番外戦士になりたい蜘蛛騎士くん   作:熊0803

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みなさんメリークリスマス。

というわけで新作、クロカタ先生作「追加戦士になりたくない黒騎士くん」に引き摺り込んだ結果二次創作を描いてしまった友人の代理としてこちらをお届けします。

楽しんでいただけると嬉しいです。




ビルの谷間の暗闇に

 

 

 そびえるビルの谷間をぬって。風を切りながら前へ、前へ。人口の明かりだけが照らす街を、僕はただ静かに進んでいく。

 足元を歩く人々より速く。道路標識に従って走る車より速く。全身を使い、時に壁を走って、手首のガジェットから()()()()()()()()

 

 

 

『では、今夜のニュースです。黒騎士、そしてジャスティスクルセイダーが、またもこの国を救いました。本日午後、太平洋から怪人が浮上。マグマ怪人と呼称されるこの存在は、KANEZAKIコーポからの発表によりますと……』

 

 

 

 耳に響くのは公共電波のラジオ放送。

 怪人が街で暴れ、世間で話題のヒーロー達が今日も世界を救いました、というここ1年はもう毎日のように流れているニュースだ。

 

 

 

 話題の中心は、三色戦隊ジャスティスクルセイダー。KANEZAKIコーポが開発した強化スーツを纏う3人の少女達から構成された戦隊。

 赤はポニテの切断少女(レッドウーマン)、青はショートの(コトワリ)系ガール、黄色は三つ編みの怪力関西弁ガール。それぞれの個性が強烈だが、1年通して怪人から世界を救い続けた精鋭だ。

 

 

 

 そして黒騎士。KANEZAKIコーポから盗み出したプロトタイプのスーツを身に纏い、彼女たちに先駆けて怪人と戦っていた少年。世間では「黒騎士くん」と呼ばれて親しまれているダークヒーロー。

 本人は悪ぶっているが根っこがいい子なのが隠せていないのが可愛い、と世間からはめちゃくちゃ好印象。相手が幹部クラスの怪人でない限りはワンパン、幹部クラスでも死ぬまで殴り続けて必ず倒してしまう脳筋ヒーロー。

 チームで動くジャスティスクルセイダーとは対になる、孤高の英雄だ。巷じゃ追加戦士扱いすらされている。

 

「またも、か。流石は公認様、敵わないや」

相棒(バディ)、それは皮肉ですか?』

 

 耳元に、ラジオの音声とは違う合成音声が鳴り響く。

 姿なき相棒の声に、僕はまさか、と笑って応じた。

 

「本心さ。だって僕たち非公認だろ? それに彼らほど強くはないし、ああいうかっこいい活躍は出来ないなぁ……って」

『つまり嫉妬、いえ羨望と言うべきでしょうか?』

「まあ、そうだね。正直ちょっと羨ましい。僕らの地道な活動も、ニュースに取り上げられれば録画して何度も見るのにな~って妄想は何度もしてる」

『それは俗に言う“イタい人”というものでは?』

「ルナ……それどっから覚えてきたの?」

 

 このズケズケと物を言う相棒は『R.U.N.A』といって、僕の活動を支えるAIだ。あらゆるネットワークに接続し、総合的な情報から常に的確な判断の元に発言する。時折SNSや動画サイトから変なスラングをラーニングしてくる事もあるけど、頼りになる存在だ。

 でも今の発言そんなに痛かったかな!? またラーニングしてきたばかりのスラングを誤用してるだけだよね!? そうだよね!? 

