たくさんのお気に入りと評価、本当にありがとうございます!! これだけでも執筆意欲が沸き、これからも頑張れます!!
FGOのサムライレムネントのコラボイベント、皆さまやられたでしょうか!? アフターストーリーとしては大変素晴らしく、宮本伊織の結末はあれである意味正しかったのだと思わせる話でした。そしてセイバーと伊織とのイチャつきも堪らなく、特にクリア後のマイルームでの互いのボイス――本当にやばかったです、はい!!
ただご存知のように、この作品の伊織は死んだ英霊の身ではなく、今を生きる人間です。そんな彼がこの作品でどのような軌跡を辿り、最終話でどうなるのか……精一杯頑張らせていただくので、どうかよろしくお願いします!!
では、どうぞ!!
ラーマの呪いは解呪し、全快した。
インドの大英雄であるラーマの復活は、間違いなく《カルデア》にとって大きなプラスだった。しかし、朗報と共に大きな凶報が伊織達に届いた。
狂王、女王の暗殺へと向かった"レジスタンス"のサーヴァント達は、ロビンフッドとエリザベートを除き全滅した。
彼らが弱かったわけでも、策の詰めが甘かったわけでもなかった。
ただその全てを――悪しき女王が願った"聖杯"によって在り方と強さを大きく歪められた、ただメイヴに相応しい邪悪な"王"として在らんとする――"クー・フーリン・オルタ"には届かなかっただけのこと。
そしてもう一つの想定外は、ケルト側に"逸れのアーチャー"――《授かりの英雄》アルジュナがいたこと。
クー・フーリン・オルタという例外を除けば、この《特異点》で呼ばれたサーヴァントの中では間違いなく最高峰の英霊。そんな彼が狂王と女王に助力したこともあり、ジェロニモ達は完全敗北を喫したのだ。
その後、ジェロニモ達の願いもあってエリザベートを連れて離脱したロビンは、アルジュナが追手として迎撃されたこともあり、まさに絶対絶命であったが――
『――我が名はスカサハ。かつてクー・フーリンの師を務めた、影の国の女王だ』
ケルト・アルスター伝説の戦士にして女王。槍術とルーン魔術の天才にして、後に大英雄となるクー・フーリンの師匠として教え導いた、異境・魔境である『影の国』の女王。
そんな彼女が乱入しアルジュナを撤退させたことにより、ロビンとエリザベートは無事、藤丸達と合流を果たすことができた。
ロビンから詳細を聞いた藤丸とマシュは、仲間が……特に《第二特異点》で出会い共に特異点修正を成し遂げた――その時の記憶を持ってはいなかったが、縁が深かった"ネロ"の消滅に一時意気消沈しかけた。
しかし、彼らから託された想いを無下にしないため、二人は再び前を向いたのであった。
そして全員との話し合いの末、アメリカ軍を率いる大総統――"エジソン"との話し合いのため、彼らは再び大総統府の宮殿へと足を運ぶのであった。だが――
『――今度こそ我らの仲間となり、共にケルトの輩を駆逐してくれると思っていたが……残念だ』
当然歓迎されることはなく、アメリカ軍による迎撃を受けるのであった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
刺突するたび、颶風が発生し大気が歪む。
槍を振るうたび、大地は文字通り割れ地形が変化する。
それらの出鱈目な槍撃を、神速の如き速さで息つく間もなく繰り出される。
そんな必殺に比肩する一撃一撃を見極め躱し、または受け流す――それは想像を絶する集中力がようされる。少しでも途切れてしまえば、その時点で敗北は当然。
