更新は不規則になると思いますが、頑張ります!
二〇二二年十一月六日。
オレ───
オレはいわゆる《転生者》と言う奴で、この世界に生まれてから数えで14年になる。
別に異世界と言う程前世と違いがあるわけではないのだが、オレが死んだのは二〇二三年であり、時系列的には現在から一年後なのだ。
最初はタイムスリップでも起こったのかと思ったが生活している内に前世では無かったはずの物や人物──テレビで見る芸能人など──を見て、どうも平行世界的なものなのだと推測した。
まあ、だからといって何か行動に移したわけもなく、ダラダラと生きてきたオレだが、実は前世の頃からしてみたいと思っていることがあるのだ。
即ち、都牟刈村正の再現である。
残念ながら今世の世界には存在していないようだが、前世にあったかの偉大なる型月の誇るスマートフォン向けRPG《Fate/Grand Order》に登場する疑似サーヴァント、千子村正の生涯を反映した宝具。それこそが都牟刈村正。
かの刀匠が生み出した究極の一刀。其は肉を断ち、骨を断ち、命を断つ鋼の刃にあらず。縁を斬り、定めを斬り、業を斬る。時間や空間、因果ごと断ち切ることであらゆる宿業を引き裂き、すべての因縁と非業から解き放つ《救済の剣》。
あれは良い。心の底から憧れた。心の底から鍛ってみたいと思った。どうしようもなく焦がれた。
だがいくら焦がれた所で現実世界でそんな刀が鍛てるわけもない。そう理性では分かっていても本能が、魂があの刀を求めていた。
そんな時に耳にしたのがこのゲーム、ソードアートオンライン。略してSAO。
世界初のフルダイブ型VRMMO。己の握る剣一本で浮遊城アインクラッドと呼ばれる巨大な舞台を駆け上がる、というものだ。
だがオレがこのゲームに求めているのはそこではない。抽選が当たった1,000人のユーザーによるベータテストの情報によると、どうやらその世界では《鍛冶》を含めた様々な生産系スキルがあり、自分の手で武器や防具も作れるらしい。
その話を聞いた瞬間、オレはこのゲームを何としてでも手に入れなければと思った。実際学校を休んでまで買いに行ってきたのだ。貯金を溜めておいてよかったと心の底から思う。
このゲームを開発してくれた天才・茅場晶彦には心の底から感謝しかない。ゲーム、つまりシステムで作れるものはあらかじめ決まっているのだろうが、それでも自分の手で剣を鍛てるのだ。マジでありがとう、茅場晶彦さん。もう貴方に足を向けて眠れないですわ。
─── そう、思っていたのに。
「プレイヤーの諸君、私の世界へようこそ」
初めてのフルダイブで《はじまりの街》と呼ばれる場所を探索していると、突如鐘の音とともに広場の中心へと転移させられた。
辺りを見渡せばオレ以外にも多くのプレイヤー──おそらく現在ログインしている全員だろう──が同じように広場に招集されている。
その後、ゲームマスター・茅場晶彦が現れ招集された理由を説明し始めた。
曰く、メインメニューからログアウトボタンが消滅しているがこれはゲームの不具合などではなく《ソードアート・オンライン》本来の仕様である。
曰く、自発的にログアウトすることはできず、外部の人間の手による脱出もできない。もしそれが試みられた場合、《ナーヴギア》の信号素子が発する高出力マイクロウェーブが脳を破壊し生命活動を停止させる。
曰く、現時点で家族、友人が警告を無視して強制的に解除しようとし、結果213名のプレイヤーが命を落とした。
曰く、ゲーム内におけるあらゆる蘇生手段が機能せず、HPがゼロになった瞬間《ナーヴギア》によって脳を破壊される。
曰く、解放される条件はただ一つ。即ち全百階層からなるアインクラッドを攻略、ゲームをクリアすること。
(……理不尽極まりない。とんでもないクソゲーだ)
仮にこの男の言葉がすべて真実であるのなら絶望的だと言わざるを得ない。聞くところによるとベータテスト時の二か月でさえ十層にも到達できなかったという。
「───それでは最後に」
メインメニューを操作していた左手を下ろし、茅場晶彦はそれまでと何ら変わらぬ声音でオレ達に告げる。
「諸君らのアイテムストレージに私からのプレゼントを用意してある。確認してくれたまえ」
その言葉に、オレを含めて次々とアイテムストレージを開いていく。そこには確かに一つだけ《手鏡》とだけ書かれたアイテムが入っていた。
ウインドウを操作して顕現させてみるが一見普通の鏡しか見えない。鏡に映り込んでいるのはキャラメイクしたオレのアバターだけだ。
「うぉっ……」
いろんな方向から鏡を眺めていると急に肉体を光が包み込んだ。突然のことに驚いたがどうやら周りの人達にも同じ現象が起きているらしい。
数秒ほどして広場を覆い尽くしていた光が消える。手を握ったり開いたりとしてみるが身体に変化はなさそうだ。
『……お前、だれ?』
『……お前こそ誰だ?』
だが周りの人間はどうやらかなり混乱している。何かあったのかと見渡してみると周囲の人たちの顔や体形が変化していた。こう見えて昔から記憶力は良いのだ。
先ほどまではどこもかしくも美男美女しかいなかったのに、こう言っちゃ失礼だが普通顔や小太りとした人が多い。いかにも『私、ゲーマーです』といった顔だ。
「…………まさか」
その原因に思い至り、先ほどの手鏡を覗き込む。
するとそこにはキャラメイクした顔ではなく現実世界での自分の顔が映り込んでいた。
(どうやって現実の顔を……いや、ナーヴギアは高密度の信号装置が顔をすっぽり覆っているんだ。顔の造形をスキャンすることは可能か。でも体型の方は………いやそうか、初期設定の時のキャリブレーション!)
ナーヴギアの初期設定の際、自分の身体をあちこち触ったりしたが、その時のデータを使ってアバターを形成したのだろう。言うは易し。普通に個人データの悪用だ。
だがなぜこんなことを。
「諸君は今、『なぜ』と思っているだろう。何故、『ソードアート・オンライン』及び『ナーヴギア』の開発者、茅場晶彦はこんなことをしたのか」
こちらの考えを読んでいるかのように茅場晶彦は口にした。
「私の目的は既に達せられている。この世界を作り出し、干渉することのためだけに、私はソードアート・オンラインを作った。そして今、すべては達成せしめられた」
茅場晶彦がなにやら言っているが、知った事じゃない。オレの尊敬と感謝を返せこの野郎。オレはただ鍛冶がしたいだけなのに。
「以上で《ソードアート・オンライン》正式サービスチュートリアルを終了する。プレイヤーの諸君の健闘を祈る」
そう言い残して茅場晶彦は虚空の彼方に消えていった。全員がそこでやっと各々しかるべき反応をし始める。
絶望に顔が歪む者。理解が追い付かず涙を流す者。膝から崩れ落ちる者。
オレはどうやら、とんでもないクソゲーならぬデスゲームに参加してしまったようだ。そう思うと頭が痛くなる。
『これはゲームであっても、遊びではない』
茅場晶彦が雑誌のインタビューの際に話していた言葉が脳裏に横切る。
遊びではない。
アバターを現実世界のものと同じにしたのは、そういう意識を強制的にでも持たせるためなのかもしれない。
「………あれ、でも鍛冶は普通にできるよな?」
なら、別にいいか。そもそも遊びのつもりはなかったわけだし。
茅)『これはゲームであっても、遊びではない』
村)「でもゲームなんだよね? じゃあ楽しんだモン勝ちじゃん(ニチャア……)」