 

『しかし、私たちは表には立てません。我々が表に出るという事は即ち……』

「分かってるって。だからこうやってボヤいてみたのさ」

 

 そう、僕の全身を包んでいる“これ”は、本来僕が持ってていいものではない。存在が明るみになれば当然訴訟されるだろうし、このスーツも向こうに返さなきゃいけない。

 

 それでも僕はこれを託された。

 まだ使命は果たせてないし、彼らと違って僕の戦いは終わっていない。だからまだ返せない。金崎の社長さんには申し訳ないけども。

 

『目的地まで残り500mです』

「現場の状況は?」

『目的地に接近する船を確認、間もなく着航します』

「パーティーには何とか間に合いそうだ」

 

 マスクの裏にこだまする相棒の声に応じながら、僕は勢いよく糸を手放した。

 ひと時、重力に身を預けて落下しながら風を読む。

 

 

 

 そして左手首に装着された、腕時計のような機械を操作し一言、装備を転送するための起動ワードを呟いた。

 

「マント転送」

 

 背中に銀色のマントが出現し、僕はその裾を握る。

 そのまま風を受け、ムササビのように滑空しながら目的地へと降下。眼下に広がる人気のないコンテナ埠頭へ、音も立てずに着地し、暗闇に紛れた。

 

 

 

 コンテナの陰に隠れながら進むと、そこには数人の人影が見えた。

 警備員の格好で周囲を哨戒する、怪しげなマスクの集団が10人ほど。いかにもな雰囲気を放つ黒スーツの男が2人。例のブツを受け取りに来たのは間違いない。襟元には『KRO(ケリオ)』と書かれたバッジが光る。

 

「ルナ、周囲の状況は?」

『ハッキングした監視カメラと、ドローンの映像から配置を確認。マッピングします』

「埠頭の外のも合わせれば、下っ端だけでも結構いるね。よゆーよゆー」

『油断大敵ですよ、バディ』

「もちろんさ、逃がすつもりはないよ」

 

 軽口を交わしていると、着航した船から数名の構成員を引き連れた白衣の人物が現れる。その手には怪しげなアタッシュケースが握られ、いかにも怪しい取引が行われようとしているのが見て取れた。

 

「回収任務は無事完了だ。確認してくれ」

「……確認した。これで全てか?」

「他にも船に乗っちゃいるが、どんどん崩壊が進んで殆ど使い物にならん。貴重なサンプルだ、丁重に扱うように」

 

 白衣の人物からアタッシュケースを受け取ると、黒服の男たちはそれを開き、中身を確認する。中には円筒状のケースが5つほど。

 カメラで拡大してみると、その中には真っ白な岩石らしき物体が収められていた。そのうちの一つは、よく観察してみると手のように見えなくもない。

 

「間違いない、あれはマグマ怪人の体の一部……」

『ドローンを飛ばして正解でしたね』

「事後処理中の自衛隊にまで紛れ込めるとか、どんなコネ使ったんだろう?」

 

 黒騎士とジャスクルは今日の昼間、復活した幹部級怪人を討伐した。名前はマグマ怪人、正式名称は『惑星怪人アース』だったっけ。怪人達の大ボスだった『オメガ』との決戦以来の戦闘だ。

 アースはどうも1年半ほど前、黒騎士と政府が極秘裏に撃退した怪人らしい。マグマを操り、足が大地に接している限り無限にエネルギーを吸って再生する無敵の能力を持つ。単騎で日本を崩壊させうる力を持っていたらしく、表沙汰には出来なかったそうだ。

 

 

 

 ただ、無敵といっても生物である以上、物理法則には抗えないらしい。黒騎士はアースの能力がダメージこそ通さないものの、殴ればノックバックが発生する事に目をつけた。力任せに殴り続け、KANEZAKIコーポが開発した特性の耐熱コンテナへとアースを押し込み、ヘリで海上へと移送。自らもコンテナの中で戦い続け、最後は切り落としたアースの左手を心臓部に突き刺して海へドボン。それから1年半は眠ってくれたらしい。

 

 

 

 ……撃退したとはいえ、多くの自衛隊が命を落とした戦いだった。復活したアースは今度こそ倒され、今回は犠牲者も出ていないと聞く。だが……いや、だからこそ僕の拳は怒りで震えている。

 

『チャンスは今しかなさそうですが……どうしますか?』

「ああ、行こう! 宴会芸の飛び入り参加だ!」

 

