お助け大将はダメトレーナーを拾ったようです 作:ブルーペッパー
↑みたいなあらすじにしようとしたけど投稿段階でブラック呼びする場面が無かったのでここで供養します。
その日は種目別競技大会だった。デビュー前、デビュー済み問わず本人が選んだレースプログラムを走る大規模な模擬レースだ。
学園が主催なだけあり外部からの見学者も多く、レースファンからすれば本番のレースよりもウマ娘を近くに感じられるので人気が高い。
更に、デビュー前のウマ娘からすれば自分の実力をアピールするチャンスだ。ここで活躍すればトレーナーからスカウトされる可能性も高く、トレーナーから見ても担当を見つける絶好の機会であった。
「頑張りますので、よかったら私のレース見ていってくださいね!」
例のお節介焼き───キタサンブラックも出走者として参加するらしい。
またも俺の返事を聞かずに出走者の待機列へと向かっていく背中をよそに学園支給のスマホで今日のレースプログラムを確認。キタサンブラックの名前を探して……あった。
「短距離か……」
1400m右回り、それがキタサンブラックが走るレース条件だった。
……止めよう。元よりスカウトする気は無いのだから、レースを見る必要なんてない。
「どこに行くんですか?」
また背後から話しかけられた。なんかデジャヴ。
振り向いた先にいたのは栗毛の長髪、前髪に菱形の星を浮かべたウマ娘だった。
俺でもさすがに知っている。
そんな娘が俺に批難の眼差しを向けていた。思い当たる節は、一つだけ。
「キタちゃん、見ていってと言ってましたよ?」
「あいつの知り合い?」
「親友です」
「そ」
合点がいった。こいつは俺のことを知っている。少なくとも近年の悪評を。
まあ傍から見れば不良トレーナーだからな。友人がその毒牙にかからぬよう警戒してるし、俺に対しても釘を差しに来てる。そんなところか。
無意味な警戒だよサトノダイヤモンド。俺はもうトレーナーとしては終わっている。
「スカウトする気はないよ」
でも悪人のところに来るなら、もう少し人数を集めてからの方がいいな。数は力だよやっぱ。
「……キタちゃんは強いですよ」
「かもね。でも俺には関係ない」
見所はある。そのうちまともなトレーナーにスカウトされて、トゥインクルシリーズにデビューできるだろう。
しかし、
「今日は勝てないよ、あいつ」
キタサンブラックに1400mは短すぎる。
◆
「はい。確かに受け取りました。今日はもう急ぎの案件ありませんのであがってかまいませんよ。
そういえば今日は種目別競技大会でしたがご覧になりましたか? ……いけませんよ。トレーナー業の本分はウマ娘を担当することにあるわけですから。
貴方のお気持ちは分かっているつもりですが、担当を見つけようとする姿勢くらいは見せていただかないと」
今日もこわい緑のお小言を食らって帰路につく。
さて、トレーナーのくせに担当ウマ娘を持とうとしない俺がトレセン学園をクビにならない理由は主に二つ。
一つは最低限の仕事はやってるから。トレーナー業は内容が多岐に渡り、量も多いもんだから激務だ。だからってスターウマ娘を何人も抱える名トレーナーにはそんなことより担当を見ていてほしいのが学園の本音。なので俺のような駄目トレーナーや担当を持たない新人はそういう雑務のような仕事を振られるのだ。トレーナーの本分を~なんて小言は来るが仕事してることに違いはない。
もう一つはまあ雇用される側の特権というか、犯罪行為でもしない限り中々クビにできないものなのだ。といってもトレセン学園は私立なのでお上の意向一つで吹き飛ばされてもおかしくないのが底辺の俺だ。だから振られた仕事はこなす。
かあ~呆れるくらい器が小さい! 嫌になるね。
自己嫌悪に浸っていると声が聞こえた。
「まけたああああ~~~~!!」
グラウンドを爆走するウマ娘がいた。キタサンブラックだ。
爆走理由は本人が叫んでいた。
レースで負けたウマ娘が切り株に思いの丈をぶちまけるのは知っているが、爆走も加わるとはよほど悔しいのだろう。
「というかレースがあったその日にあんだけ走るとか、スタミナどうなってんだ」
声に出してから頭を振る。
いかんいかん。今日サトノダイヤモンドに無駄な釘を差されたところだ。見ていたらまたあいつに絡まれる。
「あ! トレーナーさん!」
……遅かった。背を向けたところで声をかけられた。
無視するか? ウマ娘至上主義を掲げるトレセン学園でそういう対応は良くないか。でもこいつに関わると絶対面倒そうなんだよな……。
幾多の苦悩の末に、最低限の会話でさっさと去ろうと決めた。
「すみません。見ていって下さいなんて言っておいて負けちゃって……」
「気にするなよ。調子でない時もあるさ」
見てないけどな。
「そういうものですかね」
「意外と次はあっさり勝つもんさ」
内容知らないけど。
はあ、とキタサンブラックは何度目かの深い溜息を吐いた。
「せっかく先輩にも指導してもらってたのに……」
「先輩?」
「サクラバクシンオーさんです」
意外な名前が出た。なんとあのスプリント王者と親しいとは。しかしバクシンオーか……あのウマ娘から指導されたんなら短距離種目に出るのも当然か。
「私、結構走れる方だと思ってたんですけど……八着なんて」
「あんまり思い詰めるなよ。二桁着順じゃないだけまだましだと思ってだな───」
「八人中の八着なんです」
「………………」
や、やらかしたああ! ってか出走者少な! 種目別競技大会なのになんでそんな少数レースになってんだよ! トゥインクルの未勝利戦じゃねえんだぞ!
