北米の旅路の果てに、剣鬼は   作:綱久

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 皆様、あけましておめでとうございます。今年もどうかよろしくお願いします。

 さて、FGOで早くもセイバー――ヤマトタケルが実装されましたね!! 当然自分はすぐにお迎えしましたとも!! ちなみに福袋は水着師匠でした。

 そして更に、サムライレムネントのコラボイベントが1月中旬に実施されるという嬉しい報告が!! コラボイベントはゴールデンウイークにやるだろうと予想してのんびり執筆しようと思いましたが、今は結構ガチで執筆している最中でございます!!

 後、前編、中編、後編、エピローグの4話で完結させると言ってたと思いますが、一話の執筆量が多く、このまま遅く投稿するよりも区切りのいいことろで早く出した方はよくない!?ということになり、投稿話数は伸びます!! どうかこの作品をよろしくお願いします!!

では、どうぞ!!



中編  欲がままに剣を

 

 

 

 

 

 あれから伊織が加わった《カルデア》は、"レジスタンス"の一員であるサーヴァント――ロビン・フッド(アーチャー)ビリー・ザキッド(アーチャー)と合流した。

 その後、どの陣営にもついていなかったサーヴァント――ネロ・クラウディウス(セイバー)エリザベート(ランサー)を新たに仲間に加えた。

 

 戦力が新たに増えたこと、そして襲来したケルト側のサーヴァント――フェルグス(セイバー)からもたらされた情報と残り時間の猶予から、"レジスタンス"は二手に別れ大きく行動することとなった。

 一つは西側、監獄島《アルカトラズ》に囚われているラーマの妻である"シータ"の救出。

 もう一つは東側、ケルト軍を率いる狂王と女王――ケルトの大英雄の"クー・フーリン"、そして彼を王と仕立て多くのケルト兵を産みだすこの《特異的》の元凶である"メイヴ"の暗殺。

 戦力を考え、伊織は《カルデア》とナイチンゲール、そして瀕死状態のラーマがいるシータ救出チームに加わった。 

 

 道中にケルト兵や魔獣と遭遇するも危なげなく撃破し、無事《アルカトラズ島》に到着。しかし、舟でその島へ降りた直後に――

 

 

『――ようこそ、監獄の島《アルカトラズ》に。入監、襲撃、脱獄の手引き……希望がなんであろうが、殺した後に叶えてやるよっ!!』

 

 

 女王より命じられ、監獄島を守護しているサーヴァント――ベオウルフ(バーサーカー)の襲撃を受けてしまう。

 

 英文学最古の叙事詩と謳われる主人公の名に恥じない戦闘力、そしてメイヴが所持する"聖杯"からの魔力配給による高ステータス。流石のマシュ達も一時足を止めざるを得なかった。しかし――

 

 

「――燃え盛る(ほむら)の如く!」

 

 マシュとナイチンゲール、二人の猛攻により生まれた隙を伊織は見逃さず、五つの型の中で破壊力に優れた"火の型"でベオウルフの懐を斜め十字に斬り下ろしたのだ。

 

「がぁ…っ!!」 

 

 彼にBランクの"直観"スキルがあったゆえか、斬撃を受ける直前に後ろに飛んだおかげでまともには受けなかったが、剣撃により発生した衝撃波だけは躱せず、後方の壁まで吹き飛ばされる結果となった。

 

「やったね、伊織さん!」

 

『あ、あのベオウルフを斬撃で吹き飛ばしたぁ!!? 伊織君、もう一度聞くけど本当に君は人間なのかい!?』

 

「この程度で騒いでくれるなロマニ殿。俺の剣は今だ未熟、師匠であれば確実にあのサーヴァントの命を断てていたであろう」

 

『《カルデア》に召喚された沖田君といい、佐々木小次郎といい、日本の侍の常識はおかしすぎない!!?』

 

 ロマニの口から見過ごせない者の名が聞こえたが、今は敢えて無視する。

 少しとはいえベオウルフにダメージを与え、今は激突し崩れた壁の下敷きになったことで足も止められた。ならば伊織がすべきことは――

 

