最悪のデスゲームに刀匠がログインしました   作:日彗

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本当は昨日投稿したかったんですが、地震と津波で避難したり倒れた家具なんかを掃除したりと忙しかったので本日投稿いたします。
ちなみに家族ともども怪我はありませんでした。震度7はもう二度と経験したくないです。
ストックもこれが最後でして、当分の間リアルが忙しく、投稿ができなくなります。申し訳ない。


第七話 次代の剣聖

 

 修行クエスト、と呼ばれるものがある。

 例を出すとするなら、オレやキリトも取得しているエクストラスキル《体術》がこれに該当するだろう。

 《体術》を会得する時は、素手で巨大な岩を砕けというものだった。要するに何らかの条件をこなすことでそこでしか手に入らない特別なスキルや武器が入手できるクエストなのだ。

 

『かつてこの大地が地続きだった時代、儂は多くの猛者と覇を競い合い、これに打ち勝ってきた。いつしか人は儂のことを《彼岸の剣聖》なぞと呼んでな。……だがいつの間にか儂と対等に戦える者はいなくなった。儂はな、強くなりすぎてしまったのだ。『最強』を目指していた頃はあんなにも愉しかった日々が、いざ『最強』へと至ってみればなにもかも面白味をなくしてしまった。かつて覇を競い合った猛者達も、剣を持ったばかりの素人も、今の儂には等しく同じに見えてしまう』

 

 手際よく料理をつくりながら、ノブツナは2mを越える純白の大太刀を持ち上げた。

 

『この星剣《不知火》は我が一族に伝わる宝刀。星の魂の欠片から生み出されたとされる唯一無二の剣だ。伝説では月を斬ったこともあるというが、それが法螺かどうかは今となっては知る由もあるまい』

 

 薄く笑うと刀を静かに置き、完成した料理をこちらに差し出してきた。

 

「あ、どうも。いただきます……」

 

 あんた海を引き裂いたりしたんだろ? だったら月ぐらい斬れたって不思議はないな、と言いたい気持ちをグッと堪えて、いただいたシチューのようなものに口をつける。

 

「あ、美味しい」

『そうか。………人に振舞うのは何百年ぶりか』

 

 なんか恐ろしい事を言っているが聞かなかった事にする。見たことのない食材ばかり使っていたから心配していたが、想像以上に美味い。この辺りの森で取れたのだろうか。クエストが終わったら少し探してみるのもありかもしれない。

 一気にシチューを平らげると視界の端、HPゲージの横に緑色のバフマークがついた。食べることでバフがかかる料理というのは今までもあったが、どうやらここの食材は《HP回復》のバフがつくらしい。

 ……サラッと言ったがとんでもないな。回復効果バフのつく食材って……まあ、これなら修行の間ポーションや回復結晶の心配をしなくてもいいけど。

 

「そういえば剣を継ぐって言ってましたけど、具体的にどうしたらオレは解放されるんです?」

『儂が良いと判断するまでだ』

 

 ノブツナの言葉に表情がストンッ、と落ちる。時間指定でもなければ具体的な条件もない。達成条件が『良いと判断するまで』とかイカれているのか? 下手すれば年単位で拘束されてしまうということではないか。

 あとスルーしていたが当たり前のように会話が成立している。どうやら他のNPCとは違いかなり高性能なAIを積んでいるらしい。キリトやアスナと攻略したエルフクエストを思い出す。

 

『そう心配せずとも良い。代わりに、と言うのは何だが我が剣術の伝授が全うされた暁には、上へと戻る道まで案内しよう』

「………………………わかりました」

 

 完全に納得はしていないが、修行して剣術の伝授とやらを終えないと変えることが出来ない。

 食事を終えたら早速修行を開始した。時に会話を挟み、時に食事を採って回復しながらの修行は時間の流れをあっという間に感じさせた。

 

 修行開始から一週間、ノブツナ───師匠が目指し、体現した『最強』について話を聞いた。

 

 例えば『機』について。

 たとえどれだけ速い攻撃でも、始まる前に長々と予備動作があれば対応することはできる。だが予備動作が一切なければ虚を突かれやすく、なにより気構えができない。『機』が読めない。

 何時攻撃が始まったのか、何時攻撃が終わったのか。それを相手に悟らせなければ、攻撃側は圧倒的に有利になる。

 故に、相手が攻撃を始めて、軌道を変更できないタイミングで身をかわしつつ、相手が攻撃を外したことに気づく前に攻撃を当てる。これを『後の先を取る』と言い、剣術の基礎とする。

