お助け大将はダメトレーナーを拾ったようです   作:ブルーペッパー

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 アニメ3期始まったんでキタサンで短編書こうと思ったらもう最終回で芝生えますわよ奥さん。
 アプリ版準拠でキャラスト4話分をイメージしてます。



1話 泥炭 ─ 太陽との遭遇

 よくある話だ。

 幼少期に見たウマ娘のレースに心奪われて、トレーナーになることを夢に見る。

 成長するにつれてその夢が途方もなく高い壁の向こうにあることを知り、それでも諦められなくて奮起した。

 数度の挫折と焦燥。幼少期に抱いていた根拠のない全能感は遠に消え、自分はどこにでもいる平均値かその下程度の能力しかないことを思い知る。

 そこで脚を止めればよかったのだ。

 なのに、もがいてしまった。足掻いてしまった。このままでは終われないと、さらに努力を積み重ねてしまった。

 

 ありふれた話だ。

 数度の挑戦の末、ようやく手にしたトレーナー資格。客ではなく関係者としてくぐるトレセン学園の門。いつか見た夢の続きが始まった。

 一年目から未来のスターウマ娘との運命的な遭遇、とまではいかなかった。

 新人トレーナーとしての下積み時代。先輩トレーナーのサブとして経験を積む日々が続く。

 そして出会った。

 出会ってしまった。

 俺の、初めての担当ウマ娘。俺が才能を見出し、専属契約した少女。デビューしてすぐ重賞に! なんて都合のいい展開にはならなかったが、二人三脚で勝利を目指す日々が続いた。

 メイクデビューでは三着。そこから二回の未勝利戦を経て一勝クラスへ。勢いのままに二勝クラスへ昇級した。

 そこから先は時間がかかった。適性の合うレースに縁がなく、勝利を重ねてオープンクラスに来た時には栄光のクラシックレースは終わっていた。

「すいません……」

 シニア級に入るころ、彼女は唐突に頭を下げた。

「なんで謝るんだ?」

「だって、トレーナーさんの期待に応えられませんでした」

「別にお前が悪いわけじゃない。……それを言ったら俺の方こそお前の力をちゃんと引き出せなかった」

「じゃあ、お互い悪かったということで」

「なんだそりゃ」

 その後も彼女との二人三脚は続いた。晩成傾向だったのか、お互い経験を積んだ成果なのか少しずつ戦績は上向いて行った。

 そして季節は巡り春。ついに来た重賞への挑戦、しかも栄えあるGⅠだ。世間的には格上挑戦という見方だが、俺から見れば距離もコースもバッチリ噛み合った舞台。大本命間違いなしだ。

「それじゃあ行ってきます」

 念願の、自分だけの勝負服を着た彼女の表情は明るかった。徹夜でデザインを描き起こし、デザイナーと額を突き合わせて作り上げた渾身の衣装は彼女をより一層輝かせた。

「行って来い。悔いの無いようにな」

「はい!」

 レースが始まった。澱みなくレースは進み、彼女も自分の走りができていた。

 勝てる。そう思った。

 先頭集団に混じって最終コーナーから最後の直線に入る。

 

 そして、ソレは起きた。

 

 崩れ落ちる体躯

 青々としたターフに飛散る赤、赫、あか……

 

 歓声が悲鳴に変わる。

 静止も聞かずにターフへ乗り込んでいた。

「おい……おい! 大丈夫か!?」

「トレ……ナー、さん……」

 血色の良かった顔が蝋のように白かった。

 豪奢な衣装を汚す泥と芝。小さい頃から好きなんだと、こだわり抜いて挿したゆるキャラのワッペンが朱に染まっていた。

 足元を見る。

 

 見えてはいけない、白があった。

「ご……めん、な……さい」

 彼女が絞り出した声は、鳴り響くサイレンによって掻き消された。

 

 あのウマ娘がターフに戻ることはなかった。

 同時に、俺の心が急速に冷めていった。

 幼少期から俺を突き動かしてきた熱は、もうない。

 

 残ったのは、燃え尽きることもできずに残った炭もどき。

 

 所詮、掃いて捨てるほど量産される話だ。

 夢追い人が背負えるのは己一人だけ。だれかの運命を支える力などないくせに、目を背けた故の自業自得。

 走り続けた先にあるのはゴールではなく、断崖なのだと知らずに駆け抜けた。

 底に着くことなく落ち続ける、熱を失い、志も折れた間抜けの話だ。

 

 

 ◆

 

 

