戦艦レ級になりまして。   作:灯火011

12 / 13
人魚の姫と、旦那様

 おっちゃん以外の男3人。私の目の前に現れたソレは、正直言って想定外だ。いやしかし、と気合を入れ直してから、改めて笑顔を作る。

 

「…あら、お客様もご一緒でいらしましたか。これは、お見苦しいところをお見せ致しまして、申し訳ございません」

 

 慌てたら負けである。ひとまずは弛めていたシャツの胸元を正し、深くお辞儀をし直した。そして頭の中で考えた言葉を、噛まずに何とか紡ぐことが出来た。さて、おっちゃん、この先どうすんべと視線を合わせる。

 

「…で…」

 

 で。なんとか紡いだ言葉がソレかぁ。うーん、どうするか。いっそのこと何事も無かったように笑顔で迎え入れようか?などと高速で頭の中が回転していく。ただ、どう考えても、その先にあるのはおっちゃんとめっちゃ親しい、しいて言えば体の関係まであるぜみたいな誤解を、おっちゃんについてきた3人にさせてしまう未来だ。

 

「…で、出迎え、ご苦労さん。なんかいろいろ用意しれくれていたようだけれど、客人だ。ひとまず、茶を入れてくれるか?」

 

 お、ナイスフォローだおっちゃん。ならばと、笑顔の仮面を顔にはっつけて行動を起こすとしよう。

 

「もちろんでございます、旦那様。さ、では、皆様方お履き物を脱いで頂いて、居間のほうへどうぞ」

 

 深々と頭を下げてから、踵を返して台所へと向かう。その背中では、気の所為ではなく、困惑しているおっさん達の会話が繰り広げられている。

 

「おい、話とずいぶん違うじゃないか。あ、いや、姿は確かに聞いた通りだがお前よう」

「本当にいるのだなぁ。人魚様は…」

「なるほど。確かにあれは化け物だが、なるほど、人魚様といわれれば確かにそのような見た目をしていますね」

「既にお前にべったりじゃあないか。こういうことは先に話しといてくれよ。心の準備ってもんがあるんだが」

「あ、え、ええ。いや、ええ。その、やはり見ていただくのが手っ取り早いかと思いまして」

 

 一向に動きそうにない彼らに、ちらりと一瞥をくれてから。

 

「いかがされました?」

 

 にこりと問いかけてやる。そろそろ動いてくれと念を込めながら。

 

「…ああ、いや。すまない。ああ、じゃあ、その」

「はい、旦那様。お飲み物は緑茶で構いませんか?」

「…よろしく頼む」

「はい、かしこまりました」

 

 ふむ。ひとまずはなんとかなりそうか?ま、ともかく彼らを居間に入れてから考えよう。それに、おっちゃんが連れてきたのだ。そんなに悪い人ではないだろうし、もしアレならば、海に逃げ込めばいい、かな?

 

 

「粗茶でございますが」

 

 おっさん、あとは爺さん…と言えるであろう見た目の人らの目の前に、茶の入った湯呑みを一つ一つ置いていく。そして、配り終えるとともに、おっちゃんの横に腰を下ろして、軽く頭を下げておく。一歩引いての女性をイメージだ。そんなに悪い印象にはならないだろうが、どうだろう。

 

「ありがとうございます。さて、さて、ああ、まずは紹介などしましょうか」

 

 と、その中の、すこし雰囲気があるおっさんが、そう声を上げた。

 

「私は近藤と申します。役所に勤めておりまして、この島の取り纏め役みたいなものです。そして、こちらが漁港の長老の2人、加藤、松永。どうか、お見知りおきを」

 

 近藤さんと言うおっさんの言葉に従うように、じいさん2人が頭を下げた。なるほどなるほど、なんにせよ、この島の比較的お偉いさんが揃っている、と見ていいだろうね。ならば、こちらからも答えたい所だが。

 

「旦那様」

「あ、ああ」

 

 ここで出しゃばるのも少々違和感があるだろう。何せ三つ指ムーブをカマシタからね。ここは、ある程度まではロールプレイをしていたほうが話はスムーズに進む、と読んでおっちゃんに促しておく。それを汲んでくれたのであろう。おっちゃんは、咳ばらいをしてから、一度こちらを見た後に口を開き始めた。

 

「近藤さん、加藤さん、松永さん。これが、私が話させて頂いた命の恩人の人魚様です。お名前は…その、伺えてはおりませんので、ご勘弁を」

 

 おっちゃんの言葉に合わせて、頭を深く下げておく。

 

「ご紹介にあずかりました。旦那様に助けていただいております、名無しのしがない化け物にございます。お三方のご様子から察するに何やら、ただならぬご様子。十中八九わたくしの事だと理解しております。ご迷惑というのでございましたら、すぐにでもここを立ち去ります故…」

 

 そのまま言葉を続けて、更に頭を下に下にと下げる。まずはこういう場合、へりくだりまくればまぁ何とかなるもの。処世術の一つという奴だ。

 