 それを応用して敵がこちらを斬るぞ、と思ってから実際に動くまでに当てる『先の先を取る』。この二つを熟して初めてスタートに立つ。

 

 脳と体は自分の思惑通りには動かない。それは仮想世界でも同じこと。一々敵に対して『思考』していたら、自分の動作に『集中』していたら、そんなことはできない。何もかもが自然にできなければ実行不可能な境地だった。

 

『儂が目指した『最強』はこちらが一方的に攻撃する境地。相手が防げない『力』で攻撃するのでもなく、相手が届かない『間』でもなく、相手が追い付けない『速』でもない。相手が気付けない『機』を常に我が物とする。それが実現できたならば、例え何千何万という敵を前にしたとしても、傷一つ負うことなく涼し気に勝利できる。……言うは易し。儂も物にするのに何十年かかったか思い出せん』

 

 修行の途中で師匠は苦笑を浮かべてそう言っていた。

 

 自分の身体を動かして、人の意志に対して人の身体がどう動くのかを理解する。たとえ仮想空間における仮初の身体だとしても、完全に自分のイメージ通りに動いているわけではない。

 自分の重心が何処に在るのかを理解し、どの瞬間に力が込められているのかを理解する。動作全体における重心や姿勢、変化を完全に掌握する。

 そしてそれが基本となり、盤石の基礎となる。

 相手がどんな武器を持っていたとしても、或いは人間であろうが獣であろうが、相手の身体つきや呼吸からその動きを察することが出来る。

 

 けれどそれでは純粋にこちらの『攻撃力』を上回る『防御力』を固めた相手には勝てない。そうなれば別の要素を足すしかないだろう。例えば強力な武器を使う、などだ。

 弱点があるのならそこを突けばいいが、もしそれがないようならば武器に頼るしかなくなる。『武器に頼らぬ剣術』を極めた師匠が星剣《不知火》を持ち歩いているのはそういう理由かもしれない。

 

 そうして修行を開始してから早二ヵ月が過ぎた。気づけばオレはあの師匠とほとんど対等に渡り合えるようになっていた。

 最初の頃が嘘のように、今は剣を振るうのが楽しい。足元さえ見えなかった師匠のいる領域が少しずつ近づいてくるのが愉しい。いまなお師匠は手加減をしているが、少なくとも二ヵ月前までの自分とは何もかもが違うという実感がある。

 

 この二ヵ月、ひたすら師匠の動きを研究し、それを真似た。

 その過程で自分の動きには多くの無駄や間違いがある事に気づき、それを直そうと矯正する。

 そうして意識をすることで、オレは自分の身体の動きが分かるようになった。剣を振るうのは腕ではなく、全身だということが知識ではなく体感で認識できるようになったのだ。そうしていわゆるへっぴり腰などそういったものが矯正されていく。

 当たり前だが、剣を振るときは直立不動のまま、肩から先だけ動かして振っているわけではない。姿勢だとか重心だとか、そういうものにまで意識が及ぶようになっていく。

 だがそうなると、今度は全身を意識するようになる一方で、腕が疎かになる。それを直そうとすると今度はまた別の場所が疎かになる。

 

 これを繰り返していると、全身の関節の動きを理解できるようになる。仮想の肉体と言えど、動かす以上関節や骨(のようなもの)も一応は存在する。それらの動きに気を配れるようになり、いつしかそれが意識しなくても自然な動作として染みついた頃になって───師匠と比べるとまだぎこちなさがある事に気づく。

 リアルでもVRでも同じことだが、身体を動かすときに力を入れ過ぎていたり、或いは力を入れていない部分があると身体の動きと言うのはガタつくものだ。次点でオレはその辺を集中するようになって、結果関節の動きが疎かになり、どんどんひどくなっていく。これらをなんとかまとめ上げると、ようやく師匠に近づけていた。ここまでで一月半が経過した。

 

 そこでオレはふと気づく。今まで意識して観察、インプットしていた周囲の情報を、無意識レベルで行えるようになっていたことに。

 対面する師匠の関節の動き、視線、重心に集中ながらもそれ以外のフィールド全体の音、匂い、光を把握できている。一部に集中しながら全体の動きにも集中できるようになったということだ。それをさらに繰り返していくと、剣に神経が張り巡らされていく。自分の握っている剣が、どういう形をしているのか、どう振れば重くなるのか。それが理解できるようになっていく。

 

