夜分に更新失礼します。
楽しんでいただけると嬉しいです。
KROの秘密研究所。洋画か洋ゲーでしか見ないような、天井が高いだだっ広い廊下が続く地下施設。
独房から救出した男性を、職員に変装して紛れ込んだ幸屋さんに任せた僕は、廊下の天井を這いながら進んでいた。
ステルスモードは隠密機能が高く、光学迷彩による透明化の他にも、音を立てずに行動するための機能や、壁や天井に張り付くことができる機能もある。それらを駆使して僕は今、避難していく職員たちを逆さに見下ろしながら移動していた。
『本当によかったのですか?』
「なにが?」
疑問の意図が分からず、思わずルナに聞き返す。
『あの男性の救出は、エージェント・香蓮に任せてもよかったはずです。バディが優先するべきは、マグマンスーツの回収。一刻も早くスーツの元へ辿り着くべきでは?』
「まあ、そうかもしれないね。でも、僕の手で助けたかったんだ」
『それは何故?』
ルナらしい疑問だった。いや、ルナじゃなくても同じことを聞いてくる気がする。
そこは僕自身も悩んだ部分だ。悩んだ上で僕は本来通るべき最短ルートを外れた。
「あの人の悲鳴を聞いたのは僕だから。見て見ぬふりして進むなんて、できなかったんだ」
研究所を進む途中、鉄扉を叩く音と一緒に聞こえてきた慟哭。それは僕の足を止めさせ、向かわせてしまうほどに悲痛さで溢れていた。
正直、ろくでもない人だと思った。昼間、ビルで彼に向けた言葉は全て本心だし、突入するまで幸屋さんに任せておくつもりでもあった。会っても僕の気分がよくないだろうし。
でも、あの慟哭を聞いてしまったら……自然と身体が動いていた。助けに行かなきゃ、という感情が何より先に来ていた。
この気持ちは、たとえ理性と合理を引き合いに出されたとしても、きっと否定できないだろう。
『それは、バディの
「そういう事。理性じゃなくて本能ってやつさ」
『では、小言は挟めませんね。その代わり、倍の速度で動いてもらいますが』
「アシダカ軍曹もビックリなスピードでいるつもりだけどね!」
四つ這いだけど、走ってるのと変わらないスピードで天井を動き回ってる。これ、下の人に見られたら絶対ドン引きされそう。だってこれ蜘蛛っていうよりG……ごめん今のナシ!
話題を切り替えるべく、僕は懸念事項を確認する。
「そういやあの怪人スーツ2人組って何してるの?」
『フレイダーの方は発電室まで来てくれましたので、隔壁を全て下ろして閉じ込めています。ガス管、いくつか本当に壊しておいて正解でしたね。これなら爆弾も使えません』
「それは助かった。こんな狭い場所でポンポン投げられちゃたまらない。ドクの方は?」
『そちらは残念ながら、試験場に居るようです。マグマンスーツを強奪するなら、彼との戦闘は避けられないかと』
「うわ、一番インテリ臭い人が残っちゃったよ。ワンチャン僕らの動きにも気づいてそう……」
警備システム掌握して、警報装置を鳴らしまくれば嫌でも人は逃げ出す。ついでにガス管壊したり、スモーク弾をばらまいて煙を立ち込めさせれば、本能的に逃げ出す人間は増える。警備室は先に制圧してるし、通信網もハッキング済みだから、あとは避難するように扇動すれば研究所は大混乱!
これが僕らの作戦だ。やってることはほぼ火事場泥棒だけど。
懸念はスーツ着てるから火災とか関係ないあの2人の動きだった。1人残ってるのが面倒だけど、引き離せただけよしとするか……。
「それでスーツの運用試験が行われてる部屋ってあとどのくらい?」
『目的地まであと……バディ、もう1件イレギュラー発生です』
「ウソでしょ……?」
え、なに?このタイミングで問題増えたの?
どんな面倒が増えたのかと思わず息を呑む。
「報告よろしく……」
『浜田社長が避難経路を逆行しています』
「…………は?」
え~っと…………なんで?
□□□
「……なんだ、この状況は」
ありのまま、今起きていることを話そう。私が高級椅子に背を預け、優雅にコーヒーを飲み、軽くストレッチをして部屋を出たら、職員達が慌てふためきながら逃げ惑っていた。
コーヒータイムの間にいったい何が……?
「社長!なにボーッとしてるんですか!?避難警報ですよ!!」
「避難警報だと?何があった?」
「警報鳴ってるのに聞こえなかったんですか!?」
「ああ、私の部屋はシェルターになっているから、避難の必要がない。だからうるさいだけの警報は付けてないんだよ」
「馬鹿なんですか!?死にたいんですかあんた!?」
む、馬鹿と言ったな?
失礼なやつだ。私を誰だと思っているんだ。
「え~っと、君は確か……誰だったかな?」
「蘭菜です!
