戦艦レ級になりまして。   作:灯火011

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たおやかな昼食

「じゃあ、俺はちょっと出てくるわ」

 

 おっちゃんは、急ぎ足で寄り合いとやらに向かうらしい。身支度を整えてこぎれいになったたその姿を、机に座ったままで首だけで追いかける。ふむ、こう見るとすっかり酔いも抜けたその姿はまるで、やり手の職人のようだなぁと思う。

 

「飯は適当に見繕ってくれ。冷蔵庫の中のモンなら使っていいからな」

 

 玄関からそんな声がしたので、こちらも声を返していた。

 

「判ったぜ、おっちゃん。片づけはしててもいいんだよな?」

「ん?あー、まぁ、ほどほどにな。ああ、ただ姉ちゃん。書類関係は捨てないでくれよ」

「オッケー」

 

 なるほど、書類は捨ててはならん、とね。まぁ、確かに船の権利書とか、漁業権のやつとかいろいろあるのだろう。とはいっても、それ以外のもの…例えばチラシとか古い新聞なんかも積まれているんで、これはすぐに捨ててもいいようにまとめておこうか。

 

「じゃあ、出てくるわ」

「いってらっしゃーい」

 

 ドアが閉まって、そして、鍵が閉まる音もした。さてさて、まぁ、そうだな。まずはこの居間の掃除を始めよう。乱雑に置かれた雑誌やら新聞、チラシ、あとはビニール袋に弁当の残りなんかもあって、実に一人暮らしの男の部屋だ。

 

「腕が鳴るね」

 

 ぐっと背伸びをしてから、足に力を入れて立ち上がる。と、危ない危ない。尻尾が壁にぶち当たりそうだ。

 

「これ、邪魔だな」

 

 なんでも食える便利な尻尾。しかも船を持ち上げられるほどの力持ち。なのだが、この室内ではただただ邪魔である。とはいえ、切り離すわけにもいかないので、体にしっかりと纏わりつかせておこう。

 

「さーって、じゃあとりあえずは…」

 

 何から手を付けるか。んー…。

 

「乱雑に置かれている食器、あと弁当のカスあたりを捨てることから始めよう」

 

 えーっと、漫画雑誌はこっちに纏めておいて、ああ、成人向けのもあらぁ。お、同人誌も読むのね。まぁ、内容はさておき、これはこっちにまとめて、と…。

 

 

 ひとまず、居間の片付けは大まかにはまとまって来ている。書類はあそこ、食器は片した、床は拭き掃除までして、戸棚も明らかに不要なものはゴミ箱行きだ。

 

「まぁこんなもんか?」

 

 腰に手をあてて居間を見回した時に、自然と口から出てしまった。それほどまでに達成感のある汚れ具合だったといえよう。

 それが今ではきっちりかっちり。電灯の埃すら全部とってやったし、戸棚の上にも埃はなし。ヨシ。

 

「それにこんなのも見つけたしな」

 

 乱雑に置かれすぎた雑誌の中から見つかったそれは、明らかにへそくり。しかも封筒が立ちそうな勢い。おっちゃんや、いくらなんでも金をゴミの山に放置はねーよ。と心の中で突っ込みたいところである。まぁ、とはいえだ。こういうものの扱いは、おっちゃんの自由だからいいけどね。

 

「小腹も減ったし、一時中断すっかね」

 

 時計を見てみれば、すでに13時を回っていた。確か起きたのが9時ごろだから、かれこれ4時間は掃除をしていたということになる。…いや、4時間掃除して居間しか片付かないってのもなかなか異常だけどもな。

 

「男の一人暮らし、しかも一軒家と考えれば、このぐらいの乱雑さは仕方ないか。ま、とりあえずは飯食うか」

 

 うんうんと頷きながら、台所へと足を運ぶ。…いっやぁキタねぇことだな。これいつの野菜だよ。乾いてドライになってるよ。こっちの缶詰なんか錆てんじゃんか…あ、ギリギリ消費期限前ね。コンビーフかこれ。

 

「あんま見たくはねぇけど…冷蔵庫の中はどうなってんだろ?」

 

 あんまり期待は出来なさそうな感じがするなぁ。そういや昨日のつまみも貰ってきた魚だったって話だし。あ、いや、最悪は…。

 

「尻尾に喰わせれば行けるか?」

 

 じろりと己にひっついている尻尾に視線をやる。気持ち、尻尾の先が視線から逃れるように動いたような気もする。そうだよなぁ、こんなドライ野菜とか食いたくはねぇよなぁ。

 冷蔵庫の前でうだうだとしていたが、意を決してその扉に手をかける。力を入れて扉を引けば、ギュ、とパッキンが外れて、スコンと開いた。

 

「…お?案外まともだ」

 

 家の中の惨状からは想像もできない、清潔感。調味料に酒、あとは納豆や豆腐、キャベツなんかの葉物もある。が。

 

「清潔感というか…スッカスカだなぁ」

 

 一瞬だけまとも、と思ったのだが、これはまともというよりも、使っていないから清潔であるという感じだな。ま、有難いけどね。じゃあ…キャベツで何か作るとするか。これ以外、まともな食材ねぇし。

 

「あ、隅に小麦粉もあるか」

 

 案外こういうところはマメなのか。うん。冷蔵庫に小麦粉いれときゃあカビなんかも出にくいし。中身は…ああ、普通普通。調味料はマヨネーズにウスターソースね。

 

「うん。これだけあれば十二分に腹は満たせるな」

 

 調理器具は…っと、お、ピーラーあんじゃん。しかもキャベツ用の奴。ならばっと。

 

「まずはキャベツの千切りを量産しますかねぇ」

 