 

「――ここは俺に任せ、先へ行くといい」

 

「な、なにを……!」

 

「そんな…! む、無茶です伊織さん!」

 

『マシュの言う通りだ伊織君! 相手はあのベオウルフ、しかも《聖杯》からの魔力配給を受けている! さっきまで3人でやっと互角だったのに、君一人じゃ――!』

 

「ゆえにこそだ。こうしてる間にも死の呪いはラーマを蝕み続け、今は一刻の猶予もない。更に監獄までの道筋に敵の気配を多く感じる。ここで奴を仕留めるために時間を使えば、間に合わない可能性だって十分ある」

 

「そ、それは……」

 

「で、でもだからって貴方を置いて――」

 

「――安心しろ、俺とてここで果てるつもりは毛頭ない。お前達が目的を果たすまで、見事に時間を稼いでみせよう。藤丸、お前もそれが最善だと分かるはずだ」

 

「い、伊織……お主は」

 

「ラーマ、こちらに気遣いは無用だ。呪いの解呪もあるであろうが、そんな事より――早く会いたいのだろう、愛しき妻に」

 

「っ!!」

 

 

 ここに向かう道中、伊織は藤丸と共にラーマの物語を聞いた。

 

 少年時代にシータと出会い愛を育んでいき、彼女の父である"ジャナカ王"の難題な条件を難なくやってのけ、二人は結婚した。 

 しかし彼の親族の陰謀により国を追われた旅の中、魔王"ラーヴァナ"によって愛する后のシータを拐われてしまう。最終的にラーマは14年の月日をかけながらもラーヴァナを倒し、シータを取り戻すことができたのだ。

 だが、二人の幸せが続くことはなかった。

 戻ってきたシータに対し、民衆はラーヴァナとの不貞を疑い、王位についたラーマは様々な苦悩のすえ、彼女を国から追放した。以降、二人が再び出会うことはなかったという。

 妻を愛する夫としてではなく、王として賢い選択を取ってしまったことに、ラーマは深く後悔した。故に彼は、"聖杯戦争"だろうが何であろうがどんな形でも"サーヴァント"として召喚に応じる。

 

 例え生前からかけられた呪いがあろうと――シータ(我が妻)と再び出会う、万が一の奇跡を信じて。

 

 

「……あぁ。余は、シータに会いたい…! そして今度こそ、彼女に伝えたい……!」

 

「ならば行くがいい。お前達夫婦の再会を、ここにいる誰もが願っているのだからな」

 

 本来ならゲイ・ボルクを受け心臓の8割も破壊されたラーマの霊基は、その時点で完全崩壊していても全く可笑しくない――否、そうならなければならないのだ。

 ラーマが辛うじて生きていられるのは、彼が二大叙事詩『ラーマーヤナ』の英雄であることも理由の一つだ。

 しかし最もそれを成しているのは―――"シータを、愛する者に会いたいと願う"その想い。

 

 その強い想いが、死の運命を問答無用に与える因果に抗い、辛うじて命の灯を絶やさずにいられるのだ。

 

 その話を聞き、そして今でも呪いに抗うラーマの姿に伊織は、ただただラーマという英霊に尊敬と感嘆の念を抱かずにいられなかった。

 なればこそ、そんな彼のために尽力するは必然。

 

 

「行こう、みんな!!」

 

「えぇ。彼の行動を無駄にはしません!」

 

「伊織さん、どうかご武運を!」

 

「伊織……恩に、きる…!」

 

 二人の会話で覚悟が決まった藤丸の呼びかけにナイチンゲールとマシュの3人は駆け出しす。そして背をわれ、伊織に多大な感謝の想いを抱くラーマと共に監獄へと向かっていくのであった。

 

 そんな彼らを見送り、"やっと行ったか"と伊織は息を吐く。

 

 そう、今はラーマの治療が最優先。勿論、あの悲しき別離からやっとの夫婦との再会を望む気持ちはあれど、打算的に考えればこの《特異点》で大きな戦力の一人である彼がいなければ、この先のケルトとの戦いに勝つことは難しくなる。

