番外戦士になりたい蜘蛛騎士くん   作:熊0803

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楽しんでいただけると嬉しいです。


因縁

 

 

 

「……っとと、危ない危ない」

 

 マキシマムレスキューで空中に打ち上げたマグマンが、そのまま気絶して落下してくる。

 僕はビルの天井に空いた穴に、蜘蛛糸を幾重にも張り巡らして落下してきたマグマンを受け止めた。

 

 ルナが落下地点を予め計算した上で射角と威力を調整したから、うっかり地面へ真っ逆さま……なんて事にもならなかった。

 悪人とはいえ人の命。たとえ相手が極悪人でも、人命救助を使命とする以上は見捨てるわけにはいかない。

 

「ルナ、心拍確認」

『異常ありません。気絶しています』

「よかった。周囲の様子は?」

『上空に待機させたストライカーがスモークを散布。傍目からは突然のにわか雨が火を弱めたように見えているかと』

 

 マキシマムレスキュー。それはプロトエススーツのリミッターを一時的に全解放して放つ、このスーツにとっての必殺技。ハイドロキャノンは広域火災の鎮火を目的とした、超強力な放水弾だ。

 

 マグマンを上空に打ち上げ無力化すると同時に、ビルの火災を鎮火させる。一挙両得を狙った作戦は、大成功で幕を閉じたようだ。

 

「惑星怪人アース、その能力は両足が大地に触れている限り、この惑星のエネルギーを吸収して自らの力に変換する。ここが地上から離れた屋内で助かったよ」

『マグマンを挑発し、攻撃を全て躱してエネルギーが尽きるのを待つ。エネルギーが尽きればマグマン自身が放つ熱量も低下し、周囲を発火させる能力も封じられる。相手の特性を分析し欠点を突いた戦術、お見事でした』

「ありがとう。でも、黒騎士くん達はもっと上手くやってた。もしマグマンがビルの外で暴れていたら、どうなっていた事か……」

 

 本物に及ばないとはいえ、そのパワーソースは幹部級怪人の力。僕だけでの勝利は絶望的だっただろう。

 黒騎士くんはたった1人でアースを瀕死にまで追いやったし、ジャスクルと4人で戦った時もトドメをさしたのは黒騎士くんだった。

 

 僕は……ああはなれない。彼らのように“強くてかっこいい”ヒーローには遠く及ばない。

 だからこうして、戦いを終える度に胸をなで下ろしてしまう。今回も1人も死なせず助けられた事に、心から安堵しながら。

 

『……しかし、市民の目は誤魔化せても気象情報までは誤魔化せません。これまではごまかせていましたが、今回ばかりは我々の存在をアピールしたも同然かと』

「年貢の納め時かな……。でも、タイミングとしてはちょうど良かったのかも」

『必要とあれば、私もお手伝い致します』

「その時はよろしく」

 

 オメガとの決戦から先日のコウモリ男、そして今回のアースもどき。こうして並べると、最終章付近のイベントっぽい気がしなくもない。

 僕の戦いは、黒騎士くん達と違って明確なラスボスと呼べるような存在がいない、終わりの見えないものだけど、そろそろ終わりが近づいてる……とかだといいなぁ。

 

『ところでバディ。スキャンの結果ですが、このスーツは非常に高い硬度の物質で構成されている事が分かりました』

「へぇ。このスーツの素材は?」

『バディも知っているはずの物質です。いえ、正しくはバディなら知っているはず、と言うべきでしょうか?』

「随分と含みのある言い方だね?」

 

 僕なら知っているはず? 

 その言い方だと、まるでその物質は一般的には知られていない存在ってニュアンスに聞こえるんだけど……。

 

『このスーツを構成するのは製作者(マスター)、小原理奈(りな)様が開発を進めていた汎用型ナノマシン“M.A.G.I.C.”です』

「ッ!? M.A.G.I.C.だって!?」

 

 思わず声を荒らげてしまう。

 その名前には覚えがあった。正式名称はMedical aid Generic Innovative Compact device(医療援助用の汎用的で革新的な超小型デバイス)、各単語の頭文字を取ってM.A.G.I.C.だ。

 

 姉さんの夢だったもの、姉さんが生涯をかけて完成させると誓っていたもの。

 そしてあの日、炎の中に消えたと思っていたもの。

 

 どうしてこいつが……!? 

