少し期間が空きましたね。
楽しんでいただけると嬉しいです。
「んで、これからどうすんだ?」
昼休み。食堂でランチを手に席へ向かう途中、ネイトがそんな事を問いかけてきた。
「どうするって、何が?」
「その取り逃した2人組、早く見つけなきゃいけないんだろ?」
「今夜も徹夜で施設巡りってことになる」
「うわ、効率悪そう」
「でも他に方法がないんだ」
KROの施設に潜り込み、コンソールをハッキングして情報を抜きとる。この1年ずっと続けてきた作業だ。地味でも他に良い方法がない。
「KANEZAKIの社長さんにアポ取って、協力取り付ければいいんじゃない?」
「……やっぱりそう思う?」
「奪われたのはマグマ怪人の細胞だろ? 軍事利用なんかされたら日本がヤバいって。四の五の言ってられる状況かよ」
「だよね……」
ことは一刻を争う。僕個人のこだわりやしがらみに囚われてる場合じゃない。腹を括る時がきたって事なんだろう。
「でも、アポ取ろうにもあの人多忙だからな……。確実に会える方法を探さないと」
「変身して社長室の窓からこんにちはーってのは?」
「先に本社ビルの防衛システムに引っかかりそうだから無理だね」
「ルナちゃんに自宅特定させるとか」
「本社に寝泊まりしてるらしい。自宅を兼ねてるのかも」
「警備網を掻い潜って直接社長室へ突撃するとかどうよ?」
「普通に犯罪じゃん。そういう短絡的なのは、かえって面倒を招くから良くない」
「ん~……せめてコネでもあれば……KANEZAKIに知り合いとか居たりしない?」
「居るには居るんだけど……知り合いと呼べるかどうか……」
「何だよ、歯切れ悪いz……うおっ!?」
その時ネイトがすっ転び、トレーにのっていたランチが宙を舞った。コップの水が、皿の上のチャーシュー麺が、セットの餃子がスローモーションで浮かんでいく。
「危ない!」
瞬間、反射的に手を動かす。
ネイトの手を離れたトレーを掴むと、落下するよりも早く食器をトレーの上に戻しバランスを整える。そのまま落下するランチの真下にそれらを配置すると、ラーメンセットは零れる事無く食器に戻っていった。僅か一瞬、コンマに満たない時間での動作で全てが終わった。
「あっぶな……サンキュー、リヒト。助かったわ」
「チッ」
聞こえてきた舌打ちに、ネイトが転んだ場所に目をやる。そこには廊下側から足を戻す、金髪で感じの悪い男子が座っていた。
「コージ、また君か」
「知らねーよ。そこのデブが身体支えられなくてよろけただけじゃね?」
「俺そこまで太ってねぇよ!」
こいつは
「はぐらかすのか?」
「俺がやったって証拠はねぇだろ。それともなんだね、君は決め付けで人を悪者扱いするのかねリヒトくぅん? なぁ皆」
「うっわ冤罪とかサイテ~」
「これだから被害妄想の激しい陰キャはよ~」
コージの呼び掛けに、一緒に座っていた2人の取り巻きが口を揃えて同意する。
「んにゃろ、しらばっくれやがって!」
「おうおう、やんのかおデブちん!」
「デブデブうっせぇわ!」
「ネイト、落ち着いて。構うだけ無駄だよ」
残念ながら僕の目にはハッキリ見えてたんだけどね。ネイトの足をひっかけて転ばせたの。でもこいつのせいで昼休憩が削られるのは癪なんだよな……。スルーしたいけどしつこく絡んで来そうだし、僕じゃなくてネイトを狙ってるのが余計に腹立つし、どうしたもんかなぁ。
「証拠ならあるわよ」
「は?」
凛とした声が響き、コージが僕の背後へと視線を向ける。振り返るとそこには、コージがネイトの足を引っ掛けた瞬間を撮影したピクチャが表示されたスマホを持つ、赤髪の女子が立っていた。
「この写真を見れば犯人は明らかだと思うけど?」
「撮ってたのかよ!?」
「新聞部をなめないでよね。私はいつでも
「クソっ! 覚えてろよ!」
コージと取り巻き達は悔しげに立ち上がると、そのまま逃げるように立ち去っていった。
「ありがとうマキちゃん、助かったよ」
「こんなの朝飯前よ。リヒトがいじめっ子に絡まれるのなんて、いつもの事だったし」
彼女は
「変わってないのかなぁ、僕は」
「そんな事ないよ。リヒトくん、昔より背も伸びたし、前より筋肉も増えてるんじゃない?」
「そ、そうかな?」
「毎日見てるもの。私には分かるわ」
そう言って微笑む彼女に釣られ、僕も笑ってしまう。周りをよく見て少しの変化も見逃さない。そういう所、昔から変わってないなぁ。
「お二人さん、もしやお惚気けタイムだったりするぅ?」
……ネイトの揶揄うような一言。その直後、マキと視線がピタリと合った。
「のっ、惚気!?」
「えっ? はっ? えっ!? ちょっと!?」
「ばっ、バカ、そんなんじゃないから!? ねぇマキさん!?」
「そっそそそそそうよ!? いくら私たちが幼馴染だからってそういう関係ってわけじゃなくてね!?」
「ドゥフフ、ご馳走様ですぞお二方~」
慌てふためく僕らを見ながら、ネイトが某ネコ型ロボットめいた目を向けてくる。こいつ、楽しんでるな!?