 そして何より彼がこの場で死ねば、自分にはない強さを秘めたインドの大英雄である彼が――

 

 

 ――自分と斬り合えないではないか(・・・・・・・・・・・・・・)

 

 

 勿論、この状況下で味方同士で殺し合うような愚行を起こしたりはしない。だが、共通の敵を倒したその時には――

 

 

「――行ったか。ったく、戦場に色恋沙汰なんざ持ってこられたら、気持ちよく戦えねぇっつうの……」

 

 突如瓦礫が四方に爆散し、ベオウルフが姿を現す。懐の部分は伊織の斬撃の傷跡が見られるが、致命傷には程遠く戦いに支障は全く見られない。

 

「……以外だな。まさか素直に彼らを通すとは思わなんだ」

 

 藤丸達を先に行かせたもう一つの理由……それは、この英霊との一騎打ちを邪魔されないためにだ。

 そのため、ベオウルフがこの場を離脱する彼らを追わぬよう警戒していたのだが、彼はそんな素振りを全く見せなかった。

 

「もとより女王の気まぐれで、看守役なんざガラにもねぇことやってただけだ。ここで奴らを通したってかまやしねぇよ」

 

 "それによぉ――"と、ベオウルフは先ほどの戦闘で見せなかった獰猛な笑みを浮かべ――

 

 

「――俺にタイマンで挑んでくる馬鹿を相手にする方が、何倍も面白れぇに決まってんだろうが!!」

 

 ベオウルフ――彼は戦いを求める戦闘狂だ。  

 宝具に魔剣を持つことから剣士(セイバー)クラスの適正を持ち、もしそのクラスで召喚されていれば、まだ落ち着きはあったであろうが、此度の彼は狂戦士(バーサーカー)

 全盛期の若き自分として現界したこともあり、今は"戦う者"としての側面が強く表れている。

 

 ましてや戦り合う相手が、自分と同じ(・・・・・)"戦い"を求める者であるのなら尚更だ。 

 

「おらよっ!!」

 

「っ!」

 

 剣というよりも棍棒に近い魔剣の振り下ろした一撃を太刀で受け止めるも、ベオウルフの高い膂力に一瞬顔を顰める伊織であった。しかし、先程の前哨戦のこともあって"もう慣れた"。

 "へぇ"と面白うに笑うベオウルフはすぐ様、左の紅い魔剣を考えなし(・・・・)に連続で5回振るう。それだけで最適な攻撃となるその攻撃を、彼の左腕の動きに視線を向けることなく(・・・・・・・・・・)、伊織は自身に迫る剣撃を小太刀で精緻に弾くことで、ベオウルフの攻撃を全て防ぎきるのだ。

 

「いいねぇ、この剣を難なく防ぐか……!」

 

 《赤原猟犬(フルンディング)》――ベオウルフの持つ魔剣の一振り。

 血の臭いを嗅ぎ分け、ただ剣を振るうだけで最適な斬撃を剣そのものが独自に打ち込んでくれる魔剣。そのため剣を振るう筋肉の動きと連動せず、剣の軌道を読むことが困難といえる。

 

 だが先程の前哨戦でその魔剣の性質を理解した伊織は、赤原猟犬(フルンディング)を握るベオウルフの左腕を視ず、ただ自身に迫るその攻撃を素直に反応し(・・・・・・)剣を振るったのだ。

 『視て軌道が読めないのならば、視ないでに対応すればいいだろう』と、ロマニが聞けば『非常識すぎるよ!!』とツッコんでいただろうが、今の伊織ならば問題なく、そもそもその程度も出来なければ《剣聖》の域に至ることなど出来はしない。

 

(鋭き水の流れの如く!)