「頭をお上げください。我々は別に、首を取りに来たわけでも、追い出しに来たわけでもございません。人魚様」

「…ああ、左様ですか。失礼致しました。わたくし、早とちりを」

 

 心の中でグッとガッツポーズを一つ作りながら、顔を上げる。ほんのりと表情に力を入れて、笑顔になる前のスキのない感じを顔に出しておく。敵対もしていないけれど、しかし、仲間でもない。そんな雰囲気が伝わってくれると良いなぁ。

 

「それに、随分と幸一に信頼を置いているご様子。まぁ…そうですな。今日はお会いできただけでも十二分です。加藤さん、松永さん。ひとまず、後々の()()()は明日以降ということで、今日はお暇致しましょう」

「……左様ですな」

「ワシもそれで構わんよ。……しかして、人魚様、一つだけお聞きしたいことがございます」

 

 聞きたいことと来たか。おっちゃんに目配せしてみれば、軽く頷かれた。ならばと、体をしかりと相対して……確か松永さんといったか。彼に向けて、視線を合わせた。

 

「はい、なんでしょうか。松永様」

「ああ、かしこまらくても良い。ただ、なぜ幸一を助けたのかとな。人魚様の気まぐれかもしれんが……理由をお聞かせ願いたい」

 

 なぜ、と来たか。正直言えば、ただただ助かりたかっただけ、なんだけどな。たまぁ、私も朴念仁ではない。この状況では、そんなことは口が裂けても言えないだろう。

 

「気まぐれといえば、気まぐれと言えましょう」

 

 松永さんから目を外し、視線を隠しながら軽くはぐらかす方向で。幸いにして頭の回転は今のところ高回転のまんまである。だからこそ、きっとこんな余計なことを口走ったのだろう。

 

「ただ、海上に漂う彼を見て、魅力的だと思ったところ、も、確かに思うところにございます」

 

 まぁその、はぐらかしながら、なんとなくそうっぽい理由ってなると、こんなもんじゃない?そう思って、微笑みながら改めて松永さんの顔を見てみれば、そこにあったのはなぜか、やたらと優しい笑みを浮かべている、そんなおじいちゃんの顔であった。

 

「そう……そうでありましたか。承知致しました。ならば、私からは何も言う事はない。行くとしましょうか」

 

 松永さんがそう言うと、他の2人、近藤と加藤と名乗ったおっちゃん達も頷き合って腰を上げた。合わせて私とおっちゃんも腰を上げる。

 

「では長谷川さん、人魚様。後日、改めて今後についてのお話をさせていただきたいと思いますので、またご連絡させていただきますね」

「はい、近藤さん。あ……ただ、その間、人魚様はどうすれば?」

「そうですね……。まぁ、流石に外に出すわけには参りませんから、しばらくはここで保護をお願いします」

「あ、はい」

 

 ふむ。どうやら私の処遇はある程度安泰なものになったようである。ひとまずの安心といったところだろう。思わず溜息をついてしまった。

 

「ふ、はは。それにですね。長谷川さんに随分となついていらっしゃるご様子ですから、引き離すのも……。と、いうことで、長谷川さん。必要なものがあれば、連絡をください。直ぐに準備させますから」

 

 近藤さんの優しい視線がこちらに向いた。うん。間違いなく何か勘違いされているような感じがするね。

 

「ありがとうございます。近藤さん。それに松永さんに加藤さん。本日はご足労ありがとうございました」

「おう。頑張れや、長谷川。しかしお前さんも隅に置けんな」

「うむ。頑張れよ幸一。甲斐性を見せろよ?」

 

 彼らはそう、好き勝手言いながらお茶を飲み干して、おっちゃんの家を後にしていった。彼らの背中が玄関の扉の向こうに消えたとき、おっちゃんと私は思わず、大きなため息を吐いていた。

 

「……わりぃおっちゃん。つい出来心で」

「いや、俺も悪かった。一報入れときゃ良かったな」

 

 どうにも気まずい雰囲気がおっちゃんとの間に流れる。ふーむ。なんか、変に意識しちまってんな。お互い。なんとなくおちゃんの視線は私をそういう雰囲気で見ているし、私もおっちゃんをそんな雰囲気で見てしまっているきらいがある。

 まぁ……おっちゃんはずっと独り身。私もしばらく一人で大海原をさまよっていたのだから、人肌恋しいのは仕方ない事だ、が。

 

「とりあえず、酒飲もうぜ。飯も準備してあっからさ」

「お、おお。気が利くな。そうだな、今日は飲むとしようか」

 

 残念ながら私の精神性は多分男だ。流石にな。まだな。そういった覚悟は無い。おっちゃんも私の背景を知っているのだから、手は出しにくいこったろうて。というか、手を出したらお互いに後悔しそうなのが笑えてしまうな。

 

「なぁ、ひとまずハイボールでいいか?」

「それでいいぜ、おっちゃん。つまみは掃除してた時に見つけた缶詰、適当に出すわ」

「お、気が利くな。頼んだわ」

 

 ひとまず気を紛らわせるために酒を飲もう。うん。明日の事は、きっと、明日の自分が頑張るさ。うん。きっとな。 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。