ゆえに"伊織"は思考を極限にまで研ぎ澄ませ、自身の持ちえる限りの全力で剣を振るい、極限の集中力で槍の嵐を必死で搔い潜っていく。
真正面から受け止めるという愚行は起こさない。アレを相手にそんな思い上がりが起きようものなら、挑む資格など元からありはしない。
なにせ今自分が相手をしているのは"盈月の儀"を含め、今まで戦ってきた中でも間違いなく最強格の存在。
「――やるな。防戦一方でありながら、今だ我が槍を通さんか。お前が本当に人間なのかと問いたくなってしまうな」
インド神話『マハーバーラタ』の登場人物にして、太陽神と人間の間に生まれた不死身の大英雄。
この《特異点》で《聖杯》によって変質したクー・フーリンを除けば、アルジュナに並び間違いなく最高峰のサーヴァント。
その名は《施しの英雄》――カルナ。
「………っ!!」
今の伊織に言の葉を紡ぐ余裕はない。今は文字通り全神経を戦いに集中させており、それを一瞬でも乱せばこの大英雄は容赦なく突いてくるだろう。
そして見事に自分との差を痛感させられる。
相手が手を抜いていないのは理解できるし、全力で自分を殺しにかかっているのも槍を通せば馬鹿でも分かる。だがこんな神技と言っても過言でもない槍術を繰り出しながらも、言の葉を相手に紡げる余裕がカルナにはあり、それ程までに彼が強く――格が違う。
そして何より、大英雄ゆえ"魔力の多大な燃費"という枷があることから、カルナはある"スキル"や"宝具"といったサーヴァントにとっての最大の武器を使用していない。だというのにも関わらず、彼はこの出鱈目な強さを当然のように見せている。
もし彼が最初から全力で"スキル"や"宝具"を遺憾なく使用していれば、1分も持たずに自分は敗北していただろうと、伊織は痛いほど理解した。
まさに数多の英霊の中でも最強の一角。言葉通り神域の領域に至る絶対強者と言っても過言なし。なればこそ――
――かの英雄を破れば、どれだけ自分は満たされるのだろうか。
「伊織……」
そんな伊織とカルナの激闘を、ラーマは複雑な表情で見守っていた。
◆◇◆◇◆◇◆◇
《大統王》にして発明王"エジソン"、根源に最も近づいた神智学者"エレナ・ブラヴァツキー"、そして《施しの英雄》"カルナ"――以上が《アメリカ軍》に所属するサーヴァント。
エジソンの治療もとい会話のため藤丸、マシュ、ナイチンゲールの3人は総統府の宮殿へと進み。そんな彼らの邪魔はさせんと、エレナと機械兵士の軍団をロビンフットとエリザベートが。そして最高峰の英霊であるカルナをラーマ、そして伊織が足止めに務めた。
最初はラーマと伊織は、カルナの足止めを見事に果たしていた。
カルナに匹敵する強さを誇るラーマを主軸とし、伊織は二人の戦いで生じる隙を見逃さずカルナに刀を振るい続けた。
ラーマは勿論だったが、伊織の人と思えぬ磨き上げられた斬撃を無視できなかったこと。そして
『――炎神の烈波!!』
『っ!?』
状況打破のためカルナが自身の高スキルである『魔力放出(炎)』により大槍に炎を纏った瞬間、そうはさせまいと伊織は
しかしその直後に何故か、カルナは動きを止めたのだ。
突然の彼の行動に二人は一瞬戸惑うも、カルナは宝石を思わせる自身のオッドアイの瞳を伊織に向け――
『――宮本伊織、それがお前の名であったな。戦いの最中ですまないが、一つお前に問わねばならんことがある』
『先ほどのお前の技。威力も精度も申し分ないが、俺が見間違えようはずがない。……あれは我が宿敵、アルジュナの技だ』
『そしてその技を行使するお前から、一瞬だがアルジュナの姿を幻視した。見稽古による見様見真似ではなく、奴自身より教わなければ奴の姿を幻視することなど有り得ぬこと。差し支えなければ、何故お前がその技を使えるのか教えてほしい』』