 マントを脱ぎ捨て物陰から飛び出した僕は、勢いよく走り出す。構成員の間をすり抜け、黒服の背後へと迫るとその頭上へと軽やかに跳躍。ちょうど閉じられたトランクと黒服、白衣の両手に糸を飛ばすと、トランクを引っ張りあげて奪い取った。

 

「なっ!? なんだ!?」

「誰かいるぞ!!」

「そこだ! 動くな!」

 

 近くに置かれたコンテナの上に着地すると、暗視ゴーグルをかけた構成員たちが銃口を向ける。ライトが一斉に僕を照らし、埠頭の暗闇に人影と赤い複眼が浮かび上がった。

 

「やっほー怪人研究機構(Kaizin Research Organization)の皆、元気~?」

「その姿!? お前、黒騎士か!?」

「いや、その糸は……貴様、我々の同志を何人もブタ箱送りにした蜘蛛男だな!」

「おじさん正解! いや~、間違われる事が多過ぎて訂正するのも大変だったから、覚えてくれてるのは嬉しいね」

「ふざけた口を!」

 

 構成員の1人が発砲し、銃弾が飛ぶ。

 一直線に進んでくる銃弾を、僕は蚊を素手で掴むように止めた。

 

「ふざけてるのはそっちでしょ。こんなもの集めて、何企んでるわけ?」

「貴様に話すことなどない! 撃てぇぇぇッ!!」

 

 隊長格と思しき人物の号令で、一斉に引き金が引かれる。雨粒が傘を鳴らすような音と共に、鉄の豪雨が僕を飲み込もうと迫ってきた。普通の人間ならこれで蜂の巣間違いなし。ただ……僕はそうじゃない。迫る弾丸よりも早く、コンテナの上を走り出す。

 

「出入口付近を厳重警戒! 逃がすな!」

「ロケットランチャーを持ってこい! 実弾よりは有効打になる!」

「待て! それでサンプルがダメになったら元も子もないだろう!?」

「直撃させなければどうとでもなる!」

「ってか、ちょっとこの腕のネバネバ取れんのか!?」

「諦めた方がいいですよ。自然消滅するの待った方が早いです」

「クソッ!!!」

 

 悪党の騒がしさを尻目に、僕はコンテナを足場にどんどん離れていく。その間も発砲音は鳴り続けているが、一向に当たる気配がない。そう、()()()()()んだよね。スーツが弾いた音すらない。全部ハズレてコンテナを鳴らしてるだけだ。

 

「当たってないのか!?」

「これだけの数の弾丸を全て避けきるか、化け物め!」

「悔しかったらレーザー銃でも持ってきなよ。まあ、当たらなければ意味無いけどね~」

『前方からも来てますよ』

「気づいてるって。そこっ!」

 

 前方からコンテナを登ってきた構成員が数人、僕の方へと銃口を向けようとしていた。でも気づいたのは僕の方が早い。両手首のシューターから放った蜘蛛糸は、一瞬で構成員たちの動きを封じると、その場に彼らを拘束した。

 

「クラッカーは好きかい? そらっ、ウェブ・グレネード!」

『ウェブ・グレネード、転送します』

 

 手元にテニスボールサイズのグレネードが3つずつ出現し、点滅を始める。コンテナを飛び越えると、足元には何人もの構成員が待ち構えていた。グレネードを素早く投げつけると、内蔵された蜘蛛糸が周囲へと飛び散った。

 

「うわっ!? なんだこれ!?」

「ベトベトする気持ち悪っ!?」

「う、動けん!」

「それじゃお迎えまで静かにね。アデュー!」

 

 そのまま埠頭のフェンスを越え、僕はその場を後にした。

 

「さて、後はこの細胞を然るべき方法で処分すれば……ッ!?」

 

 糸でスイングしながら埠頭を遠ざかろうとしたその瞬間、全身の毛が逆立つ。何かの気配が急に現れたのを、本能が感知し警告している時の反応だ。

 

『バディ! 5時の方向から急速に接近する反応アリ!』

「ああ、見えてないけど感じてる! 一体何が……」

 

 糸を手放し体を捻り、背後を確認したその瞬間。目に入ったのは人影だった。

 