「あーもー! ほら、さっさと席座る! 昼休憩終わっちゃうだろ?」
「そ、そうよね! そうしましょう!」
「へ~い」
マキを加え、僕ら3人は昼食に手をつけ始める。今日はカツ丼定食でガッツリカロリーを摂取。分厚いトンカツって最高だよね。食べ応えがあるし。
「それで、今日の2人は何の話で盛り上がってるわけ?」
「KANEZAKIの社長さんにどうやって顔を……」
「そ、そうそう! KANEZAKIコーポが黒騎士についてまた色々と情報開示しててさ!」
口を滑らせかけたネイトの言葉を遮って誤魔化す。ネイトの方を睨むとやっべ、と慌てて口を押えていた。
「あー、1年と半年前にマグマ怪人を撃退した時の映像ってやつ? あれは大スクープだったよね。どこのメディアも注目してたし」
「おじさんの反応は?」
「変に隠し立てせず、可能な限りの情報を一般解禁する金崎社長の方針は素晴らしいって褒めてたよ。今までは何処の新聞社もスクープ狙いで群がってたみたい。父さんも『これで名刺の1枚も用意してこないような三流記者も減るだろう。ざまぁみろ』って笑ってたし」
「KANEZAKIのよくない話って、ほぼゴシップ誌でしか見かけないもんな。今1番ホットな陰謀論だし」
「ホントよね。名誉毀損で裁判沙汰になったらどうするつもりなのやら」
寧人がラーメンをズルズル啜りながら言うと、マキも苦笑いしながら同意する。マスコミに関わる人間として、取材現場の清浄化は最も望まれるものなんだろう。
他者が持たない物を欲してしまうのは、人間のどうしようもない本能だ。マグマ怪人戦についても、閉鎖された海域に盗んだ船で乗り込み、映像をドローンで撮影してLIVE配信した連中が存在した。
そういう危ない事をしでかす輩が増えないようにするには、連中が欲しがってる物の価値を落とすのが一番だ。
この場合は情報。KANEZAKIコーポの広報部がジャスクル、そして黒騎士の戦闘記録を積極的に公開する事で、それらの情報はいち早く人々に届く。部外者がわざわざ危険を犯して手に入れる意味は……ん? ちょっと待て?