その問いに、伊織は納得した。
ここに来る道中で、全てではないがカルナのかつての逸話を聞いたのだ。
彼が歩んだ軌跡の世界は波乱に満ち溢れ、様々な要因で宿敵との戦いで全力を出せず、アルジュナの手によって生を終えられ、その果てに太陽神である父"スーリヤ"と一体化したことを。
カルナからすれば縁もゆかりもないはずの今を生きる人間が、自身を殺めた宿敵の技を使ったのだ。当然戸惑いや疑問を持つのも無理はない。
ゆえに伊織は嘘偽りなく話すこととした。
自分がこの《特異点》に来る前、"盈月の儀"という名の"聖杯戦争"に参戦したこと。アルジュナとはマスターを持たぬ"逸れのサーヴァント"として出会い、当初は誤解から敵対したが人柄を認められ友誼を結び、いくつものの交流や共闘を得て、最後の立ち合いの後に実力を認められ彼から自身の技を教授されたことを。
伊織の話を聞いたカルナは『あのアルジュナが…』と、考え込むように一度目を閉じた。そして数秒の後に瞳を開いた瞬間、人が扱うものとは思えない大槍を伊織に突き出し――
『――突然で申し訳ないが宮本伊織。俺は、お前とサシでの立ち合いを申し込みたい』
『なっ……!?』
『……理由を聞いてもよいか?』
『それは――』
『――待て待て!! 話を遮って申し訳ないがお主はアメリカ軍のサーヴァントのはずだろ!? ならば一刻も早く余等を倒して――』
『――もしお前達が本当にエジソンを倒すつもりであればそうしただろう。だがお前達はエジソンを害するつもりはなく、むしろ彼の過ちを正しに来たのだろう』
『『っ!』』
カルナは語りだす。
自分がこの地に召喚された時、最初に出会ったのがエジソンだった。そして彼は益体もない自分に対して跪き、必死に助けを乞うた。それだけで、カルナがエジソンに協力する理由としては十分すぎる程だ。
そうしてアメリカ軍の将として迎えられ、ケルト軍に対抗するアメリカ軍の兵の全貌を見せてもらったが――
『――強制徴用で人を多く集め、思想教育と薬物投与で兵へと仕立て上げる。戦争において非道が行われるのは常、ゆえに俺はエジソンのやり方を否定するつもりはない……が、視ていて気持ちのいいものではなかったのも確かだ』
だがカルナは自身の在り方からそれを指摘できず、エジソンの請われるままに戦った。
自分が所属する前に召喚されエジソンに協力していたエレナも、彼の過ちに気づきながらも自分にそれを正す力はなく、エジソンが取り返しのつかない過ちを起こさないよう傍に居続けた。
『そんな折、この《特異点》を修復するために《カルデア》が現れた。そしてある情報提供者から、彼らのこれまでの《特異点》の旅路を聞いた……』
魔術師でもなければ戦士ですらない、正真正銘の一般人であった《カルデア》のたった一人の――人類最後のマスター、藤丸立香。
世界を救うという責任はあまりにも重く、逃げ出しても誰も責めることなどしなかっただろう。にも関わらず、常に傍におり信頼してくれる盾の少女と共に、多くの英霊達と協力し《特異点》を修復してきた。
そんな彼らなら、エジソンの目を覚まさせ正しき道へと戻してくれる……だからこそ、カルナとエレナは彼らが来ることを信じ待ち続けた。
『お前達が来たこの状況は、俺達にとって望んでいたこと。俺とエレナもこうして迎撃に出たが、あくまで形だけにすぎん』
『……ならば、我らがこの場で戦う理由はもうないはずだ』
『確かにな。強いて言えば、あの『ラーマーヤナ』のラーマと槍を交えたいと少しは思っていたが、明確な理由なら今できたところだ』