 冷蔵庫から出したキャベツ、ちょうど2分の1サイズのそれをピーラーで千切りにしていく。ちょうど、30センチ近いフライパンに山盛りになるぐらい。

 

「で、この千切りの上に小麦を振りかけて、軽く混ぜてと」

 

 イメージとしちゃあキャベツ全体に小麦粉が軽く纏う程度。で、あとはこれを。

 

「蓋をのっけて焼けば良し」

 

 簡単なズボラ飯というやつだ。キャベツ焼きみたいなもんだけれど、それよりもずっと簡単に出来る奴である。一見すると、キャベツと小麦粉だけで何が出来るのか?と思うのだけれど、纏わせた小麦粉に、キャベツの水分が染み出して繋ぎとなり、いい感じのお好み焼き風味になるわけである。

 

「さて、加熱している間に…」

 

 ぐ、とシャツの袖をまくり上げる。このキッチンも例にもれず楽しい楽しいお片付けをしなければまともな料理は難しい。シンク回りに溜まっている洗い物やごみだけでもしっかりと片付けさせてもらおうじゃないか。

 

 

 油汚れでべっとべとになっているシンクには、まず小麦粉をぶっかけてやる。これで、油を吸わせてやる感じだ。いきなりクレンザーなんかを使ってもここまででは厳しいだろう。

 

「いやはや…皿もそうだけど、油がすごいなぁ。おっちゃん、揚げ物ばっか食ってんね」

 

 しかも油を切っていないんだろうねぇ。皿はもう油でギットギトだ。てことで、小麦粉をさらにぶっかけて、そいでもってそれを乾いた布…は無いので、さっき居間で片付けた新聞を適当にちぎった奴でこそぎ落としてやる。

 

「…こっれ時間かかるなぁ。あとでおっちゃんにも手伝わせよう」

 

 多分、キャベツが焼きあがるまでには終わらない奴だこれ。それが証拠に、蓋をして加熱しているフライパンから、水蒸気が上がり始めていた。

 

「うん、そろそろあっちが出来そうだしな。これは後だ後」

 

 皿をシンクに戻してから、なんとか使えそうな別の皿を台所からピックアップして、改めてフライパンの前に立つ。

 

「お、いい感じじゃん」

 

 蓋を開けてみれば、ジュワァと水蒸気が音を立てて、キャベツの甘い香りを届けてくれる。全体を見れば、しんなりと透明感のあるキャベツがそこにはあった。

 

「一回裏返して、と」

 

 それをまた、乱雑に置かれたフライ返しでひっくり返す。ジュウ、といい音が耳に届けられる。

 

「んで、こっちのマヨとソースを」

 

 フライパンの淵に、ソースとマヨネーズを落としていく。すると、ジュウウという焼ける音とともに、ソースの辛そうな香りが鼻をひくつかせる。

 

「うん。いい感じいい感じ」

 

 全体に香りがいきわたったら、それを皿に上げて、さらにマヨネーズとソースをぶっかける。好きなだけ味を付けてやれば。

 

「キャベツのなんちゃってお好み焼き風完成、と。さー食うべ」

 

 乱雑な台所を抜けて、片付けた居間へ向かう。そして、テーブルに箸と皿を置けば、簡単な昼飯の準備完了だ。

 

「んじゃま、いただきます」

 

 目の前で手を合わせてから、箸をお好み焼き風味のソレに通す。十分に加熱されたキャベツの千切りは、まるでパスタのようにしなやかだ。

 

「おふ」

 

 それを口に放り込むと、暖かなキャベツが甘さを、そして焦げたソースが香ばしさを、マヨネーズがコクをしっかりと届けてくれる。うーん、実にご飯が欲しい味である。ま、米は無いんだけどね。あとでおっちゃんにせがむか?

 

「いやいや…居候だし、かくまってもらってるし、贅沢は言うまいよ」

 

 一口、二口と食べ勧めると、体に暖かさが巡っていく。やっぱり焼いたキャベツは体が温まるねぇ、と感慨に耽っていたわけだが、一つ、気になったことがある。

 

「…そういや、旨いものを尻尾で食ったらどうなんだろ?」

 

 口で食った不味いもの。それを尻尾で食うとまぁ、そこそこ旨い感じになっていた。ならば、これは?ということで、早速一口サイズのソレを、尻尾の口に放り投げた。

 

「んー…」

 

 シャリ、シャリと尻尾の口が食らうさまを見る。いやまぁ、自分で動かしているんだけれども。いや、しかしなかなかへんな光景だなぁ。自分の顔ほどもあろうかっていう口が、こう、食い物を食うっていうのも。

 

「味は…なんか、貝を食った時と変わらんね?」

 

 特段美味しいというわけでもない。ただ、一応ショッパイ感じは伝わってくるねぇ。

 

「これなら、旨いものはふつうに食ったほうがいいわな」

 

 ゴクリ、と尻尾のほうで飲み込む。…うん、普通に食える、って感じだわな。いやしかし、この口のサイズったら…。

 

「なんか人とかも食えそうなサイズだねぇ」

 

 ガバリ、と口を開く。うん。間違いなく私の今の体ならば、片口から一発だろう。歯のデカさもほとんど手のひらサイズだし。見ようによっちゃサメのでっけぇ感じにも見えるし。…確かにこれは、戦艦レ級と言えるかもしれないなぁ。

 

「ま、戦艦レ級と言われればそうだけど。まったく、私自身の自覚がないわ」

 

 人を襲う気なんてのもないしねぇ。思えばだ、なんか戦艦レ級ってメディアでも描き方があいまいだったような気もするし。

 

「ガオー!…なんてな?」

 

 声に合わせて、大口を開けてみる。…うん、何をやっているんだろうか私は。とりあえず、目の前の食事を残さず食うとしましょうか。

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