「マキ、今なんだって?」
「名誉毀損で裁判沙汰になったら?」
「そこじゃなくて、おじさんは何て言ってたって?」
「これで名刺の1枚も用意してこないような三流記者も……」
「それだ!!」
「え? どうしたの急に?」
その一言に、脳の奥底に沈んでいた記憶が引き出される。
KANEZAKIにコンタクトを取るにあたって一番の悩みに光明がさし、僕は思わず席から立ち上がる。
「マキ、ありがとう! お陰で糸口が掴めそうだよ!」
「え? ちょっ、リヒト!? いきなりなに!?」
「本当にありがとう! このお礼は今度、必ずさせてもらうよ!」
「そ、そそ、それはいいんだけど……皆見てるんだってぇ……」
「あ~、リヒト? お前ちょっと手元見てみ」
何故かニヤついてる寧人に言われて視線を落とすと、彼女の両手を掴んでブンブン振ってる自分の手が目に入った。
「あ、ごめん!! 興奮してつい……」
「もう、気をつけてよ……」
慌てて手を離して席に座り直す。やっちゃった……興奮のあまり叫んでしまったのも相まって、周囲からすごく視線を感じる……。
「ごちそうさま。私、先行くね」
「ああ、またね」
マキはそのまま空の食器が乗ったトレーを持って、スタスタと僕らから離れていった。思わず頭を抱えて天井を仰ぐ。
「お前、上越の前だとマジで距離近いよな」
「幼馴染だからね。今でもふとした時に昔の癖が出ちゃうというか」
「昔からああなのかよ!? もう付き合っちゃえよ!」
「だから、別にそんなんじゃ……」
ニヤニヤしながら揶揄ってくる寧人をいなそうとしていたその時、ポケットの中が振動する。確認するとスマホに着信が入っていた。
宛名は『R.U.N.A』、ルナからの緊急メッセージだ。
「もしもし」
『エマージェンシー、エマージェンシー。市内F地区の高層ビルで大規模な火災発生。“HEROプロトコル”に従い、緊急出場命令を発令します』
「なんだって!?」
スマホから耳を離すと、寧人の方を振り返る。
「まさか、お勤めか?」
「大正解。次の授業はノート任せた」
「はいよ。幸運を祈る」
残ったカツ丼を一気にかきこむと、僕は足早に食堂を飛び出した。
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“HERO”プロトコル。
それはプロトエスの開発理念そのもの。
“
“
“
“
即ち怪人を倒すためではなく、怪人が暴れる事によって発生する二次被害から人々を救うために開発された、対怪人災害対策用救助スーツ。それがこのスーツ本来の使用用途だ。
だが、怪人災害でなくとも大規模な災害に対処するためのスーツであるため、消防隊だけでは対処困難だと判断される事案にもプロトコルが適応される。
今回は久し振りに、それを理由とした出場になりそうだ。
人気のない校舎裏。誰も居ないことを確認した僕は、袖を捲ると左手首に嵌めた薄鈍色の時計のような腕輪『プロトチェンジャーType-S』を胸の前に掲げる。
黒騎士が纏うプロトスーツと同時期に開発されたらしいそれは、『Spider』のSであり『Save』のSであり、とにかく色んな意味が込められた名前らしい。
個人的には黒騎士のプロトゼロ、つまり0号機に対してナンバリングではない識別名が与えられている所にロマンを感じてしまう。いいよね、ロストナンバー。
本体側面のボタンを連続して三度押すと、変身シークエンスが発動。そのまま左腕を前へと突き出しながら、気合を入れて叫ぶ。
「変身!」
周囲に特殊フィールドが形勢され、粒子化されたスーツが僕の首から下を覆っていく。
そしてその上から、蜘蛛を模した頭全体を覆う仮面が。加えて胸部や腕部等を覆うように、鈍色のプレートや装甲が装着されていく。胸部には『S』の文字が刻み込まれ、開発者がよほどこの文字に拘っていたことが分かる。
『Save……Straight……Super……Spider……』
『CHANGE——PROTO TYPE Sゥ……』
ノイズがかかった音声で読み上げられる4つのSと、スーツの名称。緑の複眼が光り、ダークグレーのスーツは陽光を受けて鈍く輝く。
「ウェブストリンガー、起動」
音声認識での認証と共に、チェンジャーを裏側に反転させることで発射口が現れる。同時に右腕にも同型の発射口を持つブレスが装着され、準備は完了だ。
「ステルスモード、ON」
隠密行動機能を起動すると、光学迷彩で透明化。
そして両腕から糸を飛ばすと、スリングショットの要領で勢いよく宙へと飛び出した。
『火災の原因は不明。消防隊による消火活動は難航しており、ビルの上層階にはまだ多くの人々が取り残されているようです』
「ビークルは使える?」
『セーブストライカーが急行中。到着次第、ドローンによるサーチを開始します』
「現着までの最短距離は?」
『マップに表示します』
ビルを駆け、宙を舞い、自動車よりも速く移動しながら、火災現場を目指して進む。
待ってろよ、絶対に間に合わせる!
読んでいただき、ありがとうございます。