「そのケースを渡せぇぇぇ!!」

「あれは……コウモリ!?」

 

 しゃがれた声の絶叫。コウモリを模したグライダーに乗り、鋭い複眼を黄色く爛々と光らせ、細い体躯を真っ黒なスーツと装甲で覆った男が、こちらへと急接近してくる。グライダーの先端には鋭い2本の突起があり、それで僕を貫こうとしているのは想像にかたくなかった。

 

 

 

 僕は素早く糸を飛ばすと、埠頭近くの倉庫の壁に張り付く。

 直後、さっきまで僕がいた場所を真っ直ぐ通過したグライダーは、そのまま旋回して戻ってきた。コウモリ男は舌打ちしながら、僕を見下ろしている。

 

「あっぶない!? おじさん何者? バットマンのコスプレにしちゃ随分と怪人っぽいアレンジしてるね?」

「その言葉、そっくりそのまま返してやろう。こんな遅くに黒騎士の真似事とは、随分と火遊びが好きらしいな小僧」

「うわ、また言われた。別に寄せてるわけじゃないんだけどな」

「そんな事はどうでもいい。さっさとケースを寄越せ!」

 

 言うが早いか、コウモリ男は小型の刃物を投擲。刃物は回転しながら飛んでくる。宙返りでそれを回避し倉庫の屋根に着地すると、足元に何かが転がってきた。

 

「吹き飛びなァ!!」

「やっば……!?」

 

 足元に転がる手榴弾を空へと思いっきり放り投げる。直後、空中で花火のような爆音と共に炎が飛び散った。

 

「こいつも避けるか! 大したもんだな!」

「アンタもしかして、バットマンじゃなくてブラックゴブリン?」

「いいや、コウモリだ。オレは“機改人フレイダー”。愚かな人類を新たなる地平へと導く者だ」

「キカイジン……? 何それマイナー地下バンド?」

『背後にもう1つ生体反応が──! 

 

 ルナが危険を伝えてくれた時には、既に遅かった。僕の背後を取った“それ”は、フルスイングで僕を横薙ぎに吹っ飛ばした。

 

「ぐわあぁぁぁぁッ!?」

『バディ、大丈夫ですか?』 

「ったた……今の何? 僕は何をされた?」

『襲撃者が一人追加されたようです。装備は……』 

 

 攻撃してきたもう1人の姿に、僕は心底驚かされた。

 

「4本の……鉄の腕(メタルアーム)!?」

 

 まるでタコのようなガスマスクを被り、背中から4本もの鉄の触腕が生えたハーネスを背負った男。その男は触腕を自分の手足のように動かしながら、僕が落としたケースを拾った。

 

「手柄の横取りか、ドク?」

「フレイダー、お喋りが過ぎるのではないかね。我々の目的はあくまでゲノムの回収。我々の存在を声高々に宣伝する事ではない筈だ」

「ヘイヘイ、ご尤も。命拾いしたな小僧、今夜はこの辺にしておいてやる」

「黒騎士似の蜘蛛男、さしずめ“蜘蛛騎士”といったところか。また何処かで会うだろうが、精々邪魔をしないことだ」

「待て……うっ!?」

 

 追いかけようとしたが、コウモリ男が投げた円筒状の物体から強烈な光と甲高い音が溢れ出す。スタングレネードだ。僕は慌てて両目を閉じ、耳を抑えた。そして光と音が消えた時、2人の襲撃者は姿を消していた。

 

「逃げられた……。ルナ、追跡は!?」

『ケース付けた発信機の反応は捉えています』 

「急ごう。マグマ怪人の遺伝子なんて、何に使われるか分かったもんじゃない!」

 

 近づいてくるサイレンの音。町外れを目指す発信機の赤いビーコン反応。世界を脅かす脅威の種と、それを利用せんとする悪を追い、僕は再び夜空を駆ける。胸に正義の怒りを燃やし、鋭い複眼を光らせ、ビルの谷間の暗闇へと。

 

 

 

 





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