本来の――いや、それ以上の実力を持つ彼と死合えるのだ

 

 それを考えるだけで、己の剣の鬼としての衝動が湧き上がってしまう。

 

 だが今は剣鬼としての自分は完全に抑え込み、現状を理解した伊織はこれからの行動を考える。

 もし《盈月》が自分の言葉通りに願いを叶えてくれたのなら、()()()()()()()()()()は恐らく大丈夫だろう。ならばこの世界……特異点で自分はどう動くか。

 

 いや、もうとっくに決まっている。

 クー・フーリンを含めたケルト側についた英霊達に、多くのケルト兵達。質と量、そのどちらも満たすケルト勢と戦うのに都合が良いのは――

 

 

「――この特異点の時代修正……俺も力添えをさせてはもらえぬだろうか?」  

 

 

 ――カルデアの味方につく、その一択だ。 

 

 

「え……!?」

 

「い、伊織さん!?」

 

『えぇぇぇぇぇぇぇ!!? な、何を言っているんだ君はっ!!?』

 

 当然カルデアの3人は驚愕し、ジャロニモとラーマも声に出さないものも驚いている。逆にナイチンゲールは表情を崩すことはなく、伊織を品定めするように黙って眺めていた。

 

「……確かにこちらとしては戦力は一人でも欲しいところだ。しかし君は藤丸と同じ人間だ。ケルト兵を相手にできても、流石にサーヴァント相手では――」

 

「それは心配無用。確かに俺は人の身であれど、サーヴァント相手に遅れを取るつもりはない。現にここに来る前にサーヴァント――"ディルムッドと呼ばれる騎士を倒してきたからな」

 

「――なっ……!」

 

「ディルムッド……! 確かフィン・マックールの――」

 

「その通りです先輩。大英雄"フィン・マックール"を騎士団長とした《フィオナ騎士団》。その中でも随一の強さを誇った騎士団最強の戦士――それが"ディルムッド・オディナ"です」

 

「《輝く貌》の、ディルムッド…! 余とて知っている…誉めれ高い猛者の英霊を、宮本伊織……其方が…!」

 

『……待てよ。確か『フィン・マックール』の襲撃の際、離れた場所から強いサーヴァントが突如消失したのは確認したけど――まさか君が!?』

 

 全員が驚愕し、信しられないと思うのも無理はない。

 基本英霊――サーヴァントと人間では地力の差が大きいだけではなく、サーヴァントは存在が"神秘"そのもののため、神秘なき人間ではサーヴァントの相手にすらならない。

 

 だが、勿論例外は存在する。その例の一つである伊織の持つ刀と剣技は、サーヴァントに届くだけでなく――その命すらも脅かす

 

 "盈月の儀"の序盤では、"達人級"以上の剣技と高いステータスを誇った"ライダー"の攻撃を防ぎきるのに精一杯だった。勿論この時点で伊織の実力は生身の人間としては破格ではあったが、儀での数々の幻想種とサーヴァントとの死闘の経験を糧として剣技が磨かれ、遂には師匠であった『宮本武蔵』を――自身の力で勝つことができたのだ。

 

 今だ伊織は《剣聖》の域には至っていない。しかし、彼の剣はその域へと迫る程であり、後数年の修練と実戦を得れば、必ず――

 

 

「……実力に関して問題は全くなく、今だ戦力が少ない我々にとってむしろ上々――とはいえ私にとってそれは"どうでもいい"ことです」

 

 全員が困惑する中、今まで黙っていた"ナイチンゲール"が口を開く。

 

「今は一刻も早くラーマ君の病を治すことが先決、一分一秒も無駄にできない。この先の事を考えるならば我々への同行を拒否する理由はありませんが、一つ問わねばならないことがあります」

 

 やがて彼女は現段階で出来るラーマの治療終え、真意を問うため伊織の正面に立つ。

 

「Mr.伊織。詳細は不明ですが、貴方は藤丸とマシュと同じこの時代の人間ではない。しかもこの世界の病の根本を断ちにきた目的をもつ彼らと違い、この世界に迷い込んだ者……つまり貴方にとって関係もなければ、私達に手を貸す理由もないはず……なのに何故?」

 

 一切の虚偽を許さないと言わんばかりの鋭い視線。

 ナイチンゲールは看護師としての偉業を築いた英霊と聞いたが、彼女のその気迫は戦闘面に特化したサーヴァントにも全く劣らない程だった。つい先ほど沈めたというのに、伊織の中の鬼がまた疼く。

 ()()()()()()()()()()()()()()、伊織は彼女の問いに躊躇うことなく答える。

 

「理由は至極単純。俺はすでにこの戦争に巻き込まれた身、そしてこの世界――特異点の有り様も聞いた。もはや無関係ともいくまい」

 

 それに――

 

 

「――全ての人間を滅ぼし、世界を消滅させる。それは悪しきこと、許されぬことだ。"盈月の儀"を、"聖杯戦争"を止めるために参戦した俺にとって、それを黙って見過ごすことなど出来ようはずがない」

 

   

 この伊織の言葉に、()()()()()()()()

 

 "剣で勝つために、他者の気持ちを理解する"――それが伊織の在り方だからだ。

 

 人々の考えを理解し、共感するため……伊織は平和を慈しみ善を肯定し、人として正しく在ろうとするのだ。

 だからこそ、かつての江戸で伊織に会った殆どの者は、伊織を平和と人を尊ぶ穏やかな人間と捉えてしまい、彼の本質を見極めることは叶わずだった。

 そしてそれは……この場でも同じこと。

 

 

「……成程。偽りのない良い返答です」

 

 伊織の言葉に嘘はなく、()()()()()()()()()()と理解したからこそ、ナイチンゲールはこれ以上伊織に問うことはしなかった。

 そしてそれはこの場にいる全員が同じ気持ちであり、特にマシュは自分が一番に信頼し尊敬する藤丸と似た伊織の在り方に感動すらしていた。

 

 やがてナイチンゲールと入れ替わるように、この世界で唯一の"マスター"である藤丸は真剣な表情で伊織の前に立つ。

 それは"世界を救う"という大役を担わされながらも、4つの特異点を乗り越え修正してきたと思わせる――歴戦のマスターの顔であった。

 

 

「伊織さん。他の世界から迷い込んだ貴方に、こんなことを頼むのは筋違いなのは分かっています。でも俺は貴方と違って戦う術もなければ魔術だってロクに使えない……誰かの助けがなければ何も出来ない無力な存在だ」

 

「けど、だからと言ってこのまま世界が終わるのを黙って観ていることなんて、そんなのは嫌だ。俺は俺のできることを全力でやって、その果てに未来を取り戻したい! だからこの特異点を修正するために、貴方の力を貸してくれませんか」

 

 自分の弱さを隠すことなく、義務ではなく己の意思で為したいとする本気の覚悟。"盈月の儀"に参加していたマスター達――《盈月》の願いで負の歪みを正し、真の平和を願った"由井正雪"とはまた違う在り方。

 

 元より協力する気ではあったが、この時点から"藤丸立香"という青年に伊織は興味を抱いた。そしてそんな彼の存在を共に行動し理解したいと思いながら、彼の返答に答えるように差し出された手を握る。 

 

 

「――あぁ、こちらこそだ。よろしく頼むよ、藤丸」

 

 

 こうして、この時代の修正のため――そして立ち塞がるであろう数多の強者を切り伏せるため、伊織はこの世界で剣を振るうのであった。

 

 

 

 

 

 

 

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