死にたくないので百合の間に全力で挟まりにいこうと思います   作:散髪どっこいしょ野郎

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日常

「……うぅ……」

 

「……まあ、なんだ。お前はよくやったよ」

 

 

あんだけ命張って得られた対価は、生き残った俺たちに対する罵声だった。

 

家族を亡くした悲しみから来るものだとは分かってはいてもやはり堪える。あんな奴らを護る為に俺は……俺たちは戦っているのか。

 

 

「でも……そうだよね。あたしだけ生き残っちゃったんだから……戦わないと」

 

 

そういえばそうだ。コイツは自分だけ生き残った罪悪感からよりいっそう戦いにのめり込むようになっていくのだった。一応原作と比べて俺という存在がいることもあり症状は軽めだが、典型的なサバイバーズギルト状態に陥っている。

 

 

「……稲船さんのとこ行こう」

 

「……うん」

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

「記憶が無い?」

 

「ああ……気がついたらあそこにいて、キミたちに助けられていた」

 

 

稲船葦火は記憶喪失らしい。いや俺は事前に知っていたが、ハルはそれに同情的な様子を見せていた。

 

 

「そういえば、まだお礼を言ってなかったな。ありがとう、二人とも」

 

「いえっ!あ、あたしはそんな……」

 

「ありがとうっつってんだから大人しく受け取ろうぜ。実際助けたのはお前なんだし」

 

 

ちなみにだが、稲船葦火にメルヒュノン適性は無い。

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

「訓練終わったし、あたしちょっと出かけてくるね」

 

「稲船さんのとこか?」

 

「うん。それじゃ」

 

「ん。お疲れ」

 

 

原作では公式カップリングだったこともあってか、二人は意気投合しているようだった。

 

 

「……俺も行くか」

 

 

本来百合の間に挟まるのは御法度だが、メインキャラから離れたらどうなるかは痛い程理解している。事実、別部隊だった俺とハルの両親は先の大戦で戦死している。

 

俺は死にたくない。なにがあろうと。

 

 

 

 

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

 

 

 

 

「──それで、向日葵はあたしの親友なんです」

 

「そうか。仲がいいんだな。キミたちは」

 

 

お父さんとお母さんを喪った穴を埋めるように、あたしは葦火さんと関わっている。……本来、こんな依存のしかたはダメなんだろう。だけど、今のあたしにはこれしかないから。

 

 

「来たぞ~」

 

「あっ、向日葵!」

 

「ああ、向日葵か。今ちょうどキミの話をしていたんだ」

 

「え、なんすか話って」

 

 

向日葵と、葦火さん。今はこの二人があたしの全部だった。

 

 

「そういえば、何故キミたちは敬語なんだ?もっと楽にしてくれていいのに」

 

「……じゃあ、改めてよろしく。葦火」

 

 

向日葵は打ち解けるのが早いなぁ。あたしはまだ……ちょっとしか仲を深められてないのに。

 

 

「せっかくだしお前もタメ語で話せよ、ハル」

 

「えっ、い、いいの……かな」

 

「私は構わない」

 

「じゃあ……葦火」

 

「ああ」

 

 

もう失わせない……なにがあってもあたしが、二人を守る。

 

 

 

 

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

 

 

 

 

今日も今日とて訓練。第二次侵攻で失った人員は補充が効かない。そのため、生き残った数少ない精鋭の為に物資は割かれていく。

 

いずれ俺たちを含んだ新しい部隊ができるだろう……というのが上からのお達しだった。まあ主人公(ハル)と一緒ならどこでもいい。

 

 

『次はこの武装を試してみてくれ』

 

「はい」

 

 

特別に造られた研究室にて新しい武器を試用している。今回は蛇腹剣だった。だから何故(きんきょり)なんだ。もっとこう……あるだろう銃とか。

 

研究者曰く銃は弾のコストの関係上そう易々と実戦投入できないだとか。知るかこっちは命がけなんだぞこの野郎。

 

幸いにもオーディルムの死体は潤沢にある。これだけあれば追加武装にも期待できるだろう。

 

結果、俺たちにはワイヤーブレードと新たにスラスターが追加された。これで機動力を上げろとのこと。結局近距離武器なんかい。

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

「葦火ー?いないのかー」

 

 

珍しく暇だったので居住スペースに顔を出してみたが葦火がいない。

 

 

「葦火ー……って、チッ」

 

 

急遽司令部から通達だ。実験に付き合えとのこと。せっかくの休みだというのに当たり前のように踏み倒しやがって。

 

口の中で毒づきながら俺は歩き出した。

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

「奪還作戦?」

 

「ああ。君たちにしかできない、重大な任務だ」

 

 

首都東京はとっくの昔に壊滅している。しかしこれからは違うとのこと。

 

俺らは現在北海道の海峡にいるが、青森県を足がけに各都道府県を奪還する作戦……らしい。

 

要は殺せばいい。

 

メンバーは俺とハル含めて四人。第二次侵攻を乗り切った奴らだ。それなりの手練れだろう。

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

「今日はよろしくね、向日葵ちゃん!」

 

「俺は男だよ。ってかなんなんだお前」

 

「悪いな。コイツは壊れちまってんだよ」

 

「えー!ひどーい!そんなことないもん!」

 

 

馴れ馴れしく向日葵ちゃんと呼ぶ女が(ひいらぎ)(ゆい)

 

呆れたように後ろから補足してきた男が佐々木(ささき)春馬(はるま)

 

 

「……」

 

「ハルちゃんも、よろしくね!」

 

「……うん。よろしく」

 

 

そんなコイツらに対しハルはどこかよそよそしい。恐れているのだろう。再び喪うことを。

 

