お久しぶりの更新となります。
楽しんでいただけると嬉しいです。
それは、おじさんの好きな映画のセリフをもじったものだった。
『
『実はそのセリフ、古代ギリシャのことわざの引用なんだよ』
僕もおじさんと一緒によく見ていたから、そのもじりに疑問を抱いた。おじさんは読んでいた新聞を畳みながら、笑って答えてくれた。
『元のことわざでは、権力者はその立場や権力に責任を持たなければならないって意味で使われててな』
『権力者……?』
『あー……要するに政治家とか偉い人の事だ。偉い人は威張ってるだけじゃなくて、ちゃんと仕事しなくちゃいけないんだぞ……みたいな感じの意味だな』
『……?』
『ハハハ、やっぱ子供にゃ難しいか』
当時、小学生だった僕にはまだ理解が追いつかなかった。というかおじさん、小学生によくこんな話しようと思ったな……。
でも、この言葉のお陰で今日の僕がある。それは間違いない。
『まあ、つまるところな。おじさん、責任感のないやつは嫌いなんだ。特に、特別な立場にいるのに責任を果たさない人間は大嫌いだ。だからな理人、お前は力がなくても責任を果たせる、立派な人間になれ』
『おじさん、言ってること難しすぎ』
『じゃあお前にも分かる言葉にしよう。たとえ変身できなくたって、スーパーパワーが無くたって、誰かを助ける心を忘れない。そんなかっこいい人間になってほしい。いいな?』
『つまり、ヒーローみたいになれってこと?』
『そうだ。理人、お前はヒーローになるんだ。約束できるか?』
『うん、約束する!!』
あの日の僕は無邪気にそう約束して……
『アァァァス……アァァァァス……!!』
「ハァ、ハァ、ハァ……」
『出力低下。アタッチメントC、D、E、F、破損により使用不能。スーツのバッテリー残量、20%を下回りました』
目の前は真っ赤に染まっている。スーツからは警告が響いていた。
某県休火山火口、その中心部。噴火の可能性は極めて低いとされ、緑に覆われていたはずの火口は今、赤と黒に塗り替えられられていた。
『アァァァァアァァァァス!!』
『これ以上の戦闘続行は生命維持に関わります。これ以上のリミッターブレイクはスーツの甚大な破損に繋がります。また、これ以上の電力低下は変身を保てなくなります』
プロトエスのスーツは元々戦闘用には造られていない。プロトゼロと同型機であるため防御性能は同程度だが、圧倒的に火力不足だ。
装備として、人命救助を目的とした対障害物用のアタッチメントが複数用意されているが、怪人の表皮を傷つけられるほどの威力は出ない。
そもそも動力源が違う。プロトゼロに搭載されている「コア」と呼ばれるものがプロトエスには無い。代わりに姉さんが開発した新型動力「プラズマバッテリー」を搭載しているが、コアには到底及ばないらしい。
それでも戦いたかった。姉さんと先生の仇を討つために。あの日、研究所を襲撃した何者かをこの手で捕らえるために。
僕はルナに頼んで、プロトエスで戦闘を行うための方法を探した。
それが「リミッターブレイク」……スーツのリミッターを外し、各装備や強化装置をオーバーロードさせる事で火力を得る後付け決戦機能だった。
当然ながらこの機能は諸刃の剣だ。ルナが設けた制限時間を超過するとスーツは限界を迎え、装着者の僕ごと木っ端微塵に爆発する。だから怪人との戦いは、常にスーツそのものの限界と隣り合わせだった。
それでも、僕らは何とか勝ち続けてきた。だから今回も何とかなる。
そう思っていたんだ──あの時までは。
「やめろ……」
『バディ?』
火口に現れた怪人と目が合う。
その瞬間、全身から力が抜けていった。
それはマグマを人型に押し固めたような怪人だった。
それは炎と熱を操る怪人だった。
「やめろ、来るな……来ないで……」
そして、僕にとってそれは家族を奪った恐怖の象徴だった。
『オオオォォォォォォオォ!!!!!!!!!』
「あ……あぁ……うわあぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
身体が強ばり動かない。腰が抜けて尻もちを着いた。
恐怖で戦えなくなった僕を、マグマ怪人は容赦なく蹂躙した。