 

 二刀の魔剣をベオウルフごと後方へ弾き下がらせると同時に型を"水"へと切り替える。そして刹那に速く鋭く、更に"火"の残光による力の上昇を加えた二刀流による連続の斬撃を振るった。

 だがベオウルフは二刀を巧みに扱い、伊織の鋭き連続の斬撃を防ぎ流すことで無力化してみせた。見た目で勘違いしやすいが、彼はただ力だけの単細胞ではなく、技巧も優れた武人である。

 

(とは言え……こりゃとんでもねぇな)

 

 防ぎはしたものの、今の斬撃には重みがあった。

 力だとか速さだとか、魔力だとか……そんな理屈なものではない――強き魂と意思が籠った、一流の武人の重みだった。

 

 そして理解した。

 時間稼ぎなんてとんでもない……この人間は、この場で自分を斬り殺すつもりでいることを。

 

 その事実を認識した瞬間、ベオウルフは嬉しさを隠そうとせず敵へと駆け出し、伊織もそんな彼を迎撃せんと刀を振るう。

 

「ハハハハハハハハハハハハっ!!!」

 

「……っ!!」

 

 互いに繰り出したのは、休むことのない怒涛の剣の嵐。伊織は主に速度、ベオウルフは膂力。そして互いの高い技巧をもって作り出したその嵐を敵対者に振るう。

 当然二人は迫る嵐を搔い潜り剣撃を緩めはしないが、流石に無傷とはいかず互いの体に次々と傷が生まれ血が流れる。

 だが、二人は苦悶の表情を浮かべることは決してなかった。

 

 二人が浮かべる感情はただ一つ――歓喜。

 

 ベオウルフは分かりやすいように笑い声を上げており、伊織は表情を出さないようにはしているが口角は我慢できずに上がっている。

 

(あぁ……なんと心地よいことか)

 

 血湧き肉躍るだけではない……自分の心が、魂が震えるのが分かる。

 自分の培ってきた剣を存分に振るい、自分以上の強者と武をぶつけ合い、その果てに生と死を分ける立ち合い。そしてそれを糧に、剣の頂へと登っていく充実感。

 

 それが堪らなく、愉しくて、自分は生きているのだと……伊織は実感することができた。

 

「ははっ! 堪らねぇなオイ!!」

 

 それはベオウルフも同じこと。

 "メイヴ"に召喚され、世界の敵として戦うことに思うことはあったが、最終的に自分が満足できる戦いができるのなら、世界の敵として相応しい振る舞いをするだけだと割り切った。

 だが戦場には出してもらえず、女王からはこんな監獄の看守のような役割を押し付けられた。一応従事はしたものも、イラつきや不満を隠せずにいた。

 

 そんな折、監獄のある囚人を脱獄させんと攻めて来た3器の"サーヴァント"と二人の人間。

 敵の少なさに一度は落胆した。自分と同等以上の実力者とのタイマンが好みであったが、一対多数ならば多少は面白くなるだろうと相対したが――その期待は良い意味で裏切られた。

 

 今自分と激闘を繰り広げる、一人の侍の人間に。

 

 人の身とは思えない、サーヴァントに全く劣らない戦闘力。そしてそれ程の実力を有しておきながら、この人間は今だ発展途上(・・・・)

 剣を交えたからこそ分かる。この男は自分との戦いを通して、更に先の領域へと昇らんとしている。

 生前、自分を超えんとした敵や部下はそれなりにいたが、自分を踏み台にする者は生前を含め初めてだ。サーヴァント同士では絶対に抱くはずもない敵の感情に、ベオウルフのテンションは最高潮にまで上る。

 

「そんじゃ、こいつはどう対処する人間!!?」

 

 伊織の刀を弾くと同時にベオウルフは後ろへと大きく下がる。

 迎撃せんと駆けだそうとした伊織であったが、ベオウルフ――正確には彼の右手が握る棍棒の魔剣の魔力が急激に高まったことに警戒し、足を止める。

 

 

「――"宝具"解放――」

 

 その言葉は即ち、英霊の宝具の使用を意味する。

 "盈月の儀"での戦いの経験から、ベオウルフの切り札の一つが放たれようとしていることを伊織は理解する。

 

(恐らく奴の宝具は圧倒的な力による一撃。それを前に下手な小細工は無意味……であれば、正面から迎え撃つのみ!!)

