番外戦士になりたい蜘蛛騎士くん   作:熊0803

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楽しんでいただけると嬉しいです。


レスキューヒーロー

 

 

 

『サーチ完了。ルートを表示します』

 

 火災現場に到着した僕らは、裏口からビル内に突入。消防隊と鉢合わせないように注意しながら、先回りして上の階へと登っていた。

 

 正直な所、今にも足がすくみそうだ。一面に燃え広がる赤い炎に、恐怖が込み上げてきそうになる。

 でも、この炎に脅かされているいくつもの命がある。だったら立ち止まるわけにはいかない。

 

 僕はヒーローなんだ。自分を奮い立たせ、階段を登りきる。

 

『バディ、Are you ready?』

「いつでも。マント転送、これより経路を確保する」

 

 防火マントを装着。防火扉に手をかけると、扉と垂直の位置に身を隠しながら開く。直後、バックドラフトで炎が吹き出した。

 

「危ない危ない……。レスキューアタッチメントF、転送」

『アタッチメントF、“FireFighter”転送します』

 

 承認音声の後、両腕の前腕部に消化用レスキューアタッチメントが装着される。

 右腕には緑色のブロアー型アタッチメント。左腕には赤と銀の放水銃型アタッチメント。それらの起動を確認し、僕はまず右腕を前に突き出した。

 

「サイクロンブロアー、全力回転!」

 

 高速回転するブロアーが強風を発生させ、充満していた煙を吹き飛ばす。煙たかった視界が開け、廊下の奥がある程度見えるようになった。

 

「ウォーターキャノン、発射!」

 

 続いて放水で炎を鎮火しながら経路を確保。そのまま足を進めていく。後ろから向かってくる消防隊の人達が少しでも進みやすくなるよう、障害を取り除いておくのが今回の作戦だ。

 彼らが少しでも多くの人を救ってくれることを祈りながら、僕はさらに上の階へと登り始める。

 

『熱源探知。移動しています』

「熱源が移動? 炎が延焼しているとかじゃなくて?」

『自然界では有り得ない現象です。表示します』

 

 ドローンで3Dスキャンされたビルの図面に、サーモグラフィーによる熱源反応が表示される。

 そこに映っていたのは、最も高温と計測された反応そのものが、ビル内を徘徊しながら上階へと向かっている様子だった。

 

「まるで炎が意志を持っているみたいだ……」

『バディ、炎が向かう先に生命反応です』

「急ごう。嫌な予感がする」

 

 足を進めたその時だった。

 

「……けて……誰か、助け……ゴホッゴホッ」

 

 男性の声だった。咄嗟に声のする方を振り向く。

 

「ルナ、聞こえたか?」

『生体反応あり。この先の角部屋です』

「人数は?」

『1人です』

「避難ルートよろしく」

『了解』

 

 ルナに救助後の避難経路を検索させ、僕は声のした方へと走る。

 廊下の端、角部屋があると表示された場所は程なくして見えてきた。だが……。

 

「ッ!? これは……」

 

 部屋へと続く廊下を崩れた天井が塞いでいる。どうやら救助対象は閉じ込められてしまっているらしい。

 まずは瓦礫を撤去しなければ進めない……なら、このアタッチメントだ。

 

「アタッチメントC、転送!」

『アタッチメントC、“Crush Claw”転送します』

 

 アタッチメントFが消え、代わりに手首から先に新たなアタッチメントが装着される。

 鋭い爪型のアタッチメント、ガッツクロー。その爪で瓦礫をガッチリ掴み、撤去するためのパワーアームだ。掌にはレーザートーチも装備されており、掴んだ瓦礫をそのまま溶断する事もできる。

 

「うおおおおおおおッ!!」

 

 素早く瓦礫を退かしながら、進むべき道を切り拓く。2分と経たないうちに、埋もれていた扉は目視できるようになった。

 

「大丈夫ですか!」

「ゴホッ……た、助けて……もう、サボろうだなんて、考えないから……」

「下がっていてください! 今、ドアを壊します!」

 