 むしゃくしゃしてやった。

 思えば朝からなにも上手くいかない日だった。

 春の陽気に当てられ浮かれる新人たち。夢と希望に溢れた新入生たち。過去の自分を見ているようで耐えられなかった。

 同僚には部屋が汚いだの身だしなみがなってないだのを厳しく言われ、学園では勤務態度を生徒会のウマ娘に苦言を呈される。

 愛飲してる缶コーヒーがその日はどこも売り切れで、テレビで紹介されたとかで行きつけの店には行列が出来て入れなかった。

 雑誌では年下のトレーナーが担当と仲睦まじい様子を見せつけられた。

 ああ全く。ストレス発散で石を投げるくらいは許されるだろう。

「だからって部屋のカギを間違って投げるかよ」

 むしゃくしゃしてやった。一時間前の己を殴り飛ばしたい。右の手に掴んでいた小石は既に無く、春の河川敷の草むらで男───つまり俺───が一人途方に暮れる。

 視線を下から上に向ければ日が暮れ始めていた。

 ポケットから煙草を取り出して咥える。火は点けない。ただ思考を落ち着けるルーティンだった。

「もういいか……」

 必死に探すのが阿呆らしくなった。今どきカギ一つどうにでもなる。

 学園に連絡して管理に開けてもらえば済む話だ。鍵の交換とその費用、始末書と説教が確実だがまあ仕方ない。

 いっそこれを期に本当にトレーナーを辞めるのもありか。あの春以来、惰性で続けてきたがちょうどいいタイミングなのかもしれない。

 カギの紛失が決め手とは滑稽だが、俺には相応しい最後だろう。

 帰ろう。いやその前に学園に連絡か。スマホを取りだした。

「お困りですか!?」

「うおっ」

 背後からの声にスマホを落としそうになった。……セーフ。流石にこっちはまあいいかでは済まない。

 一体誰だと振り返ってみれば、黒髪のウマ娘がいた。

「お困りですか!?」

「え、いや、カギをな……」

 見れば着ている紅白のジャージはトレセン学園のものだ。ちょっと気まずい。

「カギ! 落としたんですね。私も探すのお手伝いします!」

「いや、流石に悪い───」

「大丈夫です!」

 草むらを掻き分けだすウマ娘。それからは何を言っても大丈夫です! お助けします! しか返ってこない。

 根っからの善人というかお節介というか。俺には眩しすぎる存在だった。

「………………」

 もうこいつ放置して帰ろうか? そんな考えが浮かぶくらい、俺の性根は腐ってきたらしい。

 そして実行できない程度にはお人好しなようだ。

「その辺はさっき探したから、向こうの方を見てくれ」

「はーい!」

 結局、このお節介焼きの善意に付き合うことにした。

 

 日は沈み、月が顔を出した頃、ついに見つかった。

「あったー!!」

 鈍色に輝くカギを掲げて、歓喜の声を上げるウマ娘。土と草にまみれているのに、やり遂げた彼女の表情は太陽のように眩しかった。

「はいどうぞ。見つかってよかったですね!」

「ああ本当に。ありがとうな」

「いえ、困った時はお互い様ですから……ってああ!」

 一転して顔色が青くなるウマ娘。スマホの時計を見せてやる。トレセン学園の生徒ならそろそろ門限を気にすべき時間だ。

「す、すすすすいません! 私帰らないと。じゃあ!」

「待て。俺のせいで遅くなるわけだから───」

「また困ったらいつでも頼ってくださいね! さようならああぁぁぁ………!」

 トレーナーとして門限破りも庇える。そう言おうとする俺に背を向け、黒髪ウマ娘は走り去って行った。

「………最後まで人の話を聞かない奴だったな」

 追いかけようか迷って、追いかけないことにした。

 ウマ娘の走力について行けるわけがない。あの速さなら門限には間に合うだろうし、気に病む必要もないだろう。

「担当、ついてるんだろうか」

 思わず口に出していた。あの娘、見たことない顔だからデビュー前だろう。それにしては随分と速く見えた。

「……アホらし」

 ついさっきまで辞めることを考えていたくせに何を言っているのか。我ながら無軌道な言動に嫌悪する。

 あれほどの娘ならデビューも遠くはないだろう。そうなれば、俺なんかとは縁のない存在になる。

 そも広いトレセン学園。次に顔を合わせることもないだろう。

 帰ろう。

 今日の遭遇は、女神の気まぐれのようなものだったのだ。

 

 

 

「あああーーーー!!!」

 もう会うことは無い。そう思っていたはずなのに。

「お兄さん、この前の!」

 次の週、俺の前にはあのウマ娘がいた。

「トレーナーさんだったんですね! 私、キタサンブラックって言います!」

 女神の気まぐれは、まだ続いていたようだ。

 

 

 

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