 

 そう決意を固めると同時に小太刀を鞘へと納め、太刀を両手で上段に深く構える。

 そして、元いた世界から偶然持ち出し、この世界でも密かに収集していた"貴石"を十数個砕く。それが魔力ブーストとなり、伊織の放つ一撃を遥かに高める。

 

 

 そして瞬く間に、二人の切り札の一つが正面から激突する!!

 

 

「――鉄槌蛇潰(ネイリング)!!!」

 

 その宝具は、ベオウルフの晩年時に死闘を繰り広げ結果的に相打ちとなった、"火竜"を仕留めるため使われた魔剣。その剣で竜を仕留めることは出来ず砕かれてしまったが、その剣の一撃は確かに――竜を殺すに足りる一撃。

 

 

「――獅子殺しの一太刀!!」

 

 その技は、かつて"盈月の儀"で友誼を結び、ある返礼として"逸れのバーサーカー(サムソン)"より教わった、その名の通り百獣の獅子を滅さんとする――大地をも割る圧倒的力による一撃。

 

 

 そんな二人の力による激突は、互いに拮抗状態に生む結果となり、周囲の大地が割れ、激突の奔流は崖にひび割れる惨状を引き起こした。

 

「マジか!? 俺の一撃を止めるか!!」

 

「……っ!!」

 

 一瞬驚くも、それはすぐさま喜びへと変わるベオウルフ。対して伊織は言葉を発さず、ただ敵を叩き斬ることに意識を集中させる。

 拮抗による鍔迫り合いは数分か、それとも数秒か。やがてベオウルフの鉄槌蛇潰(ネイリング)が耐えきれずひび割れ――

 

「――っ!?」

 

 それは数多の修練と幾多の戦場を巡り培われた第六感。その感が、このままあの魔剣を破壊してはならないと告げ、幾度も自身を救ったそれに対して逡巡することなく、瞬時に伊織は行動に移した。

 

「なっ!?」

 

 この戦いにおいてベオウルフは初めて表情を崩した。

 何故なら鍔迫り合いで動かなかった魔剣が突如、なんの抵抗もなく前へと倒れようとしたのだ。そして刹那、鉄槌蛇潰(ネイリング)を狙った下からの斬り上げの斬撃に耐えきれず、手を離したことで鉄槌蛇潰(ネイリング)は上空へと打ち上げられる。そして――

 

「――くっ!」

 

「――ちぃっ!」

 

 二人がその場を大きく後退したと同時に鉄槌蛇潰(ネイリング)は大きく爆発する。そしてその余波で粉々になった破片が降り注ぐこととなった。

 幸い二人共距離を取っていたこと、そして上空で爆散したことで爆発圏内から逃れたこともあり、影響は然程なかった。

 

「おいおい、マジかよ。お前あの"宝具"の性質に気づいてのたのか?」

 

「いや、全くだ。ただあのまま貴殿の剣が破壊されれば、ただでは済まない致命傷を負いかねんと判断し、動いたまでだ」

 

 《鉄槌蛇潰(ネイリング)》――もう一振りの魔剣である《赤原猟犬(フルンディング)》と同様に、この魔剣にもある性質が備わっている。

 それは定められた回数以上使用すれば剣は破壊され、その破壊の瞬間を攻撃として敵に大きなダメージを負わせるといったもの。

 

 内容は不明であったが、あの魔剣の危険度を感じ取った伊織は、互いの渾身の一撃での鍔迫り合いの中で一瞬わざど力を抜いたのだ。そしてベオウルフの想定外の出来事で生まれた、思考の一瞬の隙を突き、力の限りの斬り上げは見事彼から魔剣を手放せられたのだ。

 大変危険な綱渡りであったが、少しでも躊躇いや恐れがあれば必ず失敗していたし、あのままでは敗北に直結していた可能性が多いにあった。ならばただ、自分の身が無事だった現実を受け入れるだけのこと。

 