 ノックと共に声をかけると、弱々しい声が返ってきた。

 まだ助けられる……けど、あまり時間はない。ドアノブに手をかけると、そのまま力任せに引っ張った。

 

 ガコン、という音と共にドアが丸ごと抜ける。どうやら中は備品置き場らしく、ダンボールが積まれた棚が並んでいた。そして目の前には若い男性が、壁に寄りかかってこちらを見ていた。

 

「黒騎士くん……?」

「えっと……あ、ああ。大丈夫か、あんた」

 

 まあ、想定内の反応だ。推しに間違われる事に思う所はあるけども、正体を隠して行動するのには都合がいいんだよね……。

 ごめん黒騎士くん、また名前使わせてもらうよ。

 

「ここは危険だ。掴まれ、降ろしてやる」

「あ、ありがとう……ゴホッ……」

 

 煙をかなり吸い込んでるようだ。意識も朦朧としている様子で、すぐにでも病院に搬送しないといけないだろう。

 

 男性に肩を貸し、防火マントを被せて部屋を出る。

 ルナが検索してくれたルートを見ると、どうやら火の手がかなり回っているらしい。窓から飛び降りるしかなさそうだ。

 

「ルナ、他に逃げ遅れた人は?」

『既に殆どが、消防隊によって救助されつつあります』

「今、熱源の中心部はどこに?」

『ここから3フロア上、移動を続けています』

「上を目指している……? その先に何かあるのか?」

 

 さっき反応を見つけた時も、上の階をまっすぐ移動しているようだった。

 熱源の正体は分からないけど、何かの指向性を持って動いているように見えるのは気のせいじゃないだろう。

 

『バディ、上階にも生命反応が』

「ッ、いくつ?」

『1人分です。逃げ遅れたものと推定されます』

「この人を降ろしたらすぐに向かおう!」

 

 ルナに指定された窓から、階下を見下ろす。

 何台もの消防車と、紺色の防火衣に身を包んだ消防士の人達が懸命に消火活動を行っているのが目に入った。

 

 目的はその端、ビルの上からでも目立つ真っ白な車体。救急車だ。

 

「ゴホッゴホッ……黒騎士くん、何を……」

「目を閉じてて……んんっ、目は閉じてろ。結構高いからな。あとお腹キツいかもしれねぇから、ちょっと我慢してくれ」

「あ、ああ……」

 

 男性を俵抱きで抱え上げると、ウェブストリンガーを頭上へ向けて発射。ワイヤー代わりにすると、僕はそのまま窓から飛び降りた。

 

「そぉぉぉりゃっ!」

「う、うわあああああああ!?」

 

 勢いよく落下する身体をウェブ1本で支えながら、ビルの壁面を蹴ってブレーキをかける。目は閉じてても風圧は感じているのか、肩から絶叫が聞こえる。

 ちょっと耳に響くけど、気にしている暇は無い。

 

「よっ、ほっ、はっ」

「ゲブォッ、くくく黒騎士くん!? ゲホッ、大丈夫なんだよね!?」

「黙ってろ、舌噛むぞ!」

「ふぐぅぅぅぅぅぅ!!」

 

 両手で口を抑えたらしく、男性の悲鳴が篭もる。

 やがてアスファルトの地面が眼下に迫ってきた。そのまま一気に減速し、僕は音もなく着地した。

 

 光学迷彩のお陰で、周りの人達に僕らの姿は見えていない。

 そのまま救急車の近くへ駆け寄ると、僕は男性の防火マントを外させ、救急車にもたれかかる姿勢で座らせた。

 

「サボりも程々にな? それじゃ」

「ま、待って……ゲホッ……君、黒騎士くん……じゃないよね?」

 

 思わず足が止まる。朦朧としていた意識が、さっきの脱出バンジーで引き戻されたのか……。

 

 ……ちょっと、嬉しいな。分かってくれて。

 