「あの……もしかしてレース見てませんでした?」
「…………………すまん」
「い、いえ。私も都合考えずに言ってしまいましたから……」
気まずい……。
何か、その、話題を変えよう。
話題、話題……今のトレセン生のトレンドってなんだ? ええい、日頃の怠惰が憎たらしい。自業自得? はいそうですね!(逆ギレ)
「え、ええっと……やっぱり夢は短距離のトップとかなのか?」
結局レースの話題になったが、負けた話を続けるよりはましだろう。
「いえ、その……レースというよりも憧れのウマ娘はいます」
「へえ、誰か聞いても?」
「はい! トウカイテイオーさんです!」
一瞬、頭は白紙になった。
「…………そうか」
栄光と挫折、からの復活。実力もドラマも兼ね備えたスーパースター。それは俺には眩しぎる名だった。
トウカイテイオーはターフに帰って来た。あいつは帰ってこれなかった。その違いは───
「トレーナーさん?」
「あ、いや、なんでもない。……そうか、トウカイテイオーが憧れか」
「はい! テイオーさんみたいなウマ娘になるのが私の夢なんです!」
「まああの有馬記念は凄かったからな……。ん? トウカイテイオーに憧れているのならどうして短距離を?」
「いやーその、私まだあんまり自分の適性とかよく分かってなくて。そしたらバクシンオーさんが『ではともにバクシンの道を究めましょう!』と誘われたので」
「ほーん」
誘われるがままに短距離種目に出たと。意外にも押しに弱いのか? いやしかし、キタサンブラックの言葉には引っかかるものがあった。
「種目別競技大会に出れるくらいなのに距離適性が分からないのか?」
トレセン学園の職員はトレーナーだけでなく教官たちも優秀だ。普段の集団トレーニングから適性を見極めて目指す方向性を示すくらいわけない。
そんな連中がこいつに適性を伝えていないなんて。
───だから
「おまえは中距離以上の方が合いそうだけどな」
つい、口が滑った。
「そうなんですか!?」
「うおっ」
「わ、私の距離適性って中距離以上なんですか!? それって、テイオーさんと同じレースに出れるってことですよね!」
「た、ただの勘だ。真に受けるな」
「じゃあ一回私の走りを見てください! 今から一周走ってきますから!」
「は? ちょ、ちょっと待て!」
「うおおおおおおお!!!」
またしても、キタサンブラックは俺の言葉を待たずに駆けだした。
この状況で立ち去るわけにもいかず、キタサンブラックの爆走を見ているしかなかった。
「一応、録画くらいしておくか」
今日何度目のため息か。俺はスマホを爆走ウマ娘に向けるのだった。
そして結論。
「フォームからやり直すレベルだな」
「ええ!?」
「力任せに走り過ぎだ」
キタサンブラックの走りを見て、どうして教官連中が距離適性を見抜けないのか分かった。こいつの走りは技術が伴っていない。そのくせ身体能力は高いもんだからそこらのウマ娘よりも走れる。極めつけは師事するのがサクラバクシンオーだ。そりゃあ短距離いくのを止めようがない。
が、身体能力だけで勝てるほどレースは甘くない。併走トレーニングなら先着できるだろうが、模擬レースに出てくるレベル相手じゃ技術の差で負ける。
「一応、サクラバクシンオーから教わってるんだろ? どんな指導されてる?」
「えっと……『バクシンを極めるのです! さすれば道は開かれるでしょう!』と」
天才のそれだった。サクラバクシンオーはレースセンスはずば抜けているが悲しいかな、指導者には絶望的に向いていない。
「サクラバクシンオーは無自覚に全部こなしてるんだな。ほれ、あいつのレースだ」
今時、資料室に行かずともレース映像はネットに溢れている。
試しにサクラバクシンオーが走ったトゥインクルシリーズのレースをスマホで再生し、キタサンブラックに見せる。
「そんでもってさっき走ってたお前がこっち」
「ぜ、全然違う……!」
GⅠウマ娘とデビュー前のウマ娘を比べるのも酷だが、フォームの出来は雲泥の差だった。
サクラバクシンオーの洗練されたものに対して、キタサンブラックの走りはドタドタというオノマトペがぴったりだった。
「中距離走りたいこととフォームのことを教官に相談しろ。そうすりゃマシになる」
ここまで世話してやれば十分だろう。あとは教官連中がなんとかするし、まともなトレーナーからスカウトもかかる。
そうすればきっと……いや、俺には関係のないことだ。
今度こそ立ち去ろうと背を向けた。
「……………………」
身体が動かん。顔だけ後ろに向けると、キタサンブラックが俺の裾を掴んでいた。
「あの、私のトレーニングみてくれませんか?」
「悪いが担当を取る気はないんだ」
「次の模擬レースまででいいんです! 私、まだ知らないことだらけだってようやく分かって……教官たちも付きっきりで見てくれるわけじゃないですし、だから!」
正直断りたい。というか教官の教えだけで十分活躍できると思うが……。
手を振りほどこうとして脳裏にあの緑の秘書官が浮かぶ。さっきも小言だが警告されたところだ。こいつを拒絶したところでアウトとは思えんが、わざわざマイナスを選ぶのも良くないか。
「……次の模擬レースっていつだ?」
「来月です!」
「じゃあ一月だけな」
「……! あ、ありがとうございます!!」
こうして、俺とキタサンブラックのトレーニングが始まった。
始まってしまった。