そして再び、カルナの視線は伊織へと向く。
『アルジュナは正義そのものが形になったような実直かつ誠実な男、紛れもなく本物の英雄だ。だが奴とて誇りある
『お前のなにが、アルジュナをそうまでさせたのか。そして人間の身でここまでの高みに至ったお前という存在に、俺は興味がわいた。ゆえに一人の戦士として、お前と槍を交えたい』
カルナには聖杯にかける望みは一切ない。マスターがいるのであればその者の生還と願いのために、人理に呼ばれたのであれば世界を救うために戦う。どこの聖杯戦争に呼ばれても、どんなマスターに召喚されても、どのような状況であろうとも……それは変わらない。
だた戦士として相応しき者との、特に自身に匹敵するかそれ以上の猛者との戦いをカルナは密かに望んでいる。そしてこの宮本伊織という人間を見てると、どうも己の中の闘争心が湧き上がってしまう。
勿論優先順位を履き違えなどしないが、今回のような状況であれば自分のエゴのために動いてしまう。何せこの人間は自分の宿敵であり、英霊となった今でさえ執着心を抱いてしまうアルジュナと友の関係を築いた者、どうあっても無視することなどカルナには出来ない。
『さぁ、どうする宮本伊織。勿論これは俺の身勝手だ。当然お前にはこれを断る権利があるし、俺はそれについて咎めるつもりはない』
そう、これはカルナの都合だ。
彼もエジソンの救いを求めているのであれば、もう戦う必要はない。むしろこれからの"ケルト"の軍勢と戦うためにも、無駄な戦いは避けるべきであり、選ぶべき正しい選択だ。
だが、伊織の答えはとうに決まっている。
『――貴殿の申し出、有難く受けさせていただく』
『伊織っ!? お主はなにを言っている!?』
『……そうか。俺のエゴに付き合わせてしまい、すまないな』
『とんでもない。経緯はどうあれ、貴殿のような大英雄に自分の剣に興味を持たれたこと、この上ない喜びだ』
『ふっ。俺に限らず武を嗜む英霊であれば、お前の剣に興味を持ってしまうのは仕方あるまい』
話が進んでいく伊織とカルナだが、この状況にラーマとて黙っていられるはずがない。
『伊織、お主は分かっているのか!!? ディルムッド、ベオウルフ――彼らは間違いなく伝説の名に恥じない強者であり、そしてそんな彼らと同等以上に戦い抜いたお主も十分強者だ!! だがカルナはそんな英霊達と一線を画す、クー・フーリンを除けばこの大陸最強の英霊なんだぞ!! いくら伊織でも勝ち目は――』
『――理解しているとも、ラーマ』
心の底から伊織の身を心配し声を荒げるラーマを、伊織は変わらぬ表情で冷静に言の葉を紡ぐ。まるで冷水でも浴びせたかのように、伊織の落ち着いた声がラーマの興奮を抑えていく。
『貴殿の不安の気持ちは分かるし、かの大英雄との実力の差が分かるぬ程俺も愚かではない。だが剣士として、挑まれたからには引くわけにはいかない。ここで断れば、俺は必ず後悔する』
『それに俺達の最終目的であるクー・フーリンは貴殿をも、そしてカルナ殿すらも上回る魔人だ。なればこそ――この立ち合いを乗り越え得られるもの全てを、我が血肉とする』
『でなければ、最後の戦いでは俺は役に立てぬであろう。だから頼むラーマ、どうか何も言わず……見届けてはくれまいか?』
『伊織……』
ラーマは何も言えなかった。
伊織は自分にとって恩人の一人であり、立香と共にこの時代で出来た友だ。
彼は優しく、人の気持ちを考えることができる善ある者。そんな伊織の在り方に、ラーマは好感を抱いている。