 

「ルナ、このスーツ脱がせられる?」

『少々お待ちください。ナノマシンのシステムにアクセスします。バディ、マグマンのスーツに手を触れてください』

 

 ルナに促され、僕はマグマンの頭部に触れる。どう見ても溶岩にしか見えない……。

 

 姉さんの語る所によると、M.A.G.IC.は損傷した人体や破壊された建築物を修復する事を目的としたナノマシンだったはずだ。

 それを怪人の姿や能力を模倣したスーツに使うなんて……。

 

『アクセスに成功しました』

「結果は?」

『どうやら無理やり脱がそうとすれば、装着者の生命を損なうようにプログラムされているようです』

「は? いくらなんでも悪趣味すぎない!?」

『加えて、装着者の意思以外では脱げないようなプログラムも見受けられます。脱がせるには規定のプロセスを踏まなければならないようです』

 

 設計が悪辣過ぎる……これじゃ装着者はスーツの部品も同然じゃないか! 

 まるで人を兵器にするために造られたかのような設計思想。姉さんの夢を冒涜する最悪の改変だ。許せない!! 

 

 それにこんなの、黒騎士くんやジャスクルじゃ手を出せないじゃないか! 

 まさか、このスーツはそれを前提として開発されたんじゃ……。

 

 思わず想像してしまう。もしもマグマンが、僕より先に彼らと戦っていたら……と。

 

 ジャスティスクルセイダーが強いのは疑いようもない。苦戦することはあれど、1体でも日本を壊滅させられる力を持った怪人達を相手に常勝、負け無し。

 黒騎士くんに至っては最強だ。苦戦すらしているのを見た事がない。あらゆる怪人達を一方的にフルボッコにしてみせている。

 

 でも、そんな彼らも普通の少年少女だという事は、彼女らのSNSや、KANEZAKIコーポからの公式情報からも常々発信されている。

 怪人ではない普通の人間を相手に彼は、彼女らは、戦う事ができるだろうか。

 

 もしも手加減をした上で無力化する事に成功したとして、スーツの自害プログラムが発動してしまったら、彼の心は、彼女らの精神は……。

 

 クソッ! 待っていろよKRO、僕が必ずお前達に償わせてやる!! 

 おそらくコウモリ男とタコ男も同じスーツだろう。こんなスーツ、全部まとめてスクラップにしてやる!! 

 

「ルナ、その規定のプロセスってのは?」

『私が強制停止プログラムを流し込みます』

 

 ……はい? 

 

「できるの!?」

『可能です』

 

 相棒からの思わぬ言葉に、燃え滾っていた怒りが一気にクールダウンしていく。

 てっきりこのスーツの何処かにあるであろう動力源を断つ、とかそういうのだと思っていたんだけど……。

 

『私自身の中にM.A.G.I.C.の強制停止プログラムが存在しており、強制アクセスの権限も付与されています。リナ様はM.A.G.I.C.が悪用される事を懸念しておられたようです』

「さ、流石姉さん……抜かりがない」

 

 驚かされこそしたけども、解決策が手元にあったのは僥倖だ。時間をかけてたら、それこそKROがどんな動きに出るか分からない。

 先を見越していた姉さんに、心の底から感謝した。

 

「ルナ、ナビゲーションよろしく」

『お任せ下さい。まずはバディ、両手でマスクに……』

 

 ルナからの指示に従い、マグマンのスーツに触れようとしたその時。

 割れた窓の向こうから急速に接近する“音”があった。

 

「ッ!?」

 

 同時に伴う僅かな殺気。反射的に飛び退いた直後、既に窓枠だけとなった窓を破壊しながらコウモリ型のグライダーが現れた。

 

また会ったなァ、小僧! 