 この境地に達した時、師匠は薄く、されども確かに微笑んでいた。

 紆余曲折、と言う程でもないかもしれないが、こうしてオレは二ヵ月かけてようやく師匠の言うところの『基礎』、そして全ての武道に通じる『奥義』を会得した。

 

 そして────

 

『ぐ………っ』

 

 オレの刀は等々、師匠の身体へと届いた。

 最初の頃のような自滅覚悟のかすり傷とは違う、確かな一太刀。この一撃を入れるまでに数百を超える剣戟の応酬と少なくない傷を負ったが、この日初めてイセノカミ・ノブツナは傷らしい傷を負った。

 

『……よもや、たった二月(ふたつき)で我が剣に並ぶとはな。儂が見込んだ以上の才覚だった、というわけか』

 

 そう言って師匠は仰向けに倒れた。

 

「師匠ッ!?」

 

 突然倒れこむ姿に驚きの声を上げて駆け寄る。

 

 慌てて上半身を起こすと、師匠の身体が薄く光り、所々透け始めていた。

 

『長い……永いこと、待ち続けた。大地が浮き上がり、肉体が死に果てようとも……この魂はこの世に強き未練を残していたのだ……』

「……ッ!」

 

 ぽつぽつと語り始める師匠の言葉に耳を澄ませる。さっきまでは気が付かなかったが師匠の顔色はかなり悪い。

 

『……我が未練は、強者との戦いに非ず………我が剣の術理を……我が奥義を後世に……伝えること……』

「もういいです師匠! どうやったら止まるんですか!? ポーション……結晶は────!」

 

 アイテムストレージを開こうとするオレの指を、師匠の手が握りしめる。

 相手は電子データの配列。人ですらないAIの筈なのに、その握られた手はとても温かかった。

 

『我が生涯、唯一の弟子よ……我が剣を、継いだ……次代の《剣聖》よ……。汝の一太刀を浴びて、もう、未練はない………』

「なにを……何を言ってるんですか!? まだ教わっていない事だってある! あなたはオレの知らない《景色》をオレに見せてくれた! それなのに今更っ……こんな、ところで………」

 

 頬を一つの雫が伝っていく。この世界の、仮想の肉体は脳から発せられる信号をナーブギアが読み取り、変換しているため悲しいときは勝手に涙が出る。ムカついたり、怒ったりした時も同様に顔に出るものだ。

 だがオレはこの世界に来て一度も涙を流したことがない。目の前で人が死んだときでさえ涙は零れなかったのに。

 

 分かっている。これがこのクエストのシナリオだ。《大地切断》前の人物が今ここに居る理由は、肉体が滅んだ後もこの世の未練から成仏できず、魂だけとなって待ち人を只ひたすら待ち続けていたから。待っていたのは更なる強者ではなく、自分の剣を受け継ぐに相応しい人物だということ。そして今日、オレの一太刀が届いたことで《継承》が完了したと判断され、クエストが進行した。

 けれど……けれども、たとえ決められたシナリオだったとしても、そこに何も思わないというには二ヵ月というのはあまりにも長すぎた。オレの心はもう目の前の男を『システム通りに動く人形』ではなく『意思を持った一人の人間』として見てしまっている。

 

 そんなオレを見かねてか、師匠は小さく微笑んだ。

 

『儂のことは気にするな……と言っても、汝がそういう性格ではないことなど、この二月でよく理解している。まったく、仕方がない奴よ……』

 

 そう言って師匠は脇に置かれた純白の宝刀を、手を震わせながら持ち上げた。

 

『皆伝祝いだ……汝に、この星剣《不知火》を授けよう……。この世に斬れぬもの無しとまで謳われた我が最古の友だ。汝にならば、安心して任せられる』

 

 星剣《不知火》。それはオレがこの階層にきた第一の目的だったもの。師匠が大切にしていた分身と言うべきそれをこちらに差し出してくる。

 ……二ヶ月前の自分ならば迷うことなく受け取っていただろう。だけど今は、今のオレにはもう───

 

「……いいえ。いいえ、師匠。その剣は受け取れません。師匠からはもっと大切なものを頂きましたから」

 

 差し出された《不知火》を押し返す。師匠の顔がわずかに驚きを帯びたが、それにオレは笑みを返した。

 

「それにオレは鍛冶師ですから! いつか必ず師匠の星剣より凄い刀を鍛えますからね! 何せ目標は都牟刈ですし!」

 

 月を斬るだの、海を裂くだの、そんなものは必要ない。

 我が()が求めるは肉を断ち、骨を断ち、命を断つ鋼の刃に非ず。

 オレが目指す都牟刈とは、もっとずっと、先の領域にあるものだ。

 

