死にたくないので百合の間に全力で挟まりにいこうと思います 作:散髪どっこいしょ野郎
秋田県奪還の件はしばらくの間見合わせることになった。
問題となっているのはオーディルムが作戦を立てていたということ。無差別に襲うことしかしてこなかった奴らが言葉を解し、作戦を立てている。つまり、その時点まで進化している。
これまで少人数でしか構成されなかった部隊も今回の件で見直される筈……と俺は淡い期待を抱いていた。まあ人員が少ないから多分無理だろうが。
「ハル」
「……どうしたの向日葵」
「どうせ訓練だろ?ちょっと付き合えよ」
俺は義腕での戦闘感覚を少しでも慣れさせるため、訓練に打ち込んでいた。近頃は中々葦火の元へ行けていない。だって死にたくないんだもの。
元々生き残る為に葦火の所へ行っていたのに、今度は生き残る為離れるとはなんとも皮肉なもんだ。
どうやったら鬱エンドを回避できるか、そもそも鬱エンドの条件はなんなのか。まるで分からないことだらけ。
どっちみち戦うしかない。ああ、やっぱりこの世界はクソだ。
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「ただいま」
「おかえり……向日葵は一緒じゃないのか?」
「うん。今日も訓練だって」
「そうか……」
「……ねえ、葦火」
本当はこんなこと言ったらダメなんだろう。それでも願わずにはいられなかった。
「どうしたら向日葵は戦わなくなるかなぁ」
もう戦わないでほしい。あたしが守るから、これ以上傷つかないでほしかった。
「それは……キミたちの上層部が許さないだろう」
「……だよね」
無駄な問いだとは、分かってはいた。
「ハル」
「なに?」
「最近、向日葵のことを思うと胸が苦しくなるんだ。だというのに不快感はない。この感情は、一体なんなのだろうか」
「──それは、」
それは恋だよって、どうして言えなかったんだろう。
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サイレンが鳴り響く。間違いない。第四次侵攻の合図だ。
戦闘服に着替え発射口に立つ。あの時とは違い、随分人数が減った。
「ワクワクするね、向日葵くん!」
「……何言ってんだお前」
「……何言ってんすか柊さん」
俺に声をかけてきた柊結とそれにツッコミを入れる佐々木春馬。
柊がアラサーだということは最近知った。……こんな状況で考えることでもないか。
飛行ユニットを展開。俺たちは、勢いよく射出された。
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以前と変わらず、小型の奴らと大型の奴がいる。新兵装の試し時だ。
「ッラァッ!!」
やはりパイルバンカーは効く。大型の分厚い外殻ごと砕き殺せる。
小型はブレード、大型はパイルバンカーで使い分けるのがよさそうだ。
渾身の一撃をぶち込み、できた隙に奴らが群がる──が、ブレードを一閃して返り討ちにする。
よし、戦闘感覚が戻ってきている。
▫▫▫▫▫
「は──あ、は──」
敵の数が多すぎる。かれこれ十六時間は経過しているが一向に減らない。
上からの通信によると、海外からも奴らが押し寄せているらしい。
長きにわたる訓練である程度長時間体を動かすことには慣れさせられたがキツいものはキツい。本来人間の集中力はそこまで持つものでもない。
『全部隊に通告!一般市民の姿あり!』
ハルからの無線を聞き、急いでアイツの元へ向かう。
理由は自分でも分からない。だが、俺の勘が猛烈にアイツの元へ行けとせき立てている。
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「ハル!」
「あれ、向日葵……なんでここに?」
よかった。何かが起こる前にたどり着けたようだ。
そもそもおかしい点がある。何故居住区でもないところに一般市民がいるのか。何故この状況におかれても襲われていないのか。
「ちょっと待ってて、今この人を────」
「危ないッ!」
ハルが『一般市民』に背を向けたと同時に、奴の触手がハルを襲う。
咄嗟に駆け寄り突き飛ばすも、俺が僅かに斬られた。
「え……え?な、なんで」
「説明は後だ!コイツは、
「あーあ、なんでバレちゃったのかなあ……」
人語を話す人型オーディルム。それが『一般市民』の正体だった。
▫▫▫▫▫
「ハアッ!」
「グ、コイツ……!」
一撃が重い。これまでのオーディルムとは一線を画した強さだ。
「ハル!お前も手伝え!」
「────うん!」
数瞬迷っていたが覚悟を決めてくれたようだ。ハルが加勢に入るとたちまち状況は逆転した。
「フーーー。参ったなぁ、人類最強にやられたらこっちも困る」
「……一応聞く。お前らの目的はなんだ」
「ん?人類滅亡」
世間話でもするかのような軽さで、そんなことを言ってのけた。
「雑兵じゃ時間稼ぎにしかならないって分かったからね。こうして僕たちが出張ってきたってわけ」
「……ずいぶんと教えてくれるもんだな」
「うん。だって僕の目的は失敗しちゃったし」
「何故ハルのことを知っている」
「こっちじゃ有名だよ?……あ、これは言っちゃダメなやつだった」
どうやらコイツの頭は軽いようだ。存分に情報を抜き出せてもらいたいものだが──
「さてと、それじゃ僕はここらでおいとまさせてもらうよ」
「逃がすと思ってんのか?」
「キミたち相手ならこれぐらいでいいかな。おーい、来てよ」
奴がそう言うのと同時にオーディルムの群れがやってくる。これでは追いかけられない。
「チッ──」
「じゃあね。楽しかったよ」
奴が引き上げていくのに従い、オーディルムの群れも去っていく。……コイツがボスってことか?
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それからは早かった。至る所で人型のオーディルムが発生し、各部隊に少なくない打撃を与えた。
上層部も今回の件は深刻に捉えていた。大型のオーディルムを超える戦力、しかも人間そっくりの見た目だということに。
まあいずれにせよ俺たちは下される命令を待つのみだ。それ以外は訓練するしかない。
「よ、葦火」
「……久しぶりだな」
「久しぶりって。まだそんな経ってないぞ」
訓練漬けの日々も虚しいから空き時間の殆どは葦火の所へ行くのに割くことにした。やはり人間モチベーションがないとやってられない。
「あれ、向日葵いたんだ」
「しばらくぶりだな……こうして三人揃うのは」
「トランプなら持ってきたぞ」
「いいな」
こうして、しばらくぶりの休日は三人で飯食ったりトランプしたりして過ごすことになった。
またこんな日が来るのであれば戦うのも悪くない。そう、思った。
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殺風景な墓場には、あたしと結を残して誰もいなかった。
今日ここに来た目的は佐々木春馬さんの弔いのため。付き合いが長いのか、結は珍しく泣いていた。
「ぐすっ、は、春馬ぁ……」
泣きじゃくる結の背中をさすりながらあたしは先日のことを思い出す。
あの時庇われてなければ、あたしは死んでいた。
あの時あたしが騙されたせいで、向日葵は傷つけられた。
あたしの力は最強だと言われているけど、何も最強なんかじゃない。
結局、助けられてばっかりだ。
あたしが守る?こんな弱いくせに?
もう分からなかった。どれだけ努力すればいいのか。どうやって守ればいいのか。
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「あがりだ」
「俺も」
「……またあたしの負けかぁ」
三人でババ抜きしたけど……二人とも強すぎない?
数戦やって一度も勝てていない。葦火はポーカーフェイスを崩さないし、向日葵は駆け引きが上手い。
……こんな幸せになっていいのかな。あたしの力が及ばなかったせいで死人が出てるのに。
──だけど、願わずにはいられなかった。こんな日々がいつまでも続いてくれるようにって。