彼と交わした言葉はそこまで多くないが、立香とはまた違う居心地の良さを感じている……時折自分と会話している時に、背筋が凍ったように少し顔を青ざめるのは少々気になるが。
ゆえに仲間としても、友として彼をそんな死地へと行くこと等、許せるわけがない。
しかし、ラーマは――
『――余とて武人、強い相手と戦いたいと願う気持ちは分からなくもないし、その矜持も理解できる。そしてお主は先を見据えて上で……分かった。完全に納得したわけではないが、許そう』
『…! 感謝する』
『だが、先程も言ったが相手はあのカルナだ! 武人同士の立ち合いゆえ出来る限り手を出さないが、本当に危険と感じたら、余はなんと言われようが絶対に止めるぞ!! 我々の戦いは、これからなのだからな!!』
『それが"落としどころ"だな……委細承知した』
『カルナも、それでよいな!?』
『無論。俺の身勝手に付き合ってくれるのだ、お前のその提案を受け入れるのは当然であろう』
『……ならばよい。伊織、決して死ぬでないぞ!!』
『あぁ、死ぬつもりで戦う気は一切ない――相手が大英雄であろうと俺は、勝つ』
双方に約束をさせたことで、ラーマはこうして伊織とカルナの立ち合いを少し離れた場所で見守っている。
普通なら今すぐにでもこの戦いを止めるべきだし、そもそもさせるべきではない。
まだ神が存在していた神代。その世を生き、多くの戦いを闊歩し艱難辛苦を乗り越えた、神の子であるカルナ。伊織とて盈月の儀で相当な修羅場を潜ったのは理解できるが、それでも出自も含めカルナの生きた神代の世界と本来なら比べるべくもない。
今を生きる人間が、全ての英霊の中でも最上位の強さを誇る大英雄に挑むなど――無謀以外の何ものでもない。
しかしそれでも、ラーマは伊織を見送った。
武人の矜持、未来の戦いのため……確かにそれもある。だが本当の理由は―――伊織の戦いをこの眼で視るためでもあった。
伊織が善人であることは分かっている……分かっているのだ! でも、忘れることができない。
アルカトラズで自身の解呪のためにベオウルフの足止めのために尽力した伊織を助けるべく、呪いが解けてすぐさま立香達と共に向かった先での……ベオウルフと死闘を繰り広げていた伊織の眼を。
平和を慈しむ穏やかな眼と全く異なる……―――目に映る全てを斬り裂かんとする、刃のように鋭き冷たかったあの眼が。
◆◇◆◇◆◇◆◇
(何とも……凄まじいものだな)
伊織と幾多も槍と剣を交え、ここまで自分と戦える伊織の技量と精神力を、カルナは素直に賞賛する。
カルナは一切手を抜いていない。
立ち合いを申し出たのは自分だが、相手もまたそれを望み、戦士として挑んでくる以上、手加減など相手を侮辱する行為でしかない。ならば
だからこそカルナは本気で、文字通り伊織を殺すつもりで必殺に等しい刺突を幾度も繰り出す。
だが、カルナは今だその槍を伊織の心臓に穿てていない。
伊織の体は刺突やその影響で発生した鎌鼬で傷だらけだ。槍が通っていないわけではないが、致命傷に至ってはいない。
伊織は自身に迫る脅威度の高い槍撃を剣で弾くことで軌道を捻じ曲げたり、持ち前の脚の速さで躱すことで致命傷に至らずに済ませているのだ。
とはいえ、口で言えば易しだが、実行するのはあまりにも困難。カルナが繰り出す神速の如き速さと大地を容易く抉る槍撃、そしてそれを難なく巧みに操り連続で振るえる技量。それを反らし躱すという芸当がどれほどの御業であるか。
いくら防御に徹しているとはいえ、英霊ではなく人の身でそれを成すなどあまりにも異常だ。しかも――
(――この男、少しずつだが防御と同時に俺の身へと剣を届かせんとしている……!)