アタッチメントは破壊され、何度も全身を岸壁に叩きつけられる。
しかも最悪だったのは、リミッターブレイクの影響でスーツが傷んでいたこと。そこへ幹部級最強格ともいえる怪人からの攻撃が直撃し続けた事で、バッテリーのエネルギーが激減。ここで無茶のツケが回ってきてしまった。
……この時の事は、あまり覚えていない。ルナに聞いたところ、僕は半狂乱で泣き叫びながら、死んだ姉さんにひたすら助けを求めていたらしい。
初めての敗走。しかも僕の不手際による完全敗北だ。
そして何より苦しかったのは……この後、惑星怪人アースと名付けられたこの怪人との戦いで、自衛隊員だった勉おじさんが殉職した事だった。
「おじさん……えッぐっ……ごべんなざぃ…………」
大いなる立場には、大いなる責任が伴う。
おじさんが何故、『大いなる力』とは言わなかったのかをこの日、僕は痛いほど理解した。
「テイザーウェブ・グレネードッ!!」
電撃糸のグレネードが命中すると、ようやくグライダーは墜落した。遠隔操作してるからだろうか、フレイダーが乗ってる時よりは動きが単調で読みやすかった。
とはいえ、この狭い通路で機銃掃射しながら突っ込んでくるのはだいぶ危なかった……。どんな素材使ってるのかは知らないけど、避けた弾が当たった壁がドロドロ溶けてたし。やっぱ地の利って怖いね……。
「ルナ、この先真っ直ぐだっけ?」
『ええ。それから左に曲がると……』
「ッ!?」
ルナが言い終える前だった。僕の全身が総毛立つ。
「この感覚は……怪人……!?」
これまでにも経験がある。全身が鳥肌でムズムズする、特有の感覚……怪人の気配だ。
それもかなり強い。いや……この気配を僕は知っている。間違えるはずがない。
『高熱源反応を検知。我々が目指すポイントからです』
「嫌な予感がする……とびきりの嫌な予感がね」
『私の予測もおそらくバディと同じものでしょう。……バディ、今なら撤退も可能です』
「……いや、進むよ。
足がすくみそうになるのを堪え、進んだ先に見えてきたのは鉄扉。
厚い鉄板1枚を挟んで、向こう側から伝わる気配が強まった。全身が先程以上にゾワリと震える。頭の中でけたたましくレッドアラートが鳴っている気分だ。
戦闘は避けられない。しかも相手はあのアースの力を持っている。黒騎士くんでさえ手こずった相手だ。彼らの二度の戦いを参考に対策を練ったとはいえ、決して一人で挑んでいい相手じゃない。
それでも僕は進むしかない。ここで逃げたら、僕はあの日を繰り返してしまう。それだけは絶対に嫌だ。
壁にある開閉ボタンを押すと、鉄扉は左右に開いた。
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『では浜田社長、マグマンスーツを装着してください。くれぐれも格好つけて、蜘蛛騎士の目の前で変身してやろうなどとは考えないように』
「分かっているとも。いくら最弱スーツと目されているとはいえ、黒騎士の同型機だろう?生身の私など簡単に制圧できるのは目に見えているからな」
KRO秘密研究施設の最奥、第7実験場。四方を真っ白な壁に覆われ、数メートル上の方に管制室からの覗き窓が存在する、SF系の洋画やアニメでよく見かけるような部屋である。
特異な点をひとつ上げるなら、試験場の床一面は地盤が露出している所だろう。
ここはマグマンの試験運用を目的とした用意された専用の施設。マグマ怪人を最強たらしめるあの能力の再現を試みるため、地盤をわざと露出させている。
その部屋のど真ん中に立ち、浜田は身体を伸ばしていた。スーツを装着する前のストレッチだ。
『賢明な判断です。さて、間もなく私が遠隔操作しているグライダーに誘導され、蜘蛛騎士は貴方の目の前に現れます。本当におひとりで大丈夫なんですね?』
「ああ、私一人で充分だ。むしろマグマンスーツに援護など邪魔でしかないだろう?」
『これは失礼、愚問でしたね。では、私は管制室から見守らせて頂きますよ』
「ああ、是非とも歴史が生まれる瞬間を見届けてくれたまえ。浜田正義が超人へと至る瞬間を!」
試験場の中心部に設置された装置へと浜田は手を伸ばす。背の高い丸テーブル型の装置の上には、スマートウォッチのような腕時計型端末が置かれていた。