「フレイダー!? またお前か!!」

「生憎と、今回もお前の相手をしてる暇は無い。だが、そいつは返してもらうぞ!」

「そっちこそ、何故こんなものを用意できた! お前達が何故、M.A.G.I.C.を持っているんだ! 答えろ!!」

「フハハハハ、オレにそんな義理はないぜ。あばよ!」

 

 言い終わるが早いか、フレイダーはグライダーから何かを取り出し、放り投げる。

 またスタングレネードで逃げる気か!! 

 

「させるか! ルナ!」

『対閃光防御、対音波防御を発動します』

 

 複眼の色が黒く変わり、仮面が外部からの音声をシャットアウトする。

 二度も同じ手はくわない。このままフレイダーを捕えれば……。

 

「バカめ、同じ手は()()()使()()()!」

 

 フレイダーが放り投げたのは、顔が描かれた赤いトマトのような形状の手榴弾。それも5、6個ほど同時に。

 次の瞬間、手榴弾からは大量のスモークが吹き出した。

 

「煙幕ッ!?」

「あばよ、小僧! 幸運が3度も続くと思うなよ。ハーッハッハッハ!」

 

 煙の奥へと姿を消したフレイダーの声が、高笑いと共に遠ざかっていく。

 このままじゃ逃げられる! 

 

『バディ、どうしますか?』

「ルナ、音声拾って! あと発信機も! 視界はそのまま!」

『了解』

 

 シャットアウトしていた外部からの音が戻ってくる。視界は対閃光防御シールドで真っ暗なままだけど、それでいい。

 

 目を閉じて、感覚を研ぎ澄ます。視覚に頼らず聴覚、嗅覚、触覚を通して、フレイダーの場所を割り出すんだ。

 風を感じろ、金属の匂いを追え。グライダーの音が向かっているのは……。

 

「そこだッ!!」

 

 発射口に発信機がセットされたウェブストリンガーを、気配の一点に向けて射出する。

 グライダーの音が遠ざかり、やがて消えていったのを聞き取ると、僕はマップを確認した。

 

 発信機からのビーコンは、確かにこのビルから遠ざかっていく。どうやらフレイダーの乗っていたグライダーに着弾してくれたらしい。

 

「今回は上手くいってくれよ……」

『前回と比較すれば、気づかれる可能性は低いかと』

「これまで2回逃げられたんだ。3度目の正直を願おう」

 

 フレイダーはマグマンを担いで何処かへと消えた。

 火災も無事に鎮火されたし、もう僕らの仕事は無さそうだ。

 

 再びステルスモードをONにすると、僕は音も立てずにビルを後にした。

 

 ────────────────────────

 

「レイマ……いや、()()()()()。私は近いうちに死ぬだろう」

「……は?」

 

 ある日、あいつは何の脈絡もなくそう言った。

 私が思わず疑問符を返すと、あいつは静かに続けた。

 

「正確には、『私が死ぬ未来』が視えた。要因を探るために結果を逆算し、回避を試みたができなかった。どうやら私に、この未来は変えられないらしい」

「滅多なことを言うんじゃない! どうしてオレに相談しなかった!?」

「だからこうして相談している。だが、悪足掻きに近い。0%をコンマ1程度に引き上げる程度のものだ」

 

 あいつの目は本気だった。尽くせる手立ては全て尽くした、というのが分かってしまう。

 

「だから、お前を信じてお前に託す。もしも私がこの未来に抗えなかった時は、お前が……」

「ふざけるな!!」

 

 柄にもなくテーブルを叩いて立ち上がる。冷水入りのコップが振動し、波打った冷水がテーブルを濡らす。

 

「お前が死ぬなど、オレは絶対に認めんぞ! 予測演算がなんだ! どれだけ精度が高かろうが、予測は予測だ。そんなもの、オレが全部覆してやる!」

「ゴールディ……」

 

 あいつは驚いた顔で俺を見上げていた。

 それとも、どこか喜色を浮かべた顔だっただろうか。

 

「ありがとう。お前にそう言われると、何とかなる気がしてくるよ」

「気がするではない、必ずだ。何が起きようともな」

「だが、万が一に備えられない者は必ず失敗する。だから、こいつを預かっていてくれないか?」

 

 そう言ってあいつは、懐から何か取り出した。

 