槍を一突きすれば紙一重で躱し槍の側面を滑らせ刀を振るうこともあれば、薙ぎ払いや叩き付けがあれば刀で軌道を僅かに捻じ曲げると同時に刀をカルナへと振るう回数が、少しずつであるが増えてきているのだ。
勿論槍を巧みに操り剣を見事にカルナは防いでいるため、斬撃はその身に届いていないのだが……先ほどとは全く違う。
(俺の槍の速さに眼が慣れた……。いや、この短時間で適応し始め――この男は
そう……宮本伊織は一歩間違えれば死に至る嵐の中にいるにも関わらず、カルナの極まった槍技を理解し、学習し、少しずつ己へと吸収している。それにより、彼の動きと剣の技が研ぎ澄まされていき――カルナとの差を徐々に埋めていっているのだ。
それが証拠に、極限の攻防の中で伊織は口は一文字に閉じられているが、その目はどこまでも貪欲であった。
もっとその槍を見せろ、貴殿を理解させろ、更に自分を強くさせろ!!と訴えるように、彼は嵐の中を突き進んでいるのだ。
その事実を卓越した観察眼で理解した途端、今まで能面のように表情が変わらなかったカルナが笑みを浮かべた。
普段は自身の我欲が薄いカルナであるが、自身の心を躍らせる戦士との闘いには喜びを感じる生粋の戦士だ。
英霊でもなければ、サーヴァントの身でもない人間であるにも関わらず、神秘へと手が届くほどの高みへと至った洗練された剣技。そして自分のような強大な敵を前に、心を一切乱すことなく立ち向かえる揺るぎない精神力。
まさに時代を代表するような英雄と遜色ない強さ。それに加え、サーヴァントの身ではなく人間の身であることから、この男は今のように成長し更に強くなっていくのだろう。
(アルジュナよ。恐らくお前も宮本伊織の成長していくこの強さに、惹かれたのだな……)
勿論それだけであのアルジュナが友誼を結ぶとは思わんが、伊織の存在は英霊――特に戦いを好む戦士系の英霊にとっては魅力に映るのは間違いない。
そんな強き人間にこの場で出会い、今こうして立ち合えること。どの"聖杯戦争"でも、どんな世界の《特異点》でも、異なった世界線であろうと、恐らく奇跡に等しいだろう。
人理のために呼ばれた身だが、この男に出会えた幸運に感謝せねばなるまい。
「宮本伊織。お前の強さに敬意を表し――俺も本当の意味で全力を出そう」
「……っ!」
槍撃が緩んだ一瞬の隙をつき、伊織は咄嗟に後ろへと後退した。カルナの言葉ではなく、己の中の感覚が危険だと理解したからだ。
そう、それは間違いではない。何故ならカルナから発せられる圧が、先程よりも明らかに重くなったのだ。
「炎……!?いや、魔力かっ!」
魔力放出――肉体や武器に魔力を纏わすことで瞬間的に能力を上昇させるサーヴァントのスキルの一つ。しかしカルナのそれは、他のサーヴァントとは一線を画す。
太陽神スーリヤの子ゆえか、カルナの魔力は燃え盛る炎となり、それは大地は勿論鋼鉄すらも溶かす――まさに太陽を思わせる灼熱の炎。
本来ならこのスキルは常時発動型ではあるが、カルナは最上位の英霊であることから『魔力放出』だけでも多大な魔力を消費する。現在は逸れの身でマスターがいないのは勿論、ケルト勢のように"聖杯"からの魔力供給をしているわけでもない。
だからこそカルナは現在、魔力放出は勿論"宝具"の使用すら出来るだけ控えていた状態だった。しかしこうして躊躇いもなくそれを使うのは、目の前に立つ戦士への最大限の礼儀に他ならない。
勿論自身の現界のため短時間しか使えないが――それだけで十分だ。
「では――行くぞ」
灼熱の炎がカルナの体を、槍を纏った瞬間――体から吹き上がる炎がブーストとなり、音速を突破した突進で伊織の間合いを瞬時に詰めたのだ。そして同時に繰り出される――心臓どころか人体そのものを破壊せんとする、Aランクの"宝具"に匹敵する威力の刺突。
