戦艦レ級になりまして。   作:灯火011

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一つ先に進む。

 小さな岩礁の上に立つ灯台。どっしりと腰を据えて、その灯台の下で休憩すること2日ほど。結局は下手に動くよりも、灯台の近くに通る船を待とう、と体力を温存しようという形で判断していたのだが。

 

「まー、そうは来ないか」

 

 未だに、何も海の上を通ることはない。ふーむ。

 

「…とりあえずは…」

 

 できることを探してはいたのだが、まぁ、それが何もないのよ。かばんの中身は携帯、バッテリー、財布、コインケース、そして日焼け止めにリップクリームぐらいなもんで、特に役には立つことはない。一応ペットボトルの水があるが、まだ喉は乾かないので飲むのは控えておくとする。

 

「gpsは一応…拾っているな」

 

 うーん…電源はまだまだ持つ。ただ、地図アプリは使えないわけで…位置情報のデータだけ受信できていたとしてもだ、マップアプリが通信必要…だものなぁ。

 

「一応開いてみるだけ」

 

 マップをタップしてみるものの、やはり予想通り。真っ白な画面に自分の位置がポーンと表示されるだけであった…。が。

 

「ああ、これなら方向は理解できるか」

 

 幸いにして方角は生きている。ならば…。

 

「…うん、進んだ方向は合っているな。西に進めているようだし…」

 

 あとはどのぐらい進めば何があるのか分れば、一つ指標が出来るのだが。流石に海の先は見通せ…。

 

「あ、そこにあるじゃん。海の先まで見通せるもの」

 

 自分の傍にそびえたつ、灯台の上から見れば、今よりは視界が開けるというものだ。

 

 

 そうだよな、これが一番いいよな。灯台の上に乗ってみれば視界も広がるってもんだよ。そうだよそうそう。ということで、さっそくと灯台の入り口へと向かったのだが…。

 

「扉が施錠されてら」

 

 いかん。でっかい南京錠で扉が固く閉じられている。ま、そりゃそうだな。航行の要である灯台に悪戯でもされた日には、海は大混乱に陥ってしまうことだろう。うーむ。

 

「外を上るのはちょいと無理か」

 

 外はつるっとしていてなんとも手が引っ掛かる場所がない。ジャンプするぐらいじゃあまず、上に届かんし。

 

「かといって、この南京錠をどうにかも出来んしな」

 

 頑丈そうだし。あ、でももしかして、この海の塩分でやられてたりは…。

 

「…ないな。がっちりしてら」

 

 しっかりとした材質なことで。錆も目立たない、良い南京錠だ。さすがは海の導を守る鍵だこと。

 

「詰んだか」

 

 うーむ。うーむ。右往左往してみれど、入り口はここしかないし。一度跳ねてみてもまぁ、上には届かない。少なくとも10メートル以上の建物だしな。うん。あきらめようか。

 

「と、なるととれる手段は2つ」

 

 止まるか。それとも、進むか。今のところは止まって2日何もない。となれば、進むことも考えねばならないか。いやー、でも、もう少し待ってもいいんじゃないか?

 

「幸い、まだ喉も乾かんし、さほど、尻尾のおかげか腹も減らんし」

 

 …これはいったいどういうことなのだろうか。やっぱり夢なのか、これは。いやしかし、打ち付ける波しぶきなんかはどう考えても本物だしなぁ。

 

「それに、べたついているこの髪の毛もどう考えても本物だ」

 

 尻尾から伝わる感覚も見事に本物っぽい。いや尻尾ってなぁ。冷静に考えると夢なんだよこれ。でも、恐ろしいほどに自分の思い通りに動くしなあ。

 

「…わっけわからーん」

 

 考えても仕方ないが、考えることぐらいしかやることがないので堂々巡りである。ああ、ただ。この尻尾はいいこともあったりする。

 

「…ま、この尻尾の先についている大きな口は、かなり便利だけどな」

 

 この尻尾の先の口からものを食うと、腹が満たされる気がするのだ。例えば、岸壁にへばりついている貝なんかを放り込んで食らうと、味はともかくとして腹が膨れる、ような気がする。

 

「味は…なんといえばいいのか」

 

 まずくはない。おいしい、気がする。そんな味になっている。ちなみに普通の口で食うと、へばりついている貝は食えたもんじゃない。どういう仕組みなんだろうかね?

 

「…この口も胃につながってんのかね?それとも、何か別の内臓的な?」

 

 うーん、考えてもわからん。でも、貝殻ごと食っても腹を壊さんのだから、普通の内臓でもないのだろうね。…もしやして、時折波しぶきがかかっているから、水分もこっちの口が得ているとか?

 

「どれ、試しに」

 

 尻尾の先の口を海面に落としてみる。そして、ごくりと海水を飲み込んだ。

 

「…うん。スポーツドリンク風味だな。少し生臭いが」

 

 同時に、喉も潤う感じがする。まったく、どうなっているんだか。だが、これで少しは先が見えた。ひとまずは、貝をいくらか採取しておいて食料にすれば、先に進むことは出来そうだ。

 

 

 それから数時間をかけて食料代わりの貝を岸壁から毟り取る。そして、パンツを脱いで、袋状にしたものの中にその貝をたらふく詰め込んだ。…ま、下は裸になるわけだけれども、相対的にデカくなったシャツで、下半身までなんとか隠せている。良く言えばワンピース風味だ。海の上に誰も居ないが、女性の肢体をさらすのは少々気が引けるからね。

 

「しかし、痛くないもんだな」

 

 岸壁に張り付く貝を引っぺがした自らの手には、傷一つついていない。違和感だな。なんだろう、この体になってから結構頑丈になっている、ような気もするが。

 

「…実際頑丈にはなっている、んだろうな。波を受けても、炎天下にいても肌荒れすらねぇし」

 

 便利な体になったもんだ。水分は海水で良し、食料はまぁ尻尾の口に放り込めばなんでもよし。あ、ただ、コンクリとか岩はまずかったんで駄目だ。削り取れはするんだが、吐き出してしまう。貝はどれでも食えたことからすると、最低限食えるもの、食料でないといけないらしい。

 

「ま、それはいいか。えーと」

 

 携帯のマップを確認して、とりあえずの方向だけを確認する。ついでに、アナログな方法―太陽の方向から―自分の方角も確認する。…よし、携帯と大体合っているな。

 

「では、西に向かってヨーソロー」

 

 数日を過ごした灯台を後にして、海の上に足を置く。と、ここにたどり着いた時と同じように、自然と体が海の上を滑り始めた。いやはや、やっぱり夢なんじゃいのかこれ?と思った次の瞬間、波しぶきが顔にかかる。

 

「ぶっ!?しょっぺ!?」

 

 思わずそれを飲み込んでしまい、せき込んでしまった。うーん、やっぱり夢じゃないよなぁ、この感覚はさ。

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