「……さあ、どうかな」

「ゴホッ……君は、何者なんだ……?」

「知らなくていいし、忘れていいよ。むしろ、僕のことは見なかったことにしてほしい」

「は……?」

「シーッ、お願い。ね?」

 

 人差し指を仮面の口元に当て、半分だけ振り返る。

 煤で汚れた男性の顔に浮かぶ困惑が、不謹慎だけど少しだけ面白くて、思わず笑みが零れた。

 

「ッ……。ゲホッ、ゲホッ……」

「大丈夫ですか!? 酸素マスク、こっちへ!」

「ゲホッ……え? あれ?」

 

 救急隊員に発見された男性に背を向け、光学迷彩で姿を消した僕はビルの壁面にウェブを飛ばす。

 

 目指すは熱源、最上階だ。

 

 

 

 ─────────────────────────────

 

 

 

「な、何なんだね君は……! 私に何の恨みがある!?」

「恨みだと? 大アリに決まってんだろ! お前にはその命で償ってもらう!」

「や、やめろ! 寄るな! 近づくなぁぁぁぁぁ!!」

「フハハハハ、俺の怒りの炎に灼かれるがいい!」

 

 怯えた悲鳴と耳障りな笑い声、2つの音を耳が拾う。

 壁を走ること10秒足らず。目的の場所に面する窓にウェブを飛ばした僕は、そのまま勢いよく窓を蹴破った。

 

「ッ!? なんだ!?」

「アイエエエ!? もう勘弁してくれぇ!!」

 

 目に入ったのは、炎に囲まれ蹲る中年男性。

 そして熱源の正体……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 どこか見覚えのあるその姿に、嫌な予感が頭をよぎる。

 予感と共に溢れだしそうな焦燥を、ふぅ……と息を吐いて押さえ込む。

 

 ステルスモードを切り、自分の姿を晒しながら僕は片手を挙げて一言告げた。

 

「ど~も、ムカ着火ファイヤーさん。通りすがりのレスキューヒーローです」

「……は?」

 

 溶岩男は困惑した様子で、中年男性に向けていた手を下ろす。

 

「外まで聞こえてたよ~、君の怒号。派手な火遊びまでしちゃって、ご近所さんから迷惑だって声も沢山届いてるんだけど?」

「なんだァ、お前……げ、黒騎士!?」

 

 マグマ男は僕の方へと向き直る。黒煙がひどいからか、向こうは僕の姿を認識するのに一瞬時間がかかったみたいだ。

 そして案の定、僕をシルエットで黒騎士だと判断したらしい。

 

「ムカ着火ファイヤーくんさぁ、ちょっと落ち着いてくんない? ここはバーベキュー禁止だし、花火やるなら水の準備も怠っちゃダメだよ~」

「は? バカにしてんのか! ア゛ァ゛ン!?」

「大声出さなくても聞こえてるって。それとも僕の話聞こえてないの? もしも~し」

 

 次の瞬間、顔面を狙ってバスケットボールくらいの火球が飛んできた。

 首を傾げて避けると、マグマ男は肩を震わせながら僕の方へと殺気を向けていた。

 

「うわ、あっぶな……」

「チョーシ乗ってんじゃねぇぞ。テメェがどんだけ強かろうが、俺の怒りの炎は消せやしねぇんだよ!」

「何そんなにカッカしてんのさ? ムカ着火くん、カルシウム足りてないの?」

「うるせぇ! それ以上変な名前で呼びやがったらぶっ殺す!!」

「それじゃ自己紹介しようよ。ハイ、あなたのお名前なんですか?」

 

 よかった。素直に誘いに乗ってくれるタイプだ。

 ただ、僕の悪い予感が当たってた場合、こいつの名前はおそらく……。

 

「俺は“機改人マグマン”!! マグマ怪人の力を受け継いだ選ばれし人間だ!!」

「ッ!! 嫌な予感的中しちゃったよ……ルナ、スキャンよろしく」

『既に始めています』

 

 やっぱりあのコウモリ男達と同じスーツ……しかも、マグマ怪人の力だって? 