サーヴァントですら反応できず、成すすべなく霊核を砕かれる絶大な不可避の一撃。
だが伊織はカルナの魔力放出を視た瞬間、即座に"貴石"を十数個砕き型を"地"に切り替え瞬時に備えていた。
「――炎神の烈波!!」
アルジュナより教授された強大な炎の魔力の斬撃を飛ばす奥義、今回は斬撃を飛ばすことはせずに刀に押し留める。
そしてカルナの神速を超える刺突が躱すことが不可能と判断した伊織は、目視出来ないカルナの槍の攻撃を直観と読みで予測しきり、魔力を纏った刀を瞬時に合わせる。それは――
「――ほう、これすらもお前は防いでみせるか」
「ぐぅぅ…!!」
感嘆するように口にするカルナだが、伊織はそれに答える余裕なんて微塵もなし。
何故なら魔力放出で威力を上げたカルナの槍撃を、完全とはいえず後ろに少し下がってしまったとはいえ、伊織は受け止めたのだ。
防御に特化した"地"の型と"逸れのアーチャー"に近い炎の魔力、そして右手に柄を左手で峰を全力で支える全身全霊の防御。
一瞬たりとも気が抜けず、防ぐこと以外の思考は持てない極限状態ではあるが、果たしてサーヴァントの存在でもカルナを相手に、その芸当が出来る者が一体何人いようか。
「"宝具"を使っていないとはいえ、俺にここまで食い下がれる実力と成長力。つくづくお前には驚かされるな……だが――」
そう、カルナの一撃を少しとはいえ受け止めたのは確かに賞賛に値するものだ。
だが見誤ってはいけない……確かにこの一撃は必殺に等しい威力であるのは間違いないが―――カルナにとって奥義でもなければ、それは多く存在する攻撃の手段の一つに過ぎないのだから。
「っ!?」
刀から伝わっていた、一瞬の油断で吹き飛ばされてしまう巨大な力が突如消えた。
拮抗状態で突き出している槍をカルナが瞬時に引き戻したのだが、それが伊織に一瞬とはいえ思考を生ませ、力を緩ませてしまい――。
「――俺という英雄を、悪いがそう易々と超えさせはせんぞ」
カルナのその言葉が耳に届いた直後、気づけば伊織は後方へと大きく吹き飛んでいったのだった。
(やら、れた…!)
吹き飛ばされる圧力と風を身に受けながらも、伊織は何が起こったのか理解した。
カルナは一撃目に対し防御に徹している最中の伊織に、瞬時に二撃目の槍撃の一閃を叩きこんだのだ。それも、一撃目を凌ぐことに全集中していた伊織に生まれてしまった思考の一瞬の隙をつく形で。
普段の伊織なら予測できていただろうが、全力を振り絞っている極限状態の中で別の思考に割ける余裕なんてありはしない。
だがそれによって生まれてしまった、1秒にも満たない一瞬の思考と迷い。相手が怪異や格下ならともかく――達人以上の格上の武人との戦いでは致命的な隙だ。
己の防衛本能ゆえか刀でギリギリ防御したものも、埒外の威力に耐えることは出来ず、こうして吹き飛ばされてしまった。
「まだ、だ……!」
だが伊織の思考はすでに、この状況からの反撃のことへ意識を切り替えていく。吹き飛ばされ1キロに届こうとした距離で、身にかかる力が弱まったことで身を上手く翻し、無事着地すると同時に刀を地面に突き刺し――
「――この状況でなお諦めの気配はなしか。それでこそ、俺が戦うに値する戦士だ」
こんな状況下にいないはずの大英雄の声が聞こえた途端、悪寒と高熱が同時に襲ってきた。
上を見上げれば、刀を地面で突き立て威力を弱めている伊織と平行するように、カルナが上空を飛んで伊織の姿を捉えていたのだ。
まさか自分を吹き飛ばすと同時に、己の敏捷力と炎の魔力ブーストで吹き飛んで行った自身に追いついたとでも言うのか。
尋常ではない大英雄の行動に舌を巻く暇すらなく、カルナの槍に再び灼熱の炎が纏われ――
「さぁ――三度目はどうする?」
日輪の鉄槌が、容赦なく振り下ろされた。
文字数の多さと区切りの良さから、カルナ戦は後1話続きます。次回もどうかお楽しみに!!です。