「あ~、そうだったね。
「はぁ!?こんな時に冗談言ってる場合ですか!?」
うるさいものだ。社員の名前をいちいち覚えてられるわけがないだろう。我が社の社員数がどのくらいだと思ってるんだ。
「それでジャスタウェイくん、避難と言っていたが何が起きているんだい?」
「蘭菜です、じゃなくて火災ですよ火災!動力室で火災警報器が作動したんです!このままだと爆発します!!」
「ほう、火災か……それは都合がいいじゃないか」
「はぁ!?何言ってるんですか!?」
「分からないのかね?君、ここの所長なんだろう?このくらいはすぐに理解してくれなきゃ困るよ」
「はぁ!?」
まったく、所長の座につけたのがこんな無能だったとは。
それなりの役職にいるのだから、私の思惑くらい汲み取れる優秀な人材であって欲しいものだ。
「マグマンスーツの性能を試す絶好の機会じゃないか」
「正気で言ってるんですか!?煙出てるんですよ!?」
「君ぃ、その程度で逃げ出すようじゃまだまだだぞ?デキる男は常に堂々と余裕を持ってだね……」
「社長、長話は避難してからにしてください!!」
「所長、何してるんですか!社長も早く避難してください!」
「遮るんじゃない!私の有難い話だぞ!!」
ええい、私に使われる身でありながら私の話を遮るなど……!
特にあの一般研究員、平社員の身分でありながら私より所長の方を優先するなど失礼にも程がある!!
「ブロードウェイくん」
「蘭菜です!一文字もあってないじゃないですか!?」
「君、今この場でクビだ」
「は?」
「職務放棄の罰だ、さっさと行きたまえ。これより君の権限は全て剥奪とする」
「社長、何のつもりですか……?」
何のつもりだと?
つまらない事を聞く男だ。これだから凡人は。
「私が真に選ばれし人類、『超人』へと覚醒するのを、地上から見ているがいいさ」
試験場へと足を向ける。赤い警告灯が照らす廊下、足早に非常口を目指して走る研究員達の中を、1人逆方向へ歩き出す。
フッ……シチュエーションは完璧じゃないか。いよいよその瞬間がやってきたようだ。
あの奇妙な格好の男達に技術提供を受けた日から、私はずっと待ち望んできた。今日この時を、この瞬間を。
まるで初恋のように、胸が高鳴る。パラグライダーで秋の空を舞うように気分が高揚する。遂にあのスーツに袖を通せると思うだけで足が弾んだ。
今日、私は人間を超える。いや、私なら怪人さえ超越した存在へと到れるに違いない。まさに超人だ。マグマ超人と名乗ってしまおうか。是非ともそうしよう。
ここで胸ポケットに入れたスマホが鳴る。相手はどうやらドクらしい。
『浜田社長、今どちらに?』
「やあドク。試験場へと向かっているよ。火災なんだろう?マグマンの力で吸収してやる」
『それは丁度いい。実は小耳に挟んでおきたい話があるのです』
「ほう?なんだね?」
『これは私とフレイダー、そして今この話をしている浜田社長、あなたしか知らない情報になるのですが……これは火災ではありません。おそらく敵襲です』
「なんだと?」
敵襲、つまり我々KROに楯突く存在がこの秘密研究施設へと侵入してきた、と。
それは……ああ、火災なんかよりも好都合じゃないか!
試験場でちまちま火力を調整しながら的を燃やすより、実戦の方がよりあのスーツの力を証明することができる!
わざわざ向こうから来てくれるなんて、まさに飛んで火に入る夏の虫、そして私にとっては渡りに船だ!
「それで、敵の数は?」
『不明です。ただ、我々の敵対勢力として想定されるものの中でここまでやれる存在となれば……おそらく蜘蛛騎士でしょうな』
「蜘蛛騎士……何度か報告にあった、あの?」
『ええ。ゲノム回収を幾度となく妨害し続けてきたあの少年です』
蜘蛛騎士、か。最初に聞いた時は何の冗談かと思ったが。
「ドク、マグマンスーツの調整は済んでいるかね?」
『フフッ、そう言うだろうと思ってましたよ。丁度進めているところです。あとは浜田社長さえ来てくだされば……』
「待っていたまえ、すぐに行く」
流石はドクだ。やはり有能な人間はこうでなくては。
さあ、間もなく扉が開くぞ。新時代の扉だ。私の時代が到来する瞬間を、侵入者どもに見せつけてやろう。
□□□
「……などと思っているのだろうな、あの社長は」
デバイスの通話回線を切り、スーツの調整作業に手を戻す。
あの社長は自分が人を使う側だと思い込んでいるし、実際人を使うのが得意な方だ。だからよく「君が必要だ」という言葉で他人を口説く。……まあ、都合よく使った後はそんな心にもない言葉をかけたことは忘れているようなのだが。そこがあの社長の弱点だ。
世の中には愚か者を調子づかせるのにピッタリな言葉がある。
「あなただけが知っている」とか「あなただけに教える」、そういった自分だけが特別であると思い込ませられるような情報を渡せば、たちまち調子づいてくれるのだ。
自律思考する4本のメタルアームを駆使し、数人分の作業を同時に進める。円筒型のガラスケースの中で、コアとナノマシンが蠢いた。
貴重な幹部怪人のゲノム、そして二度と用意できないであろう最高の実験場だ。貴重な実戦データも取れそうだし、これは期待できるだろう。
と、そこへデバイスに通信を知らせるアイコンが表示される。フレイダーからだ。
『ドク、お前の読み通りだったようだ』
「やはり蜘蛛騎士か」
『ああ。しかも隔壁を閉じられちまった。直ぐにそっちへ戻るのは無理だ』
「では、予定通りマグマンをぶつける。君も見るかね?」
『ああ、繋いでおけ。ひたすら壁を粉砕するだけの退屈な時間が続きそうだからな』
我々としては、黒騎士や戦隊の小娘どもを仮想敵としていたが……まあ、丁度いいだろう。一撃で壊してくるような相手よりはデータも多く取れそうだ。
「さて、実験を始めようじゃないか」
管制室の大窓から、私は眼下に広がる真っ白な試験場を見下ろした。
□□□
『……ということのようです』
「バカなの?????」
呆れてものも言えなくなりそうだ。ナルシズム一つでここまで出来るの、もしかして大物だったりする?