「あくまで預かるだけだぞ。全部終わったら、必ず引き取りに来い」

「ああ。未来を変えられれば、の話だがな」

「絶対だ絶対。()()()()、お前にはまだまだ任せたい仕事が残ってるんだからな」

「悪魔の科学者、孤高の天才が私を頼る日が来るとはね」

「ええい、昔の軽口を掘り返すんじゃない!」

 

 今となっては、遠い日の約束。

 そして、それが果たされることはなかった。

 

 これがあいつと顔を合わせた、最後の会話になった。

 

 □□□

 

「……また、あいつの夢か……」

 

 いつの間にか寝落ちていたらしい。新装備の開発に夢中になりすぎたようだ。まだ日が高いうちから寝落ちてしまうとは、根を詰めすぎただろうか? 

 

 時刻は16時を回った頃らしい。2時間近くも寝落ちていたようだ。

 デスクの隅には、あの日に友から預かったままの、招きスフィンクスの置物が置かれている。

 いや何だよ招きスフィンクスって、とあの時はあいつの独特なセンスにツッコミを入れたものだ。

 

「シルバス、やはりお前なのか……?」

 

 招きスフィンクスは何も答えない。ただそこに鎮座しているだけだ。

 

 すると端末に着信が入る。確認すると、諜報部の幸屋(ゆきや)くんからの連絡だった。

 

「私だ」

『社長、お忙しいところ失礼します。怪人研究機構を名乗る者達の尋問が終わりました』

「そうか。何か収穫はあったか?」

『単刀直入に申し上げますと、例の少年……コードネーム“S”の捜査に進展です』

「ッ!? 本当かね!?」

『これから社長室へお伺いしますので、5分程お待ちください』

 

 怪人研究機構、通称KROはかねてより調査を進めていた政府非公認組織だ。

 ジャスティスクルセイダーと怪人の戦闘後、我々の事後処理のどさくさに紛れて怪人達の体組織や体液等を掠め取っていく厄介な連中で、これまで何度もアジトらしき施設を潰して来たが未だに首謀者を捕まえる事が出来ずにいる。

 

 そしてコードネームSとは、そのKROと何度も交戦していると思しき謎の少年である。

 KROの存在が露呈したここ半年、KANEZAKI本社に通報が入る日が何度かあった。通報を受けた地点に向かうと、そこには何者かに捕縛されたKROの構成員達が転がっていたのだ。

 

 尋問の結果、彼らは口を揃えてこう言った。

「黒騎士に邪魔された」と。

 

 黒騎士、つまりはカツミくんはその頃、我々も正体を掴みきれていなかった。そのため当初は私も彼の仕業だと思っていたのだが……尋問を続ける度、そこには疑念が生じるようになっていった。

 

 尋問の度にもたらされる情報が、明らかにカツミくんと一致しない。その事実は我々に大きな衝撃を与えた。

 

 カツミくんにしては言動が軽いし、捕縛の仕方も力づくではなくスマートだ。装備もプロトスーツとは異なっている部分があったという。

 黒騎士と呼ばれた際に何やら不満げなリアクションをしていたという証言を聞いた時は、私も彼ではないことを確信した。カツミくんは細かい事をいちいち気にしないからな。

 

 証言の中には「糸を飛ばしてくる」だとか「アクロバットやパルクールを駆使して迫ってくる」といったものが多かったため、我々は彼を“スパイダーボーイ”……通称Sと呼称していたわけだ。

 

 決定的だったのは、つい先日。新峪市の埠頭での通報だ。

 あの時、我々はカツミくんとマグマ怪人撃破の祝勝会を行っていた。隣町の新峪市に居るはずがない。

 加えて、メンタルチェックアンケートの際も、カツミくんからKROらしき存在についての話は出なかった。

 

 つまり、私以外にスーツを作る事ができる人物、または我々の知らないスーツとその装着者が存在している。

 この結論に辿り着いた時だ。私があいつを……喪った無二の親友の存在を回顧するようになったのは。

 

『社長、失礼します』

「入ってくれ」

 

 と、どうやら幸屋くんが来たらしい。

 私はデスクに座り直して、スーツの襟を正した。

 

 

 

 

 

 





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