こんな状態で戦わせるとか上層部は何してんだ……とも言いたくなるが、圧倒的人員不足なためしょうがない。

 

 

「向日葵」

 

「なんだ?」

 

「危なくなったらあたしの所に来てね。──必ず、守るから」

 

「……おう。期待しとく」

 

 

メルヒュノンを起動させる。

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

殺した。それはもう目いっぱい殺した。五十日間に及ぶ掃討作戦は無事終わり、俺たちは青森県を取り戻した。

 

今回の作戦で負傷者は一人のみ。柊が腕に軽い傷を負った、とはいえどそれ以外に大した負傷も無いので早々に復帰できるだろう。

 

俺たち四人は特別に賞与を受けた。命を懸けて戦ったこともありそれなりのカネを貰えた。……まあこの時代金にそこまでの価値はないが。

 

エネルギーを随時補給しながら戦っていたとはいえ、五十日にも渡る戦闘で俺たちは疲弊しきっていた。多分これからも同じようにこき使われるのだろう。クソが。

 

 

「葦火~そういう訳だからなんか作ってくれ~」

 

「それは大変だったな……リクエストはあるか」

 

「……あっ!あたし、シチューがいい!」

 

 

このご時世シチューだけでも贅沢品だ。しかしこれだけ働いたのだからこれぐらいの対価はあってしかるべきだろう。

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

両親を喪っても涙が出なかったのは、現実味の無さからだろう。

 

だがもうあの人たちはいない。シチューを食べてるとふとそんな感情に包まれて。

 

 

「!向日葵……どうしたんだ?」

 

「大丈夫……?」

 

「……え?」

 

 

飯を食べながら、俺は知らず知らずのうちに涙を流していた。

 

 

 

 

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

 

 

 

 

向日葵は泣いていた。……やっぱり、さみしいのかな。あたしたちじゃ、代わりになれないのかな。

 

 

「ハルちゃんやっほー!」

 

「あなたは……柊、」

 

「結だよー!ね、ね、奢るからさ、一緒にお話ししようよ!」

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

「話って……なんですか?」

 

「もーそんなかしこまらないでよー。ハルちゃんもするでしょ?友達とお話し!」

 

 

明るい子だな。あたしより背が小さくて、声も高い。

 

 

「向日葵くんとはどうなの?幼なじみって聞いたけど」

 

「向日葵は……あたしの親友。いつも傍にいてくれて──」

 

 

そこから打ち解けるのは早かった。馬も合ったし、なにより向こう側が話上手なのもある。

 

──だけど、怖い。下手に仲良くなっても、また失うことになるんじゃないかって思って。

 

 

「ハルちゃんは戦うの好き?」

 

「えっ、結は……好きなの?」

 

「うん!好きだよ!なにより生きてるって感じがして!」

 

 

戦うことに意味を見いだすなんて考えたこともなかった。

 

 

「結も三十まで生きてみたけどね、やっぱり一番生を実感させてくれるのはこれ!」

 

 

……ん?

 

 

「え、ちょっと待って……結って、何歳?」

 

「ちょうど三十だよ?」

 

 

……??え、アラサー?

 

その後はやっぱり敬語を使おうとしたらダメ出しされて、結局十四歳上の人にタメ口で話す羽目になった。

 

……これで三十歳?

 

 

 

 

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

 

 

 

 

さて、困ったことになった。

 

俺が知っている原作知識は二巻まで、そして今の時系列は二巻終了時点。つまりこれからどんな展開になっていくのか分からないということだ。

 

現在は青森再興の為に国が動き、俺たちが護衛についているがここで第三次侵攻でもあればそれも意味をなさない。

 

いくら強くても所詮は個。一人でできることには限りがある。

 

懸念材料としてまだ地殻に奴らが潜んでないかとの声もあったが、調査班によるとその点は安心らしい。

 

 

「お前はどう思う」

 

「なんすか急に」

 

 

俺に問いかけてきたのは佐々木春馬、二十三歳。

 

 

「奴らは来ると思うか?」

 

「さあてね。どっちみち俺たちは斬るだけですよ」

 

 

あーちくしょう。葦火に会いてえ。朝っぱらから夜まで突っ立ってる仕事なんて苦行以外の何ものでもない。まあ一応話相手がいるだけマシか。

 

 

『敵反応多数確認!』

 

 

サイレンと同時にそんな放送が鳴り響く。

 

 

「来たな」

 

「ですね」

 

 

メルヒュノンを起動。ハルがいないこの局面で、果たしてどう生き残るべきか。

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

『非戦闘員はBブロックに避難してください!』

 

 

俺らの任務はなるべく多くの人を護ること。だからできるだけオーディルムを引きつけるつもりだったのだが。

 

 

「……コイツら、俺らを無視している……?」

 

 

佐々木春馬と俺は意に介さずといったように奴らはBブロックの方角へ飛んでいく。まさか、

 

 

「佐々木さん……!」

 

「ああ。間違いない。コイツら、人語を解している……!」

 

 

自衛隊がいるとはいえ、護れる数には限度がある。故に今は一刻も早くBブロックに向かいたいところだが。

 

 

「なんだコイツ……ッ!硬え……!」

 

 

俺らの前に現れたオーディルムは通常の四倍くらい、一戸建ての住宅程の大きさだ。

 

そしてなにより外殻が硬い。普通ならブレードを薙げば易々刃が通るのに、コイツは違う。

 

 

「まずはコイツを倒してからだ!野放しにしておくと向こうがやられる!」

 

「はい……!」

 

 

初めてのボス級オーディルム。俺たちの刃は届くのだろうか。

 

 

 

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