戦艦レ級になりまして。   作:灯火011

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未知との遭遇にむけて

 一方その頃。長谷川幸一は、人払いがされている集会場で昨日の船の状態についての説明と、そして、一緒にいた新生物の話を事細かに年寄り達に説明を行っていた。彼らの目の前には茶と茶請けが置かれていて、少なくとも酒宴の雰囲気ではない。

 

「…という形で、テレビでよく流れている、あの新生物に助けられたわけです」

 

 幸一はあらかた説明を終えて、年寄達の顔色を窺った。この街の実力者である年寄りは5名。阿部英雄、大野一朗、桑原寅雄、松永秀雄、そして、一番の実力者である、幸一を呼び出した加藤悠雄が彼の話を聞いて、静かに頷いていた。

 

「まず、話は突拍子もなく、あまりにも現実離れをしていることは良く判った」

「はい」

「が、現実的にお前の船が沈まずに戻ってこれるような損傷ではない。それも事実だな」

「はい」

「…ならば、その新生物とやらに助けられた、という話も真実なのだろう」

 

 まずは阿部がそう口を開くと、ほかの年寄りもその通りと言わんばかりに頷いている。

 

「で、幸一。お前はその新生物の正体は何だと思う?」

「はい。おそらくは…この島に伝わる人魚…のようなものではないかと」

「ほう、人魚伝説を引き合いに出すか」

「ええ。と、いうか、それ以外に説明のしようがありません」

 

 幸一の言葉に、年寄り5人はもう一度頷いていた。

 

 この島に伝わる人魚伝説は、非常に短い話でありながらも、この島の生い立ちとして語り継がれている民話だ。

 

 内容としてはこうだ。

 

「海で船が難破し、遭難しかけた漁師の男を助けた美しい人魚がいた。

 その人魚は難破した船と男を軽々と持ち上げ、そして陸に送り届けた。

 海に帰ろうとする人魚を男は必死に引き留め、命の礼だと食事や酒で歓待して、その結果、人魚は村に住み着くようになった。

 男はその美しい人魚を村の人々に紹介し、優しかった村人々と、美しい人魚は次第に村の人々も人魚と打ち解けた。

 その頃から村で獲れる海の魚の質と量が圧倒的に良いものとなり、村は繁栄したのである。

 そして、仲を深めた男と人魚は、村に祝福されながら契りを結び、子を成した。その子孫が、今の我々である」

 

 まるで、今回の新生物との出会いをなぞったようなもので、だからこそ、幸一は『人魚伝説があるからなんとかなる』と自信ありげに答えたのだ。

 

「ふーむ…しかし、あれは伝説だからなぁ」

 

 大野は慎重なのであろう。頷きながらも、少しだけ首を傾げる。

 

「ですなぁ。しかし、大野さんも見たでしょう、幸一の船の穴を。あれは5分と持たないものだ。それに、加藤さんも見たのだろう?その新生物」

 

 今度は桑原がそう言いながら、加藤を見る。すると、加藤は強く頷きを見せていた。

 

「見たぞ。いやー、大層美しい娘だった。思わず俺は叫んじまったよ。長谷川さんが女を連れ込んだ!ってな」

「その声、居間で休んでいたワシにも聞こえましたよ。何事かと思ったもんですわ」

 

 加藤の言葉に頷きを見せたのは、今まで黙っていた松永。この中では一番の長老で、髪の毛は無いが、豊かな髭を揺らしていた。

 

「幸一、その、新生物…まぁ、人魚様とお呼びしようか。我々もお会いすることは出来るかな?」

 

 桑原はやわらかな笑みを浮かべると、幸一にそう問いかける。よく見れば、ほかの4人も小さく頷きを見せていた。

 

「可能です。ですが、彼女も少し混乱しておりまして。できれば、少数がよい、と思うですが」

 

 幸一は伏し目がちにそう言いながら、年寄の反応を伺う。すると、彼らは目配せを行い、これまた小さく頷き合っている。何やら、言葉にはしないが、意思の疎通を行っているようであった。そして、5分程度経ったころ。

 