『そうか。………そうか』

 

 オレの言葉に納得してくれたかどうかはわからない。だけどこの二ヶ月間で培った術理と価値観は何ものにも代え難い宝なのだと、今なら思う。

 そのうえ剣まで貰ってしまえば罰が当たりそうだ。

 

『その覚悟や良し。ならば、自ら茨の道を行く者よ。その螺旋の先に、汝の望むものがあらんことを、切に……願っている……』

 

 その言葉を最後に、師匠───《彼岸の剣聖》イセノカミ・ノブツナの身体は溶け込むように光の粒と化し、消えていった。それと同時にクエストクリアを告げるシステムウィンドウが現れるが気にしている余裕はない。

 クエストの仕様なのか知らないがポリゴン片にはならないんだな、などと頭の片隅に浮かんでいる間も、俺の意思に反して涙は溢れ続けている。

 

 ようやく落ち着いたタイミングで、先ほどまでは無かったはずの道が目の前にできている事に気が付いた。師匠はこの件が終われば上に戻る道まで案内すると言っていたが、こういうことだったらしい。

 クエストのクリア報酬に目を通す。当初の予想通りコルはなかったが、なぜか大量の経験値とたった一つだけアイテムが表示されていた。

 オレはメニューを操作して手に入れたアイテムをオブジェクト化させる。

 

「……これは」

 

 手に取ったのは師匠がいつも着ていた物に似た、内側に菊の花の意匠が描かれた白の羽織。

 アイテム名は《山紫水明の羽織》。見た目はどことなく、かの刀匠《千子村正》の持つ羽織に似ている。

 

「……もう十分貰ったって言ったのに…………」

 

 収まったと思っていた涙が再び溢れ出すも振り払い、今しがた入手した《山紫水明の羽織》を装備する。性能はここ最近見た中では飛び抜けて高い。鎧のように動きを阻害しないためオレとの相性もいいだろう。強化を続ければかなり上の階層でも通用しそうだ。

 

「───お世話になりました」

 

 最後に二カ月もの間、世話になったこの場所に頭を下げると、上に続く道へと踏みだした。

 踏み出す瞬間、誰かに背中を押されたような気がしたが、それが勘違いなんかではないことを願う。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

 この後無事に上層へと戻れたオレは、今まで使っていた刀《古月》から刀身が長い大太刀───《不知火》ほどの長さではない───へと主武器を変え、まだ攻略されていないフロアボスに一人で挑み、一時間の激闘の末討伐に成功した。この単独によるボス討伐を得てオレは《剣聖》などというあまりにも重く、烏滸がましい二つ名で呼ばれることになった。それを遅れて知ったアスナやキリトには一人でボスに挑んだこと、二ヵ月もの間音信不通で心配を掛けたことをこっ酷く怒られたが、オレとしても自分の中の気持ちを整理したかったのだ。

 ただ、いくら二ヶ月も行方不明になったからと言って、メッセージが四桁に届きかけていたことには少々驚いた。キリトやアスナ以外にも、クラインやエギル、リズやミト、ノーチラスからも心配の言葉が来ている。後から聞いた話によると、オレの捜索のために多額の金を使って捜索依頼を掛けてくれていたらしい。アルゴからの情報で十層の捜索もしたというが、オレがいた場所はマップにも表示されない領域だったため見つけられなかったようだ。

 

 また、情報屋アルゴに今回のクエストと星剣《不知火》のことを伝え、調べてもらったがそのようなクエストは一切見つからなかったそうだ。なにかしら条件があるのか、それとも一度きりのユニーククエストの類なのかは誰にも分からない。

 

 そういえばオレがいない二ヶ月の間に50層を攻略したらしく、キリトがLAボーナスの片手剣《エリュシデータ》というのを手に入れていた。よもやオレという専属鍛冶師がいながら、そんな何処の馬の骨ともわからぬ剣を使うつもりじゃあるまいな? な?

 え? 要求値が足りなくて装備できない? ……だったら溶かしてインゴットにしよう! そうしよう!