『ある意味でこちらの想定を上回る性格ですね。頭
「それ、当てはまるの議長だけだから。ってか、社長来るのはまずいって!!」
進む足を早める。少しでも早く辿り着くためだ。
まさかイレギュラーの理由が、社長のナルシズムだとは思わなかった!!なんなのあの人!?
しかもあの口ぶりからして、マグマンスーツを着る気満々じゃん!?何考えてんの?あれ組織のトップだよね!?そんな人が試験運転中の試作機で、危険区域に突っ込もうとするって普通おかしいよね!?
『バディ、金崎社長から通信です』
「繋いで!」
『リヒトくん、プランが狂っているようだが本当に大丈夫なのかね!?』
レイマさんの声に焦りが滲んでいる。無理もない、このままだとマグマンとの正面対決になってしまうだろう。
しかも仮に浜田社長を追い越して試験場へ辿り着けたとしても、あの4本腕のドクが待っている。あの4本腕、初めて遭遇した時の映像を見返してみた限り、それぞれが独立して動いているらしい。お陰であのメタルアームを振り回すだけでも、回避が難しい攻撃手段になっている。
どちらも厄介な相手で、そして同時には相手したくないヤツらだ。
「正直言うと、もはや戦闘は避けられません」
『そうか……。ならばやむを得ん、
「ッ、待ってください!」
反射的に口から出たのは、レイマさんの判断への異議だった。
「ジャスティスクルセイダーに、あと黒騎士くんに応援を要請するなんて言わせませんよ」
『しかし非戦闘用のプロトエスでは、いくら私が調整したとはいえ無茶だ!君、スーツにかなり無理させてただろう?』
「今撤退すれば、マグマンへのエネルギー供給を許してしまいます。どのみち叩けるのは今しかない。今、ここで、僕がやるしかないんです!!」
『ぐぬっ……!!』
無茶はしないと約束した。でも、ここで行かなきゃ勝てないのもまた事実だ。
僕はもう、
『金崎社長、今は言い争っている場合ではありません。私もバディの言う通り、撤退は非推奨であると判断します』
「もしも僕では勝てないと確信した時は……その時はお願いします。ですが、今はやらせてください。お願いします!!」
『ぐ……ぐぬぬ……ぐぅぅぅ……』
絞り出すような唸り。レイマさんがとても悩んでいるのが伝わってくる。
それでも、僕は行かなくちゃいけない。
『勝算はあるんだな?』
「こんな事もあろうかと、ルナと何度もシミュレーションを重ねてきました。不安要素はありましたが、シミュレーションの要である装備にレイマさんの手が入った事でクリア済み。その上での判断です」
『……わかった。この場に限り、特別に許可を出そう』
「ありがとうございます!」
『ただぁし!!本当に、ホントのホントにいざという時は、私の判断でジャスティスクルセイダーを救援に向かわせる。それだけは絶対だ。いいね?』
「そうならないよう、全力を尽くします」
レイマさんからの許可は降りた。装備も戦略も整っている。なら、後は僕が死ぬ気で頑張るだけだ。僕の全てを出しきって、やつを必ず倒してみせる。
だから……
『バディ、後ろです!』
「ッ!?」
ルナからの警告と同時に、背後から迫る気配に思わず天井を蹴って飛び退く。
次の瞬間、さっきまでくっついていた場所にコウモリ型のグライダーが突っ込んできた。
「あれはフレイダーの!?」
『サーモカメラを搭載しているようですね。我々を狙っているようです』
「フレイダーは動力室付近に閉じ込めたんじゃなかったっけ?」
『フレイダーは動力室で隔壁を攻撃し続けています』
「じゃあ、誰かが遠隔操作してるとか?」
『可能性は高いですが、私達の侵入に気づかれたのは確かですね』
グライダーは旋回すると、再び僕の方へと向かってくる。時間稼ぎしようって魂胆か!
「ルナ、最短距離でナビゲート!」
『了解。ではバディ、全速前進です』
グライダーからの攻撃を躱しながら、僕は研究所の最奥へと進んでいく。
決戦の瞬間は、もう目前まで迫っていた。
読んでいただき、ありがとうございます。
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