「ったくよ。高く評価はしていたつもりだったが、人の身でまさかここまでやるとは思わなかったぜ。どんだけ俺を愉しませれば気が済むんだ、お前さんは」

 

「それはこちらとて同じ、貴殿との戦いは誠に心弾ませるもの。流石は英文学最古の叙事詩に語れる英雄だ」

 

「褒め言葉として受け取ってやるよ。それと話は変わって一つ質問なんだが……報告にあった"ディルムッド"の消滅――殺ったのはもしやお前さんかい?」

 

「……あぁ。彼もまた貴殿に劣らぬ紛うことなき強者(つわもの)であった」

 

「くくく、人間がサーヴァント殺しをやってのけるとはな。このままじゃ俺もディルムッドの二の舞を踏みかねん……なら、本気(・・)でやらなくちゃな」

 

 瞬間、彼は残っていた魔剣を握力で粉々に破壊し、腕をゴキゴキと鳴らしながら伊織へと歩を進める。

 一見すれば敵を前に自分の宝具を捨てた愚行と言うであろうが、伊織はそうは思えない。何故ならベオウルフの圧が、まるで枷を外して本来の力が解放されたかのように、明らかに変わったのだ。

 

 伊織のその感覚は間違いではない。

 叙事詩で語られるベオウルフの強大な敵――"魔人グレンデル"と"火竜"。彼はいずれの怪物を自らの手で葬っているが、それは"魔剣"によってではない。

 己の鍛え上げた"肉体"、武器を持ちえない現代風に言うステゴロによって、二体の怪物を倒したのだ。

 そう、鍛え上げた肉体による肉弾戦こそがベオウルフの本来の戦闘法(スタイル)であり、魔剣を捨てたということは、彼が本当の意味での本気になったということだ。

 

「お前さんとの剣の語り合いも楽しかったが、やっぱ俺は拳の方が性に合ってるんだわ……不服かい?」

 

「……まさか。本気の貴殿と戦えるとならば、それはむしろ望むところだ」

 

 体技を極限までに極めた"逸れのアサシン(李書文)"と、力の化身とも言っても過言でもない"逸れのバーサーカー(サムソン)"。

 タイプは違えど己の肉体全てを凶器とした英霊との戦いから、その強さと厄介さは大いに理解している。

 

 理解しているからこそ……片や最後まで決着をつけることなく、片や弱点をついて複数人でよる勝ちだった"盈月の儀"での二人の戦い――相手は違えど彼らに匹敵する同種の武人を、今度こそ(・・・・)()自身の手で斬り伏せん(・・・・・・・・・・)

 

「……お前のその全てを斬りさかんとする修羅の目、そして高揚して抑えきれない笑み。正直とても人理を守る側とは思えねぇな、人間」

 

「元より俺は清廉高潔な身ではないさ。彼ら側に就いたのも、その方が俺にとって都合が良かったにすぎない」

 

「ハハ。剣を交えた時から予想はしてたが、俺やケルトの連中とはベクトルが異なった戦闘狂といったところか。だが、それもまた良い!」

 

 結局のところ、この状況において相手がどんな境遇を抱えてようが、ベオウルフにとっては些事なこと。

 確かにこの人間の剣から昏きものは感じたが、彼は勝負において邪道な行いは一切せず正々堂々と自分に向かってくる。だからこそ今はただ、心からこの戦いを愉しみたいのだ。

 

「第2ラウンドを始める前に人間、お前の名を聞かせてくれや」

 

「――伊織、宮本伊織だ」

 

「イオリ、伊織か……その名、しっかり覚えておくぜ。そんじゃ――」

 

 瞬間、二人の姿が消えた同時に、命を刈り取らんとした互いの剣と拳が激突する。激突による奔流が再び周囲に影響をもたらすが、それは新たな開幕の合図にすぎない。

 

 

「――今は互いに、この狂宴を愉しもうじゃねぇか!!」

 

「望むところだ…!!」

 

 

 ラーマの治療と解呪を終えた藤丸達が戻ってくるまでの数時間、彼らの激闘は続いたのであった。

 

 




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