 

 それから更に一ヶ月が経った頃のことだ。オレのスキル欄から《鍛冶》、《革細工》、《彫金》といった武具生産系スキルが消滅し、代わりに《刀匠》という見たことも聞いたこともないスキルが加わっていたのは。

 




《彼岸の剣聖》イセノカミ・ノブツナ
 ムラマサが第十層にあるマップ外未開拓エリアで出会ったNPC。最前線の攻略組としてアスナやキリトと何ら遜色ない技量を持っていたムラマサを単純な技術のみで完封してのけた‟化物”。己が目指す『最強』を手にせんと修行を積んだ剣の達人。
 戦いにおいて相手に勝つにはどうすれば良いか。簡単だ、相手が防げない『力』で攻撃すればいい。相手が届かない『間』から攻撃すればいい。相手が追い付けない『速』で攻撃すればいい。
 だがノブツナが目指した最強はそうではなかった。相手が防げない『力』ではなく、相手が届かない『間』でもなく、相手が追い付けない『速』でもない。相手が気付けない『機』を常に我が物とすることで、一方的にこちらが攻撃しつづけるという境地。
 実はカーディナル・システムの一部である《自己学習型戦闘倫理応用システム》をAIとして組み上げたものであり、SAOプレイヤーは当然の事、現実世界のあらゆる武術やその情報を取り込み昇華させることに成功した唯一の個体。ただし今回のクエストもノブツナもカーディナル・システムが《ムラマサ》というプレイヤーを観察するためだけに用意したものなので再登場することはない。
 だがそれはそれとしてこの二ヶ月で更なる成長と進化、自我の獲得と発達まで至ったノブツナというコードネームを与えられたAIを削除することを惜しんだのか、カーディナルはデータをバックアップ、GMにも見つからないようサーバーの奥深くに仕舞い込んだ。


星剣《不知火》
 イセノカミ・ノブツナの持つ刃長170㎝、柄長30㎝、総長200㎝ある反りの小さい純白の大太刀。ムラマサ曰く、ここまで大きな剣カテゴリー武器は現在まだ発見されていない。そのリーチはもはや『槍』の領域である。
 その刀はかつて『山を断ち大地を引き裂き海を割った』『月を斬ったという伝説がある』とまで言われるほどのもの。星の魂の欠片から鍛造したという、サーバーに一つしか存在しないユニーク武器。
 ムラマサとの立ち合いを行った二ヶ月間でノブツナがこの刀を抜いたことはない。一度だけ刀身を見せたことはあったが、その刀身もまた息を呑むほど美しい《白》であり、表面に見える波紋はまるで星々のように瞬いていたという。修行の際は常に鞘に納めたまま行っていた。
 今回はムラマサが断ったため消滅という結果になってしまったが、仮に手に入れたとしても現在のムラマサではステータスが要求値に届いていないため装備できない。
 

『終局に至る、剣の鼓動』
 ムラマサが二ヶ月もの長い間時間をかけた修行クエスト。攻略条件、達成報酬が何も書かれていない謎の多いクエストだが、それはカーディナルがムラマサを観察するためだけに作ったものだったため。ちなみに攻略するには順序があり①ノブツナに実力を認めさせ修行をつけるフラグを立てる。②ソードスキルを使わずに一太刀を当てる。(ただしマグレだと判断された場合はノーカウントにされる)となる。
 なので最初の立ち合いの際で実力を認められなかった場合、そのまま殺されていた。フラグが立ち、②へ進むとHP回復効果のある食事と寝床を提供してもらえるという好待遇になる。
 クエストクリア後、その修業期間中の行いによって報酬が変動されるが《不知火》だけは確定だった───のだが、ムラマサはそれさえ断り、あまつさえAIであるノブツナがそれを認めたために《不知火》は消滅。二ヶ月の激戦から考慮された膨大な経験値と羽織だけが報酬となった。
 そのありえざる結末とムラマサ、ノブツナの不可解な行動にエラーを起こし、若干自我が芽生え始めたカーディナルはGMにも内密に1()1()()()()()()()()()()()をデザイン。それを《不知火》の代わりとして当プレイヤーに与えた。


《ムラマサ》
 本人も気付かないうちに何やらよく分からないシステムに目をつけられ、観察されていた当作品の主人公。類まれなる記憶力、洞察力、学習能力を活かしていろいろと活躍をしてきたが本人は割と本気で興味がない。なぜならその心も魂も、たった一振りの刀に向けら(以下省略)
 カーディナル・システムが彼を観察対象にした理由は、SAOサービスが開始されたとき、多くの者が絶望という感情を抱えていた中、彼だけが一切動じておらず、それどころか心の底から楽しんでいたため。彼にとっては鍛冶に命を懸けるのは当然の事であり、剣を打てるのであればデスゲーだろうがクソゲーだろうが関係ないというだけなのだが、そんなことを知る由もないカーディナルにとって彼は特殊な個体であり、特別な人間だった。 
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