自慢の高級腕時計を外し、代わりに腕時計型端末を手首に巻く。そして浜田は端末を口元に持ってくると、起動音声を呟いた。
「装着!」
『Violation!!Earth→Magman!!』
低音の機械音声と共に、彼の全身をナノマシンが覆っていく。
マグマのように赤熱化したアンダースーツに、溶岩が固まって構築された黒い鎧。
頭部に炎が燃え、マスクの口元は左右に大きくスリットが存在しており牙が見える。
マグマのような体表を持つ人型の異形、地球怪人アース。それを象った禁断のスーツ、機改人マグマン。
人の身に余る禁忌の力を手に、浜田は満足気にほくそ笑む。
『気分は如何ですかな?』
「ああ、最高だ。全身に力が漲ってくるよ」
『いい兆候です。エネルギーは既にフルチャージされていますが、そのまま両足を地面に着け続けてください』
「文字通り、蜘蛛騎士は飛んで火に入る夏の虫というわけだ。フフフ……試し打ちとかしてみてもいいかな?私もこのスーツはフルチャージで使ったことがないからね」
『どうぞ、お好きなように。エネルギーは無限に供給されますからね』
「よぉし!まずはどれから試そうか……。おお、今なら溶岩を降らせる事が出来るのか!それから……口から溶岩を吐く?マスクの額部が展開される設計なのか。よくこんな所まで拘って……ん?」
マスク裏のディスプレイに表示される各部機能。それらを閲覧し、試し打ちに使う武器を見繕っているその時だった。
試験場の鉄扉が左右に開き、何者かがやって来た。
灰色と鈍色、慎ましやかな色合いのスーツ。緑色の複眼。左右非対称で塗装の剥げた継ぎ接ぎだらけの装甲。胸に刻印された「S」の文字。
蜘蛛騎士、ナイトスパイダーである。
「やあやあ、やっと来てくれたようだ。はじめまして、蜘蛛騎士くん。いや、ナイトスパイダーだったね。まあ、呼びやすいので蜘蛛騎士と呼ばせてもらうが」
「浜田正義社長、だよね?僕の勘違いじゃなければだけど」
「如何にも。私こそが浜田工業社長にして怪人研究機構代表、そして人類を新たなステージへと押し上げる英雄、浜田正義!今は……この怪人模倣スーツ8型『機改人マグマン』の装着者でもある」
「聞いてない所までペラペラどうも。今のでアンタの人間性は大体分かった」
「おや、つれないなぁ。せめてもっとこう、羽を休めに来たカラスがレーザーディスクに反射した光を顔に照射されたように驚いてくれたりとかしないのか?」
「喩えがすごく分かりにくい。ポエムのつもりならセンス無いよ」
「なんだとぅ!?」
憤慨する浜田に、蜘蛛騎士は呆れるように肩を竦める。追い続けてきたKROのトップが思った以上にアホ臭い所に、内心で頭を抱えたくなっていた。
「どうしてゲノムなんかに手を出した?どうしてそんなものを作った?アンタは一体、何を企んでいるんだ!!」
予想外のアホっぷりに毒気を抜かれそうになったが、蜘蛛騎士は毅然とした態度で尋ねる。
「ほほう……“何故”ときたか。ククク……アッハハハハハハ!!」
すると浜田は突然笑い始める。マスク越しで表情は見えないが、口を大きく開いて爆笑しているのは笑い声で伝わってきた。
「そうかそうか、君は黒騎士くん達とは大違いのようだ」
「は……?」
「私はてっきり『許さないぞ悪者めー、ここでお前を倒す!』みたいなお約束の流れになると思っていたんだが。問答無用で暴力に訴え、私の動機など倒してから引き出せばいい……なんなら言葉を交わす暇もなく戦闘が始まるものだとさえ思っていたのだが。君はこの私に“何故”を求めた」
「うん、まあ、想像に難くないけど……なに?」
「素晴らしいッ!!!!!!」
「はぁ……?」
センスのない詩的表現の次は突然の爆笑、からの興奮。
目の前の男のよく分からない感情の変化に、蜘蛛騎士はただただ困惑する。
「『何故』と問いかける人間は好きだ。考え無しに行動する人間よりもずっとレベルが高いからね。気に入ったよ、蜘蛛騎士くん」
「勝手に1人で盛り上がるのやめてくれない……?」
「いいだろう。そう問われれば私には、君の質問に答える義務がある」
『社長、何を考えて……』
「ドク、口を挟まないでくれ。これは私の信念なんだ」
