死にたくないので百合の間に全力で挟まりにいこうと思います 作:散髪どっこいしょ野郎
あれから六年の時が経った。
ハルは文句なしの最強に、俺は準最強くらいになった。
ハルは笑わなくなった。いつ如何なる時も己を鍛え続け、オーディルムを殺すことだけに専念していた。
俺たちはあまり話さなくなった。葦火のいた空洞が、どうしても埋められそうになかったから。
「向日葵」
「ん」
呼吸を合わせ、目の前の敵を斬る。連携はほぼ完璧といっていいほどに磨き上げられている。
今日の分の掃討作戦は終わった。後は調査班に任せて帰るのみ。
「ねえ」
「ん?」
珍しくハルから声をかけられた。ここ数年、まともに会話したことは僅かにしかない。
「ちょっと話さない?どこかご飯が食べられるとこで」
▫▫▫▫▫
俺たちは青森県の飯屋に顔を出していた。このご時世豪華な食事はそれなりに値が張るが、その点俺たちはかなり稼いでいるので問題は無い。
「……最近、こうやって一緒にご飯を食べたことなかったよね」
「そうだな」
俺は未だにあの時の幻影に囚われている。今でも少し待てば葦火がやってくるような気がして。
手を洗うことが増えた。何度洗ってもどれだけ洗ってもあの時の感触が落ちなくて。
「葦火についてなんだけど、話していい?」
「ああ」
今更何を話すことがあるんだろうと思いながら耳を傾ける。
「葦火はね──」
▫▫▫▫▫
大量の酒缶を抱えながら自室へ戻り、プルタブを引いた。今日は久々に飲み明かすつもりだ。ここのところ襲撃はないから多少酔っ払っても許されるだろう。
ハル曰く、葦火は俺に惚れていたとのこと。
それを聞いてどんな反応をすればいいのか分からなかった。分からなかったから、今こうして酒に逃げている。
この世界は鬱エンドを迎える。恐らくキーパーソンとなっていたのが葦火の存在だ。彼女をオーディルムに目覚めさせなければ、こんなことにはならなかった。
……筈だ。もう鬱要素は出し切った筈だ。これ以上何が起こるというのか。
▫▫▫▫▫
向日葵は強くなった。もうあたしが守らなくても自分で戦えるくらいには。
部下が増えた。あたしと向日葵のツートップで部隊を回しているけど、才能のある子もいる。
守る。その為に戦っている。もうあんな悲劇は起こさせないように。
家族を亡くした人から非難されても悲しくはなかった。あたしだって、同じ立場だったら同じことをしていたのかもしれないし。
ただ、ひたすらに申し訳ない。
何が最強だ、と常々思う。結局あたしは自分の手が届く範囲しか守れない。
──それでも、オーディルムは、オーディルムだけは絶対に殺す。
▫▫▫▫▫
各都道府県を取り戻す作戦は今のところ上手くいっている。
第二次侵攻の時の失敗を活かして、後続の育成も念入りに行われている。俺たちの部下も実戦レベルまで鍛えてから投入されているようだ。
……順調だ。あれ以上の鬱は起こらないくらいに、とても安定している。
今更並みのオーディルムに負けるつもりは無い。武装も充分に潤っているし不意を突かれない限りは大丈夫だと自負していた。
「よっ……と」
雑魚を斬り払い、人型と相対する。
「最初に言っておく。降る気はないか」
「冗談はよせ」
「そうか。じゃあ死ね」
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「フーー。こっちは終わった」
『あたしも』
無線で連絡を取り合う。どうやら向こうも無事に終わったみたいだ。
今までとは違い、オーバーブーストモードなしでも人型に勝てるようになってきた。
俺はこのまま、敵を狩り続けながら生きていくのだろうか。そんなことを、ふと考えた。
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「…………っ?」
戦いが終わり、メルヒュノンを解除すると妙な感覚に襲われた。
戦闘後には必ずメディカルチェックが行われているけれど特に異常は無かった。
少し、疲れているのかもしれない。休息を取るのも仕事だ。しばらく休ませてもらおう。
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しばらく休暇を取ったけど何をすればいいのか分からない。
こういう時、いつも何してたっけ。
思い出されるのは向日葵と葦火の顔──ああ、あたしはまだあの頃の夢を見続けてるんだ。
「もしもし?」
「あれ、ハルちゃん珍しいね~電話かけてくるなんて」
あたしの数少ない友達、柊結。今年で三十六歳になるらしいけど意外と馬が合う。
「今日ヒマ?よかったらどこかに遊びにいか──」
「うんうん行く行くめっちゃ行く!」
言い終わるより早く了承された。……結は変わらないな。
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敵を狩って、狩って、狩り続けての毎日。
たまに捕獲命令が下ることもあるが基本討伐だ。
そんな日々を送りながら思う。俺は死んだら何処へ向かうのかと。
天国と地獄はそこまで信じていないが、また他の世界に転生する羽目になったらきっと耐えられない。
もう充分だ。この世界で死なせてほしい。もう生まれたくはない。
こんな相談、誰にできるわけでもない。俺が転生者であることを暴露したところで奇人扱いされて終わりだ。
──疲れた。精神が参っていると体もついていかなくなる。
そんな俺の体調を察したのか、珍しく上から休むよう通達を受けた。
ここまで生き残っている時点で全部隊での俺とハルの評価はトップレベルになっている。だから多少作戦を遅らせてでも休むことを強制されたのだろう。
「…………あ」
気づけばあの居住区へ足を運んでいた。もう葦火はいないというのに。
親子の談笑が聞こえる。俺たちが手放した平穏を、余すことなく甘受している声が。
俺はアイツのことをどう思っていたのだろうか。
確かに大切な存在だった。だがそれに含まれる感情の種類がどうしても判別できずにいる。
友人として好きだったのか、異性として好きだったのか。
……今更そんなこと考えても意味ないか。
踵を返す。もうここには来ないだろう。
次回最終回です