死にたくないので百合の間に全力で挟まりにいこうと思います 作:散髪どっこいしょ野郎
「もう後戻りはできないな」
「……仕方ない。私も最後まで付き合おう」
オーディルムたちのアジトにて、複数人の人型が会話していた。
彼らは絶滅の危機に瀕していた。
八戸ハルという絶対的な力。それに加えて函青向日葵などの強者の存在もあり、その規模は全盛期と比べて遙かに矮小だった。
「海外の奴らは頼れないか?」
「無理だな。向こうは向こうで手一杯らしい」
「そうかぁ~……じゃ、もうやるしかないな」
「そうだな」
彼らは覚悟を決めたように立ち上がる。種の存亡を賭けた、最後の戦いの火蓋が切って落とされた。
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サイレンが鳴る。ここのところ大規模な襲撃は無かったのでこの音を聞くのも随分久しぶりな気がする。
発射口に立つ。あの頃とは違い、今は背中を任せられる仲間がいる。
「ハル」
「なに?」
今になって言うことでもないが、それでも重要なこと。
「死ぬなよ」
「うん」
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今日もやることに変わりは無い。オーディルムを殺し一般市民を護る。
人型が束になって襲い来る。俺が危なげなく殺れるのはあくまで二対一が限度だ。多数の人型を相手にして生還できるのはそれこそハルぐらいだ。
──だが、今の俺は一人じゃない。
「お前ら、時間を稼ぐだけでいい。後は俺がやる」
「「「はい!」」」
俺は部下に恵まれた。倒すまではいかなくとも人型相手に粘れる程強い部下に。
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……おかしい。メルヒュノンを起動してから妙な感覚が抜けない。
一応無事に戦えてはいるものの無意識に味方のいない方向へ足を運んでしまう。
迫り来るオーディルムたちはみんなあたしに触れようとする。攻撃ではなく、接触として。
「今日こそ死んでもらうぞ八戸ハル」
「仲間の
「…………」
そうこうしている内に複数人の人型に囲まれた。五対一……加えて他の雑魚たち。
分は悪いけどやってやれないことはない。
ブレードを構える。
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戦闘は二十四時間経った今も続いている。敵の量も過去最大規模だ。
奴らの目的は人類滅亡。今回の侵攻は恐らく一世一代の大勝負だろう。
部隊の奴らは全員疲弊しきっている。俺もここまでの長時間戦闘は初めてだ。
ここが正念場だ。ここさえ乗り切れば相手側の戦力を大幅に削げる。
部隊に改めて檄を入れ、ハルと連絡をとる。
「そっちは無事か」
『ハァ……ハァ……なん、とか』
マズい。ハルも限界ギリギリだ。
ハルにはその強さ故にジョーカーとして自由に行動をさせていたが、孤立したところを狙われればさしもの最強とて不利になる。
この場は部下に任せてハルのいる方向へ飛ぶ。その間にも敵は襲いかかってくるが、人型でもないやつらに手こずる程消耗はしていない。
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「ハル!」
「ハァ……ハァ……向日、葵?」
思わず息を吞んだ。ハルの周りに倒れている人型は両手で数え切れない程いた。この数を自力で相手して生き残っているのか。
「まだいけるか?」
「大、丈夫」
幸いにもまだ体は動くようだ。
「函青向日葵も来たか……ちょうどいい。お前もここで死んでもらおう」
「やってみろよ」
舐めてもらっては困る。伊達に準最強を名乗ってはいない。
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「ゼェ……ハァ……なんとか、一区切りついたか」
「ハァ……ハァ……」
数え切れない程の人型に襲われた。ハルごと殺すつもりで来たのだ。これぐらいは妥当だろう。
──そういえば、最後の敵はハルに触れていた。攻撃としての役割ではなく掌で軽くタッチするくらいの力で。
それが何を意味するのか、俺は知らない。
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「よし、一旦帰投するぞ。敵もこれ以上はいないようだし──」
「待って」
言葉が遮られる。函青向日葵は若干困惑しながら八戸ハルを見つめた。
「──あたし、もう、ダメみたい」
「ダメって何が────っ!?」
彼女がメルヒュノンを解除すると、その肉体は人間体に戻りきらなかった。
「な──どうしたんだよお前!?」
「……ずっと、肉体変化型で戦ってきたからかな。あたし、オーディルムになりかけてる」
八戸ハルの肉体はオーディルムになりかけていた。
この事態を悟ることができなかった理由は、そもそも肉体変化型適切持ちが圧倒的に少なかったことと、長らく生き残ったのはそれこそ彼女ぐらいしかいなかったからである。
そこをオーディルムによる最後の一押しで、完全にヒトならざる者へと変えられた。
「葦火の言ってたオーディルムの本能って、コレなんだね。今にも向日葵を殺してしまいたくなってる」
「────」
絶句。函青向日葵は声が出せなかった。しかしそんな内情もお構いなしに時は流れていく。
「ねえ、向日葵。お願い。このままオーディルムになりきっちゃう前に、あたしを殺して」
少女は嘆願する。
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葦火が向日葵に殺されたがってた理由が、今なら分かる。
向日葵はあたしの大切な親友。女の子よりも女の子みたいな顔をしてて、腹筋がバキバキで。
だからこそ、そんな向日葵だからこそ、あたしを殺してほしい。
傷になっちゃうかな。向日葵は意外と優しいから、あたしを殺したことがトラウマになっちゃうかもしれない。
「何か……何かないのか?お前が助かる方法が」
「お願い」
あたしが介錯を希う度、向日葵の表情は曇っていく。そんな向日葵のことを殺したいって、オーディルムの本能は囁きかけてくる。
あたしは強い。あたしが完全にオーディルムになっちゃえば、きっと手がつけられなくなってしまうだろう。
「向日葵も分かってるでしょ?」
「~~……ッ、でも、でも……!」
なんか笑えてきた。こんなあたしなのに、向日葵は本気で生かそうとしてくれてて。
……うん。うん。もう満足かな。
「……………………分かった」
「ありがとう」
向日葵がブレードを構える。あたしは、静かに目を閉じた。
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オーディルムの総数は激減した。海外の方でも順調に殲滅されていて、人間が今までの生活を取り戻すのもそう遠くない未来の話となっていた。
俺はハルを殺した。俺がハルを殺した。
その事実が脳を過る度に深くえずいた。
唐突だ。そうだ。あまりにも唐突すぎる鬱エンドだ。これなら炎上するのも納得できる。
「あ、向日葵くん」
「……柊さん」
墓場には先客がいた。柊結。もういい歳だろうにここまで生き残ってこられている。何気にコイツもすごい奴だ。
「君も墓参り?」
「…………まあ、そんなところです」
半分は正解で、半分は不正解だ。
ハルの墓参りに来たのは事実だが、毎回墓前に辿り着く前に吐き気に襲われて逃げてしまう。
今日もそうか……と思えば、意外と前に進めていた。柊結との会話で緊張がほぐれていたのか?
「ハル」
返事は無い。俺の親友だった、この世界の主人公。
最初は生き残る為だった。ハルに擦り寄ったのも、葦火との間に挟まるのも。
だけど、もう、俺は。
「……また、来る」
今日はこれぐらいで精一杯だった。
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オーディルムの残党狩りは今も続いている。俺は最前線に立って奴らと戦っている。
俺は生きている。友を喪い、生き甲斐を忘れて。
それでも俺は生きている。弱々しく、頼りない足取りで。