『……分かりました』
頭上の管制室から見下ろすドクを黙らせて、浜田は語り始めた。
「何故だと?決まっているだろう…………怪人は、ビジネスを産むんだよ」
「…………は?」
蜘蛛騎士に何度目かの困惑が訪れる。だが、今の困惑は先程のそれとは異なるものだった。
それは予想だにしなかった返答であり、同時に想定していたものよりも遥かに理性的な答えだった。
「怪人が暴れれば街が壊れる。壊れたビルや道路なんかを直すためには、当然ながら費用がかかる。建設会社が動き、資材の調達で輸送会社と卸売業者が動き、不動産屋が動き、未曾有の災害であるが故に国も補助金を出さざるを得ない!君達ヒーローと怪人の戦いはね、とても大きなビジネスチャンスをもたらすんだよ」
「ふざけるな!!」
蜘蛛騎士が声を荒らげる。彼の両手は固く握られていた。
「人が死ぬんだぞ!?怪人達の能力で、理不尽に!!怪人に家族や友人を奪われ、まだ病院から出てこない人達だって居るんだ!!それを……ビジネスだって?儲かるならいいって言うのか?自分の懐を温めるためだけに、アンタは怪人を蘇らせようって言うのか!?」
「有史以来、人類は争乱と共に発展してきたと言っていい。戦争が新たな産業を産み、革新的な技術を育て、我々を豊かにしてきた。その事実を否定できる者がいるか?」
「一緒にするな!!発展のために核のスイッチをばら撒く馬鹿が何処にいる!!」
「そう、だからこそ君達が居る。抑止力さえ機能しているなら、その核爆弾も通り魔のナイフくらいになるだろう?ヒーローと怪人、両方存在するからこそ成り立つ構図なんだ。しかも、今の黒騎士やジャスティスクルセイダーは世界を救える強さを持っている。被害者を出さずに街だけ程々に壊して儲けられる現状は、最も成熟されたビジネスチャンスなのだよ」
「狂っている、アンタは……!」
「怪人の存在は人類に破壊と恐怖を振りまいている、それは事実だ。だが!怪人共はそれ以上の富と発展をもたらす!!怪人スーツは怪人という名の災害を人の手でコントロールし、新時代のスクラップ&ビルドを行う希望であり、人類を導く高位の存在へと至るための福音なのだ!!」
溶岩に覆われた両腕を広げ、浜田は自慢げに語り続ける。蜘蛛騎士は奥歯を噛み締めながら、彼を睨みつけていた。
「無論、奴らを倒してくれる君たちヒーローの存在あってこその話だがね。……まあ、裏方の君には関係の無い話だろうが」
「嫌味のつもり?」
「勿論そうだよ?」
あっけらかんと浜田は答えた。声に嘲笑が入り交じる。
「蜘蛛騎士くん、君の存在は我々のビジネスを邪魔し始めた頃から知っていたが、君が前線に出て怪人と戦う姿は見た事がない。金崎社長の意向なのか、それとも君の意志かは知らないが……たったひとりで1年半も頑張ってる割には地味過ぎる。私にはそれが理解しかねるんだ」
「何が言いたいわけ?」
「君の情報は、現場からの報告とネット上の僅かな噂から集めた。それを総合すると、だ──君、時々黒騎士の名を騙ってるだろ。どうしてそんな真似を?」
蜘蛛騎士を見つめる浜田は、挑発的に首を傾げる。
それに対して蜘蛛騎士は毅然とした姿勢を崩さない。
「答える義理はない。僕の質問に答えろ」
「ふむ、てっきり君は
「質問に質問で返してはぐらかすの?」
蜘蛛騎士の声音が強くなる。浜田は手をヒラヒラと振って話題を打ち切った。
「それは失敬、今のは私が悪いな。では答えるが……こちらは至ってシンプルだ」
「勿体つけるのやめてくれない?」
「誰も手を出さないから。それだけさ」
「……ああ、そう」
次の瞬間、4つのウェブグレネードが宙を舞う。
浜田が長話をしている間、蜘蛛騎士はずっと投げるタイミングを伺っていたのだ。
「もう話はお終いか?もう少し聞いて欲しかったんだが」
「話が長いんだよ、オジサン!!」
グレネードが炸裂し、ウェブ粘液がマグマンスーツの体表で凝固する。動けなくなった一瞬を狙い、蜘蛛騎士は飛びかかった。
「いいだろう、そろそろ私も温まってきたところだよ」
泰然とした態度のまま、迎え撃つ姿勢をとる浜田。
そして……
「だがオジサンではない!!私は永遠の24歳だッ!!!!」
読んでいただき、ありがとうございます。