 あいつら、まさかオメガ怪人達の力をスーツに転用してるのか!? 

 

「キカイジンかぁ。もしかして、フレイダーって名前のコウモリおじさんと、一緒にいたタコ足おじさんは君の先輩か何か?」

「コウモリとタコ? なんだそりゃ……B級映画か何かか?」

 

 あの二人を知らない? 直属の上下関係とかではないってことか? 

 けど名前からして、あの二人とマグマンのスーツはおそらく同系統。何らかの繋がりがあるのは明白だ。絶対に捕縛して知ってる事全部吐かせなきゃ。

 

「まぁいいや。それで、君の目的は? 放火……にしちゃ随分と目立ちたがりだね。やっぱり花火かBBQ?」

「んなわきゃねーだろ! 見ての通り復讐だ。この会社は許されねぇ事をした。その報いを受けさせてやるんだよ」

「復讐? 何されたの?」

「お前にゃ関係ねぇ!!」

「おおっと!?」

 

 再び放たれる火炎弾。今度は両手で何発もだ。

 

 僕はデスクを足場に跳躍し、火炎弾を回避しながら移動する。

 幸い、火炎弾の軌道は単純だ。アースの溶岩のように頭上から降り注ぐような事もない。速度も銃弾より少し遅い程度。つまり……アースに比べて全然弱い! 

 

『バディ、ドローンが到着しました。先程の男性を避難させます』

「OK、一旦落ち着いて話そう、よっ!?」

「チッ、ちょこまかすんな! 逃げてねぇでかかって来やがれ!」

「お生憎様、僕の仕事は君と戦うことじゃないのさッ!」

 

 火球を回避するのと同時に、マグマンの顔面にウェブを飛ばす。

 

「うぶっ!? テメェ、こんなベトベトで顔狙うな!!」

 

 すぐに剥がされたけど、それでいい。これであいつの意識は完全に僕へと向いた。

 

「知ってる? 復讐って関係ない人巻き込んだ時点で正当性なくすんだよ。君のやってる事って本当に正しいのかな?」

「黙れ! 俺が復讐しなきゃならねぇのは、この会社そのものだ! 全部焼き尽くしてやる!!」

「じゃあ聞かせてよ、君がそこまでする理由。もしかしたら、こんな真似しなくても良くなるかも」

「法で裁けりゃ苦労しねぇんだよ!!」

 

 マグマンが叫んだその瞬間、周囲に熱風と高熱が拡がった。

 咄嗟に前転して振り返ると、デスク上のPCが熱で溶け、デスクも形が歪んでいる。あっぶな……。

 

『周辺の温度が上昇しています』

「怒らせると火力が上がるのか!?」

 

 だとすれば厄介だ。煽り耐性低いみたいだし、挑発してればポロポロ情報を出してくれるんだけど、怒らせるとパワーアップされる……。

 

 しかも、長引けば火の手は更に拡がる。消防隊が放水を続けているが、劣化しているとはいえアースの能力を模倣した炎だ。簡単には消えてくれない。

 

 この手のタイプを相手に、時間をかけずに情報を吐かせるには……。

 

「法で裁けない? それは本当なのか!?」

「ああ、本当だ。法律相談所に駆け込んだが、取り合ってくれなかったよ」

「そんな……いったいどんな悪党なんだ……」

 

 話を合わせ、疑問を提起する。

 自分の話を素直に聞いてくれる相手には気を良くして、つい口を滑らせてしまう。それが人間の心理だ。

 

 特にこういう、自己顕示欲が強そうな目立ちたがりはね。

 

「どんな、なんてもんじゃない。マジでクソだ」

「この会社に、いったい何をされたんだ? 何が君をそこまで焚きつけるんだ?」

「そんなに聞きたいか? いいぜ、なら教えてやる」

 

 よし、乗ってくれた。

 ここから動機と一緒にスーツの入手経緯まで引き出せれば……。

 

「この会社はな……俺を面接で落としやがったんだ!!

 

「………………は?」

 

 今、なんて……? 

 

 





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