「…ならば、ワシと加藤、それに、役所の近藤さんも交えて幸一の家に伺ってもよろしいかな?」

「そのぐらいなら、大丈夫だと思います、松永さん。しかし、役所の近藤さんもですか?」

「うむ。何せ、今、その人魚様は日本で一番の話題の生き物だろう。テレビで見ない日が無い。ならば、役所の近藤さんに見せるのが間違いはないだろう」

 

 ズズ、と松永は茶を一度啜る。

 

「それに、近藤さんも人魚伝説には詳しい。それに堅物ではないから、きっと、悪いようにはならんだろう」

「そういうことなら」

 

 幸一は頷いてから、茶を啜る。少し冷えたそれは、幸一の心を少しだけ落ち着かせていた。

 

 

「夜分遅くにご足労ありがとうございます。近藤さん」

 

 そこから1時間ほどたったころ。年寄りのうち、加藤、松永が残って、ほかの阿部、大野、桑原は既にその姿は集会場にはなかった。

 

「いえいえ。松永さんからのご連絡とあればこの近藤、いつでも参上いたします。して、話とは?」

「それがですね。昨日の幸一の船の件はお耳に届いておりますか?」

「ああ、ええ。海難事故と伺っております。幸いにして、船も幸一さんもご無事だったと」

「その通りです。実はですね、その件で少々、厄介なことになっておりまして…。幸一、もう一度私たちにしたように説明を近藤さんにお願いできるか?」

「勿論です」

 

 再び、幸一は人魚伝説に絡めた説明を近藤に行った。ただ、まだ、彼女が何かからあの姿になっている、という情報は伏せている。まずは彼女を村に受け入れてもらおうという考えがあるからだ。その上で、一歩一歩謎が解けていけばいいと考えていた。

 

「…という形で、船は無事に港にたどり着いて、私も無事だったわけです」

「な、るほ、ど」

 

 近藤は困惑しながら、松永と加藤の顔色を窺った。すると、年寄2人は少し深めに頷いていた。

 

「ふーむ。にわかには信じがたいですが…お二人は幸一さんのお話を信頼しているのですね?」

「いかにも」

 

 間髪入れずに答えたのは加藤だ。体を近藤に向き直すと、口を開く。

 

「この幸一は真面目にこの数十年漁師としてやっております。この港でも一番と行っていい、真面目な男です。その男が言う言葉にはまず嘘はありません」

「なるほど」

「加えて、私もその人魚様を見ております。非常に美しく、しかし、その肌色は青白く、更には、その背中には異形としかえないものを抱えておりました」

「…」

 

 近藤は天を仰ぐ。人魚伝説は知っているが、とはいえ、あれは伝承の一つだ。それになぞらえるようなことが、実際に起こるなんてまず考えて生活はしていない。嘘だろいうと断じたい所だが、しかし、この村の実力者である年寄はその話を信じているし、その姿も見ているという。

 

「…であれば、一度、その人魚様にお会いしたいと思うのですが」

 

 困惑した表情のまま、近藤はそう言葉を投げた。すると、松永は待ってましたと言わんばかりに強く頷いた。

 

「ええ。ぜひ、お会いいただければと思うのです。実は、近藤さんをお呼びしたのはその件で」

「なるほど、なるほど」

 

 近藤は何度か、気持ちを落ち着かせているのであろうか、小さく頷きながら茶を啜った。

 

「…ちなみに幸一さん。その、人魚様のご様子などは?」

「そうですね、近藤さん。非常に友好的ではありました。私の作った料理…というか、カレイの揚げ物をおいしそうに食べておりました。会話も通じましたので、危険なことはないかと思います」

「そうですか。ならば、そうですね。ここで悩んでいても仕方ないでしょう」

 

 近藤は茶を一気に飲み干した。そして、強く頷きながら、幸一、加藤、松永に目配せを行うと、腰を上げる。

 

「では、向かいましょうか」

 

 4人は頷いて、集会場を後にする。そして幸一は少しだけ冷や汗を浮かべながら、年寄と役人を連れて、家路への道を歩き始めていた。

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